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276話 神々の力

「アヤさん!どうしてここに?」


マナが信じられない表情で目の前に浮かんでいる少女に叫んだ。


その少女は艶のある真っ黒な髪を背中まで真っ直ぐ伸ばし、金色に輝く瞳はとても慈悲深い女神のようにマナ達を見つめていた。

しかし、その少女の頭には少し垂れた犬のような耳が付いている。そしてフサフサな黒い尻尾も生えていた。

彼女は普通の少女でなく獣人だと分かるが、それでもその可愛さはシャルロット達をも凌駕していた。

彼女は冷華や雪に似た機械的な真っ白な甲冑を纏い、背中にある大きな翼を広げ浮いている。

その甲冑もシャルロットの女神の鎧のように白く輝き、赤い色のラインが女性的な姿の鎧を更に際立たせていた。

肩には少女に似合わない程に巨大な黄金に輝く諸刃のグレートアックスを担いでいた。


「マナ姉様、あのお方は?」


シャルロットが槍を構え警戒しながらマナへと近づいた。


「シャル、警戒しなくても大丈夫。あのお方は私達の味方よ。しかも、とっても心強いからね。」


マナがシャルロットへウインクする。


「マナさん、お久しぶりです。あなたの6号機の訓練以来ですね。」


マナから『アヤ』と呼ばれた少女がニコッと微笑みペコリと頭を下げた。


「私はロイヤルガードのアヤです。フローリア様よりみなさんの助太刀に参りました。まぁ、ここに来たのは私だけではありませんけどね。」



ゴバァアアアアアアアアアアア!



突然、アヤに漆黒の炎の玉が襲いかかった。


「グランド!シールド!」


アヤが肩に担いでた斧を目の前に掲げ叫んだ瞬間!



「「「そ!そんな!」」」



一瞬にして斧がアヤの全身よりも遥かに大きくなる。

あまりにも信じられない光景にマナ以外の彼女達が叫んだ。



ドォオオオオオオオオオオオッン!



漆黒の炎の玉が巨大化した黄金の斧にぶち当たった。

黄金の盾が当たった炎に包まれてしまう。


「ぐひゃひゃひゃはぁああああああああああああああ!」


下品な笑い声が響く。

その笑い声は先程縦に真っ二つにされたはずのベルゼブブだった。

いつの間にか体は元に戻っており、右手をアヤへと向けている。

どうやら魔法をアヤに向けて放ったようだ。


「そんなちんけなもので私の魔法は防げまい!私の放つ魔界の炎は相手を燃やし尽くすまで消えん!じきに貴様の体に炎が移り燃え尽きるのだ!」


「そのような炎ですか?魔界の炎は面倒ですね。でも・・・」



フォン!



「はぁ?」



アヤは興味が無さそうに軽く斧を横に振るった。

異常なまでに大きな斧を片手で構えている事自体があり得ない状況だったが、その斧をまるで重さを感じないかのように軽く振る仕草に、ベルゼブブが間抜けな声を出し信じられない表情でアヤを見つめている。


軽く振るっただけで炎があっさりと消えてしまう。


「ば!馬鹿な!」


「へぇ~、これが燃やし尽くすまで消えない炎ですか?」


アヤがニコッと微笑みキラッと輝く斧をベルゼブブへと向ける。

炎に焼かれていたはずだったが、全く斧の輝きは変わっていなく、神々しい輝きを放っていた。


「これが魔界公爵の力ですか?魔界ならともかく、神界ではそこそこの力にしかならないですよ。どうやらあなた達は単にダリウスの実験材料として呼び出されたのですかね?まぁ、この程度の力ならそんな感じかもしれませんね。」


ギリギリとベルゼブブが歯を食いしばりながらアヤを睨んでいた。


「この私を・・・、魔界でも最上位にいる私を雑魚呼ばわりだと?」


「屈辱に思うのでしたら遠慮せずに私にその力を見せて下さい。私も遠慮しません。」


再び巨大な斧を肩に担いだ。

そして、空いている左手をベルゼブブに向け人差し指を立てクイクイと手招きをしている。


「ふざけやがってぇぇぇ・・・」


あまりの怒りからなのか、オールバックにしていた髪の毛が逆立ち目が血走る。


「許さん!許さん!許さぁあああああああああああああああっん!たかが獣人のくせに悪魔族の頂点の1人に何たる不敬な態度!この私の力を!」



フォン!



またもや風切り音が聞こえる。


「はぁ?」


先ほどは縦に切り裂かれたベルゼブブが、今度は胴体を真っ二つに横に両断されていた。



ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!



そして、ベルゼブブの遥か後方に浮かんでいるデーモン達も粉々になって落ちていく。


「そ、そんなの・・・」


胴体が真っ二つにされているのにベルゼブブは生きていた。


ただし、かなり動揺しているのか、先ほどまでの余裕が無い感じで上半身だけが浮いていた。


「これはあり得ん!この世界に私に敵う者など存在しないはずなんだ!」



ズリュ!



