303話 獣王国の姫様
俺達の前には獣人の女性2人が横になっている。
「テレサ!すぐに宿に移動するぞ!どうも訳ありみたいだし、ここは人目に付きやすい。」
「了解!」
ソフィアが蘇生したばかりの彼女を抱き上げ、テレサが気を失っていた女性を抱きかかえた。
俺達の足元に魔法陣が浮かびその場から消える。
「ここなら大丈夫だな。」
今、俺達がいるのはこの町最大の宿の最上階のスイートルームだ。
豪華な上に広い!最上階ワンフロアぶち抜きの部屋にしているだけある。
俺を含めて8人全員が泊まってもまだ余裕がある広さだよ。
部屋の中にも個室がいくつもあるし、団体で泊まっても個人のプライパシーもしっかりと守れる、至れり尽くせりの宿だ。
俺達は普通の部屋で大丈夫だと言ったけど、宰相様達がそこだけは絶対に譲らなかったんだよな。
(コレっていくら掛かるの?)
宿泊代を想像したらとてもとても・・・
(お言葉に甘えよう・・・)
その部屋の寝室の1つにあるベッドに彼女達を横にした。
緊急事態という事でシャルとメイド3姉妹も呼んでいる。
転移ですぐに連れてこれるのは本当に楽だよ。
まだ眠り続けている彼女達のお世話は3姉妹に任せ、俺達はリビングルームでこれからの事を話し合う。
「大変な事になったわね・・・」
「そうね・・・」
アンとシャルが「はぁ~~~」と長いため息をする。
「宰相様も驚いていましたよ。1ヵ月後には獣王国との本格的な国交樹立に向けての使節団との協議の予定だったのよ。」
シャルが困った顔でアンと一緒に俺を見ているよ。
シャルが今回の旅行に同行しなかったのはそういう理由だ。
その協議の進行役になっていたからな。
どうしてそんな事になったのかというと、南大陸最大最強の国でもある『獣王国』が、俺達の国『魔導国』との国交を結びたいとの話があった。
ダンジョン内で戦っていた俺達は知らなかったけど、ダリウスとの最終決戦はフローリア様の力で全世界に大空に投影されていたとね。
その映像を見た獣王国の王である獣王が「これだけの猛者達がいる国とは是非とも交流したい。」と言ったか言わないか・・・
獣王国
レンヤ達魔導国やフォーゼリア王国のある大陸から海を挟んで南にある大陸にある国。
南大陸は獣人大陸と言われ、獣人族がこの大陸の中心になっている人達だ。
獣人族は見た目は人族や魔族とそんなに違いはないが、魔族が頭に角が生えているのと同様に頭に動物の耳が生えているし、尻尾もフサフサと生えている。
シュメリア王国で神界から助っ人に来た美冬や冷華のような見た目と同じ。
種族によっては動物の顔がそのままだったり翼が生えていたりと見た目はとても幅が広い。
獣人族は『力こそ全て!』との考えが強く、人間達からは脳筋種族とも言われているが・・・
そんな獣人国から打診があり、国交樹立に向けての協議の前段階である会談が開かれる予定だった。
「1ヵ月後ならここに獣王国の関係者がいるのは理解出来る。この町から首都までは馬車で2~3週間はかかるからな。今ぐらいの時期に上陸しても不思議ではないな。俺達みたいにティアに乗せてもらって高速で空の移動は無理だろうし・・・」
俺の言葉にティアが嬉しそうにしているよ。
まぁ、平和になった今では俺達勇者パーティーが戦う事自体が無くなったし、ティアに至っては単なる交通手段の1つになってしまっている。空を高速で飛べるものだから、俺達にとっては楽すぎて本当に嬉しいのだが・・・
単なる足代わりになっている境遇でも良いのか?
