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317話 船上での戦い⑪

「デスペラード、手加減を忘れちゃダメよ。」


アンジェリカが呟くと、彼女の隣に1人の美少女が現れる。

真っ黒な長い髪に、デスペラードに埋め込まれている紫色の宝玉と同じ色の瞳の少女だ。


「ご主人様、分かっています。」


しかし、ガンマは少し不機嫌な表情でタマモを見ていた。


「3本の聖剣の中でも切断に特化した私が切ってはいけないなんて、すっごいストレスですよ。スパン!スパン!と無慈悲に相手を切る、いえ斬るですね。この快感が味わえないなんて・・・、ご主人様とレンヤ様のお願いなら仕方ありませんね。ここは海ですし、後でシーサーペントの解体をさせてもらいますね。あれだけの巨体なら切り裂きがいもありますからね。うふふふ・・・、楽しみ・・・」


「本当にデスペラードは・・・」


ガンマの過激発言に少し引き気味のアンジェリカだった。



「何を一人でブツブツと言ってにやけているのよ!あんた!気持ち悪いわ!」


タマモが剣を下段に構えながらアンジェリカへと駆け出した。

だけど、タマモの苛立った表情とは反対に、アンジェリカはニコニコとしている。


「いけないわね。実体化していないデスペラードと話すとこうなるし、傍から見ればブツブツと何もないところに話しかける危ない女の人ね。気を付けましょう!」


「その余裕が気に入らない!」


神速の速さでタマモがアンジェリカへと迫る。


下段に構えて握っている剣をアンジェリカの脛を狙ってすくい上げるように切りつける。


「危ないですよ。」



キィイイイイイイイイイン!



「何!」


タマモの驚きの声が響く。


「私の剣筋を読まれていた?」


「いえいえ・・・」


「じゃぁ!どうしてよ!」


「そんなの簡単ですね。」


ギリギリとアンジェリカを睨みつけるタマモに対して、アンジェリカはずっと笑みを崩していない。


「あなたは私よりも弱い、ただそれだけですよ。分かりやすい剣筋ですから、読む読まない以前の問題ですね。」


ギリッ!


タマモがギリギリと音が聞こえるくらいまで歯軋りをしていた。


「そんなの・・・、私が弱い?そんなのはぁああああああああああああああ!」


右手に剣を構え一気にアンジェリカへと迫り、グッと剣を突き出す。


「認められない!死ねぇえええええええええええええええ!」


ギャリィイイイイイイイイ!


タマモの神速の域に迫った突きをアンジェリカは剣の腹で受け流す。


受け流されたことで体勢が崩れそうになったタマモだが、間一髪踏み止まり剣を一瞬で逆手に持ち替え、体を回転させながら横薙ぎに切りかかった。


「弐の剣!雪崩!」


スッ!


しかし、その剣をアンジェリカは軽く後ろへとステップを踏みながら躱した。


お互いが一気に後ろへ飛び退き距離を取る。



「あんた!本当に何者なのよ!1度ならず2度も私の剣を躱すって!」



下段に剣を構えているタマモが叫ぶが、アンジェリカの方は左手を顎に当て不思議そうにタマモを見つめている。


「う~~~~~ん、別に深く考えずに出来てしまいましたからね。それに・・・」



ヒュン!



スパ!



「!!!」


アンジェリカがデスペラードを軽く横薙ぎに振ると、タマモの左頬が薄く傷が付き血が滲んできた。


「何で斬撃がここまで!」


信じられない表情でタマモが自分の頬に付いた傷を触っている。



「本当は女性の顔に傷を付けたくはありませんでしたが、まずは私とあなたとの力の差を見せつけようと思いましてね。それに、傷につきましてもソフィアさんがいますしね。例え死んでしまっても、死にたてホヤホヤなら生き返らせる事も可能なんですよ。それが可能なのかご自身で試してみますか?」



全く笑っていない目なのに、口角だけが上がっているアンジェリカの表情にタマモがジリッと後ずさる。


「この殺気・・・、魔王というのは伊達ではないって事ね。私が呑まれる?」



「ぐ!」



タマモが突然頭を押さえ蹲る。


「私は最強・・・、誰にも負けないの・・・」


ゆらりと再び立ち上がる。


「頭が痛い・・・、あんたを見ていると・・・、お姉ちゃん以上にあんたが目障りよ・・・」


まるで幽鬼のように虚ろな視線でタマモがアンジェリカを睨んでいた。



ビキ!



