299話 帰還②
目の前の眩しい光が徐々に薄くなり視界がハッキリしてきた。
それに伴い体全体に感じていたフワッとした浮遊感も無くなり、体の重さを実感し始める。
(アンが俺の腕に抱き着いている感覚はさっきから変わっていないけどな。)
スタッ!
しばらくすると地面に降り立った感覚が足の裏に感じる。
(何で地面だ?)
帝国城はダンジョン化していたけど、ダリウスが倒れた今はダンジョン化も解けて普通の城に戻ったはずだぞ。
それなのに何で?
何か理由があってわざわざ城の外に転移してくれたのかな?
眩い光だけしか見えなかった視界が段々と元に戻って周りの状況が見えてくる。
「はい?」
思わず変な声が出てしまう。
「これは・・・」
帝国の権威を誇っていた巨大な城が綺麗サッパリと無くなっていた。
かつての帝国城があった場所は地面が抉れ深いクレーターが出来上がっている。
「どういう事だ?」
状況が全く理解出来ない。
「パパァアアアアア!」
頭上から聞こえるこの声はフランの声だ!
ドン!
「げふぅううううううううううううう!」
俺の体に強烈な衝撃を受けてしまい危うく倒れそうになったけど、その衝撃の原因はフランが俺にフライングアタックで突貫しただけだしな。
頑張って倒れずに受け止めた。
そのフランだけど・・・
「へへへ・・・、パパが戻って来たよぉぉぉ~~~」
だらしない表情で俺の胸に頬摺りをしている。
そのフランを少し離れた場所にいるマナさんが困ったような顔で見ていたよ。
「マナさん!みんなは?」
困ったような顔は一瞬ですぐに嬉しそうに微笑み、城の跡地の横にいる人達へと視線を移す。
そこには、人々の先頭にシャルとティアが立って俺を見ていた。
「いきなり城が消えたものだから人々が不安になってしまってね、シャルが率先してみんなを元気付けてくれたのよ。さすがはシャルね、王女モードの時はアンに引けを取らないくらいに凛々しかったわ。ティアはティアでいつもの自信満々な態度が人々の不安を消してくれたみたいよ。」
良かったよ。
大した混乱も無く帝都の方は落ち着いたようだな。
しかし・・・
いくらダンジョン化したとはいえ、あの巨大な城が綺麗サッパリと無くなる?
全く跡形も無くだぞ。
「マナさん、あの城ってどうやって消えたんだ?ラピスがメテオを落とした訳でもないし、あれだけの大きさの城を跡形も無くすってどんな化け物が出てきたんだ?」
「それがね、私達も分からないのよ。」
マナさんが首を傾げると、俺の胸に張り付いているフランも不思議そうに城の跡地を見ている。
「何かね、急に城の中から黄金の光が輝き始めたと思ったら、その光が城を包み込んだのよ。その光が消えるとこの通りね。城が跡形も無くなっていた訳。まぁ、中にいた人は全員無事だったようで、城が無くなった跡地の周りにある道路の上に呆然と立っていたわ。」
(黄金の光?)
なんだろうな、とっても身に覚えがあるのだが・・・
まさか、ダンジョンをぶち壊して召喚したトール・ハンマーが、召喚の余波で城を消し去った?
アレなら城どころかこの帝都自体すらも消し去ることは造作もない!
アレは究極の破壊兵器でもあるからな。
・・・
(犯人は俺かぁああああああああああああああああああああ!)
別方面でも俺の中の『破壊神』はキッチリと仕事をしてくれたなんて・・・
そんなもん!俺じゃ弁償も出来ない!
この事は俺の心の中だけに秘めておこう。
うん、そうしよう・・・
不幸中の幸いとして、誰も被害者がいないってのは助かった。
全てを消し去る光だったけど、悪意のない一般人には単なる眩しいだけの光だったようだ。
それか・・・
俺が無意識に対象を選別していたのかもしれない。
そんな事が出来る俺は本当に凄いな。
自分で自分を褒めたい気分だよ。
・・・
いかん!いかん!
