288話 最終決戦!①
ズズズ・・・
横たわっていたダリウスの全身が真っ黒に変化していく。
テレサによって切り落とされていた手足の付け根から巨大な肉機が飛び出し、胴体までもが手足から出てきた漆黒の肉体に包まれていく。
みるみると肉塊が出来上がり、その姿は数十メートルを超える巨大な漆黒の肉体が床の上に転がっていた。
ボコォオオオオオ!
その肉体から歪な手足が生え、ゆっくりと立ち上がり始める。
嫌悪感を催すまでの醜悪な姿になったダリウスの全身が露わとなった。
「アレは何です?」
アンが額に汗を浮かべながら巨大化したダリウスを上空から見つめていた。
「あの魔力は半端ないわね。このまま暴走したらこのダンジョン自体が吹き飛ぶ程よ。そうなるとこの世界にどれだけの影響が出るか?最悪、この帝国が地図から無くなるかもね?」
ラピスが眼下にいる肥大化を続けるダリウスを見ながらギリっと奥歯を噛みしめる。
「集めた悪意が具現化した姿だろうな。それか、誰にも見せていなかったあの男の真の内面が表にハッキリと現れたのかもな。それにしてに醜いの一言だよ。」
エメラルダが鋭い視線をダリウスに向けていた。
「テレサちゃんがあそこまで追い込むとは予想外ね。どうやらあの鬼っ子の力も制御出来るようになったからかしら?体術では私が上だと思っていたけどうかうかしてられないわ。」
ソフィアがテレサにウインクをすると、そのテレサの顔が赤くなる。
(そういえば・・・)
テレサはソフィアが一番の憧れの人だったよな?(俺を除いて)
そんな人に認められたんだ、嬉しいに決まっているだろう。
「レンヤさん」
アンがゆっくりと俺の隣まで近づきジッとダリウスの姿を見つめている。
「これだけの量の魔力に瘴気は見た事も聞いた事もありません。これが神の力の解放と言うものですか?」
(いや、それは違うと思う。)
「アレは神界から供給されている魔力、そして魔界からの瘴気にこの世界から集めた悪意が、あの肉体に集中しているんだろうな。それにしても巨大な化け物だよ。」
グッとアーク・ライトを構える。
「下手に爆発させればこの迷宮どころか帝国も跡形も無く滅びそうな感じだな。」
チマチマと攻撃を続け時間をかけすぎてしまうとそんな事が起きるような気がする。
あれだけの質量の肉体を一撃で滅ぼすにはどうするか?
チリッ!
(ん?)
アーク・ライトの刀身から僅かに放電するのを感じた。
その瞬間!
(そうか・・・)
あの化け物を滅ぼす方法がいきなり頭の中に浮かび上がった。
いや!
これは俺の記憶ではない。
俺の心の奥底に遥か昔から刻まれていた過去の記憶・・・
その記憶が蘇った。
「あの時のアレは真の技ではなかったのか?アレ以上に強力なんて・・・」
ボソッと思わず呟いてしまう。
「レンヤ!」
ラピスが俺へと叫んだ。
「何か思い付いたようね。それも必勝の策をでしょう?」
そしてニコッと微笑んだ。
(敵わないな。)
ラピスはホント俺の心を見事に読むよ。
だったら俺も腹を括らないといけないな。
勇者として!
この世界を救う為に!
「ラピス!」
「何?」
俺の呼びかけにラピスがすぐに返事をしてくれる。
昔から変わらない阿吽の呼吸に思わず笑みが浮かんでしまう。
「兄さん・・・」
テレサがかなり赤い顔で俺を見ているけど、何で?
「兄さんの今の顔でのこの笑顔・・・、破壊力があり過ぎていくら私でも尊死してしまうわよ。」
(う~ん・・・)
テレサの言っている意味が分からない。
今の俺は蒼太さんと一緒になっているんだよな。
蒼太さんの意識は感じていないが、多分だけど俺が自由にしやすいように、敢えて俺の意識だけが表に出ているのかもしれない。
俺と俺とそっくりな蒼太さんだし、一緒になってもそう見た目は変わらないだろう。
背中の翼は更に大きく実体化しているくらいしか、今、俺が自覚している違いが分からない。
(だけどな・・・)
さっきから俺を見るみんなの目が違っているのは感じる。
(おいおい!お前達!一体?)
やっぱりキラキラしてるというか、憧れというものを感じるのだが・・・
「まぁまぁ、レンヤさん気にしないの。」
ソフィアがフワリと俺の隣に浮き腕を組んでくる。
「「「あぁあああああああああああああああああああ!」」」
みんなが素っ頓狂な声を上げたけど意味が分からん。
「今だけの限定レアキャラレンヤさんだしね。少しはスキンシップが多くても良いんじゃない?」
(限定レアキャラって?)
ガシッ!
「あ”あ”!ソフィアァァァ!」
ラピスがドスの効いた声を出しながら背後からソフィアの頭を鷲掴みにしていた。
「痛い!痛い!痛いよぉおおおおおおおおおおおお!」
ソフィアはそのまま俺から引き剥がされ、そのままラピスにポイっと空へ無造作に投げられて星となった。
(こいつら何を考えているんだ?)
微妙だけど俺の頭の中に大量の???マークが浮かんでしまったよ。
それ以上に頭が痛くなった。
『うふふ・・・』
この声は?
アルファが顕現し、今までソフィアのいた場所で俺の腕を組んでくる。
(アルファも変わらんな。)
まぁ、今のアルファは実体がない分、みんなからバレるのも気にしていないみたいだけどな。
(それにしても・・・)
本当に表情が豊かになったと思う。
ヴリトラとの戦いでアルファが最初に顕現したけど、あの時は無表情で人形みたいな感じだったのにな。
それが今では普通の女の子のようにコロコロと表情が変わるようになった。
そのアルファだけど、肥大化、いや巨大化したダリウスへ視線を移し、しばらくしてから俺を見つめる。
『マスター』
「どうした?」
『どうやらあの技を使うようですね。』
そうだけど、やっぱり何か問題でもあるのだろうか?
