283話 新生魔王軍四天王
「お前達!」
ラピスにソフィア、エメラルダが俺達の隣に並びダリウスと対峙していた。
(ん?)
ちょっと待った!
エメラルダが何か変な事を言っていなかったか?
「なぁ、エメラルダ・・・」
恐る恐る俺が声をかけたが、そのエメラルダはニッコリと微笑み嬉しそうにしている。
どうやら俺が何を聞きたかったのか分かっているようだ。
エメラルダからアンへ視線を移すと、アンは眉を八の字にしながらエメラルダを見ている。
こんな仕草のアンは珍しいけど可愛いな。
「エメラルダ・・・、こんな時に聞くのは不謹慎だとは思うけど、『新生魔王軍四天王』って何?私、な~~~~~~~んにも聞いていないんだけど・・・」
(あらら・・・)
アンもこの話は初めて聞くのか少し機嫌が悪い。
お前達、俺とアンに隠れて一体何をしていたんだ?
グルっとエメラルダ以外の彼女達を見ていると、みんなニマニマとしている。
(俺とアンだけが知らなかったのか?)
「レンヤ・・・」
今度はラピスが俺を見つめてきたよ。
「この帝国はアンが魔王となって治める事は分かっているわよね?」
「あぁ・・・」
そういえばそうだよな。
アンが『優しい魔王』となってこの帝国を魔王、いや!ダリウスから解放し、真に平等で争いの無い国を作ろうと俺達が誓った話だ。
それと新生魔王軍との関係は?
「アンがこの国の代表になるなら決まっているじゃないの。魔王がいるなら『四天王』はお約束なんだしね。歴代の魔王は側近を四天王と称して置いていたのよ。」
(確かに・・・)
いやいや!
そこは納得するものじゃないだろう!
確かにアンが魔王として君臨し、この国のトップになるのには間違いはない!
そして、エメラルダなら元四天王だったから、アンの側近としても違和感もないし適任だと思う。
だけどな!
お前達!
ラピスよ、それで良いのか?
「私は問題ないわ。」
グッと親指を立て嬉しそうな表情のラピスだった。
(だからぁあああ!俺の心を読むな!)
「エメラルダから今後の事で相談を受けたのよ。アンをトップとして私達の立ち位置をこれからどうしようか?ってね。」
そのラピスの言葉にエメラルダがペロッと舌を出して可愛く微笑む。
エメラルダはやっぱりアンの親友だと思った。
基本的にとても頼りになるお姉さんって感じだけど、仕草が時々アンに似ているんだよな。
本当にエメラルダって500歳を過ぎて・・・
いかん!
女性に年齢の話は厳禁だ!
俺が確実にすり潰される未来しか見えない・・・
「おほん!」
ラピスが咳ばらいをする。
「レンヤ・・・、これ以上考えたら本当にすり潰すからね・・・」
絶対零度の殺気がラピスとエメラルダから発せられる。
「話を元に戻すぞ。」
「お、おぅ・・・」
「新生魔王軍四天王はアンに内緒で私達が考えたのだ。魔王には四天王なる部下は必須!そこは譲れない!」
(はいはい・・・)
「そこで私達4人がアン直属の部下として結成したのだよ。私は前の肩書『シヴァ』はアニーに譲ったから、今の四天王での肩書は『雪の女王エメラルダ』と名乗る事にした。」
(おい!エメラルダの称号そのまんまじゃないかい!)
「私は『魔導女王ラピス』ね。」
キラリン!と背景に星が煌めくような演出が起きそうな雰囲気でラピスがウインクをする。
「私は『閃光姫テレサ』よ。」
テレサがミーティアを下段に構えポーズを取っている。
確かにテレサの剣技はスピードを生かした戦い方だよな。
得意にしている無塵斬はまさに『閃光姫』に相応しい剣技だと思う。
「私は『殲滅姫またの名を撲殺姫ソフィア』ね。」
ソフィアが腰を低くし拳をグッと構えた。
そのまんまの二つ名かい!
四天王の中では一番物騒な名前だよな。
そんな名前が付いていれば誰もソフィアとは戦いたいとは思わないだろうし、戦ったら最後!名前の通り撲殺される未来しか見えない。
(だけどな・・・)
お前達、自分で名乗っていて恥ずかしいとは思わないのか?
しかもかなりノリノリの様子だしな。
まさか、彼女達にこんな一面があったとは全く想像もしなかった。
(ん?何だ?)
視界の隅にデミウルゴスが自分で自分を指差しラピスにアピールしている姿が目に入った。
そのデミウルゴスの隣でこめかみに手を当て『付き合いきれない』といった態度のヴリトラがいた。
「私は?」
デミウルゴスが嬉しそうにしているが、お前までラピス達の毒に侵されてしまったのか?