話題を変えなくては!
「そういえば、ラピスとソフィアを見なかったか?俺達よりも先にフローリア様が転移してくれていたんだけどなぁ~~~」
そう、元に戻ってきたのは良いけど、肝心のラピスとソフィアがどこにもいない。
(???)
マナさんが周りを見渡して首を横に振る。
「やっぱり見かけないわ。プラチナ・クイーンのレーダーにも反応が無いし、レンヤ君困ったわね。」
本当にあの2人はどこに行った?
(まさか?)
フローリア様が転移の座標を間違えた?
「レンヤ君!魔力の反応があったわ!これはラピスさんとソフィアさんの魔力よ!2人揃って急に出現したわ!」
マナさんが叫び頭上へと顔を向けた。
ブゥゥゥン!
上空に金色の魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣から人影が現れる。
(いや!この人影は!)
「これはマズいわ!」
マナさんが青い顔で上空の魔法陣を見上げていた。
「一緒に反応したこの魔力は魔神デミウルゴスよ!何でラピスさん達と一緒にいるの?私達が戦いで消耗した時に現れるなんて・・・、それを狙って現れたの?」
ギリっと悔しそうに唇を噛んでいた。
フランもマナさんの様子を見て真剣な表情で頭上を見上げた。
シャルもティアもデミウルゴスの魔力を感じたのか、一気に俺達のところまで飛んでくる。
「マナさん、それは大丈夫だよ。」
険しい顔で上空を見上げているマナさんへ俺はウインクをする。
一緒にいるアン達もニコニコしていた。
「・・・、はい?」
マナさんが「はぁ?」と不思議な顔で俺を見ている。
「レンヤ君、どういう事なの?」
「まぁ、話せば長くなるけど、デミウルゴスは今では俺達の仲間なんだよ。」
アンがスッと俺の横に立った。
フランが慌てて俺から離れシャルのところまで移動する。
「姉様、そういう事ですよ。」
アンがみんなへウインクをした。
気を失っている2人を両脇に抱えているデミウルゴスが魔法陣から現れた。
「デミウルゴス・・・」
両脇のラピスとソフィアはデミウルゴスの手から離れ先にゆっくりと降下し、シャル達の前に移動し2人をシャルとティアが抱き留めた。
「この2人がここまでやられるとは・・・、ダリウスが黄金の光になって昇華していくまでは空に映っていたのだがな、それ以上の事は見えなくなってしまって、最後はどうなったか分からず我らも心配していたのだぞ。、あの後に余程の激戦が続いていたとは・・・、神々の戦いとはそこまで激しいものだったとはな・・・」
ティアがラピスを抱きながら神妙な表情で俺を見ていた。
(い、いやぁぁぁ~~~)
この2人に関しては言えないよな。
まさか、フローリア様から直々にお仕置きされたってな・・・
俺の気持ちを察してか、アンもテレサもエメラルダも苦笑いをしている。
事情を知っていないみんなが緊張して空中にいるデミウルゴスを見つめている。
そのデミウルゴスがゆっくりと地上へと降りてくる。
アンがスタスタと前に歩き出し始めた。
しばらくしてアンの歩みが止まる。
スタッ!
デミウルゴスがアンの前に降り立つと・・・
ザッ!
