300話 帰還③
あの魔王城が俺達の頭上に浮かんでいる。
正確には帝国城のあった場所の上だ!
何でここに浮いているのか理由は想像出来るが・・・
それにだ!
あの魔王城がとってもキレイになっているよ!
かつての魔王城は魔王がいた城だけあって、外観からでもかなり暗い陰のある雰囲気の城だった。
500年経った今では森の中に忘れさられていたように佇んでいた。
外壁も一部が崩れ色んな植物に覆われていたんだけどな。
そのおかげでまさに『魔王の城』の雰囲気いっぱいだったよ。
その魔王城が今や白亜の城と呼べる程に白く輝きを放って見える感じだ。
世界で一番美しいと言われているシュメリア王国にある、王都ローランドのローランド城にも引けを取らないのでは?と思う。
「ほぇ~~~」
アンがため息なのか感嘆なのか分からない息を吐く。
「まさか、あの魔王城をここまで転移させてくるなんて、やっぱりフローリア様はとんでもない存在ですね。分かってはいますけど、神の存在とはここまでなんですね。」
(確かにな・・・)
『みなさ~~~~~~~~~ん』
おっと!
再びフローリア様も声が聞こえる。
『【誰かさん!】の活躍でこの国の城は無くなってしまいましたから、早急に新たに城を建てる必要もありましたからね。』
フローリア様の【誰かさん】の言葉でもれなく全員が俺を見つめてくる!
いや!それ以前にだぞ!
(何で俺って分かるんだ?解せん!)
俺の表情が段々と引きつってきているけど、それに反比例してみんなの表情がどんどんとニヤニヤ顔になってくる。
アンに視線を移すとニコッと微笑んで返されてしまうよ。
「まぁ、レンヤさんの事ですからね。やり過ぎは日常茶飯事ですからね。」
「テレサ・・・」
助けを求めようとテレサに視線を移すが、そのテレサもニヤリと笑っているよ。
「兄さんは仕方ないよ。いつもの事だけど『絶対』に普通に戦う事は出来ないしね。」
(うぉおおおおおおおおおおおおい!)
テレサよ!俺の事をどう思っているんだ!
まんま【破壊神】の俺だと思っているのか?
ちょっとショックだよ。
「エメラルダ・・・」
「日頃の行いだ。まぁ、普段からやっている事を見れば多少言われることは仕方ない、諦めも肝心だぞ。」
フッとエメラルダが鼻で笑っているよ。
「レンヤ君なら仕方ないわね。」
「レンヤさん、少し自重しないとね。」
「そんなやり過ぎなパパも好きかな?」
マナさんにシャルにフラン!
少しは俺の味方になってもいいじゃないか?
みんなの言葉だと、俺は普段からどれだけやり過ぎな存在なんだ!
ティアだけは何も言ってはいないけど、表情を見れば何を言いたいかすぐに分かる!
(そのニヤニヤ顔がぁあああああ!)
これはこれで地味に心に刺さってくるんだけど・・・
『冗談はさておいてですね・・・』
フローリア様の言葉が続くけど、俺にとっては冗談でも何もないよ。
『それだけの戦いだった事はみなさんも覚えていて下さいね。』
多少のフォローはしてくれたようだ。
『新たに新しい城を建てるのも大変ですし、いくら私でも無からの状態で城を再現するのはさすがにですねぇ~~~、出来ないこともありませんが、そこまで私がお節介をする訳にいきません。』
(おい!出来るのか?城を新しく再現するなんて・・・)
改めてフローリア様の規格外(化け物)ぶりを実感してしまう。
ズン!
(うお!)
急に周りの空気の質が変わり重々しくなってきた。
(何が起きた?)
『レンヤさん・・・、今、何を考えていたのですかね?私の事を・・・』
マズい!
いや!それ以前にだ!
何で俺が考えている事が分かる?
(それ以上に!そろそろこのネタもいい加減にして欲しいのだが・・・)
ガン!