今度は口から2本の牙が伸びてくる。


「何よ、この変化は?魔人?いえ、魔神並の瘴気が漂い始めてきたわ。これはちょっとマズいわね。殺さないようにするには骨が折れそうだわ。」


タマモが剣を捨て両手を左右に広げた。


「アァァァ・・・、痛クナクナッテキタ・・・、トッテモ気持チガイイノ。」



「タマモ!正気に戻って!」



ミヤビが涙を流しながら叫んでいる。


「オ姉チャン・・・、ウフフ・・・、ナンテ美味シソウナノ。オ姉チャン、私ネ・・・、オ姉チャンノ事ハ大好キダヨ。」


左右に広げた手の指先全ての爪がまるで鋭い刃物のように異常な長さに伸びてくる。

真っ赤に変化した瞳でじっとミヤビを見つめ・・・




「食ベタイクライニネェェエエエエエエエエエエエエエ!」




耳まで張り裂けてしまった口を大きく開けて、タマモがアンジェリカの遥か頭上を飛び越えミヤビへと飛びかかった。


「こんなの!ダリウスの眷族になる魔人化より質が悪いわ!殺さないようにと思っていたけど無理かも?デスペラード!仕方ないわ、この距離だったら次元斬しか・・・」


アンジェリカが剣を構え斬撃を放とうとする。



「アン!任せろ!」



レンヤの声が響く。


「レンヤさん!」



ガキィイイイイイイイイイ!



「貴様ハァアアアアアアアアアアアアアア!」


タマモが真っ赤な目を見開き、驚愕の表情で目の前にいるレンヤを見つめていた。


そのレンヤはミヤビの前に立ちアーク・ライトを構えタマモの鋭い爪を受け止めていた。


「後の事は任せろ!俺が何とかする!」






少し時間を遡る



トワが俺に伝えたい事は分かる。


あの額に生えている瘴気を放つ角、それを何とかして欲しいのだろう。


しかも・・・


その役目は多分、俺にしか出来ないのだろうな。

トワが何とか出来るならこんな回りくどい事はせずに、自分の手で終わらせるはずだ。



あのトワの体を切り裂いた白い斬撃・・・



「斬魔剣・・・」


どうしてだろうな、さっきもそうだけど初めての気がしない。

あのトールハンマーのようにかつての俺が使っていたのだろう。


アーク・ライトに俺の魔力を流し込む。


いつものように刀身が黄金の光を放ち輝いた。



(違う)



あの白い斬撃とは全く性質が違う気がする。


(もっと魔力を高めろ!魔力を圧縮して更に魂までも切り裂くように!)



ヴゥン!



「これは!」


刀身が青白いオーラを纏う。


俺が放てる最大の攻撃力を誇る『断絶』だ。全ての物質、いや次元すら切り裂くことが出来る剣技、アンの次元斬をも凌ぐ。


(これでもない・・・)


あの白い斬撃とは全く違う。

何が違うのか?


かつての俺・・・


ドクン!


(何だ?)


トワの角が刺さった部分が熱い!

刺さった傷はすぐに治ってしまったはずなのに、どうして熱を持つ?

そして額から体の奥底に熱が移動しているようだ。


ドクン!


体が熱い!

まるで何かが目覚めるように・・・






突然閃いた。






これはそうなんだ。


これは単なる威力を追求した剣ではない。



『魔』に侵された者を救う剣



『魔』だけを祓う剣




アーク・ライトを握る力が強くなる。


『マスター、大丈夫ですか?何かいつもと違う雰囲気ですが・・・』


アルファの心配そうな声が頭の中に響く。


(もう大丈夫だ。心配させてスマンな。)



「食ベタイクライニネェェエエエエエエエエエエエエエ!」



あの声は?


