31話 譲れない戦い
色々と話をして就寝の時間になったので寝室に行こうとしたけど・・・
(しまった!)
アンとラピスは同衾して眠っているが、マナさんはどうする?
それ以前に、3人でこうやって眠っている事を知ったら、はしたないって思うかもしれない。
(さぁ、どうする?)
「マナさん・・・」
「大丈夫よ。」
ニコニコとマナさんが微笑んでいる。
「へっ!」
「実はね、レンヤ君がラピスさんを迎えに行っている間にアンから聞いたのよ。みんなで一緒のベッドで寝ているけど大丈夫かな?ってね。私はレンヤ君と一緒でも問題無いわよ。」
アンを見ると・・・
てへっ!て舌を出していた。
「私も小さい頃はいつも弟と一緒に寝ていたからね。レンヤ君と一緒に寝られるなんて楽しみよ。アンだけでなくて、レンヤ君も私に甘えても良いのよ。いくらでも抱きしめてあげるからね。赤ちゃんみたいに甘えて欲しいな。」
(それは勘弁!そんな事をしたら俺の自尊心が音を立てて崩れてしまうよ。)
「ちょっと待ったぁあああああああああああ!」
ラピスが叫んでいるぞ。何だ?
「マナにアン、レンヤを除けば私達は3人よね?レンヤと一緒に寝るとなっても、隣に寝る事が出来るのは2人だけよ!1人はレンヤの隣になれないって事よ!」
「そうだったわね。レンヤ君は私が抱いて寝るのよ。レンヤ君を甘えさせてあげたいのよ。」
「いえ、レンヤさんの隣は婚約者序列1位の私よ。除け者になるのは認めないわ。」
「この小娘共がぁぁぁ・・・、ここは年長者の私に譲りなさい・・・」
「「「ふふふ・・・」」」
おぉぉぉ~~~い・・・、3人の視線の火花が俺でも物理的に見えるぞ。
頼むから喧嘩は止めてくれぇぇぇ・・・
「お互いに譲る気は無いようね。」
ラピスの言葉にアンもマナさんも頷いている。
「それじゃ、一発勝負で決着をつけましょうか?」
「「望むところよ!」」
「ふふふ、エルフの里では負け無しだった常勝不敗の私に挑むなんて、身の程知らずを叩きこんであげるわ!」
「いくわよ!じゃんけん・・・」
ラピスが真っ白に燃え尽きていた。
「そ、そんな一発で私が負けるなんて・・・」
アンとマナさんはニヤニヤ笑いながらラピスを見ていた。
しかし、ラピスが再び立ち上がった。
「2人共!これは3回勝負よ!3回勝ったらレンヤの隣の権利を得るんだから!」
アンがブーブー言っている。
「ラピスさん、ズルいわ。一発勝負と言っていたでしょう?」
「そんな約束はした覚えはないわ。問答無用!勝負よぉおおおおおおおおおおおお!」
再びラピスが真っ白に燃え尽き灰となっている。
「そ、そんなぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~」
床に倒れ込み瀕死だ。
(たかが隣で寝るだけで、ここまで命をかけるような戦いになるのか?女は分からない・・・)
マナさんがラピスの手を取り立たせると、にっこりと微笑んだ。
「ラピスさん、私がレンヤ君の隣の権利を譲るわよ。」
「マ、マナ・・・」
「ギルドで言っていたのを忘れたの?私は3番目で良いってね。ラピスさんがあまりに必死だったから、ちょっと悪ノリしちゃったからゴメンね。」
「マナァァァ~~~~~~~」
ラピスがポロポロと涙を流していたが、急に真面目な表情になって涙を拭った。
「ダメよ・・・、これは真剣勝負だったの。こんな事をしたら、いつまでもマナが私達に遠慮し続ける事になってしまうわ。私達はそんな関係は望んでいないのよ。私は1人寂しくソファーで寝るわ。」
トボトボと歩いてソファーでゴロンと横になった。
「あらら、拗ねちゃったわねぇ・・・」
マナさんが心配そうにラピスを見ている。
「マナさん、ラピスの事は俺に任せておいてくれないか。すぐにご機嫌に変わるよ。」
「そうなの?それじゃ、お任せするわね。」
「任せな。」
マナさんにグッとサムズアっプする。
「それにしても・・・」
「どうした?」
「いえね、ラピスさんって物語だと冷静沈着で感情は表に出さないミステリアスな感じの女性に書かれていたのよね。どの物語もそんな感じだったわ。」
