297話 最終決戦⑩
再開です。
完結までもう少しですのでお付き合い下さい。
(し!死ぬぅぅぅ!マジで!)
2人のこの細い体から信じられないくらいの力で俺の体が締め上げられている。
それそろ俺のあばら骨と背骨がバラバラに砕け散りそうだ。
頼む!
お前達!正気に戻ってくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!
切に願う!
「もういい加減にしなさい。」
「そうだ、こうも目の前で散々とイチャつかれると温厚な妾もさすがに腹が立ってくるぞ。」
「「うっぎゃぁああああああああああああああああああああ!」」
(うわぁあああああああああああああああああ!)
俺のすぐ顔の前でラピスとソフィアの悲鳴が響く。
あまりにも大声で叫ぶし、俺の耳が変になりそうだよ。
ガシッ!
フローリア様とルナさんがラピスとソフィアの頭を鷲掴みにしていた。
頭を鷲掴みにされている2人からは『メリメリィイイイイイイイイイ!』と俺以上にヤバい音が聞こえてくる。
もう少し力をいれれば、2人の頭は本当に潰れたトマトのように・・・
(気持ち悪くなってきたよ。これ以上は考えないでおこう・・・)
とてもグロい光景(18禁)を想像してしまった。
あまりの痛さなのか、ラピスとソフィアからの拘束が緩み、俺の意識がハッキリとしてくる。
ガックリと脱力した2人が仲良く揃って、フローリア様とルナさんに頭を鷲掴みにされたまま持ち上げられてぐったりしている。
気を失ってしまったのか、口から泡を吹きながらビクン!ビクン!と痙攣までしている。
(フローリア様も容赦ないよな。)
それにしても・・・
白目を剝いている2人の顔は他人には見せられないな。
「みなさん・・・」
フローリア様がとても良い笑顔で俺達へと声をかける。
しかしだ!
そのフローリア様の目が笑っていない。
いくら俺でもこの状況はとてもヤバいと思っている。
「このダンジョンを作ったダリウスはいませんし、そろそろダンジョンが崩壊してしまうのにまだ遊んでいるのですか?そんなにゆっくりしていると、このダンジョンの崩壊に巻き込まれて次元の狭間に落ちてしまいますよ。そうなったら最後、2度と元の世界に戻れなくなるか、多重次元の圧力ですり潰されるしかないのですからね。」
そしてチラッとラピスへ視線を移した。
「ラピスさんにはその辺りの事情はきちんと説明していたのにね。色々とあり過ぎて彼女の頭の中から肝心なところが吹っ飛んでしまったようですね。申し訳ありません。」
そうフローリア様が仰ってから頭を深々と下げた。
(しかしだ!)
ただね!
フローリア様は白目を剥きながら口から泡を噴き出していラピスの頭をまだ鷲掴みにしているんだよ。
そんなホラーな光景が目の前で展開されている。
チラッとフローリア様の隣に視線を移すと・・・
ルナさんがラピスと同じ姿になったソフィアの頭を鷲掴みにしている。
(こうして2人で一緒にいるって事は、ルナさんもフローリア様と同格の神なんだろう。)
俺達の中で最強と言われている2人でも軽く瞬殺か・・・
(神の世界から俺達を見れば、俺達の存在はまだまだなんだろうな。)
ダリウスに勝ったからといって慢心は出来ない。
上には上の存在が目の前にいるしな。
だけど諦めてはいない、少しでも蒼太さんの域に追い付きたいし、同じ魂ならその領域になれる筈だ!
「そうですよ。」
フローリア様がニコッと俺へと微笑んだ。
いやはや・・・
さすがは女神様だけあるよ。
しっかりと俺の心を読まれている。
隠し事も嘘も付けない相手とは彼女の事を言うんだな。
「違いますよ。私は心を読んでいませんからね。」
・・・
「へっ?」
フローリア様よ、何を言っているのだ?
これこそ俺の心を読んでいるに間違いないはずだが?
しかしだ!
そのフローリア様はニコニコした表情で俺を見つめているよ。
「まぁ、私は女神ですから心を読むスキルは持っていますよ。でもね、個人情報を勝手に覗く事はしませんから安心して下さい。」
(本当に?)
そう思ってしまう。
「そう、その目に表情ですよ。本当に分かりやすいですね。うふふ・・・」
思わずドキッとしてしまう。
「そ、そんなに分かりやすいのですか?」
俺の言葉にフローリア様が更に愉快そうに笑っている。
「そうですよ。旦那様の世界にあることわざですが、『目は口ほどに物を言う』との言葉があるのですよ。レンヤさんも旦那様も目もそうですが、表情もとっても分かりやすいですね。今、何を考えているのか、そしてどう行動するのかもね。その方法をラピスさんに授けましたが上手く活用していますね。」
フローリア様かい!
