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30話 アンジェリカの変化

「そ、そんな・・・、アンが500年前の魔王の娘だなんて・・・」


マナさんの顔が真っ青になっている。


「信じられないわ。500年前の事でしょう?そんな長生きの魔族なんて聞いた事も無いし、今のアンはどう見てもレンヤ君と同じ年頃の女の子よ。ずっと時間が止まったままで眠っていたっていうの?あり得ないわ。」


しかし、アンがゆっくりと頷いた。

「姉様、凄いわ、正解よ。私は父に時を止められ、この城の中でずっと眠っていたの。そんな私を目覚めさせてくれたのがレンヤさんよ。レンヤさんは500年前に魔王であった父を討った勇者の生まれ変わりで、私との出会いでレンヤさんは昔の勇者としての力を取り戻したの。」


「マナさん、この話は本当の話だよ。」


「レンヤ君・・・」


「500年前、俺はここにいるラピス達と一緒に魔王を討った。だけど、俺は魔王の呪いを受けて死んでしまったんだ。結果は相打ちという形でな。この事は歴史には載っていないし、意図的にアレックスが隠したのだろう。そして、この時代に生まれ変わった。最初は記憶も封印されていたし、称号も『勇気ある者』という前代未聞の無能と呼ばれる称号を受けた。今になって冷静に考えると、この称号って縮めると『勇者』になるんだよ。勇者のヒントは既にあったんだ。そしてこの3年間の苦労は、俺が勇者となる為の試練だったのさ。どんな苦境にも負けない心、正義の為に正しく力を使う心、そして、最後の試練がアンだったと思う。」


「アンが・・・」


「そう、アンは確かに魔族だし、しかもあの歴代最強と言われていた魔王グリードの娘だ。だけど、心は俺達人間と同じなんだよ。戦う事を嫌い、人族と魔族が仲良く暮らす世の中を目指している。そんな考えを持っている魔族は彼女1人だけかもしれない。そして勇者は正しい心でいなければならない。偏見や差別なんてもっての外だよ。俺はそんな彼女を守りたい、そう願った時に勇者に覚醒したんだ。俺とアンは偶然に出会った訳じゃない。俺はアンと一緒にアンの夢を実現する為に共に歩んで行く。それが俺とアンの運命の出会いだったと思う。」



「姉様、ごめんなさい・・・」



アンが深々とマナさんに頭を下げている。


「姉様を騙すつもりは無かったの。でも、ギルドや街中だと私の魔族の姿は恐怖の対象として、周りからそう見られてしまうの。だから、さっきみたいに姿を人間に変えているの。今はまだ私の正体を知られる訳にはいかないから・・・」



「だけど、私には正体を教えてくれた・・・」


マナさんがニコッと微笑んだ。

そしてアンを優しく抱きしめた。


「アン・・・、ありがとう。私に真実を打ち明けてくれて・・・、私だけ蚊帳の外は嫌だからね。あなたは言ったじゃないの?私に甘えて良いかなってね。だから、私には隠し事は無しよ。そんな事をして苦しい思いをしなくてもいいから、精一杯私に甘えてね。」


「姉様・・・」

アンがポロポロと涙を流しながらマナさんの胸で泣いていた。


「アンと初めてお話をした時、アンの話し方は私達平民の話し方と違って、どこか高貴な感じがしたからね。アンは魔族のお姫様だったのね、納得したわ。それにね、アンのこの姿は普通の魔族とは思えないのよ。金色の角に金色の瞳、ギルドで女神様が憑依されたラピスさんと同じに見えるわ。まるでアンにも女神様が乗り移っているようね。」


「えっ!私の角と瞳が金色?本当に?」


ガバッと顔を上げマナさんをジッと見つめている。


「本当よ。そんなに驚いた顔をしてどうしたの?」


確かに、今のアンの角と瞳は金色だ。さっき、偽装を解いた時に金色に変わっていたのは俺も驚いた。偽装の魔法をかけるまでのアンは角は黒色だったし、瞳は赤色だった。どうしてこんな変化が起きたのだ?


「そういう事ね・・・」

ラピスが納得したような表情で頷いていた。


「ラピス、どういう事だ?」


「レンヤ、アンはフローリア様の加護を受けたじゃない?その時、完全にダリウスの呪縛から解き放たれたと思うの。そして、今のアンはレンヤと同じくフローリア様の使徒になっているわ。フローリア様の神気は金色なのよ。その神気がアンに変化をもたらしたと思うわ。」


「そういう事か・・・」


再びマナさんがアンをギュッと抱きしめた。


「姉様・・・」


マナさんがアンに微笑む。

「アンって凄いわね。レンヤ君に愛されている上に、女神様からも認められているってね。こんな立派な妹がいて私も嬉しいわ。もちろん、私もあなたが大好きよ。魔族なんて関係無いわ。」