「確かにそう書かれているよな。」
「でもね、実際のラピスさんってとても感情が豊かで、こんなにもレンヤ君に対してストレートに愛情をぶつけてくるのね。ちょっとビックリしたわ。」
「すまん、それは俺のせいだ。」
「えっ!どうして?」
「元々のラピスは物語のように物静かで感情を表にあまり出す事は無かったよ。まぁ、男嫌いってのもあったから、パーティー内でもお互いにあまり干渉していなかった。ラピスが変わるきっかけになったのが、当時の俺の死だよ。」
「そうなの・・・」
「あぁ、本人もそんなに意識していなかったみたいだったけど、どうやら俺に惚れていたみたいだった。彼女の目の前で俺が死んでしまった事で感情が爆発し、その死に立ち会った事が心の傷になったみたいだ。とても深い心の傷に・・・、こうやって再び会えたけど、ふとした事で当時の俺が死ぬ記憶がフラッシュバックするし、不安なんだろうな。だから、必要以上に俺にくっ付きたいと思うようになっているのだろう。」
「分かるわ、その気持ち・・・」
マナさんが泣いている。
「ラピスさんの気持ちは良く分かる・・・、私も弟を亡くした時の光景は今でも忘れない・・・、だからなのかな?レンヤ君と一緒にいると私も気持ちが落ち着くのよ。私も今のラピスさんと同じかもしれないわ。レンヤ君と弟を重ねてしまっているって迷惑だったかな?」
「大丈夫だよ。さっきも言ったけど、俺はマナさんに感謝しているし、弟と思っても構わないよ。ちょっと捻くれた弟かもしれないけどね。」
マナさんがにっこりと微笑んでくれた。
「ふふふ、ありがとう。レンヤ君は弟と思っているけど、ちゃんと1人の男の子としても好きだからね。だから、私の事も1人の女としても見てくれて欲しいな。レンヤ君よりちょっと年上のお姉さんだけど、私は尽くすタイプだからね。」
「レンヤさん、姉様とばかりイチャイチャしてぇぇぇ~~~」
ジト~とした目でアンが俺の隣に座った。
しかし、ニコッと微笑む。
「ふふふ、冗談よ。姉様も私達の一員なんだから、そこまで私もヤキモチを焼かないわよ。私だけが我儘を言う訳にはいかないからね。」
そして、ふて寝をしてしまったラピスに視線を向けた。
「ラピスさんに悪い事しちゃったね。ちょっと意地悪し過ぎたわ。レンヤさん、悪いけど後は任せるわ。」
「任せろ。」
「それじゃ、私と姉様は先にベッドに入っているわね。ふふふ、姉様に抱かれて眠るって楽しみよ。今夜はたくさん甘えたいな。」
マナさんもにっこり微笑んでいる。
「アン、私も楽しみよ。色々とお話しをしましょうね。」
ソファーで横になってふて寝をしているラピスの前に立った。
「ラピス、ちょっといいか?」
「何なのよ、同情はいらないわ・・・」
(うわぁ~、完全に拗ねてるよ・・・、かなりの重症だな。)
「つべこべ言わずに、ちょっと付き合え。」
無理やりラピスを抱きかかえた。
「ちょっ!ちょっと!レンヤ、何をするのよ!」
ラピスが抗議しているが構わず転移魔法を発動する。
景色が外の光景に変った。
「レンヤ、ここは?」
俺の腕の中でキョロキョロと辺りを見渡している。
「魔王城の3階のバルコニーだよ。付近の魔獣やガーディアンは昨日、全て倒してあるから、今は安全だよ。それよりも空を見てみな。」
ラピスが空を見上げた。
「うわぁ~、星空が凄くキレイ・・・」
「なぁ、ラピス・・・」
「どうしたの?」
「500年前の俺達はこうして星空を眺める事も無かったよな。魔王の討伐が第一と考えていて、それ以外の余裕はほとんど無かった。まぁ、俺も魔族に対する復讐心だけで生きていたのもあったけどな・・・」
俺を見つめているラピスにキスをする。
「レンヤ・・・」
唇が離れると、今度はラピスが両手を俺の首に回し再びキスをしてきた。
幸せそうに俺を見つめている。
「この前も言ったけど、俺はラピスに感謝している。生まれ変わった俺は、あの殺伐とした生き方と違い、こうして2人でゆっくりと星空を眺める事も出来るくらいに、あの頃と比べて心に余裕が持てるようになった。当時の俺が死んだ事で出来たお前の心の傷はどれだけ深いか俺は分からないけど、今のお前の行動を見ると相当深いのは分かる。だからって、そんなに不安にならないでくれ。俺はずっと一緒にいるからな。」
