277話 再び始まる水面下の戦い
アヤが両手に握っていた斧を軽く振ると、その姿が掻き消えた。
「これでこの場は収まりましたね。」
ニコッとマナ達へと微笑んだ。
「アヤさん・・・」
マナがウルウルした瞳でアヤを見つめていた。
「本当に助かりました。私達ではもう手の打ちようが無くて諦めていたのに・・・」
しかし、ハッとした表情でマナがアヤをジッと見た。
「今、気が付いたのですが、神界の方々は世界には直接干渉出来ないはずでは?今回の直接干渉は以前の美冬様のようなサポートとは違いますけど?」
「それはね。」
夏子がズイっと前に出てくる。
「今回は魔界が絡んできたからよ。このままではこの世界は魔界に呑み込まれるところだったわ。」
「私達の世界はそんなに危険な状態で・・・」
マナに続きシャルロット達も青い顔をしている。
「そうよ・・・」
今度は千秋が夏子の横に並んだ。
「その調査で美冬達を派遣していていたのよ。」
「もしかして?以前に美冬様がこの世界に滞在されていた時ですか?」
シャルロットの言葉に2人が頷いた。
「そうですよ。」
アヤがパチンとウインクをする。
その可愛らしい仕草にシャルロット達の頬が少し赤くなった。
「うわぁ~~~、可愛いってものじゃないわ・・・、その可愛さを見習ってパパに・・・、うへへ・・・」
ちょっと別の世界へトリップしているフランであった。
そんなフランを無視してアヤが話を続ける。
「フローリア様がこの世界に違和感を感じたから美冬さんとヒスイちゃんを残したの。そして、例の国での戦いで魔界の干渉を確認出来たのね。さすがにこうなってしまっては神界も傍観者に徹する訳にいかないわ。邪神ダリウスの手引きで魔界とのゲートが出来てしまって、この世界と行き来が出来るようなってしまったから、そのゲートを潰しに私達が来た訳よ。そして、神界の最大の禁忌に手を出したダリウスの討伐も目的の1つでもあるけどね。まさか、フラれた腹いせにここまで滅茶苦茶にやってくれるとは誰も想像出来なかったわ。粘着質の男が裏返るとここまで拗らせてしまうなんてねぇ・・・」
「みなさんがここにいらっしゃるという事は・・・」
シャルロットがグルっとアヤ達を見渡した。
「そうよ。」
夏子がコクンと頷いた。
「やはりダリウスはあの城の中に?」
バサッ!
シャルロットが背中の翼を大きく広げる。
「だったらすぐに行かないと!城の中にいるレンヤさんに何かあったら!」
「落ち着きなさい!」
千秋の鋭い声が響く。
「し!しかし!」
「だから落ち着きなさいって言っているの。もうあの城の中には普通に入れなくなっているしね。私達の実力でもダメなのよ。」
千秋が目を細めて帝国城を見ている。
「入れないとは?」
「文字通りよ。もうあの城は普通じゃなくなったのよ。内部は異空間のダンジョンと化してしまったから、1階から入って地道に各階層をクリアしていかないと、最上階にいるダリウスと戦う事も出来ないのよ。しかもよ、負の感情を大量に何千年も取り込んだ今のダリウスの実力は私達と同レベルか、それ以上の可能性もあるわ。」
「そ、そんな・・・」
がっくりとシャルロト達が肩を落とし落胆の表情で城を見ている。
「それでも私達が落ち着いているのはどうしてなのか分かります?」
アヤがみんなの前にで微笑む。
「ま!まさか・・・」
シャルロットの言葉にアヤがゆっくりと頷いた。
「そうですよ。私達以上に頼りになる存在、神界最強の方々がレンヤさんのお手伝いに駆けつけられました。ダリウスが可哀想に思える程の方々がね。」
パリィイイイイイイイイッン!