ラピスの読心術の師匠は!
いやいや!
いくら何でもここまで読むなんてあり得ない!
やっぱりこの人は化け・・・
ジロリ!
(うっ!)
フローリア様の視線がとっても鋭くなっている。
今の俺の心も読まれている?
だから機嫌が悪くなって・・・
スパァアアアアアッン!
「痛ったぁぁぁ~~~」
軽快な音がしたと思ったら、フローリア様が痛そうに後頭部を押さえているよ。
フローリア様の後ろには黄金のハ〇〇ンを持ったルナさんが立っていた。
「フローリアよ、もう遊びは止めんか。いつまで経ってもキリがないぞ。」
「い、痛いですよ・・・、何も本気で殴らなくても・・・」
ウルウルした表情のフローリア様がルナさんを恨めしそうに見ていたよ。
俺だったら間違いなく頭が吹き飛びような威力の〇リセ〇攻撃を、頭を押さえるだけで済むなんてどれだけフローリア様は頑丈なんだ?
だけど、ルナさんには感謝だよな。
すぐに話が脱線してしまうメンバーをちゃんと軌道修正してくれているしな。
もういい加減に脱線は勘弁だよ。
ピキ!
突然、上空から何かが割れるような音が響く。
「ほら、そろそろダンジョンも限界が来たようだな。まぁ、あれだけ派手に暴れたのだ、ここまで崩壊せずに保ったのも奇跡的なくらいだったからな。ほれ、フローリアよ、さっさと転移するぞ。」
ルナさんが上空を仰ぐと、俺がトール・ハンマーを召喚した際に割れたダンジョンの空が更に大きく割れている。
漆黒の空が全てを吸い込むように広がっている。
そして、その崩壊がそろそろ地平線までに達しようとしていた。
「分かりましたわ。それではみなさんを元の世界に帰還させますね。」
フローリア様とルナさんの間に気を失って床に放置されているラピスとソフィアがいる。
「まずはこの気を失っている2人を先に戻しますね。」
スゥゥゥ・・・
彼女達のいる床の上に魔法陣が浮かび上がり輝くと、徐々に2人の姿が消えていった。
「さて、次はレンヤさん達の番ですね。」
俺の足元の床が輝き始めた。
「おい!デミウルゴス!お前!何をしている!」
ヴリトラの声がいきなり響いた。
そういえば・・・
このダンジョンにはヴリトラも一緒にいたわ。
あいつの存在が薄かったからすっかり忘れていたよ。
ガシッ!
「え?」
いきなり誰かに抱きかかえられてしまう。
俺を脇に抱えたまま誰かがダッシュで駆け出した。
(何だ?何が起きた?)
「隙ありぃいいいいいい!」
耳元でデミウルゴスの声が聞こえる。
デミウルゴスよ!犯人は貴様か!
「ふはははぁああああああああああああああ!今のうちにダーリンをお持ち帰りするのよ!そしてぇえええ!今から2人っきりで・・・、ぐふふふ・・・」
「デミウルゴスさん!」
フローリア様の声が響くのが聞こえる。
その直後にルナさんの声も小さく聞こえた。
「フローリアよ、やられたな。あやつは上位の空間魔法使いだよな?それならば、お前の力を借りなくても独自にこのダンジョンから脱出出来るだろう。我々を出し抜いてレンヤを独占するチャンスを虎視眈々と狙っていたとはな。さすがはお前の親友だけあって、抜け目のないところはそっくりだよ。くくく・・・、だが、面白い!」
おいおい、ルナさんやぁぁぁ~~~
笑い事では無いと思うが気のせい?
デミウルゴスに拉致られてどこかに連れ去られてしまうなんて・・・
2人っきりになってしまったら俺は何をされるの?
そんな俺の不安を全く気にしないでデミウルゴスが軽快に駆けていく。
(マズいな・・・)
強引に暴れて脱出する手もあるが、それだとデミウルゴスに怪我をさせるかもしれない。
くっ!
それを狙ってデミウルゴスはこんな方法を取ったのか?
このままデミウルゴスの空間転移で見ず知らずの場所へと移動されてしまったら・・・
(マズい!マズい!マッズいぃいいいいいいいいいいい!)
2人っきりで何をされるか堪ったものじゃない!
俺の貞操が危険なのは嫌でも分かる!
デミウルゴスには悪いが俺も抵抗させてもらうぞ。
そう思って体に力を入れた瞬間、どこからか声が聞こえる。
「させるかぁあああああああああああああああ!」
バチィイイイイイイイイイ!