俺はそう思っているけど、本人はそう嫌そうではなく喜んでいるみたいだし、それ以上は言わないでおこう。
話を戻そう。
先ほど助けた2人の獣人は間違いなく使節団のメンバーだろう。
しかも、その1人は狼の獣人である事から獣王国の王族も今回の協議に参加する予定だったのだろう。
まさかいきなり王族の関係者が来るとはシャルも予想外だったみたいだ。
その予想をはるかに越えた事態が俺達の当面の問題なんだよな。
「獣人国に何があったのでしょうか?」
アンがシャルへと尋ねるが、シャルは腕を組んで俯いている。
多分だけど言葉を選んでいるようだな。
「間違いなくクーデターよね。」
ラピスがキッパリと言い放った。
「ラピスさん!他国の事ですし、そ、その結論はまだ・・・」
シャルが慌ててラピスの言葉を遮ろうとする。
「そのお方の仰る通りです。」
部屋のドアの方から声が聞こえた。
全員の視線がドアへ向く。
ドアが開けられそこにいたのは・・・
マイがドアを開け俺達へと頭を下げている。
シャルが
「彼女達の目が覚めたら事情を聞きたいし、ここへ連れて来てちょうだい。」
とマイ達に指示を出していたからな。
予想よりも早く回復したのにはちょっと驚きだ。彼女達は獣人族なのも関係あるかもしれない。
俺達人間と比べて身体能力は桁違いだし、魔族と同等の強さを誇っているからな。
回復力も桁違いなのだろう。
「私達がここにいる事情は彼女、マイ様からお聞きしました。」
マイの横にいる狼獣人の彼女が深々と頭を下げる。
「そして我が家臣の命も救っていただいたと・・・」
直後、彼女とすぐ後ろに控えていたもう1人の獣人の女性が床に両膝をつき深々と頭を下げる。
いわゆる土下座だ。
「ちょ!ちょっと待って下さい!」
アンが慌てて彼女へと走り寄る。
そして両手を握り彼女を立たせた。
「一国の王女たるものがこう易々と頭を下げてはいけませんよ。」
「はやり気付いていましたか・・・」
「はい・・・、私もそれなりの知識はありますので・・・」
アンの言葉に俯いてしまったが、意を決したのだろう、グッと顔を上げ俺達へと向き直った。
後ろで土下座をしていた女性もスクッと立ち上がり彼女の斜め後ろに立っている。
「皆様の予想通り、私は獣王国国王が娘、キョウカ・スメラギと申します。そして後ろに控えている彼女は私の護衛です。」
後ろに控えていた彼女がスッと横に移動し、片膝を床につけ深々と頭を下げる。
「私は姫様の護衛でありましたミヤビ・クジョウと申します。此度は姫様だけではなく不甲斐ない私まで助けていただき感謝の極みです。」
「体の方は大丈夫?問題は無いですかね?」
ソフィアがにっこりと微笑むと、ミヤビと自己紹介した彼女は慌てて顔を上げポロポロと涙を流し始めた。
「まさか・・・、あなた様が私を・・・」
「無事なら何よりよ。だけどね、さっきまで死んでいたのだから、本調子に戻るのにはもう少しリハビリが必要かもね。」
ソフィアがパチンと可愛らしくウインクをする。
「あなた様が大聖女・・・、このご恩!一生かけてもお返しさせていただきます!」
ミヤビさんが深々とソフィアへと頭を下げた。
「私からもお礼を言わせて下さい。」
(キョウカさん?キョウカ姫?どっちだ?)
彼女の呼び方をちょっと迷ってしまう。
彼女もミヤビさんと同じように深々と頭を下げる。
「彼女は私の護衛をしていましたが、私が小さい時からずっと一緒にいました。私からすれば彼女は私の姉のような存在です。私を必死に守りそして・・・」
ポロポロとキョウカ姫から涙が零れた。
「本当に・・・、本当に・・・、無事に私の前に戻ってきてくれて・・・、ミヤビ・・・」
「姫様・・・」
2人がヒシっと抱き合い泣いていた。
「すみません・・・、はしたない姿を・・・」
ペコペコと2人が交互に頭を下げていた。
何だろうな、この様子からだととても仲良しの2人なんだろう。
思わずシャルとテレサを見てしまう。
雰囲気的にはそう見えるが、どちらかと言えばアンとマナさんみたいな感じかもな?
