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32話 ギルドの依頼

「マナさん、依頼完了だよ。」


マナさんの前に大量に採れた薬草を積み上げている。


「レンヤ君・・・」

だけど、マナさんは思いっきり呆れ顔になっていた。

「いくら何でも採り過ぎよ。何でわざわざFランクの依頼を受けたのよ。」


「この町に来てからはずっとこの依頼ばかりだったからなぁ・・・、何か薬草を採ってこないと落ち着かないんだよ。」


「だからって採り過ぎ。それにしても、よくこの短時間でこれだけの量を見つけてこれたわね。出かけてから1時間も経っていないわ。」


「私とレンヤにかかれば、これくらいはあっという間よ。」

ラピスが横で胸を張ってふんぞり返っていた。

「鑑定の魔法を使えば一発で見つけられるから、この手の依頼は簡単よ。それにしても、レンヤまで鑑定魔法が使えるなんて意外だったわ。スキルに関しては多分だけど、人類では1番多く保有していると思うわ。レンヤの能力って本当に化け物よね。本気になれば世界征服も可能なくらいの化け物ぶりよ。」


「まてまて、そんな大声で言わないでくれよ。お前が言うと冗談に聞こえないから、これ以上は目立つような事はしたくないんだからな。」


「はいはい、分かったわ。じゃあ、次の依頼に行きましょう。」


「そうだな、受け取り出来ない分は、後で道具屋の方に持ち込んでおくよ。収納魔法に収めておけば時間経過は無いから、薬草が痛むって事はないからな。ジルばあさんならポーションの材料として引き取ってくれるだろう。」


新しい依頼書に目を通す。

「次は城壁補修の作業員の依頼だな。これは力仕事だし、今の俺にはもってこいの仕事だな。」


マナさんが申し訳なさそうにしている。

「レンヤ君、ゴメンね。もっと報酬の高い依頼もあるけど、今日は午後から私に付き合ってもらいたいから、すぐに終わる依頼ばかりで・・・」


「姉様、いいのよ。どんな依頼よりも姉様の用件の方が大事だからね。さっさと終わらせて余裕を持って姉様の育ての親のところに挨拶に行きましょう。」


「アン、ありがとうね。」




「さて、ここが依頼の場所か・・・」


俺達は町の裏門の前に移動した。

目の前には門と石造りの城壁が立っている。

しかし、目の前の城壁には穴が空いている。人がぎりぎり通れるくらいの大きさの穴だ。町が出来た当時からある城壁なので、経年劣化で壁が脆くなり穴が空いてしまったとの事だ。

穴塞ぎに使うのか、横には山盛りに石が置かれている。


ラピスがその穴をジッと見ていた。

「う~ん、これは不自然な穴の空き方ね。人為的な跡が見受けられるわ。」


「そうなのか?」


「普通に直しても良いけど、また脆い部分から穴が空けられる可能性があるわね。まぁ、今はこの穴を塞いでから後で考えようね。」


後ろから見ていた現場監督の親方が、俺達を見て渋い顔をしている。


「おいおい、あんちゃんなら分かるけど、この2人の女の子は何なんだ?可愛いからって仕事じゃ本当に役に立つのか?まぁ、もうしばらくすれば他にも男衆が来るから、何とか今日中には補修も終わるとは思うが・・・、ギルドに苦情だな。」


「まぁまぁ親方、今回は俺1人でも大丈夫だよ。すぐに終わらせるから安心してくれ。」


「はぁ!お前、何を言っている?」


ブツブツ言っている監督を無視して、山盛りの石に手を当て魔力を流す。


ズズズズズズ・・・


山盛りの石が1つにまとまり、俺の身長よりも大きな岩の塊が出来た。


「おい!あんちゃん!こんな事をしてどうするんだ?こんな事をして誰が持ち上げるんだ?」


岩の目の前に立ってひょいっと岩を持ち上げた。


「はいぃいいいいいいいいいい!」

親父が素っ頓狂な声を張り上げてしまう。

「ホントかよ・・・、4、5人でやっと持ち上げられる岩を、たった1人で軽々と・・・、俺の目がどうかしているのか?」


「ああして見ると、ラピスさんがレンヤさんの事を化け物って言う気持ちが良く分かるわ。いくら何でも考えられないわ・・・」

アンも俺の行動を見て呆れていた。


(そんなに驚く事か?大して重くないけど何で?)