いきなり何かが割れる音が響いた。
その音は遥か上空から聞こえ、その音が聞こえた方向へ全員が仰ぎ見た。
「そ、そんな事って・・・、、レンヤさんが空の中にいる・・・、いえ、どこか別の場所にいる光景を見させられているの?」
「まさか、こんな光景が見らるとは・・・、あの荒涼とした世界はまるで世界の終りの姿でも見せられれているようだ。」
「レンヤ君、負けないで・・・」
「パパ・・・」
空が大きく割れ別の風景が空の中に見える。
その光景は薄いオレンジ色の空と、どこまでも広がる荒廃した石畳が続く景色だった。
その中にレンヤ達が立っている。
まるで空が巨大なスクリーンになったようにその姿が大きく鮮明に映っていた。
「もしかして・・・、レンヤさん達の上にいる人は、いえ!あの神々しいお姿は!まさか女神様では?」
シャルロットの瞳からポロポロと涙が溢れる。
「言ったでしょう?」
アヤが可愛くウインクした。
「神界最強が7柱の1柱であられるフローリア様が助っ人なんですよ。他にも神界の最強戦力の方々もいらっしゃいますし、安心してここから見ていましょうね。」
「「「「はい!」」」」
4人が元気よく頷いた。
「それにしてねぇ~~~」
夏子が少し呆れた表情で空に映っているレンヤ達を見ている。
「ダリウスが作ったダンジョン空間へ強引に入り込むなんてねぇぇぇ・・・、あんな芸当が出来るのはフローリア様とその身内だけよ。しかも、結界を力づくで破ったせいで、この世界に歪が出来ちゃったじゃないのよ。まぁ、こうしてダンジョンの中を見られるようになったのは喜ばしい事かな?」
「夏子、それは違うかもしれん。」
夏子がフムフムと腕を組んで1人頷いていたが、千秋が少し神妙な表情で空に映っている光景を見ている。
「千秋、それってどういう事?」
「だってよ、あそこに行ったのはあのメンバーなのよ。アヤの言葉じゃないけど、いくら力を蓄え昔とは別人のように進化したダリウスでも瞬殺がオチね。神界、冥界のトップ2人が揃うなんて前代未聞の事なんだし・・・、わざわざ手間をかけてまでこんな事をしたってのは?」
「確かに・・・」
夏子が腕を組んで深いため息をする。
しかし、急にポン!と手を叩いた。
「でもね!わざわざあんな演出をしたってのは、何か考えがあってじゃないかな?どう頑張ってもダリウスが勝てずフローリア様の圧倒的な力の差を見せて、更にフローリア様の女神としての信仰を上げさせる手かもしれないわね。その方がこの世界にとってもプラスになるしね。」
千秋がニヤリと笑う。
「あり得るわ・・・、そして最後はこの世界の勇者に華を持たせて感動のフィナーレにね。漫画好きの蒼太さんならそんなシナリオも有りね。どんなストーリーか見せてもらうわ。」
2人がニヤニヤしながら空を見上げていた。
「むむむ・・・」
シャルロットが眉間にしわを寄せて難しい顔をしている。
「シャル、どうしたの?」
その様子にマナが不思議そうにしている。
マナの問いにシャルロットが顎に手を当てて考え込んでいた。
「何でしょうね?レンヤさんに新しい女性の気配を感じるのは気のせいですかね?あの端っこに見える女の人は覚えています?確かフォーゼリア城に現れた3人の魔神の一人で、シュメリア王国ではラピス姉様と激戦をしたデミウルゴスという女魔人でないでしょうか?あの時よりも破廉恥な服を着ていますが、なぜかアン姉様達と一緒にいるのですよ。レンヤさんの隣にいるヴリトラさんのように仲間になったとしか思えません!しかもです、あそこで感じる女性の気配はデミウルゴス彼女1人ではないかも?そんな気がします。」
シャルロットの言葉にティアマットも腕を組み頷く。
「うむ・・・、我もそう感じるぞ。本当にご主人様はちょっと目を離しているとすぐに新しいメンバーが増えているからなぁ~、そんなご主人様に惚れてしまった我も強く言えんしな・・・、ふふふ・・・」
「ティア~~~、そんなに余裕があって大丈夫なの?」
マナがニヤニヤしながらティアマットを見ていた。
「あそこに映っているデミウルゴスさんだけど、彼女はどう見ても私達と同じ『お姉さん枠』で間違い無いわね。そうなるとよ・・・」
ピンと人差し指を立てた。
「レンヤ君のお姉さん枠が1つ増える事になるわよ。ただでさえローズマリーさんやソフィアさん、エメラルダさんなどと一番の激戦区なんだし、ライバルが増えるのもねぇ・・・、」
「確かにな・・・」
しかし、ティアマットがニヤリと笑う。