『い!痛ったぁぁぁ~~~~~~~』
何か叩く音が聞こえて、フローリア様が痛がっているような声が響く。
『フローリア、いい加減にしろ。さっきから同じネタをどれだけループさせている。話が進まん!』
ルナさんの声が聞こえる。
やっぱりルナさんも同じ事を思っていたようだ。
(助かったぁぁぁ~~~~~)
ルナさんが常識のある神様で助かった。
これで話が前に進むよ。
『脱線してスミマセンね。』
おいおい、フローリア様やぁぁぁ~~~
『おっほん!それでは説明しますね。』
よし!これで本当に話が進んだ!
『500年前からありました魔王城は城自体の構造はしっかりしていましたので、これだけの長い年月を経過していたのにも関わらず使用にほぼ問題はありませんでした。今では誰もいない無人の城ですからちゃんと再利用しませんとね。それにね、ここに移転する前にしっかりと中のモンスターは全て排除しておきましたので、住む分には全く問題ありません。しかもですよ!外装も内装も全てリフォーム済ですから、今すぐでも居住は可能です。』
いやいや!
神の力をまじまじと見せつけられた感じだ。
さすがは世界をも創造出来る女神様の力、俺達にはどこまでの存在なのかも理解出来ないよ。
深々とアンが頭を下げる。
「フローリア様・・・、ここまでしていただき感謝の言葉も出ない程に感動しています。」
『いいのよ。これからはここを中心にして頑張ってくれればいい事だしね。あなたの願いが叶うと良いですね。』
「はい!」
アンが頭を上げ俺達を見渡した。
「私にはこれだけの人々がいます。みなさんと力を合わせ必ずやこの世界に平和を・・・」
ズズズ・・・
ゆっくりと魔王城が地上に降下し、帝国城のあった場所に降り立った。
俺達の眼前に雄大な姿で鎮座している。
あのおどろおどろしい魔王城がここまで立派になるなんて驚きだよ。
「さて、これからここが俺達の拠点になる訳だな。中もどうなっているか楽しみだよ。」
みんなを見ると全員が嬉しそうに微笑んでいる。
しかし、俺達の前に光の玉が浮かび上がる。
しかも3つだ!
ブゥゥゥン!
(むっ!)
アーク・ライトが!
ミーティアが!
デスペラードが!
俺達の意志とは関係無く光の玉があった場所に現れ浮かんでいる。
カッ!
3本の聖剣が再び光を放った。
いや!
今度は宝玉が輝いている。
(何が起きるのだ?)
光が収まると、そこには・・・
「マスター・・・」
聖剣の姿が消えアルファ達が佇んでいた。
「お前達・・・」
「私達を忘れてもらっては困りますよ。」
ニコッとアルファが微笑む。
「ちょっと!レンヤさん!いつの間に新しい女の人を増やしているの?しかも三つ子の美少女なんて、アイ達がヤキモチを焼くわ!」
シャルが一瞬で俺の隣まで移動し鋭い視線で俺を見ている。
その鋭い視線は一瞬だけで、すぐに俺とアルファ達を交互に見ていた。
3人は誰なのかシャルも分かったようだ。
「あの子達は?まさか?聖剣の?」
「そうですよ。」
金髪のアルファが1人だけ前に進み出て深々と頭を下げた。
「私はアーク・ライトのマスターコアであるアルファです。マスターはかつての戦いからお世話になっています。デウス様より我々3人の体を神界より転送していただきました。今後は3人共々この世界にてお世話になります。」
今度は銀髪のベーターがペコリと頭を下げる。
「私はミーティアのマスターコアであるベーターです。」
最後に黒髪のガンマが深々と頭を下げた。
「みなさまには初めましてですね。私はデスペラードのマスターコアであるガンマです。以後、お見知りおきを。」
「はぁ~~~~~」
シャルがこめかみを押さえながらとっても深いため息をする。
「一気に3人も増えるなんて、ちょっと目を離した隙にこうなるなんて・・・」
「アルファ姉さんのマスターの事を心配しているようですが大丈夫ですよ~~~!」
銀髪のベーターがケラケラと笑っている。
(???)