キョウカ姫はアンと同じくサラサラな銀髪の狼獣人だ。
透き通るような白い肌も相まって、見た目も歳もアンに似ているかも?
対して、ミヤビさんはマナさんやティアのようなしっかりとした大人の女性だ。
日に焼け健康的な小麦色に焼けた肌のスレンダーな見た目だ。
護衛をしているって事はかなり体も鍛えられているのだろうと、見た目からでも分かるよ。
頭には多分だけど『狐』の耳と『狐』の尻尾が生えているので、彼女は狐の獣人に間違い無いだろう。
「コホン・・・」
キョウカ姫が咳ばらいをする。
「申し訳ありません。お話が逸れてしまいましたね。」
そう言って俺達をグルっと見渡した。
「エルフ族のお方の仰る通り、私達が乗ってきました船でクーデターが起こりました。それも突発的にではなく、事前に周到に用意されたものです。この大陸に入ってから行動を起こしたのは、私達の大陸の近くだと万が一でも私に逃げられ計画がとん挫するのを防いだのでしょう。そして・・・、使節団として魔導国へ訪れるのではなく、我が獣王国の属国になるよう脅迫をしに行く予定のようです。魔導国は勇者と魔王が治める国だと我が国にも伝わっていますが、まだ国として始まったばかり、政治としての基盤も出来ていない状態なら獣人族の力で十分に制圧出来るのだろうと考えていたようです。」
「あなたはそんな事は現実に出来ると思っているの?」
アンが鋭い視線でジッとキョウカ姫を睨んだ。
「普通は無理でしょう。でも・・・、私の『兄』ならやりかねません。兄は父をも凌ぐ武功の持ち主であり、心に秘めた野心もかなりのものでした。現在、南大陸は私達獣王国が治めていますが、その他の大陸にもその力を伸ばそうと考えているのに間違いありません。だけど私は戦いは嫌いですし、かつての血で血を洗うような戦乱時代に戻るかもしれないと、国の拡大策を唱えている兄には反対していました。ここ最近は大人しくしていましたから、そのような事は妄言だと気付いて内政に力を入れてくれるものと思っていました。ですが・・・」
わなわなとキョウカ姫が震える。
「しかし、それは自らの野心を隠す演技だったとは・・・、静かに水面下で兄はこの国の乗っ取りを考えていたようです。協力者を集め武力蜂起をしたのに間違いはありません。その上、兄は私を不要と切り捨てるつもりでこの使節団へ入れたのでしょう。兄の方針にずっと反対していましたし、国にいる私の派閥の力も侮りがたいものもあります。私が遠くこの国で『人間』に殺されたと理由をつけて、私の派閥も私の敵討ちと称して自分の戦力に組み込み、国を挙げて魔導国へ攻め入る事も考えの1つとしているかもしれません。父と母も今頃は・・・」
再びキョウカ姫の目に涙が溜まり崩れ落ちてしまう。
そんな彼女をミヤビさんが後ろから支えた。
「ミヤビ、私はどうすればいいの?」
「姫様・・・」
2人は黙って見つめ合っている。
多分だけど、自分達ではどうしようも出来ない無力感に襲われているのだろう。
たった2人だけで逃げ出したけど、これ以上はどうにもならない思いが彼女達から伝わる。
「私達も舐められたものですね。私達の国がそう簡単に落とせると思っているなんてね。」
ニタァァァ~~~とアンがとても邪悪な笑みを俺に向けてくる。
「そうね・・・」
「これは神罰案件よ。」
ラピスもソフィアもアンと同じような笑顔をしている。
(これは・・・)
もう俺では止められないな。
だけど、ダメもとで言ってみるとしようか?
「アン、さすがに他の国の事情に俺達から首を突っ込むのは・・・」
「レンヤさん!」
アンの声が俺の言葉を遮る。
「ふふふ・・・、レンヤさん、大丈夫よ。私は獣王国の内政干渉はしません。あくまでも獣王国の王女様を無事に国元に送り届けるだけ・・・、それだけですよ・・・」
(やっぱりこうなったか・・・)
「まぁ、途中で売られた喧嘩は買う。それだけね。レンヤさん・・・」