岩を持ち上げたまま穴の前まで移動し、穴の中に岩を押し込む。


「待て待て!こんな補修なんてあり得んぞ!いくら何でも雑すぎる!」


我に返った親方が慌てて俺の傍に来た。


「親方、いくら俺でもこのままで終わりって思ってないよ。ここから仕上げをするから見ていてくれ。」


岩に手を当て魔力を流す。


ゴゴゴゴゴゴ・・・


壁を見ていた親方の顎が外れそうになるくらいに、口があんぐりと開いている。


「お、俺は夢でも見ているのか?岩が周りの壁と同化して1枚の壁になるって・・・」


まだ呆然としている親方に声をかける。

「親方、終わったよ。周りの壁とくっつけたから崩れる心配も無いからな。新しい壁と強度はそんなに差が無いと思うぞ。」


「あ、あぁ・・・」


ラピスが壁に手を当てる。

「レンヤ、土魔法の使い方もかなり上手くなったじゃないの。でも、まだまだね。ここは良くても脆い部分があちこちとあるから、この壁全体を補強しないといけないわ。」


「出来るか?」

ラピスに尋ねたが、笑顔でサムズアップしてくれた。


「任せて。もう悪戯されないようにするわ。」


ゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオ!


地面が小刻みに揺れている。


「ど、どうなっている?」

親方が汗ダラダラの表情で周りを見渡している。


「親方ぁあああああ!」


町の方から数人の男達が走って近づいてきた。


「お、お前達!大丈夫か?」


男達が親方の周りに集まると、地響きも止んで静寂が辺りに漂った。


「本当に、何があったのだ?地面が揺れるなんて、こんな事は初めてだぞ・・・、何かの前触れかもしれん・・・、注意しろよ。」


親方が冷や汗ビッショリの顔で男達を見渡していたが、1人の男が壁を見ながら信じられない表情になっている。


「お、お、親方・・・、壁が・・・、こんな事って・・・」


「どうした?壁に何かあったのか?」


「「「そ、そんな・・・」」」


親方も男達も壁を見つめて絶句している。


「嘘だろう・・・、壁が見渡す限り全てキレイになっている。この壁は石組みの壁だぞ、それなのにずっと継ぎ目も無く1枚の板になって壁が続いているなんて・・・」


「どう?気に入ってくれた?」


ラピスがドヤ顔で親方達を見ている。


「あ、あんたがやったのか?」


「そうよ。石同士を土魔法で結合させて全て一体化したから、ちょっとの事では壊れる事も無いし、世界でも例を見ない程の強固な壁になったでしょう?後は門の上に見張り櫓でも立てれば、裏門の防御は完璧よ。」


「確かに、これだけの壁は王都でも見た事が無い・・・、土魔法で壁を作る魔法使いは見た事はあったが、ここまで出来る奴なんて見た事が無い。あんた、一体何者だ?」


「ふふふ、私はどこでもいるただのエルフの魔法使いよ。」


ラピスがにっこりと微笑むと、親方を始め他の男達の顔が真っ赤になってしまった。

ラピスの笑顔の破壊力はハンパないな、職人気質の連中でも照れて形無しだよ。


「さすがはラピスだよ。ここまでの事は俺でも無理だ。」


「えへへ・・・、レンヤに褒められた。嬉しい~~~」

クネクネとラピスが悶えている。


「ラ、ラピスだってぇえええ!お前!今、ラピスと言ったのか?」

親方が目を見開いて叫んでいる。

「昨日、ギルドに行った時に、勇者の称号持ちの男が現れ、一緒に伝説の大賢者ラピス様もギルドに現れたって噂になっていたが・・・、まさか・・・、あんた達が・・・」


ズザァアアアアアアアアアア!


