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301話 エピローグ

「アン、準備は良いか?」


レンヤの言葉にアンジェリカがゆっくりと頷く。


「はい、大丈夫ですよ。」


アンジェリカがニッコリと微笑み城の外に通じるバルコニーへと歩き始めた。




ガヤガヤ・・・



新魔王城の中にある中央の広場には大勢の人が集まっている。

一般の人族以外にも大量の魔族も集まっていた。

魔族達は伝説のアンジェリカがこの時代に蘇った事を知り、一目だけでもこの目で見たいと集まった者も大勢いた。

その人々の視線は2階にあるバルコニーへと注がれていた。



ザッ!



一人の女性がバルコニーに姿を現す。

金色の角と輝く銀髪をたなびかせ、金色の瞳で眼下にいる人々を微笑みながら見つめていた。



「「「おぉぉぉ・・・」」」



その瞬間、人々の感嘆の声が響く。


「あのお姿・・・、我ら魔族に伝わるアンジェリカ様の姿見の肖像画と全く同じ・・・、本当に我らの時代に蘇られた・・・」


誰かがそう呟くと、魔族の人々が一斉にひれ伏す。


「みなさん!頭を上げて私の話を聞いて下さい!」


アンジェリカの澄んだ声が響き渡る。

その声にひれ伏していた魔族達が頭を上げた。


「私はかつての魔王であるグリード・アルカイドの後を継ぎ!新たに魔王を名乗ります!」


魔族達の瞳から涙がポロポロと流れ始める。



「しかしです!」



ピタリと魔族達の動きが止まる。


「私は確かに魔王と名乗りますが、かつて人族との戦いを挑み世界を恐怖に陥れた魔王にはなりません!私は人族との融和を望み、平和を目指す『優しい魔王』になると宣言します。その宣言の証として!」


アンジェリカの横に勇者レンヤが立った。


「私は彼、勇者であるレンヤさんと共にこの国を!世界を平和にすると宣言します!その証として!」


今度はテレサがレンヤと反対の隣の場所に立つ。



カッ!



3人の頭上にアーク・ライトが、ミーティアが、デスペラードが現れ浮いていた。

聖剣と魔剣の宝玉が激しく輝く。



そして・・・



一振りの巨大な黄金の剣がアンジェリカの右腕に握られ掲げられた。



「この剣は聖剣と魔剣が協力し初めて真の聖剣となりました。そしてこの聖剣がこの世界を巣食う諸悪の根源である邪神を倒す事が出来ました。人族だけでも魔族だけでもこの平和は勝ち取れませんでした。この真の聖剣『ラグナロク』が私達に道を教えてくれました。私達この世界にいる者が手を取り合わなければ平和は勝ち取れなかったと!」


掲げたラグナロクの剣先を高々と空へと向けた。


「この平和になった世界に争いは不必要です!このサーベラス帝国を解体し、隣接する魔族領を統合し新たな国家を建国する事をここに宣言します!かつての恐怖の地であった帝国はもうありません!そして人族も魔族も手を取り合ってこの国を支えてくれることを願います!」


民衆の誰もが言葉を発せず沈黙が漂った。



「ここに宣言します!私、魔王であるこのアンジェリカが導く国!この国の名を『魔導国』として新たに独立する事を!しかし!決して私達は争いで解決するつもりはありません!この国を中心にして平和な世界を築こうではありませんか!みなさん!私に力を貸して下さい!」


次の瞬間、割れんばかりの歓声が広場に沸き起こった。


ゆっくりと剣を下ろしたアンジェリカの隣にレンヤが寄り添い優しく微笑む。


「アン、みんながアンを支持してくれる。俺達もその期待に応えないとな。」


「はい!私達が実現しましょう!この世界に本当の平和を!」


2人の後ろにはラピスとソフィアを始め、レンヤの妻達も揃って立っていた。



民衆の歓喜の歓声はいつまでも止むことなく響いていた。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「これが1000年前から語り継がれている魔王アンジェリカ様と勇者レンヤの物語だよ。」


魔族の男が目の前にいる男の子に語りかける。


「この魔導国が1000年も繁栄が出来たのも全てはアンジェリカ様の意志を継いだ歴代魔王様達のおかげだ。」


男の前にいる男の子がうんうんと頷いていた。

そしてスクッと立ち上がる。


「僕!大きくなったら勇者になる!」


その言葉に男が豪快に笑った。


「がはははぁああああああ!その意気だ!さすがは俺の息子だな!俺達は魔族だからてっきり魔王様に憧れると思っていたけど、まさかの勇者だったとはな。」


男の隣にいる女性がクスクスと笑っている。


「あなた、私は人族なのよ。ユウキはあなたと私の血を引いているから勇者様にも魔王様にもなれるわ。私としては勇者様になって欲しいけどね。だけど、あなたは魔王様の側近でもある近衛隊長だから、ユウキを魔王様にしたいのは分かるけどね。でもね、ユウキは勇者になって欲しいの、それは譲れないわ。」


