278話 フローリア様参戦!・・・だけど?
フォーゼリア城
「こ!こ!国王様ぁあああああああああああ!」
宰相が大慌てで国王の執務室へと駆け込んできた。
「何じゃ、宰相よ・・・、年甲斐なく走って来よって。腰が抜けても知らんぞ。」
国王は宰相のとんでもない行動に眉をひそめて見ている。
宰相のこのような行動は通常なら不敬と捉えられ、いくら宰相といえども即座に取り押さえられるだろう。
しかし、宰相の後ろには国王の最強の護衛ともいえる騎士団長のカインも同伴して控えていた。
「何があった?お前達がこうして来る事は只ならぬ事なのか?」
国王がじジロリと2人を見ると、揃ってゆっくりと頷く。
「父上、私達でも信じられない事が起きているのです。ともかく窓から外を見て下さい。」
カインからの言葉にやれやれとした雰囲気で椅子から降りようとする。
部屋にいた秘書達が窓を開けようとすると、「ひっ!」と短い悲鳴を上げて硬直している。
「おい!どうした!」
国王はブルブルと震えている秘書に近づき、横から自分で閉まっていた窓を開け外を見る。
「なっ!」
短く言葉を発し隣の秘書と同じように硬直してしてましった。
「何で婿殿達が空に・・・、しかも、あれだけの大きさに見えるとは信じられん・・・」
唖然とした表情でしばらく空を眺めていた国王だったが、ボソッと呟いた。
「そうか・・・」
すぐさま宰相へと振り向く。
「宰相よ、空の光景はあの時のようだな。」
国王の言葉に宰相が深く頷いた。
「えぇ、間違いありません。半年前に起きたこの国の災厄を勇者様達が救っていただいた時のように思えます。あの時は女神フローリア様が我が城の中に遠見の板を出現され、遥か遠くの景色を見せていただきました。今の空の光景もそのようなものだと思われます。」
国王がジッと空を見上げる。
「これはあの時の比ではないな・・・、多分だが、この光景は世界中の人々が見ているだろう。これは間違いなく伝説になるだろうな。」
宰相へ視線を戻し話してから窓へ再び戻り視線を下に移すと、城にいる人々がぞろぞろと外に出て空を見上げている様子が見える。
「今日はもう仕事にならんな・・・、それも世界規模でな・・・、さすがは婿殿だ。」
クルッと身を翻し部屋の外に出て行こうとする。
「皆の者、伝説の戦いをこの目で見届けようではないか。早速バルコニーに移動だ。宰相よ!宮廷画家全員も集めろ!この戦い!必ず絵に残し後世に伝えるのだ!」
その言葉に宰相と秘書達が慌てて部屋から出て行く。
そしてもう一度窓へ近づき空を見上げた。
「婿殿、いや勇者様・・・、必ずや勝利を・・・」
聖教国
「ねぇねぇ、ユウ、空に父さん達が映っているわよ。」
ユアがユウの服を引っ張り指を上へ向ける。
彼女の隣にいるアズはニヤニヤと笑いながら空を見ていた。
「父さん、何をやっているんだよ。ここまで目立つ事をするなんて、こんなの有名になり過ぎて、俺は恥ずかしくて外に出れないぞ。」
ユウが手を額に当てて思いっ切りため息をしていた。
「仕方がないですよ。」
ドット司祭がニコニコしながらユウ達へと近づく。
「司祭様、どういう事です?」
司祭はゆっくりと顔を上げ空を見つめた。
「勇者様達はこの世界に降り立った神々の代行者なのですよ。神に、そして女神様に愛されし者達・・・、我々の常識では計り知れない存在なのです。私は確信しているのですよ。勇者様達は必ず神へとなられる。それだけ神々し存在の方々だとね。」
「そうですね・・・」
ユウ達3人は司祭の言葉にゆっくりと頷いた。
「僕達も父さん達の規格外の力で生まれたし、今更驚いても変かもな?」
ユウがユアとアズに少し困った感じで話すと、2人はユウとは違いニコニコしている。
「それこそ今更よ。ユウは変に真面目だから余計な事を考え過ぎなの。」
「確かにね、もっと私達みたいに気楽にしなさいよ。」
「お前達なぁ~~~、俺はそこまで気楽になれないよ。」