ギュッと抱きついてきた。
「フローリア様から魔王が現れたと言われたけど、今回の戦いは違う。魔王を倒すのは同じだけど、俺はみんなの幸せの為に戦う。幸せを守る為にな・・・、だから、誰1人欠ける事はさせないし、俺も絶対に死なない。それが俺の誓いだ・・・」
「ありがとう、レンヤ・・・」
「だからな、時々はこうして2人っきりで星空を見に行こうな。こうやってお前を抱いていると俺も落ち着くよ。」
「ねぇ、こうしてずっとお姫様抱っこをしてくれるのは嬉しいけど、私、重くない?大丈夫?」
「心配するな。今の俺はアースドラゴンでさえワンパンで吹っ飛ばせる程のステータスだぞ。お前1人くらい抱くなんて軽い軽い。だからな、遠慮せずにお姫様抱っこしてあげるよ。だからって、さすがに一晩中は勘弁してくれよ。」
「失礼ね、私も少しは遠慮するわよ。でも、頼んだらしてくれる?」
悪戯っぽい笑顔で俺を見つめている。
「それは勘弁してくれ。いくら力があっても寝不足は辛い、睡眠は普通に取らせてくれよ。」
「ふふふ、冗談よ。」
「どうやら元気になったようだな。しばらくはこのキレイな星空でも眺めていよう。」
「うん、ねぇ、レンヤ・・・」
「どうした?」
「私ね、レンヤを好きになって本当に良かったと思う。こんな幸せな気持ちって今まで無かったからね。大好きよ、レンヤ・・・」
「あぁ、俺も大好きだよ。」
「あちゃぁぁぁ~~~、ちょっと長く星を見過ぎたかな?」
寝室に戻ると部屋は真っ暗になっていて、2人はスヤスヤと眠っている。
マナさんがアンを抱きしめて、お互い嬉しそうな寝顔だ。
「起こしたら悪いな。」
「そうね。」
そっと扉を閉めて2人でリビングに戻りソファーに座った。
ラピスは俺に寄りかかっている。
「レンヤ、ごめんね・・・、私に付き合せてしまって・・・」
「気にするな。アンもマナさんも拗ねたラピスを見るのは辛かったみたいだし、そんな状態で一緒に寝ても楽しくもないよ。みんなで仲良くが俺達だろう?」
「そうね、私も少し焦っていたのね。ずっとレンヤと一緒にいないといけないって、勝手に思い込んでいたみたいだわ。今のレンヤは昔のレンヤと違うからね。私もあまり昔の事を引きずらないようにするわ。アンとマナは私と違って、死に別れた人とこうして再び会う事が出来ないしね。そう考えると、私は幸せなんだって思うわ。」
「そうだな、俺もそう思うよ。」
「こうして2人でいると、昔に旅をした時の野営を思い出すよ。今みたいにこんな快適な野営はなかったけどな。俺達4人で交代で見張りをしながら夜は寝ていたよな。」
ラピスがクスッと笑う。
「何、言っているのよ。私とソフィアはほとんど寝ていたわよ。あなたとアレックスで座りながら交代で交互に睡眠を取っていたわね。おかげで私とソフィアはかなり楽をさせてもらったわ。」
「そうか?そんな記憶は無いよ。」
「惚けちゃって、今も昔もあなたの優しさは変わらないわね。私も眠くなってきたわ。今夜はこのままで眠っても良いかな?あなたの温もりを感じていたいの・・・」
「俺で良ければいくらでも構わないよ。」
「ありがとう・・・」
ラピスがそっと俺の肩に頭を置いてきた。
翌朝、早朝
「ふふふ、仲良く眠っているわね。ラピスさんも幸せそうな顔で・・・、安心したわ。」
手を繋ぎ寄り添い合いながらソファーで座って眠っている2人に、マナがそっと毛布を掛けニコニコと微笑んでいた。
「姉様・・・」
寝室から出てきたアンに、マナが人差し指を自分の唇に当てた。
「アン、静かにね。2人の邪魔をしたらダメよ。」
「分かっているわよ。ちょっと心配していたけど、こうやって幸せそうに眠っているし、もう大丈夫そうね。」
マナがアンの手を取り再び寝室へ戻ろうとする。
「姉様?」
「私達が朝食の準備をしちゃうと2人が目を覚ましてしまうからね。もう少し寝させてあげましょう。」
アンへウインクをする。
「そうね、じゃぁ、もう少し姉様に甘えさせてもらうわ。」




