285話 破壊神
『破壊神』って・・・
これはちょっとどころじゃなく、相当にヤバい称号じゃないか?
何でそんな称号が?
もしかして、俺が本当の邪神だったのか?
頭の中が少し混乱している。
「ダーリン!」
(ん?)
デミウルゴスが俺を呼んでいる。
そう思った瞬間!
「どわぁああああああ!」
いきなりデミウルゴスが俺に抱きついてきた。
とても嬉しそうに俺を見ているよ。
何で?と思って事情を知っているだろうフローリア様へ視線を向けると、ちょっと気まずそうな顔だった。
「ふふふ・・・、あの時と変わらないわね。」
嬉しそうな表情のデミウルゴスだったが、次第に目に涙が溜まりポロポロと泣き始めた。
(何でだよ!俺、悪い事をしたか?)
「お願い・・・、もう少しだけこのまま・・・」
そう言ってデミウルゴスが俺の胸に顔を埋めている。
(何だ?)
急に背中が寒くなった。
「デミウルゴスさん、気持ちは分かるけど、今のレンヤさんの戦いは世界中に配信されているのよ。もちろん、今のあなた達の様子もリアルタイムにね。」
「「はぁ?」」
思わず変な声が出てしまうが、同時にデミウルゴスからも出ていた。
そのデミウルゴスの顔がみるみると真っ赤になる。
「わ、わ、わ、、忘れてたわぁああああああ!」
マッハどころか瞬間移動のようにデミウルゴスが俺から離れた。
真っ赤どころか全身が赤くなっているデミウルゴスとは対照的に、とてもにこやかにフローリア様が微笑んだ。
何て良い笑顔なんだろう。
「ふふふ・・・、レンヤさんはどうやら世界中からの女性の嫉妬を感じていたようね。デミウルゴスさんもいい加減にしないと、その嫉妬心がダリウスに更なる力を与えるかもよ。」
あの背筋に通った悪寒はそれで?
改めてデミウルゴスを見たけど、顔は今まででの中で最高に赤い。
しかし、その恥ずかしそうな顔だけど、視線だけは今にも怒鳴り散らしそうな程にフローリア様を睨んでいた。
「フローリア!あんた!外の状況を分かって黙っていたのね?全世界に私のぉぉぉぉぉ~~~~~」
ヘナヘナと力なく座り込んでしまった。
「こんな恥ずかしい姿を見られるなんて、もうお嫁に行けないよぉぉぉぉぉ~~~~~」
「デミウルゴスさんは本当にそそっかしいですね。その点は昔から全く変わっていないので安心しましたよ。」
そして、フローリア様が俺へとウインクをする。
「どこにもお嫁にいけないなら、レンヤさんに貰ってもらいなさいよ。そして、それが一番の希望なんでしょう?」
「「へっ!」」
(フローリア様?)
この場で何を言っているのだ?
俺もデミウルゴスも思わず変な声が出てしまう。
しかしだ!
そのフローリア様が深々と俺に頭を下げた。
「レンヤさん、デミウルゴスさんは私がまだ天使だった頃の女神になる前からの親友の1人なんです。だからね、彼女をお願いします。」
(う~ん・・・)
フローリア様からそこまで言われて断るなんて事は無理だろうな。
しかも、サラッと言っていたけど、フローリア様とデミウルゴスが親友?
思わず見比べてしまったけど、清楚系と色気ムンムン系と正反対の見た目だぞ!
言動も似ていないよ。
まぁ、お互いに正反対な感じだから気が合ったのかもな?
それにだ、デミウルゴスは俺の事をダーリンと呼んでずっとアプローチをしてきたし、多分だが、今の俺の姿に関係あるのだろうな。
そんなデミウルゴスが俺と一緒になりたい?
(大丈夫なのか?)
う~ん・・・
でもな、さっきの様子から見てもテレサ達とはいつの間にか仲良しになっていたし、俺達と一緒にいても問題は無さそうだ。
ただねぇ~~~
新たなキャットファイトの火種が出来た確信だけは持てるけどな。
特にラピスとソフィア辺りが怪しい。
(はぁ~~~~~、頭が痛い。)
そう思いつつ無言でコクリとフローリア様へと頷いた。
俺の無言の頷きにフローリア様が嬉しそうにデミウルゴスへとサムズアップしているよ。
こうして見ると、2人は友達なのに間違いはないと分かった。
さすがにこの世界の人々に見られているって分かったからか、デミウルゴスは俺に抱きつく真似はしなかったが、嬉しそうにフローリア様と一緒にルナさんのところへと戻ろうとしている。
クルッとフローリア様が俺へと振り返った。
「レンヤさん、破壊神の称号は決して悪い称号ではありません。」
(え!)