男がウンウンと頷く。


「そうだな、ユウキって名前はかつての勇者に憧れていたお前の希望で付けたんだよな。勇気・・・、勇者になるのに絶対に必要な心だよ。」


そして男の子の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「お前は勇者になれる。なんせ俺とカエデの子供だからな。カエデはかつての大聖女ソフィア様の子孫でもあるし、今の時代の聖女だからな。」


しかし、男の顔が厳しくなる。


「勇者か・・・、数十年前から世界に不穏な雰囲気が漂っていると神官達も言っていたよ。まるで1000年前に邪神が世界に現れた兆候に似ているとな。その邪神を討つ為に新しい勇者が現れる前兆ではないかとの噂が教会でもちきりだ。特にここ数年はかなり騒いでいるな。まだ平和な国は女神フローリア様の加護が強いこの国とフォーゼリア王国、聖教国、シュメリア王国の4国・・・、だけどいつまでも安心していられないか・・・」


「大丈夫だよ!」


男の子がニッコリと笑って父親を見つめる。


「僕が勇者になって世界を救うんだ!物語の勇者様も絶対に諦めなかったんだ!僕もそうなる!」


「ふはははぁあああああ!さすがは俺の息子だ!じゃあ、勇者様になれるように頑張るんだぞ!」


父親が再びわしゃわしゃと頭を撫でると、男の子は嬉しそうに笑っていた。

その光景を母親が優しく笑顔で見つめ、そっと両手を胸の前で組み目を閉じた。



「魔王アンジェリカ様、いえ、今では女神アンジェリカ様ですね。あなた様からの神託しかと承りました。必ずやユウキを立派な勇者に育てます。そして、この事は誰にも言いません。ユウキが勇者になる為の試練に打ち勝つまでは・・・、ユウキは必ず試練を乗り越えると信じています。」






「アン、どうした?」


俺はアンへと声をかける。

当時の姿と変わらず可愛いよ。


「うん、ちょっと下界を覗いていたの。そろそろかな?と思ってね。」


「そうか・・・」


かつての俺が称号『勇気ある者』を得た時の境遇を思い出すと少し罪悪感を感じてしまう。


「とうとう勇者の試練が始まるか・・・、俺の試練の時の事を思い出すと可哀想になってな。」


「大丈夫よ。」


アンがパチンとウインクをする。


「だってレンヤさんとソフィアさんの子孫なんですからね。試練なんて絶対に乗り越えますよ。私達の子孫が魔王を受け継いで世界の平和に尽力していたように、平和を願う気持ちは誰にも負けないと思いますよ。」



「そうよ!」



「げっ!ソフィア!いつの間に!」


いつの間にか俺の後ろにソフィアが立っている。

ソフィアも神界へと転生し神となった1人だ。

やはり当時の姿と変わらない。


「この1000年間、師匠に更に鍛えられたからね。今では女神としていくつかの世界の管理も任せてもらえるようになったわ。ふふふ・・・、みんなからは慈愛の女神と言われて評判も良いのよ。」


ドヤ顔のソフィアだけど、何が慈愛の女神だ?『撲殺女神』としての二つ名の方が・・・



ジロッ!



「何か?」



鋭い視線でソフィアが俺を睨んでくる。


(相変わらず俺の心を読んでくるよぉぉぉ・・・)




バン!




いきなり部屋のドアが勢い良く開いた。



「レンヤよ!」



ティアに似た黒髪の超絶美人が部屋の中に勢いよく入ってくる。


「今度こそ!私の愛を受け止めるのだぁあああああああ!」


ダリウス!いや、今は女神グロリアとして新しく生まれ変わった『彼女』は事ある度に俺に突貫し、グイグイと結婚を迫ってくる!

面倒だし俺はダリウスって呼ぶけどな。


ドガッ!


「あいやぁぁぁ~~~~~」


ダリウスに突き飛ばされたソフィアが、奇声を発しながら天井へと飛んでいき、上半身が天井へと喰い込んだ。

そのままの状態でピクリとも動かない。


女神に生まれ変わっても中身のダリウスは変わっていない!

散々俺達を苦しめた強さは健在だよ。


しかしだ!何で結婚だ?

このセリフは俺に突貫する時は毎回言っているよ!


確かあの時・・・


『お前が生まれ変わって再び俺に巡り合う事があったのなら、お互いに腹を割って話が出来そうだよ。そうしたら、俺とお前は親友になれるかもな?なんせ、かつて天使だった俺とお前は同じ人を愛したのだから・・・』


消えゆくダリウスに向かってそう言ったよ!


そして!


『今度は俺がいるから間違えるな。』


そう思ったよ!



「うわぁあああああああ!」


だからって!

何で俺だけをピンポイントで狙って迫って来る!


ダリウスよ!


お前は実はボッチで誰も仲間がいなかったのか?


まぁ、あれだけ長く封印されていたんだ。

少しくらいしか交流がない神なら忘れ去られて、誰からも相手にされない可能性もある。

お前は本当にボッチだったのか?


しかもだ!

お前は男の神のはずだったよな?

それが今や女神だぞ!


しかもだ!(再び)


女になった事で、フローリア様に向いていたヤンデレが俺に向いたぁあああああああああああああ!