親方達が一斉に土下座をした。

「も、申し訳ありません!勇者様にラピス様!先ほどから失礼な態度を!」


う~ん、ここまで畏まられると困るなぁ・・・


「親方、ここまで大げさにならなくても・・・、俺達はギルドの依頼で来ただけだから気にしないでくれ。」


「そんな優しいお言葉を・・・、感謝します!」


だからぁ・・・、俺は普通に接して欲しいんだけどなぁ・・・



(んっ!)



「レンヤも気付いた?サーチに引っかかったわね。」


ラピスが真面目な表情になって俺を見ている。


「私も気配を感じるわ。どうやらお客さんみたいね。」


アンが門の外にある森の方向を見ている。


今は壁の補修との事で門が開いている状態で、門から外の森が見える。

森の木々の影からいくつもの人影がゾロゾロと出てきた。


「あれはゴブリンだわ。結構いるわね。」

そう言って門の外に出た。


「どうやら、こいつらが壁の穴の犯人みたいね。知能は低いけど、壁に穴を開けて人数を揃えて襲撃するって事までは分かっているんだ。ちょっと意外だったわね。」


ゴブリン達が「ギャッ!ギャッ!」とニタニタしながら声を上げている。目の前に女がいるから捕まえて巣穴に連れて帰るつもりだろう。ゴブリン達に捕まったら最後、女は死ぬまで犯されゴブリンの子供を産まされ続けるのだ。女としては死よりも辛い。俺も前世で攫われた女性を助けた事は何度もあったが、どの人も発狂して最後は舌を噛み切ったりして自殺していた。


しかし、アンはそいつらの前に堂々とした姿で立っている。

あいつらの習性を知らないはずはないが、アンの方はる気満々なんだろうな。


「ゆ、勇者様!ゴブリンの群れの前に女の子が1人で!大賢者様なら分かりますが、彼女1人では無謀ですよ!」

アンが1人で20匹以上もいるゴブリンの群れの前に立っている姿を、親方が見て慌てている。


俺もラピスも全く慌てていない。

「親方、心配するな。実力は俺達と同じくらいだからな。アンに任せておけば大丈夫だよ。」


「し、しかし・・・」


アンがゴブリン達の前で不敵に笑う。

「この女の敵共め・・・、1匹たりとも逃がさないわよ。」


数十本もの氷の槍がアンの周囲に浮かんだ。槍の穂先が全てゴブリン達に向いている。


「な、何だ!あの氷の槍の数は!信じられない・・・」

男の1人が叫んだ。


人差し指をゴブリン達へ向けると、一斉に氷の槍が飛んで行った。

「アイスランス!串刺しにしなさい!」


ギャギャギャァアアアアアアアア!


アンの前にいたゴブリン達が瞬く間に氷の槍に串刺しにされ息絶えていく。


「メギドフレイム!」


後ろからラピスが息絶えたゴブリン達に青白い巨大な炎の玉をいくつも打ち込んだ。


ボシュゥゥゥ・・・


全てのゴブリンの死体が骨も残さず消え去ってしまう。


ラピスがスッキリした顔で燃え尽きた後を見ていた。

「死体は残しておくと、その死体にまた魔獣が群がってくるからねぇ・・・、キレイに消し去らないとね。久しぶりにメギドフレイムを使ったけど、上手く威力を調整出来たわね。森には一切被害を与えずに焼き尽す。私は環境に優しい魔法使いなのよ。」


「す、すっげぇ・・・、これが勇者パーティーの力・・・、片手間のようにあっさりと全滅させるなんて・・・」


親方達が冷や汗ダラダラでアンを見ている。


「安心するのはまだ早いわ。本命が残っているわ。」

再びアンが森の奥に視線を移す。


グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


空気がビリビリと振動する。

(これは大物だな。サーチの反応からすると・・・)


森の奥から巨大なゴブリンが姿を現した。今までのゴブリン達とは段違いの大きさだ。


「やっぱりキングがいたのね。道理でただのゴブリンが壁に穴を開けて侵入する知恵を付けていたか分かったわ。まぁ、それでもアンの敵ではないけどね。」

ラピスがニヤニヤしながらゴブリンキングを見ていた。


ゴブリンはC~Eランクのモンスターだけど、その最上級に位置しているゴブリンキングは最低でもAランクだ。大きさにもよるが、場合によってはSランクまで跳ね上がる時もある。これはかなり大きいし、SとAの中間くらいか?さすがは元魔族領の土地だけある、高ランクのモンスターが近くにいるなんてな。今までこんな報告は無かったし、よくこんな大きなモンスターが見つからなかったものだ。