しかし、そんな楽しそうなデミウルゴスに対しエメラルダの視線は冷たかった。
「四天王枠は空いていないし、お前は単なる戦闘員枠だろうが!それ以前に、外の連中に認めてもらうのが先だ!」
エメラルダの人選から外されてしまった上に、厳しい指摘でデミウルゴスが少し寂しそうだった。
「お前らぁああああああああ!俺を無視して何を楽しそうにしているんだぁあああああああああああ!」
ダリウスが激高しどす黒いオーラを立ち上らせ仁王立ちしていた。
あれだけ目の前で茶番を見せられたのだ。
怒りが最高地点に達していても不思議ではない。
茶番をしていたラピス達が再び俺達の横に並び各々がいつでも飛び出せるように構えている。
今までのお茶らけた雰囲気は全く無く、完全に戦いに集中していた。
しかしだ!
ラピス達は俺達と違いダリウスのフィールド対策が出来ていない。
そんな彼女達を前線に立たせる訳にいかない。
俺の気持ちが分かっていないのか、ラピスがおもむろに前に出てきた。
(どうしてここまで余裕なんだ?)
「任せて!」
ラピスがVサインを作りパチンとウインクをする。
「冗談はこのくらいで終わりにして、本気で相手をしてあげるわ!」
「ふざけるな!」
ダリウスがラピスへ叫ぶ。
「さっきまで俺に対して何も出来なかったくせに!何をほざくぅううううううううう!」
「あら?本気でそう思っているの?」
ラピスがグッと杖を掲げた。
ポゥ!
周囲に緑色の魔法陣がいくつも浮かぶ。
「サイクロン!ガンナー!」
ズドドドドドドドドドドドドドドォオオオオオオオ!
「げひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」
ラピスの周囲に浮かんでいた大量の魔法陣から空気の弾丸が弾幕となってダリウスへと降り注ぐ。
あまりの威力にダリウスの全身が穴だらけになり悲鳴を上げ続けていた。
ガクっとダリウスが膝を付き全身から黒い煙を出しながら肉体の修復が始まっている。
(どういう事だ?)
ラピスの魔法も俺達と同じようにダリウスにダメージを与えられている。
さっきまであれだけ苦戦していたのに?
(まさか?)
ちらりとフローリア様を見ると・・・
パチンとウインクをしてくれた。
俺達がこうして劣勢だったのを挽回出来るようになった切っ掛けはフローリア様が現れてからだ。
ラピスにも聖剣のようなフィールドを無効にする細工をしてくれたのだろうか?
「今度は私よぉおおおおおおお!」
ソフィアが一気にダリウスへと距離を詰めた。
ダリウスはまだラピスからの受けたダメージから回復していない。
いくら巨人のように大きくなったダリウスだけど、今の膝を付いた状態はソフィアなら顔面だろうが楽に攻撃が届くだろう。
俺の予想通りソフィアの視線はダリウスの顔面を狙っている。
だが!
(ソフィア!それは悪手だぞ!)
狙いがバレバレだし、いくらソフィアの技量でもダリウス相手ではテレフォンパンチになってしまうぞ!
俺の嫌な予感が当たった!
ソフィアがグッとダリウスの顔面へ拳を叩き込もうと懐に入り込もうとした瞬間、ダリウスがニヤリと笑う!
「バカめぇえええええええええ!貴様の攻撃は読んでいるわぁあああああ!俺を舐めるなぁあああああ!」
ダリウスが巨大な右手を振り上げてソフィアを真上から叩き潰そうとしている。
「舐めているのはどっちよ!」
ソフィアがニヤリと口角を上げた。
「ダイヤモンドダストォオオオオオオオ!」
ピキィイイイイイイ!
エメラルダの声が響き、ダリウスの右腕が肩から凍りついてしまっていた。
いきなり肩から腕が凍りついてしまい動きが完全に止まっている。
「こうも簡単に引っかかるなんてね!」
ドガッ!
「げひゃあああああああああああああ!」
ダリウスの硬直した隙を狙い、ソフィアが一気にジャンプし膝を顎に叩き付け、ダリウスの上半身が思いっ切りのけ反った。
「く!くそがぁあああああああ!」
ヨロヨロとダリウスが立ち上がり凍りついていない左腕を足下にいるソフィアへ振り下ろそうとしたが!
グラッとダリウスがよろけた。
「フリーズ!ランサー!」
エメラルダの周囲に大量の氷の槍が浮かび、一気にダリウスへ飛んで上半身に喰い込んだ。
「ば!バカな!俺の体はどうなっている!」
「そりゃあ!そうでしょう!」
ソフィアが残身の姿勢でニヤリと笑う。
「あなたは確かに不死身だし生半可な攻撃も効かないわ!でもね、魔王の肉体を乗っ取ってしまったから生物としての弱点も受け継いだのよ!」
「何だと?」
「こうして人間の体になったから脳が存在するわ。いくら頑丈で不死身だろうが!脳を揺さぶられてしまえば一瞬でも体の自由が効かなくなるのよ。どうやら、不死身の肉体に甘えてそんな事すらも分からなかったようね。」
ソフィアが一気に左拳を後ろに引いた。
左拳に黄金の渦が巻き付いている。
「人間を舐めるなぁあああああ!喰らえ!ファントム!クラッシャァアアアアアア!」
ゴシャァアアアアアア!