これって!最強レベルのストーカーが増えたよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


なんだろう?蒼太さんとフローリア様の悪い笑顔が俺の脳裏に浮かんだのだが・・・



「あんにゃろぉぉぉ~~~、面倒事を押し付けたなぁぁぁ~~~~~~~~!」



「どっせぇええええええええ!」

「チェストォオオオオオオオ!」



「ぐひぇぇえええええええええええええ!」



超絶美人の口からは出てはいけないような変な声がダリウスの口から出てくる。

元は男だし、しかも、男歴が長いからか普段の行動でも男がする行動になるんだよ!


憐れ!ダリウス!


部屋の壁を突き破って外へ遥か彼方へと飛んで行き星となった。


(ふぅ~~~、一安心・・・)



スタッ!



テレサとラピスが同時に着地する。


「兄さん!変態は排除したわ!」

「レンヤ!あれは何なのよ!この部屋に入れないように何重にも強力な結界を張っているのによ!それを無視して堂々と入って来るって!」


2人揃って神になって更に手に負えない強さになっているけど、ダリウスの執着心はそれ以上みたいだよ。


(あんなのに追いかけ回されていたフローリア様の苦労もよく分かる気がする。)


テレサがジッと俺を見つめる。


「兄さん、まさかだけど、あのダリウスも受け入れる事って無いよね?」


「いやいや!テレサ、それはさすがに無い!だってさ、見た目は変わってもあのダリウスだぞ。良くても友達までだ。」


「ならいいけど、何かね・・・」


少し心配そうなテレサだったけど、デミウルゴスと違って、まぁ、俺が受け入れる事は無いからな。






最初はそう思っていました!






「レンヤ、私は幸せだぞ・・・」



うっとりとした表情のグロリア(ダリウス)が俺の腕に抱き着いていた。



「俺って・・・、そんなに押しに弱い?」



ニッコリVサインのフローリア様の隣に苦笑いのアン達がいた。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「アンジェリカ、そろそろ別れの時だな。」


アンが寂しそうに目の前にいる男を見つめる。


「お父様・・・」


その男はかつての俺と相打ちとなった魔王グリードだ。

フローリア様の恩情でこの神界へと転生させてもらい、神の1人として俺達の世界の管理を手伝ってもらっていた。


「お前達が築いた平和もさすがに1000年経っとどうしても綻びが出てくるからな。そうなった時、我が蘇った意味がでてくるのだよ。あの邪神ダリウスはもういない。お前の仲間になってしまったからな。だから、我の出番だ。」


ニヤリと魔王が笑う。


「そう心配するな。我が立派に邪神の役割を果たしてやろうではないか!アンジェリカ、お前が選んだ勇者がどれだけの者か見定めてやろう。そして勇者達を邪神として君臨する我を倒す為に世界を一つにまとめ上げ、その先の新たな平和を築けるように女神としてしっかりと導いてくれよな!」


ガバッとアンが魔王に抱きついた。


「はい!お父様・・・、お元気で・・・」


抱きついているアンの頭を魔王が優しく撫でた。


「大丈夫だ。少しの間だけあの世界にいるだけだ。じきに戻って来る。」


そして俺へ視線を移す。


「レンヤよ!アンジェリカを頼んだぞ!」


「任せて下さい!」


俺が元気よく返事をすると、魔王が満足げに頷いた。


「良い返事だ。ふはははぁあああああ!さて、存分に楽しんでくるかの!」


魔王が光の粒となって消えてしまった。

俺達の世界へと降臨したのだろう。


(しっかしなぁ~~~)


やり過ぎない事を願う。



「大丈夫ですよ。」


アンが俺へと微笑んでくれる。


「父はあれでも思慮深いですし、ギリギリの一番いやらしいやり方で勇者に試練を与えるでしょうね。ちょっと可哀想ですけど・・・」


「大丈夫だ。」


「そうですね。だって勇者は決して諦めない心の持ち主ですから。レンヤさんのようにね。」


そうだ!

その心があるから勇者になれる!

勇者とは勇気ある者!その心をずっと持ち続ける事が出来る存在なんだ!



(ん?)



アンがジッと俺を見つめている。


「どうした?」


「1000年前、レンヤさんと初めて出会った時はここまでになるとは思わなかったわ。私達が願っていた世界の平和が本当に叶ったし、私が女神でレンヤさんも神となって永遠に一緒にいられるなんてね。」


「あの出会いに感謝だよな。」


「そうね・・・」


アンがギュッと俺に抱きついた。



「レンヤさん・・・、私を幸せにしてくれてありがとう・・・、愛しています。」



「俺もだ・・・、アン、愛しているよ。」


本編はここで完結しますが、レンヤ達の話はまだまだ続きます。


スタートしてから約3年ちょっと、みなさんのおかげで続ける事が出来ました。

その間にはコミカライズ化もありましたし、感謝以外の言葉はありません。


本編は終わりましたが、番外編や後日談などレンヤ達はまだまだ活躍しますので、まだ完結にはしていません。


これからもよろしくお願いします。m(_ _)m


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