幸せそうな表情でアンがマナさんに抱きついている姿を、ラピスも微笑んで見ていた。


「レンヤが挫けなかった理由が分かったわ。」


「何か言ったか?」


「ううん・・・、マナって凄いと思ってね。」

ラピスがゆっくりと首を振った。

「ハイエルフとして人間よりも遙かに長い間生きて数多くの人に会ったわ。だけど、マナほど慈愛に溢れた人間はいなかったわ。こんな人間もいたなんてね・・・」


「確かにな・・・、俺もあの町ではマナさんの優しさに救われていたと思うよ。多分、俺の受付がマナさんでなかったら挫けていただろう・・・、まぁ、俺の事を弟と思って一緒に過ごしたいって下心はあったみたいだけど、それでもあの優しさは下心からは出ていないと思うよ。」


「そうね、マナも私達と一緒になる運命だったのかもしれないわね。それにしてもレンヤ、あんたモテ過ぎよ!500年前はそんなに女は近づかなかったのに、今はどうなっているのよ。レンヤと私とソフィアの3人で一緒に暮らす予定がこうも変わってしまうなんて・・・」


ははは・・・、俺もどうしてか分からないよ。



もう増えないと思うよな?




順番にシャワーを浴びてから、アンとマナさんが再びキッチンで料理を作っている。

まるで本当の姉妹のように仲良く料理をしている姿はとても微笑ましいよ。


だけど・・・


「アンにマナさん、この服装は何なんだ?」


2人揃ってなぜかメイド服を着ている。


アンがにっこりと微笑む。

「レンヤさん、どう?私っていつもドレスばかり着ていたし、普段着も堅苦しい服が多かったのよ。だからね、侍女が来ていたメイド服には興味があったの。幸い、この家のクローゼットにたくさんメイド服が置いてあったから、普段はこの服を着てみようかなって思っているのよ。ドレスと比べて動きやすいのもあるしね。それに、レンヤさんのお世話もしたいからね。」


「はぁ~、気持ちは嬉しいけど・・・」


正直言って、アンのメイド服姿はとても似合っているんだよな。フリルの付いたミニスカートのメイド服だから、更にアンの可愛さを引き立てている感じだ。こんな服で街中なんて歩けば、余計に注目を浴びるのは間違いないだろう。

ホント、アンの可愛さはとんでもないと思う。


「それにマナさんまでアンに合わせなくても・・・」


マナさんもニコニコ微笑んでいる。

「あら、レンヤ君、私がこんな服を着るのが嫌なの?」


「い、いや・・・、嫌という訳では・・・」


マナさんのメイド服はアンと違い、ロングスカートのタイプを着ている。落ち着いた雰囲気のマナさんにピッタリで、調理をしている姿は熟練のメイドの雰囲気が出ているのには驚きだよ。

マナさんも相当の美人なんだよね。

そんな美人メイドの姿でにっこりされてしまうと、思わずドキッとしてしまう。


「あらら、レンヤ君、もしかして私のこの姿に照れているのかな?可愛いわね。アンからも『絶対に似合うわよ!』って言われて着たけど、着てみて本当に良かったわ。このままレンヤ君を誘惑しようかしら?ふふふ・・・」


(マナさんも遠慮しなくなってきたよ。勘弁してくれ・・・)


「そういえば、アンの姿で思い出したけど、フローリア様の護衛の1人でメイド服を着た天使がいたわ。ピンク色の髪をした女性の天使だけど、アンと同じくらいにとても可愛いのよ。あっ!今は女神様になっていたわね。」


俺の隣に座っているラピスがアンを見ながら話している。


「へぇ~、そんな天使がいるんだ。」


「そうよ、その方は常にメイド服を着て戦闘していたわ。本人はバトルメイドと言っていたわね。その強さはとんでもないのよ。私なんかその方の足元にも及ばないくらい強いわ。ホント、神様の世界に住んでいる方々は化け物ばかりよ。」


おいおい、ラピスも十分化け物クラスだと思うけど・・・、そんなラピスが化け物って言うくらいだから、神々の世界は俺が想像出来ないくらいの強者がひしめき合っているんだろうな。ダリウスもそんな神々の一員だった。そんな強大な敵に勝てるのか?


「レンヤ」


ラピスが俺の両頬を押さえ、グイッとラピスの方に向かされてしまう。


「弱気になったらダメよ。レンヤがしっかりしないとね。」


「あぁ・・・、そうだな。」


「フローリア様が仰っていたわ。神の力は確かに強大よ。でもね、人間の想いの力は時には神の力さえも上回るのよ。それが人間だけに与えらえた特権・・・、それを人々は『奇蹟』と呼ぶわ。」


突然、ラピスに唇を塞がれた。


しばらくしてからラピスの唇が離れる。

とても優しい笑みで俺を見つめていた。


「レンヤ、元気が出た?あなたの想いの力は誰にも負けないわ。」


「ラピス・・・」


「あなたは私が認めた唯一の男よ。私は信じているわ、あなたが神をも超える奇蹟を起こす事をね。それが勇者、いえ、レンヤの力だと思っているからね。フラれて世界を滅ぼそうとする女々しい邪神には負けるはずがないわ。」


スーッと心が軽くなった気がした。


「ありがとう、ラピス・・・」


今度は俺からキスをした。

唇が離れると、とても嬉しそうに微笑んでいる。



「レンヤさん・・・」

アンの声が聞こえた。

「私を差し置いて、2人だけで甘い空気を作っているの?」


(怖い!怖いぞ!)