(マズいな・・・)


あの白い斬撃と同時に、歪な黒い角の正体も分かった。

いや、思い出したのだろう。

かつてトワと一緒に暮らした俺の記憶なんだろうな。


(アレは・・・)


生物を殺戮兵器にさせる媒体だったとは・・・


まさに悪魔の兵器だよ。


アレは取り付いた生物の意志によって進化する。

普通に動物などに取り付けば凶暴な魔獣へと変化し、見境無く人を襲うほどに凶暴になってしまう。

それならまだ対処のしようはある。


だけど・・・


取り付かれたのが人間だったらかなり厄介になってしまう。

取り付いた相手によって進化の方向が変わってくるからな。


元々が凶暴だったり邪な心の持ち主には体を強化させ、潜在能力を全て使えるようになってしまう。

その時に快楽成分も分泌されてしまうので、人殺しをすればするほどに快楽から抜け出す事が出来なくなって、更に人殺しを重ねてしまう。


そして悪意が無い善良な人には更に凶悪な暗示を取り付かれた人にかけてしまう。


好きであれば好きである程に憎しみが更に強くなっていく。

しかも、元に戻れないよう脳に寄生し、絶対に切り離す事が出来ないよう呪いまでかける念の入りようだ。

脳の深い部分まで触手が浸透し、万が一取り除くことが出来ても呪いで脳をズタズタにし、しかも回復魔脳すら跳ね返してしまう程に強力な呪いだ。


この角の最も最悪なところは進化する事だが、寄生した宿主まで体の構造を変化させてしまう。


人肉を好む食人鬼グールというアンデッドになってしまう事だろう。


そんなのを世界にばらまき争いが絶えない世界を作りだそうとした男が作った兵器だ。



神界で遙か昔に消え去ったはずの兵器がなぜこの世界にある?



獣人国に行けば全ての謎が解けるだろう。




楽しい休暇がこんな事になるなんて、神様はよっぽど俺達をこき使いたいのかもな。




もうあまり余裕が無い。


タマモの変貌を見る限り、体がかなり食人鬼グールになっている。

元に戻れるかギリギリの状態だ。


アン、助かった。


俺がこうして思い出す時間を稼いでくれたからな。


ショートワープでミヤビさんの前まで転移した。

普通に走るだけでは間に合わないからな。


食人鬼グールに堕ちかかったタマモの長く鋭い爪が、正面に転移した俺へと振り下ろされる。


理性がほとんど無くなっている状態だから受け止めるのは簡単だ。


「アン!任せろ!」



ガキィイイイイイイイイイ!



「貴様ハァアアアアアアアアアアアアアア!」


タマモが真っ赤な目を見開き、驚愕の表情で俺をを見つめている。


「レンヤさん!」


心配そうな顔でアンが俺を見ている。


(アン!心配するな!)


「後の事は任せろ!俺が何とかする!」


そう!タマモは絶対に殺させない!

心優しい彼女だったから、この角が彼女を最強の兵器に変貌させたからな。


本当に最低な兵器だよ。

心優しければ優しい程に凶暴な精神に作り替えていくってな。


だが!そんな悲しい事は俺が終わらせる!



ギャリィイイイイイイ!



アークライトを横薙ぎに振るうと、タマモが後ろへと吹っ飛ぶ。


しかし、クルッと回転し足から着地し身構えている。


「生意気!生意気!生意気ヨォオオオオオオオ大!」


両手を振り上げ大きく飛び上がり、俺の頭上から襲いかかった。


アーク・ライトを正眼に構える。



この技は物理的な攻撃力は必要はない。

そもそもが力で、魔力で戦う力ではない。



「俺の魂よ!俺の力を!魔力を取り込み昇華させろ!」



アーク・ライトの刀身が激しく輝く。

今までの黄金や青白い輝きとは違う。



真っ白に光輝いていた。



「想いの力で魔を払う!くらぇぇええええええええええええええ!」



正眼の構えから剣を一気に上段へと構えた。




「これぞ!真!斬魔剣!」




迫り来るタマモへと剣を振り下ろす。



ズバァアアアアアアア!



白い閃光がタマモの体を縦に真っ二つに両断した。


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