2人の言葉にユウが少し引きつっていた。
「ふふふ・・・、仲の良いご兄弟ですね。」
3人の姿を司祭は微笑ましそうに見ていた。
「父さん、無事に帰ってきてくれよ。」
ギュッと拳を握りユウは空をずっと見上げていた。
シュメリア王国
「こ!これはどういう事だ!」
テオドールが大慌てでバルコニーへと移動した。
目を見開き顔には大量の汗が流れている。
「こんな色の空は見た事が無い・・・、まるで女神教の聖書にある世界の終末の前兆なのか?」
「テオ・・・」
テオドールの後ろにジョセフィーヌが立っている。
そしてテオドールが見ている反対の方向を指差した。
「あれを・・・、この光景は本当に信じられません。」
「う!嘘だろぉおおおおお!勇者様達がなぜ空に?しかも、あんなに大きく?」
テオドールは信じられない光景を目の当たりにし、目を見開き空を凝視していた。
「父上、心配しないで下さい。」
2人の後ろから声が響く。
「その声はブランシュか?」
慌てて2人が後ろを振り向くとブランシュが微笑みながら立っている。
その横にはマーガレットも一緒にいた。
「まぁ!マーガレットも一緒に?どうしてなの?」
ジョセフィーヌが嬉しそうにマーガレットを見ている。
「お父さんにお母さん、心配しなくても大丈夫よ。女神様から連絡を受けたの。それで急いで転移のペンダントでこちらに来たの。その連絡というのは、レンヤお兄ちゃん達が最後の戦いを始めるって事なの。」
「女神様から?」
「そう!」
マーガレットが頷くと、隣のブランシュも一緒に頷く。
スッとブランシュが一歩前に出てくる。
「母様、私達はあの時から女神様のお言葉を聞けるようになったみたいです。マーガレット姉様のいるザガンの街にいらっしゃる聖女様に鑑定してもらいましたところ、私とマーガレット姉様は女神様と大天使様の加護をいただいていたと・・・」
「女神様からの啓示ですか・・・」
ジョセフィーヌが空を見上げる。
「あれは!」
テオドールが空を指差した。
「勇者様達の上にいるお方は?まさか?」
「お父さん、そう、あの人がフローリア様なの。私は会った事があるからそのお姿はしっかりと覚えているの。」
マーガレットがうっとりした表情で空を仰ぎ見る。
「女神様がこの世界に・・・」
テオドールがポロポロと涙を流す。
「あなた・・・」
心配そうにジョセフィーヌがテオドールを抱きしめた。
「この目でこの世界の創造神たるフローリア様を見る事が出来るとは・・・、神よ・・・、この瞬間に立ち会えたことを感謝します。」
その言葉にジョセフィーヌも涙を流し空を見上げる。
「そうね・・・、こうして伝説に立ち会えるなんて幸せ以外になにものもないわ。みんな・・・」
そう言ってみんなを見渡すと、両手を胸の前で組んだ。
「勇者様達の勝利を私達も祈りましょう。女神様は私達の祈りの力が源だと教会からお聞きしているのですよ。さぁ、みんなも!」
テオドールもマーガレット達も手を組み祈りを捧げた。
「レンヤお兄ちゃん・・・、負けないで・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あら?その言葉、そっくりそのままお返しますわ。もちろん、あの時の分も上乗せしてですね。うふふ・・・」
どこからか場違いな明るい声が聞こえた。
(いや!この声は間違い無い!)
俺が声に気付くと、激高していたダリウスがニチャ~と嫌らしく口角を上げた。
「この声はぁああああああああああああ!封印されていた時も一時も忘れた事は無かったこの声はぁああああああああああああああああああ!」
「フローリア!とうとう私の元に・・・」
「何を寝ぼけた事を言っているのかしら?」
辺りが氷点下のように空気が冷えた気がする。
この雰囲気、なぜか身に覚えがあるのだが、何でだろう?
カッ!
次の瞬間、空の一点がとても眩しく輝く。
(これは!)