「ぶへりゃぁあああああああああああああ!」
ソフィアが打ち出した黄金の螺旋に全身を呑み込まれ、ズタボロの状態で床を何度も激しくバウンドし、ゴロゴロと転がっていく。
「アブソリュート!ゼロォオオオオオオオ!」
ピキィイイイイイイ!
エメラルダの声が響き、次の瞬間、ダリウスの全身が凍りつき床へと張り付いてしまっていた。
氷漬けとなったダリウスの上空にラピスが大きな翼を広げ浮いていた。
右手に持っていた杖をスッと眼下のダリウスへと向ける。
「グラビトン!」
杖の先端から漆黒の稲妻を纏った黒い巨大な玉が下にいるダリウスへと落ちていく。
ガガガガガァアアアアアア!
「あがががぁああああああああああああああああ!」
その巨大な球体がダリウスを容赦なく押しつぶした。
漆黒の球体が消えると、そこには大きなクレーターが出来上がって、底にダリウスが体の半分が埋まった状態でピクピクと痙攣していた。
「いやぁ~、彼女達も容赦無いな。フローリアからフィールド無効の加護をもらってからは見違えるようだよ。」
蒼太さんが嬉しそうにボロボロになったダリウスを見ている。
(やっぱり!)
蒼太さんはラピス達の変化は何だったのか分かっていたんだな。
フローリア様の加護という形であのフィールドを無効にし、ラピス達もダリウスに確実にダメージを与えられるようになった訳だ。
「レンヤ君!」
蒼太さんが俺をジッと見つめた。
「このままじゃ彼女達だけで本当にダリウスを滅ぼしてしまう事になってしまう。それじゃダメなんだ。」
(どういう事だ?)
「この世界の真の平和、それは勇者と魔王が手を組み、この世界を滅ぼそうとする真の悪を2人で倒す。そんなシナリオが必要なんだよ。遥か昔から続く勇者と魔王との戦いも真の悪によって引き起こされた事も、世界の人々に知ってもらわないといけない。まぁ、一つ一つ説明するなんて無理だから、レンヤ君と魔王である彼女が一緒にダリウスを倒すところをな、世界中の人達に見てもらいたいんだ。」
その言葉にドッと汗が流れてくる。
(世界中の人達に見てもらう?どういう事?)
「ふふふ・・・、何で?って顔だな。心配するな、その舞台はフローリアが既に整えている。今、世界中に君達の活躍が大空に映し出されているんだよ。俺達が現れた時からな。」
「マジっすか?」
「マジだ。」
俺の言葉に蒼太さんがウンウンと頷いた。
「もう既に舞台は整っているんだ。君も覚悟を決めてもらわないとな。彼女はやる気だけどな。」
その言葉に俺はアンへと視線を移す。
「レンヤさん・・・」
そしてアンがキッとダリウスへ視線を移した。
「この世界の勇者と魔王の戦いは既に終わりました。魔王ガルシアの死によって・・・、しかし、ダリウスという真の悪を滅ぼさない限り、いつの日にか再び勇者と魔王の戦いは始まってしまうでしょう。レンヤさんと私が結ばれても未来永劫ずっと平和だと限りません。ダリウスが存在している限り!だから!私達がこの因縁を撃ち滅ぼすのです!」
「そうだな・・・、アンが望む争いの無い平和な世界にする為にもな。」
「どうやら覚悟は決まったようだな。」
蒼太さんがニコッと俺に微笑んでくれた。
「俺からのプレゼントだ。ダリウスすら可哀想に思える程の究極の力をな。」
スッと右手を差し出した。
(???)
蒼太さんがどうして俺に握手を求めている?
「フローリア!」
デミウルゴスが叫びフローリア様のところへ慌てて飛んで行った。
「心配するな。君は君、俺は俺だ。今から行うのはあくまでも一時的なだけだし、主導権は君が行うようになっている。俺はあくまでも君の真の力の解放の鍵になるだけだよ。終われば元に戻るからな。」
(いやいや!心配しかありません!)
だけど・・・
蒼太さんを見ていると、どうしてなのか初めて会った気がしない。
さっきも思ったけど、遥か昔、そう俺が俺である前、ずっと昔から知っている気がする。
そう思った瞬間、体が自然に動き蒼太さんと握手をした。
カッ!
お互いの手が輝き始めた。
光が体を包み始める。
「そうか・・・、俺は・・・」