『今のダリウスは単純にその存在そのものを消し去るのはとても難しいです。あの姿は単に肥大化した姿ではないのです。』
「どういう事だ?」
『ダリウスの真の姿はあの宝玉で、今、私達に見えている姿は全て魔力と悪想念が混じり合った実体を持った意識なのです。最初の魔王の肉体はもう完全にあの意識に呑み込こまれ細胞の欠片も残っていないでしょう。それだけの強烈な意識の集合体を消し去ろうとさせるとなると、最大パワーで叩き潰すしかありませんが、今度はこのダンジョンが保ちそうにありません。』
それだけの存在とは・・・
単に倒すだけではいかないようだな。
「死ぬ時はタダでは死なんと言いたい感じかもな。」
『そうですね・・・』
アルファが少し呆れた表情でダリウスを見ている。
『私の計算での数値でしたが、あのダリウスの思念体のパワーはもしかして私の計算を超えるかもしれません。ですが、マスターの力押しだけでは完全な勝利を掴む事は出来ないとも思われます。』
「なら!答えは簡単だ!」
ブワッ!
少し離れていたラピスの全身から強大な魔力が湧き上がる。
「レンヤの言いたい事は分かったわ。削り役は任せて!」
グッと杖を握り先を天へと向ける。
「エメラルダ!あんたの魔力を借りるわ!私1人の魔力じゃ出来ない魔法だからね。」
「ラピスよ・・・、まさか・・・、アレを使うのか?」
エメラルダの言葉にラピスがコクンと静かに頷いた。
「分かったわ。あの魔法ね・・・、魔法使いであるなら夢にまで見る幻の魔法よ。私の協力で行使出来るのならいくらでも私の魔力を使いなさい!」
次の瞬間、エメラルダの右手に氷で出来た美しい剣が握られていた。
その剣を頭上に高々とかかげる。
「フリーズ・ブレイド!私の魔力をもっと持って行きなさい!」
エメラルダの全身から青白い魔力が湧き上がった。
その魔力がラピスへと移動し、ゆっくりとラピスの全身を包み込むようにしている。
「なかなかの魔力ね!これなら発動が出来そうよ!」
エメラルダの魔力に包まれるまで目を閉じていたラピスだったが、ゆっくりと瞼を開くと瞳が金色に輝いていた。
「さぁ!こっちも気合を入れないとねぇえええええええええええええええ!」
ブォン!
ダリウスの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
全身を余裕で包み込む程、その魔法陣の大きさが尋常ではなかった。
ズズズ・・・
その足元の魔法陣が更に輝くとダリウスを乗せたまま魔法陣が浮かび上がる。
浮かぶ魔法陣の下にも何十もの魔法陣が後を追い、魔法陣のタワーが出来上がる。
その魔法陣だけど、少しずつ大きさが大きくなり巨大なピラミッドのような魔法陣が出来上がった。
ピラミッドの頂点の魔法陣の上にダリウスが佇んでいた。
「何なのだ!この魔法陣はぁあああああああああ!俺を持ち上げて何をする気だぁあああああああああああああああああああああ!」
ダリウスが絶叫しているが、まだまだ変化は続いている。
「こんなので終わりじゃないわ!」
ラピスが杖を大きく上に掲げた。
ズズズ・・・
今度は遥か上空からせり上がってきた魔法陣と同じようなものがダリウスへと落ちてくる。
まるでダリウスが上下から巨大なピラミッドに挟まれているかのようだ。
「まだまだよぉおおおおおおお!」
ラピスが再び叫ぶ。
ブゥン!
何十もの大きな魔法陣が、今度は巨大なピラミッドに上下を挟まれているダリウスの周囲に展開し、グルグルと回り始める。
その周囲の魔法陣1つ1つと、各々のピラミッド頭頂部の魔法陣が虹色に輝き始める。
「まさかぁああああああああああ!これは伝説のぉおおおおおおおおおおおお!神界でも伝説となっている魔法を!原住民が何で使えるんだよぉおおおおおおおおおおおお!」
ダリウスが叫ぶとラピスがニヤリと笑う。
「そんな事を言われても使えるのは使えるのよぉおおおおおおおお!」
上空に抱えていた杖を胸の高さで水平に構える。
「それじゃぁああああああああああ!伝説の魔法陣の威力!あんたの身で味わいなさい!」
放電を始めていた魔法陣が更に激しく輝いた。
「天空積層魔法陣!」
カッ!
「コスモス!エンドォオオオオオオオ!」
ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!
「げひゃァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
魔法陣から激しく火花が飛び散り、あまりの眩しさに目を開けられなくなってしまった。
しばらくして光が収まり始めやっと目が開けられるようになる。
ゆっくりと目を開け回りの光景を確認すると。
(良かった・・・)
あれだけの巨大な放電と爆発の攻撃だったけど、ダリウス以外にはダメージが無かったようだ。
スゥゥゥ・・・
役目が終わった魔法陣は光の粒子となって空気と一体化し消えていく。
そこに残っていたのは全身から煙を上げボロボロに焼けこげ、さっきよりも大きさがかなり小さくなったダリウスが浮いていた。
(これがラピスの本気の中の本気の魔法・・・)
ズズ~~~ン!
空中に浮かんでいた満身創痍のダリウスがゆっくりと床へと落ちてくる。
「今度は私の番ね!」
ソフィアが床へと降り立ち、一気にダリウスへと近づいた。