輝きが収まると2人の人影が空に浮かんでいた。
2人のうち1人は見覚えがある。
その人はまさしく・・・
「おぉおおおおおおおおおおお!フローリアァアアアアアア!」
ダリウスが絶叫した。
「五月蠅いわねぇ~~~」
フローリア様の隣にいるもう1人の女性が眉をひそめてダリウスを見ていた。
(ん?)
見た感じはエメラルダに似ている。
その姿はダークエルフのようだけど、エメラルダ以上にとても妖艶な雰囲気を纏っていた。
しかもだ!彼女から発せられる魔力は俺達以上の力を感じる。
「まぁまぁルナさん、そこは落ち着いてね。」
フローリア様が隣の女性をなだめているけど、その人は何者なんだろう?
「ルナだと?」
歓喜に震えていたダリウスがピクンと震えてフローリア様の隣の女性を睨む。
「この姿に邪神が纏う邪気、あなたはまさしく伝説の冥界の神でもある邪神王様の娘では?ふはははぁあああああああ!」
いきなり笑い出したしダリウスはどうなっている?
しかもだ!何かヤバい単語が聞こえたぞ!
邪気?
邪神王?
どういてこんなヤバい存在がフローリア様と一緒にいるんだ?
「確かに邪神王は妾の父であり、妾自身も最近までフレイヤに封じられていて、今の神界の状況はあまり知らん。だがな、妾はもはや邪神王ではなく1人の男を愛する普通の女になったのだよ。ただな、その男はフローリアの旦那だって事で、今はこいつと一緒にいるし、冥界の神はついでの仕事だけどな。」
そして鋭い視線をダリウスへと注いでいる。
(いやいや!ここまで怖い視線は初めてだよ!)
「貴様がフローリアが言っていた邪神だな?ふっ・・・、紛い物が何を・・・、フローリア、お主はこんなザコに手間取っていたのか?」
彼女の視線がフローリア様へ向いたが、フローリア様はバツの悪そうな顔をしているよ。
「まぁまぁ、当時は私も女神になったばかりでしたから、まだまだ未熟だったのですよ。今の私なら・・・」
「フローリアよ!」
おいおい・・・、人が話している最中に茶々をいれたら失礼だろうが。
まぁ、そんな事を考えないからこうして人の迷惑を考えずに行動出来るのだろうな。
「今度こそ!私はフローリア、貴様を手に入れる!この世界を滅ぼそうとすれば必ず貴様が現れると信じていたからな!私の思惑通り、貴様が現れた!もうあの時の私ではない!私が貴様よりも遥かに上だと知らしめ、服従させるのだぁあああああああああああ!」
ピクピクとルナとフローリア様から呼ばれた女性が震えている。
「フローリアよ、この失礼な男を消し炭に変えてもいいか?ここまで不快な男は・・・」
「邪神王の娘よ!」
お~い!また人の話を遮って・・・
ホント、この男は何も考えないのか?
恋は盲目とも言うけど、これは盲目でなく単なるバカかもしれん?
「私は神界!魔界の力を得て最強になったのだよ!後は冥界の力を取り込むのみ!ふふふ、その力、私の力の糧にしてやる!」
「コロス・・・」
まるでこの一帯を吹き飛ばすような殺気がルナさんから溢れ出す。
(ヤバい!)
これだけの殺気はこのダンジョンすら砕け散るかもしれん!
ダリウスさんや!あんた!彼女との力の差すら分からないのか?無謀にも程があるよ!
更に強烈な殺気がルナさんから溢れ出してくる。
周りを見ると、アン達もガクガクと震えて今にも気絶しそうだ。
(フローリア様やぁぁぁ・・・)
あんた達!一体ここに何をしに来たのだ?
殺気をバラまいて俺達ごとダンジョンを消滅させる気なのか?
ふと隣に気配を感じたので首を横に向けると、真っ青な顔のアルファが立っていた。
『ルナさんが怒ると手が付けられません。ルナさん自身が冥界の女王でもあり、新たな邪神王だったのです。フローリア様の母君でもあるフレイヤ様ですら我が身を人柱にしてやっと封印した存在なんですよ。その力がここで暴走でもしてしまったら・・・』
ギュッとアルファが俺の腕を組んだ。
『マスター・・・、死ぬ時は一緒です。』
(おい!こんな不吉な事を言わんでくれぇええええええええええ!)