「私とガンマは自分のマスター以外に興味はありませんからね。私達はマスターだけに忠誠を誓い、マスターの為だけにしか力を使いません。だから、アルファ姉さんのマスターには手を出しませんので安心して下さいね。だからといって、私達は百合ではありませんからね。そこは間違えないように!うふふ・・・」
「こ!こら!あなた達!」
真っ赤な顔のアルファがベーターにしがみつき口を塞ごうとしている。
そんな光景をみんなが微笑ましく見ていた。
「ふふふ・・・、賑やかね。」
(その声は!)
いつの間にかみんなのところに転移していたローズも楽しそうに微笑んでいる。
「みんなが最前線で戦っていたのに私だけ手伝えなくてゴメンね。」
ローズがバツの悪そうな表情で俺を見ている。
「そんな事はないさ。この帝都の物資の補給や後方支援のおかげで、戦いが始まってからも帝都民がそんなに混乱する事もなかったからな。こんな事が出来るローズの代わりは誰もいないからな。」
俺の言葉でローズの頬が少し赤くなった。
「そう言ってくれると頑張った甲斐があったわ。」
そしてとても嬉しそうに微笑んでくれた。
しかし、すぐに真面目な表情に戻りジッと正面の城を見つめた。
「これはやりがいのある仕事ね。あくまでもこの城は単に真っ新に生まれ変わっただけだし、中の備品等は一から揃えなければならないしね。うふふ・・・、商売人としての血が騒ぐわぁぁぁ」
完全に仕事人モードの表情で顎に手を当てニヤリと笑った。
「あぁぁぁ、酷い目に遭ったわ!」
「そうね、途中から記憶が飛んじゃって、気が付けばいつの間にかダンジョンの外に戻っていたなんてね。」
(この声は!)
ラピスとソフィアが頭を押さえながら並んで立っていた。
「あんた達、本当におめでたいわね。」
デミウルゴスが腕を組みニヤリと笑っている。
「あんた!」
「いつの間に!」
ザッとラピスとソフィアが身構える。
「気絶していたあんた達をダンジョンからここまで送ってきたのは誰だか分かっているの?フローリアに頼まれて連れてきたけど、ダーリンと一緒にいたいのならもう少し落ち着かないとね。」
「あんたには言われたくないわ!」
「そうよ!その言葉!そのまんまお返しするわ!」
「だから落ち着きなさいって言っているでしょう!」
ブワッとデミウルゴスから強烈な魔力が噴き上がる。
「う!」
「くっ!」
「これだからフローリア達に簡単に落とされてしまうのよ。そんな事ばかりだとダーリンの足を引っ張っているのも分かっていないの?」
「そ、それは・・・」
「ぐっ・・・」
(おぉおおおおおおおおお!)
あのラピスとソフィアがデミウルゴスに言い返せないでいる!
「どう?ダーリン?私もたまには真面目になる時もあるのよ。だから後でたっぷりと褒めてね。うふふ・・・」
デミウルゴスが俺にウインクをする。
いやいや!
今の言動で台無しだぞ。
「それにね、フローリアからのプレゼントしてくれたこのお城、誰が1番に入るのか分かっているわよね?ダーリンがちゃんとエスコートして中に連れていってよね?」
その言葉に俺は城をしばらく見上げた。
そしてゆっくりと振り返る。
俺の前には・・・
アンが立っていた。
「レンヤさん・・・」
アンがジッと俺を見つめる。
そしてアンへと右手を伸ばした。
「アン・・・、これからが俺達の本当の戦いだ。この城を中心に、この世界に平和を!」
「はい!」
アンがゆっくりと手を伸ばしギュッと握る。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォ!
魔王城の正門の扉がひとりでにゆっくりと開いた。
まるで俺達を歓迎してくれているようだ。
アンがジッと俺を見つめる。
「500年前には叶えられなかった世界の平和を、今度こそレンヤさんと一緒に叶えましょう!」
その視線に俺はゆっくりと頷いた。
「そうだ、俺とアンがいれば絶対に叶うさ。遥か昔から敵対していた勇者と魔王が過去の因縁を捨て手を繋ぐ、過去からのしがらみはもう存在しない!俺達の前には新しい未来しかないからな。」
「さぁあああ!一緒に行こう!」
俺の言葉にアンもゆっくりと頷いた。