「ライバル、それは結構な事だ!我の一人勝ちでは面白くないからな。だがな、この枠で我は負ける気は無い!」
「何言っているのよ・・・」
ジト~~~とした目でマナがティアマットを見ていた。
「お姉さん枠の1番は譲れないわよ。最近はアン繋がりでエメラルダさんもレンヤ君とかな~~~りいい雰囲気になっているし、この事も含めてアプローチの方法を考え直さないと思っていたところよ。ティア、私も負ける気は無いからね。」
マナとティアマットがバチバチと火花を散らした。
「怖~~~~~」
その光景をフランがブルっと震えながら見ていた。
しかし、すぐにほっと溜息をして微笑んだ。
「ふふふ・・・、娘枠は私だけみたいね。同じパパの娘枠でもユアとアズは私みたいな感情じゃなくて、親子の気持ちだけしかないから安心ね。どうもあの子達には他に気になっている人がいるみたいだと、ナビからこっそりと教えてもらったから、パパの争奪戦には参加はしないのは確実。ふふふ、一人勝ちは何て気分が良いのかしら。」
「こら!」
ニヤニヤと笑っていたフランの頭にシャルロットが拳骨を落とす。
「ママァァァ、痛いよ・・・、何で叩くの?」
「フラン、あなたが油断しているから活を入れたのよ。娘枠って・・・、その枠の意味を分かっているの?その枠だといつまでもレンヤさんからは娘=子供扱いだって事よ。体が大人になってもレンヤさんはいつまでも可愛い子供だとずっと思っているでしょうね。」
「え?」
絶望的な表情でフランがシャルロットを見ている。
「ヒスイちゃんだってあの歳でヴリトラさんお奥さんになろうとして、私達の手伝いを頑張っているのよ。それをあなたは、単にレンヤさんに甘えることばかりしかしていないから・・・、言っとくけど、この枠にはあのマーガレットちゃんもいるのよ。彼女はいつもレンヤさんに甘えているように見えるけど、とっても勉強を頑張っているし、『将来はレンヤお兄ちゃんの右腕になる!』って私達に宣言していたのを忘れたの?」
「あわわわ・・・」
口に手を当ててオドオドとする挙動不審なフランだった。
「確かに戦いに関してはあなたは抜群のセンスを持っているのに間違いないわ。でもね、この世界の争いを無くす為にレンヤさんやアン姉様達は戦っているのよ。この戦いが終わった後、争いが無くなった時代、あなたはどうするの?娘だからっていつまでも甘えは効かないの。分かった?」
「うん・・・」
シャルロットの言葉にショックを受けたのか元気を無くし俯いている。
そんなフランの頭にシャルロットが手を置き優しく撫でていた。
「ママ・・・」
上目遣いにフランがシャルロットを見ると、彼女はニッコリとフランに微笑む。
「分かれば良いのよ。あなたは私の知識を持って生まれてきたし、その知識で少し自信過剰なところもあるからね。知識は持っているだけじゃダメ、ちゃんとその知識を活かせるように頑張らないとね。」
ギュッとシャルロットがフランを抱きしめた。
「焦ったらダメよ。娘、妹枠はあのアイさん達3姉妹も狙っているのよ。3姉妹の考えている事はよく分かっているしね。フランが思ってる以上にこの枠は激戦区なの。私だって可愛いフランが1番になって欲しいと思っているわ。2人で頑張ろうね。」
「うん、ママ・・・、私・・・、頑張る・・・」
シャルロット達の姿をマナ達が遠くから見ている。
「何だろうね、シャルちゃんはもう母親の貫禄が出ているわ。」
「確かに・・・、あれは我にも真似が出来ん・・・」
マナとティマットが2人が抱き合っている姿を見て頷いている。
「ちょっとマズいわね・・・」
ボソッとマナが呟いた。
「あのままじゃレンヤさんとシャルちゃんファミリーの家族オーラで、私達が出る幕が無くなってしまうかも?」
「我もそれを感じる。マナよ・・・、もしかしてだが、この中で一番なのはシャルではないか?『母は強し』という言葉は間違っていないかもしれん。だからといって、我は負ける気は無いがな。我も直に母親となって最強の力を手に入れているからな。ふふふ・・・」
ティアマットがニヤリと笑う。
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。レンヤさんの次の子供は私の番よ。」
マナも不敵に笑う。
「それなら勝負だな。どっちが先にご主人様の子供を授かるか?」
「私が絶対に先よ。」
またもや2人の視線の火花が飛び散った。
「また始まったわね・・・、あんな大人になりたくないわ・・・」
2人の姿を見てフランが「はぁ~」と溜息をしていた。