テレサの声が響きその方向へ顔を向けると、そのテレサの全身が放電し姿が掻き消えた。
例の雷を纏った身体強化の瞬間移動か?
直後にデミウルゴスの前にテレサの姿が現れた。
デミウルゴスとテレサの視線が交差した瞬間、テレサがスッとしゃがみ込み足をデミウルゴスへ伸ばす。
(上手い!)
最高のタイミングでテレサが足払いをしているから、これなら咄嗟に止まる事も出来ないし、テレサの足払いで転ぶのは確実だろう。
だけど、俺はどうなるのか?
デミウルゴスと一緒に派手に床を転がる運命なか?
(い、痛そう・・・)
「甘いわぁあああああああああああああああ!」
デミウルゴスが大声で叫ぶと、テレサの足払いの足を躱し一気に空中へとジャンプする。
(くそ!読まれていたか!)
ジャンプしデミウルゴスはニヤリと笑って眼下にいるテレサを見ている。
このままだとデミウルゴスが逃げ切ってしまう。
しかし!
そのテレサもニヤリと笑っていた。
(何だ?テレサの余裕は?)
「何でよぉおおおおおおおおお!」
余裕だったはずのデミウルゴスの叫び声が響く。
(耳元で勘弁してくれぇええええええええええええええ!)
俺はデミウルゴスの顔を見ると、彼女の顔は驚愕の表情に変わっている。
「どうしてよ?あの鬼っ娘の瞬間移動に匹敵する身体能力は分かるけど、何であんたまでが瞬間移動が出来るの?ダーリンとあのエルフ女以外に瞬間移動が出来るなんて知らないわよぉおおおおおお!」
(あ!そういう事ね。)
デミウルゴスの視線の先には優雅に微笑んでいるアンが立っていた。
俺と目が合うと更に嬉しそうに微笑んで左腕を顔の前に上げる。
「デミウルゴスさん、転移魔法が使えるのはラピスさんとレンヤさんだけじゃないのよ。」
アンの左腕の薬指の指輪がキラリと輝く。
「指輪を見せつけて何を言いたいのよ!」
デミウルゴスが叫んだ。
「これはね、レンヤさんの正式な妻となった証の指輪よ。ラピスさんがこの指輪に転移魔法の術式を組み込んでくれているの。だから、この指輪を持っている私達は全員が転移魔法を使えるって訳よ。テレサちゃんももちろん使えるけど、ショート転移なら今の疾風迅雷の方が発動も楽だし、そっちの方を使っているみたいだけどね。」
「そんなのズルいわ!」
「ズルも何も、先に私達を出し抜こうとしたのはあなたですよ。だったらね・・・、相応の対処をさせてもらいます!」
アンがデミウルゴスの着地予想地点で拳を握りグーパンチを放とうとしていた。
バサッ!
床へ着地しようとしていたデミウルゴスの背中から翼が生え、再び一気に上空へと飛び上がる。
「掴まってたまるか!ダーリンと一夜を過ごすのは私なのよ!誰にも渡さない!」
「仕方ありませんね。」
ブワッ!
アンも背中から黄金の翼を生やすと、薬指の指輪が輝き姿が掻き消える。
「どこへ行ったのよ!」
キョロキョロとデミウルゴスが辺りを見渡しているがアンの姿が見えない。
「ここですよ・・・」
すぐ後ろでアンの声が聞こえた。
ドカッ!
「ぐえっ!」
強烈な衝撃が俺とデミウルゴスを襲う。
デミウルゴスが変な叫び声を出しながら掴んでいた俺を手放し、俺は空中に投げ出された。
投げ出された俺はデミウルゴスを見ると、アンがデミウルゴスの背後に転移して蹴りを放っていたのが見えた。
蹴り飛ばされたデミウルゴスにアンが追い付き、後ろからがっしりと羽交い絞めにしている。
「デミウルゴスさん、少しお仕置きです。ちょっとキツいお仕置きですけど、頑張って死なないで下さいね。うふふ・・・」
(怖い!)
デミウルゴスの後ろにいるアンの笑顔が怖い!
アレは完全怒っているよ!
まぁ、デミウルゴスも少しはしゃぎ過ぎたようだしな。
(自業自得だよ。)
アンはデミウルゴスを羽交い絞めにした体勢のまま半回転し、デミウルゴスが頭から床へときりもみ回転しながら勢いよく落ちていく。
あれはソフィア必殺のスカイツイスターだ!
アンは直々にソフィアから教わっていたのだろう。
ガッチリと極っているし、もう外す事も逃げる事も不可能だ。
(ご愁傷様・・・)
心の中で冥福を祈った。