何で俺の称号を?
「それはもちろん私は女神ですからね。称号は私が認めた人に授けているのですよ。」
(そうだった!)
「破壊という言葉は悪い意味に囚われがちですが、あなたの『破壊神』の称号はそうではありません。この称号は神殺しの能力の一つです。ですけど、再生は全てが良い結果を生むものではないのも確かなんですよ。」
そしてボロボロになってクレーターの底で下半身が埋まって気を失っているダリウスをチラッと見た。
「あの無限ともいえる再生能力に対抗出来る力があなたの破壊の力です。当時の私ではそこまでの破壊の力を持っていませんでした。父に頼めば可能でしたが、多忙な父にお任せする訳にいきません。自分の不始末は自分でと思っていましたが・・・」
深々と俺に頭を下げられたが、どうして?
「あの後、ダリウスは自分が作り出したダンジョンへと逃げ込み、この世界の影から魔族を使い世界を混乱へと陥れました。さすがに私が直接乗り込み手を下してしまうと、あまりの力の反発でこの世界を下手すれば滅ぼす事になりかねない状況でした。あのダリウスがいつまでも引きこもる事はないと思っていましたが、相当の年月が経ちやっとチャンスが訪れました。でも、それまでの間に世界の人々にどれだけの迷惑をおかけしたか・・・、謝っても許される事ではありません。」
こうしてフローリア様が謝っているけど、悪いのはフローリア様ではない!
(真にこの世界にとっての悪は・・・)
「フローリア様、これ以上の謝罪は必要ありません。」
「し、しかし・・・」
そんなフローリア様に俺は微笑む。
「あぁ・・・、レンヤさんダメですよ。私にこんな笑顔を向けてしまうと・・・」
ズズズ・・・
いかん!
何だか分からないが、フローリア様からとってもヤバい気配を感じる!
体が無意識に後ずさりを始める。
「「こらぁああああああああああ!」」
ズドーン!
「げふぅうううううううううううううううう!」
フローリア様がうつ伏せ状態で頭から床にめり込んだままピクピクと震えていた。
どうやら後ろから思いっきり殴られたようだ。
(誰が?)
「本当にすぐに欲情するんだから、この駄女神は・・・」
「ダーリンに手を出すなら全力で叩き潰す!」
(あらら・・・)
クローディアさんとデミウルゴスがフローリア様の後ろで腕を組み仁王立ちになっている。
「これがこの世界で崇められている女神なんてね。この光景を見たら信者が激減するわよ。」
クローディアさんが呆れた表情で顔面が床に埋まっているフローリア様へと呟く。
しかし、ムクッと何も無いように自然にフローリア様が起き上がってきた。
その様が何でかゾンビを連想してしまい、ちょっと怖かったのは内緒だけどな。
「クローディア、それは大丈夫。ちゃんと後で今の一連の出来事の記憶を消しますからね。ふふふ・・・、私は女神ですから、不都合な出来事の隠蔽は完璧ですよ。」
ニタリとフローリア様が悪い笑みを浮かべたよ!
フローリア様って女神なんだよね?
そうだよね?
でもね、とっても女神らしくないセリフをサラッと言っていたのを聞いたけど気のせいじゃないよね?
どうしてだろう・・・
一瞬だけど邪神の気配を感じたが、それも気のせい?
さっきから女神らしくないフローリア様を見ているけど、これが素のフローリア様の姿なのか?
女神様という事で俺は自然と崇高なお方だと思い込んでいた?
「レンヤさん・・・」
(う!)
フローリア様が俺を見てニコッと微笑んでいる!
「余計な詮索は身を滅ぼしますよ。知らない方が幸せって言葉もありますからね。うふふ・・・」
(やっぱり!)
というか!俺の心を見透かされている!
女神の肩書を持っているお方だけど、抱えている闇はかなり深いのでは?