「レンヤさん、それはやはり魔王が復活したからかな?魔獣やモンスターが活性化しているみたいね。このキングはまだ若いわ。ゴブリンの群れからいきなり進化して誕生したみたいね。だけど、ここから先は進ませないわよ。」


アンがニヤッと笑っている。


「オ、女ダ・・・」


「ひっ!ゴブリンが喋っている!」

親方がガタガタしながら固まってしまった。


「あら、キングくらいなら多少の言葉は喋るわよ。まぁ、それでも子供並の知能だけどね。」


「そ、そうなんですか?」


ラピスが説明すると親方がうんうんと頷いていた。


「アン、どうだ?手伝うか?」


「大丈夫よ。」

アンが俺の方に振り向きニコッと頬笑む。

「たかがキングだからね。すぐに終わらせるわ。」


「バカメェエエエ!何ヲ余所見シテイル!」

キングが口角をニヤッと吊り上げて、巨大な棍棒を振り上げ走り出した。


(おっ!あの図体の割には意外と動きが素早いな。)


アンの右手にはいつの間にか漆黒の細剣が握られていた。


(アンの魔剣か?)


キングとは50メートル以上は離れているのに、無造作に横薙ぎに剣を振った。


ズル!


走っていたキングの首が後ろにズレて、首から下が走って来る。

頭部はそのまま後ろの地面に落ちてしまい、しばらくして胴体の方も力無く倒れてしまった。


(どんな方法でキングの首を切り落としたのだ?あれだけの距離があるのに、魔法も飛ばした痕跡も無いし分からない。あれがアンの魔剣の力なのか?)


「これで終わりよ。」


アンがニコッと俺に微笑んだ。右手の黒剣は既に消えて無くなっていた。


「す、すげぇぇぇ・・・、さすがは勇者様達と一緒にいるだけある・・・」

親方の呟きが聞こえた。




「レンヤ様ぁああああああああああ!」


(あの声は?)


ドドドォオオオオオオオオオ!とサブマスターが俺達の方へと大急ぎで走って来る。


「た、た、た、大変ですぅううううううううううううううう!」


サブマスターの慌てようから見ると、とんでもない事が起きているのか?

一体何が?


「ぜぃぜぃ・・・、レンヤ様、緊急事態です!た、た、助けて下さい!もうレンヤ様達しか頼めない事なんですよぉぉぉぉぉぉ~~~~」


「サブマスター!頼むから落ち着いてくれ!何が起きたんだ?」


「はっ!申し訳ありません!」

スーハ―とサブマスターが深呼吸をしている。

「実はですね、先ほど森の採取をしていたパーティーが大急ぎで帰って来たのですが、町の近くの森にゴブリンキングを中心としたゴブリンの群れを見つけたと報告があったのです!今のギルドの冒険者ではキングには太刀打ち出来ません!この町が襲われたら、それこそどれだけの被害が出るのか・・・」

再び深呼吸をしてから、とても真剣な表情で俺を見つめている。

「マナさんからここにいらっしゃるとお聞きして、こうしてお願いに参った訳です。これだけの強力なモンスターに勝てるのは勇者様しかいません!お願いです!この町を救って下さい!」


サブマスターが深々と頭を下げている。


(ゴブリンキング?もしかして・・・)


俺とラピスがゆっくりと門の外へ顔を向ける。

サブマスターも釣られて一緒に門の外に視線を移した。


「あのぉぉぉ~~~、私の見間違いじゃなければ、アレってゴブリンキングですよねぇ~、しかも首を刎ねられて死んでいるし・・・」


「もしかしてのゴブリンキングだけど・・・、アンが瞬殺した。」



・・・



とっても長い沈黙が続いた。


「はいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!何でぇええええええええええええええええええ!」


サブマスターの絶叫が響き渡った。

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