片膝を地面に付け深々と頭を下げた。
「この世界の魔王アンジェリカよ・・・、この私デミウルゴスは生涯の忠誠を誓います。」
「姉さん!そこまでしなくても!」
テレサが慌ててデミウルゴスへと近づいた。
しかし、近づくテレサへデミウルゴスはゆっくりと首を振る。
「テレサちゃん、これはケジメよ。私がこの世界で生きていくのにね。ダーリンの1番であるアンジェリカと一緒にいる許可をもらう為にね。」
「デミウルゴスさん・・・」
アンがニコッと微笑んだ。
「やっぱりさっきの床に埋まったあなたは別人でしたね。ソフィアさん直伝のあの技を受けてピンピンしているはずがありませんからね。」
今度はデミウルゴスがニヤリと笑う。
「やっぱり分かっていたのね。フローリアが気に入る訳だわ。」
「ふふふ・・・、大した事じゃありませんよ。」
スッとアンがデミウルゴスへ手を伸ばす。
「ようこそ私達の世界へ。私達は歓迎しますよ。」
差し出されたアンの手をデミウルゴスが立ち上がりしっかりと握った。
「それと、私の事はアンと気軽に読んで下さいね。私達のお姉さんになるのですから敬語もいりませんよ。」
「助かるわ、私って本当は堅苦しいのは苦手なのよ。これからもよろしくね、アン。」
2人が見つめ合いながら微笑んだ。
「ねぇ、レンヤさん・・・」
シャルとフランが心配そうな顔で一緒に俺の隣まで来た。
(あれ?ソフィアは?)
いつの間にかソフィアはエメラルが抱いていたよ。
ラピスは相変わらずティアが抱いているけどな。
まぁ、シャル達の気持ちは分からんでもない。
「デミウルゴスなら心配いらないさ。確かにさっきまで敵として対立していたが、それはもう終わった事だ。それにな、テレサがデミウルゴスに一番懐いているからな。」
「テレサが信頼しているなら私も信頼するわ。」
「ありがとうな。」
ポンとシャルの頭に手を置き軽く撫でるととても嬉しそうにしているよ。
だが!
その隣のフランが思いっ切り頬を膨らませて俺を見ている!
(うわぁぁぁぁぁぁぁ、完全にやきもちだよ・・・)
「分かったよ、フラン。」
もう片方の手でフランの頭を撫でると面白いくらいにだらしない笑顔になっているのだが・・・
そんな百面相のフランも面白いよ。
「そうそうダーリン!」
(何だ?)
アンの前にいたデミウルゴスが嬉しそうに俺へとすり寄ってくる。
そんなデミウルゴスの行動に横にいるフランが、猫のように「フシャァアアアアア!」と言って威嚇しているよ。
デミウルゴスはそんなフランの事は無視をして俺へと近づいてくる。
「フローリアからダーリン達にプレゼントがあるって伝言よ。色々と迷惑をかけたからそのお詫びだって。」
「プレゼント?」
「う~~~ん・・・、何なのかは詳しく教えてくれなかったけど、これからは絶対に必要となるモノって言っていたわ。」
(何だろう・・・)
デミウルゴスのキラリン!とした目と表情にとっても嫌な予感がしているのは俺だけではないと思う。
いや!これは絶対に何かを知っている態度だ!
何も知らない俺達が慌てるのを期待している目だよ!
ス・・・
空が急に暗くなった。
「そんなバカな!」
「嘘でしょう?」
「有りえない・・・」
俺の隣に移動したティアも信じられない表情で空を見上げている。
マナさんもシャルも同じ表情だ。
フランはずっとデミウルゴスを威嚇するのに必死だったけどな。
アンとテレサは逆に涼しい顔なんだけど・・・
(信じられん!)
ザガンの街から更に辺境にあったあの巨大な魔王城が帝国城のあった上空に浮かんでいる!
アンとテレサがデミウルゴスに視線を移し頷きあっている。
「ふふふ・・・、そういう事ですね。」
(お前達3人は知っているのか?)
どこからか声が聞こえる。
『すみませ~~~ん。一つ言い忘れていました。』
(この声は?)
フローリア様かい!
多分だけど、あの空に浮いている魔王城に関係する事だろうな。
それは間違い無いと俺の直感が訴えている。
ちょっと頭痛がしてきた・・・
「こんな非常識過ぎる事が出来るのはフローリア様しかいませんよ。ねぇ~~~」
アンがそう言って頷くと、テレサもデミウルゴスも頷いた。
(お前等、いつの間にここまで仲良くなったのだ?)