包丁を握り締め、目が据わっているアンが俺達の前に立っていた。


「「ひえぇえええええええええええ!」」


俺もラピスも思わず悲鳴を上げてしまった。


「レンヤさん!今度は私にもキスしてね!」

可愛くウインクしているが、握っている包丁を突きつけながらだし、この状況だと恐怖しかないよ。


「こら!アン、刃物を人に向けたらダメでしょう!」


「姉様、ごめん!つい・・・」


マナさんがアンの頭を優しく撫でている。

「ヤキモチは可愛いけど行き過ぎもダメよ。こんな時はさり気なくいかないとね。」


「ねっ!レンヤ君、そう思うでしょう。」

マナさんが俺に視線を移した。


「えぇ、まぁ・・・」


「そういう事よ。」

パチンとウインクをしてくる。

「お姉さんにもレンヤ君にキスの味を教えて欲しいな。私はまだキスの経験が無いから、レンヤ君に教えて欲しいのよ。今度でいいからね。ふふふ・・・」


(げっ!)

タラリと冷や汗が出てくる。


「姉様、凄い・・・、レンヤさんがタジタジになっているわ。さすが大人の余裕なのかしら?見習います。」


アンがキラキラした目でマナさんを見つめているよ。

そんなところは見習わなくていいと思うのは俺だけ?

ラピスは横でニヤニヤしているし・・・


「こんなレンヤなんて、500年前の時は見た事無かったわね。私もからかい甲斐があるわ。」


(勘弁してくれよ・・・)



「ダメ・・・、もう無理・・・」


4人で楽しく夕食を食べたけど、3人揃って順番に食べさせてくれたおかげで、とても満腹の状態だ。

料理はとても美味しいけど、せめてゆっくりと食べさせて欲しかった・・・

次から次へとフォークが俺の前に差し出されてくるからなぁ・・・



夕食後はみんなでソファーに座ってゆっくりしている。

マナさんがとても嬉しそうだ。


「今までこうやってみんなで楽しくいるって事は無かったわ。いつも寮で1人でいたし、私を誘って食事に行こうとしてきた人は何人もいたけど、何か下心が見えてねぇ~、でも、レンヤ君はそんな事が無いわね。一緒にいても安心するわ。」


(いやいや、どちらかと言えばマナさんが俺を誘っているよ。)


「それにしても、この建物は本当に凄いわ。大きさはそんなに大きくないけど、中の設備や家具などは私の想像を遙かに超えているわね。こんな贅沢をして良いのかしら?仕事で貴族様の屋敷に行った事もあるけど、こんな立派なものは無かったわ。この建物一体どうしたの?」


「ビックリしたでしょう?」

ラピスがなぜか胸を張っている。

「これはね、フローリア様がかつて使っていたものをいただいたのよ。旦那さんと一緒に旅をした事があって、その時に使っていたものだって。」


「嘘・・・、女神様のものなんて・・・、これは国宝級以上のものよ。本当にあなた達は規格外過ぎるわ。」

マナさんが冷や汗ダラダラで申し訳なさそうにソファーに座っていた。


「まっ、私もそんな中に入ったのだから、いつまでも驚いている訳にはいかないわね。こんな生活を覚えてしまうと、もう寮には戻れないわ。ずっとここにいても良いかな?」


アンもラピスもニッコリ微笑んだ。

「「もちろんよ。」」


ラピスが立ち上がり、マナさんの前に立った。


「マナ、ようこそ、私達の家族へ。」


そして、右手を差し出し掌を広げると、そこには銀色の指輪が握られていた。


「ラピスさんこの指輪は?」


マナさんが不思議そうに指輪を眺めている。


ラピスがニコッと微笑んだ。アンもニコニコしている。

「これはね、レンヤの婚約者になった証よ。私もアンも身に着けているでしょう。」


2人の左手を交互に見て嬉しそうに頷いていた。

「これが・・・、キレイな指輪ね。私もとうとうレンヤ君の婚約者になれるのね。」


「そうよ。しかも、色々と特典付の指輪だから、絶対に人に貸したらダメだからね。使い方は後で説明するわ。」


「それじゃ、レンヤ、マナに指輪を着けてあげて。」


ラピスから指輪を受け取りマナさんの前に立った。

マナさんは嬉しそうに俺の前に立っている。


「ふふふ、こんな日が来るなんてね。弟君と思っていたらいつの間にか旦那様になってしまうのね。」


マナさんが左手を俺の前に差し出した。


「マナさん、今まで色々とありがとう。マナさんのおかげで俺はこうして勇者になれたよ。今度は俺がマナさんを守る。絶対に俺と一緒になった事を後悔させないからな。」


指輪を着けてあげると愛おしそうに指輪を撫でている。

「レンヤ君、ありがとう・・・、今日の事は絶対に忘れないわ。私も幸せになれるかな?」


「なれるさ、俺が必ず幸せにしてあげるよ。」


マナさんの瞳から涙が零れた。


「約束よ・・・」


そのまま俺の胸に飛び込み静かに泣いていた。


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