正直、俺の周りにいる女性陣よりも遥かに質が悪い気がする。
彼女の旦那となっている蒼太さんには少し同情してしまった。
(余計な事は考えないでおこう・・・)
「そうそう!さっきの話の続きです!」
話が変な方向に逸れてしまったので、強引にでも話を元に戻す。
この世界での真の悪は間違いなくダリウスだ。
「フローリア様は何も悪くありません。世界を滅ぼさないようにしてくれていましたし、それこそ、あのダリウスを滅ぼすのは俺の役目でもあります。」
カッ!
アーク・ライトが俺の前に浮いている。
そうだ!
俺は【勇者】!
この世界を守る為に!
フローリア様の代行者として!
【破壊神】だろうが何だろうが俺のすることは1つ!
目に前に浮いているアーク・ライトを右手で握った。
『マスター!』
アルファの声が俺の頭の中に響く。
『マスターから感じる力がとても凄まじいいです。でも、それ以上に温かい力を感じます。これがマスターの真の力なんですね。私もやる気になりますよ!』
次の瞬間、アーク・ライトの赤い宝石が今までの中で一番輝いた。
「デスペラードが!」
「ミーティアが!」
アンとテレサの声が驚いた声が響いた。
2人へ視線を移すと、2人の聖剣もアーク・ライトと同じように宝玉が激しく輝いている。
『みんな殺る気になっていますよ!気合が入りましたぁあああああ!』
(おい・・・)
気のせいか?
アルファの言葉が物騒に聞こえた気がするのだが?
まぁ、みんながやる気になっているなら変に口出ししなくても良いな。
ズイっとクレーターの縁へ移動すると、気を失っていたダリウスが目を覚ました。
そして俺と目が合う。
「き!き!貴様はぁあああああああああああああああああああああ!」
目を見開き絶叫しながら立ち上がった。
「何で貴様が生きているぅううううううううううううううう!確かに死んだはずだぁああああああああああああああああああ!ラグナロクで死んだ者は天使だろうが神だろうが生き返るはずがぁああああああああああああああああああああああああ!」
ワナワナと震えていたが、いきなり飛び上がり俺へと飛びかかる。
「貴様が!貴様がいるかからぁあああああああああ!いつまでもフローリアが俺を見てくれないんだよぉおおおおおおおおおおおお!貴様さえいなければ!」
「うるせぇええええええええええええええええ!」
ダリウスの絶叫がとても不快だ。
そのダリウスだが、巨人と同程度の巨躯が俺へと高速で迫る。
まるで巨大な岩石が俺を押し潰すような錯覚を感じるくらいに圧倒的な質量で迫って来た。
しかし!
我を失って俺へと掴みかかろうとしたダリウスの顔面を、アーク・ライトを握っていない左手で殴る。
「げひゃぁああああああああああああああああああ!」
見事なカウンターが決まり、ダリウスが高く上空へと打ち上がった。
「こんなもんじゃ済まないんだよ!今まで貴様に苦しめられてきたこの世界の人々の怒りを!」
更に大きくなった背中の翼を広げ一気に飛び上がる。
(う!)
信じられないスピードで上昇し、あっという間に上昇を続けるダリウスへと追いついたが、すぐに追い越してしまう。
(俺にここまで力が!)
慌てて急停止したけど、肝心のダリウスは俺の視界の遥か下にいた。
「だったらぁあああああああああああ!」
そのまま急降下し、再び左ストレートをダリウスの顔面へと叩き込んだ!
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
派手な爆発音と土煙を上げ、ダリウスが床へとめり込んだ。
ラピスに打ち込まれた魔法の時よりも更に大きく深いクレーターが出来上がっている。
「レンヤ・・・、圧倒的じゃないの・・・」
いつの間にか俺の隣に浮いているラピスの言葉に俺は無言で頷いた。
自分でも信じられない力だ。
俺の中にまだこれだけの力が眠っていたなんて・・・
(いや・・・)
これが俺の本当の力なんだろう。
俺と蒼太さんに分かれてしまった力が再び1つに・・・
ダリウスの無限再生に対抗出来る圧倒的な破壊の力!
それこそ、俺が本気になれば世界すら滅ぼす事も可能だろう。
神すら凌駕する、これが【破壊神】の力!
ラピスがプルプルと細かく震えながら俺を見ていたが、表情を引き締めダリウスへと向けた。
「みんな!正真正銘最後の戦い!レンヤに続くのよ!そして!ダリウスの因縁を終わらせる!」
「「「はい!」」」
全員が翼を広げ一斉に飛び上がった。