喪失した下半身が服と一緒に上半身から生え一気に再生する。


「いやはや、ゴキブリ並みの生命力ですね。あ!そういえば、あなたは蠅の帝王でしたっけ?まぁ、ゴキブリも蠅も同じ虫ですし、私の言っている事もあながち間違っていませんね。」


口に手を当てアヤがクスクスと笑っている。



「・・・してやる・・・、殺して・・・、やるぅううううううううううう!」



ブルブルと震えて俯いていたベルゼブブがいきなり叫んだ。


「この私を!公爵級の私をバカにしやがってぇえええええええええええ!もう魂などどうでも良い!すぐに貴様を八つ裂きにしてやる!」



「無理ですよ。あなたは私の足元にも及びませんしね。」


「何だと!」


「そうでしょう?あなたはいまだにどうやって私に切られたのか?それすらも分かっていないみたいですし、そんなあなたは何をしても私には勝てません。」


「ふ!ふ!ふざけるなぁあああああああああああ!私は魔界公爵だぞ!私にひれ伏すのが当たり前だろうが!」


「はぁ~」とアヤが深いため息をする。


「まだ力の差が分かっていないようですね。それなら・・・」


肩に担いでいた斧を両手で水平に構える。


「もっと分かりやすく見えるように攻撃してあげますね。それで避けたり防御出来れば多少は認めてあげます。」




「インフィニティ!行くわよ!」




ブォン!



「え”!」



「私達は夢でも見ているの?」


ベルゼブブが間抜けな声を出し、シャルロット達は信じられない表情でアヤを見つめていた。



アヤの甲冑の背中に付いている翼が赤い光を放つと、手に持っていた斧が一気に巨大化した。

そもまま高速でベルゼブブへ接近する。

ただし、斧の刃の大きさは目の前にある帝国城よりも大きく、その刃はベルゼブブを始め後ろにいるデーモン達もことごとく両断する。



「こんなの、で、出鱈目だ・・・」



またもや胴体を両断されたベルゼブブが上半身だけで浮いている。



「どうです?神器インフィニティは?神器の中でも最大級の攻撃力を誇りますし、見ての通り大きさも自由自在です。そして長さも含めてこの神器に届かない距離はありませんし、いついかなる時もこうして真っ二つにして差し上げますよ。」



「し、信じられん・・・」



「だけどこれが現実です。」



「そんなのが認められるかぁああああああああああああああああ!」


ベルゼブブが絶叫する。


「俺は魔界公爵だぞ!魔界で俺に並ぶ者はいないんだ!それをぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」




ブン!




ベルゼブブの後方にまたもや大量の魔法陣が浮かぶ。


「もう許さん!この世界の人間を家畜として生かせるつもりだったが!もうそんなのはどうでもいい!根絶やしにしてやる!人間は全て皆殺しだぁあああああああああああ!」


先程の魔法陣よりも遥かに多い数の魔法陣が空に浮かぶ。

まさしく空一面を覆い尽くすほどに大量の魔法陣が所狭しと浮いていた。


「どうだぁああああああ!いくら貴様が手練れだろうがこれだけのデーモン達を相手には出来まい!しかもなぁあああああ!さっきのデーモン達とは質が違う!レッサーデーモンでも最低でも子爵クラスだ!伯爵クラスもいるぞ!さっきのような男爵クラスのザコとは違うんだよ!しかもだ!グレーターデーモンは私に近い侯爵クラスだぞ!」


大量の魔法陣からデーモン達が姿を現す。

ベルゼブブの言ったように空を覆い尽くすほどのデーモンの群れだ。

これだけの大量のデーモン達に一斉に襲いかかられたらと思うと、イナゴの大発生のように後には何も残らない虐殺が起きるのではないか?

そう想像したシャルロット達がゴクリと喉を鳴らす。



「何を勝った気になっているの?」

「雑魚は雑魚らしく分を弁えないとな。」



またもや女性の声が空中に響いた。

しかも、今度は2人の声が聞こえる。



「誰だ!」



ベルゼブブが叫んだ。


「別に名乗るほどでも無いわ。」

「すぐに死ぬ貴様に名乗っても無駄。冥土の土産にすら勿体からな。」


全員が声の聞こえた方へと視線を移した。

アヤの頭上に彼女達が佇んでいる。


1人はラピスより少し薄い青色のウエーブがかかった腰まである髪をなびかせている。

背中には鮮やかな青い翼が生えていて、上半身と腰の部分、そしてガントレットとグリーブは黄金に輝く金属の甲冑で覆われている。

甲冑以外の部分は白色に青いラインの入った布地やスカートで覆われていた。

もう一人は黒色の艶のあるショートカットの女性で、背中も髪と同じく漆黒の翼が生えていた。

隣の黄金の鎧姿の彼女とは対照的に黒一色のパンツスタイルのスーツ姿で浮いている。



「夏子様に千秋様!」



2人と面識があるのかマナが再び叫ぶと、彼女達はニッコリと微笑んだ。


「マナ、もっと強くならないとね。」


青い髪の女性がマナへと語りかける。


「はい・・・、私はまだまだ未熟でした・・・、夏子様のお言葉心に常に刻んでおきます。」


悔しそうな表情でマナが俯く。


「マナ、あなたもアヤやマリーみたいに一気に私達の境地になれるかもしれないんだから、常に頑張る事ね。潜在能力は私達が保証しているのだから、焦ってもダメよ。」


「はい!千秋様!ありがとうございます!」


黒髪の女性に褒められ満更でもないマナだった。



「貴様等ぁあああああああああああ!私を無視して何をのんびりと話をしている!」



ベルゼブブが血走った目で2人を睨むと、2人は更に冷たく鋭い視線でベルゼブブを睨んだ。


「五月蠅いわね。」


マナから夏子と呼ばれた女性が呟く。


「お前達!この軍勢を見て何を余裕をかましている!たった2人助っ人に入ったくらいで覆るような戦力差ではないだろうが!それとも、力の差を分からない程に貴様立は間抜けなのか?」


激高していたベルゼブブだったが、空を覆い尽くすほどのデーモン達の戦力で満足したのか、最後にはニヤリと笑った。


「その言葉、そのまま返すわ。やっぱりクズな男はどこまでもクズだし、根拠のない自信を持っているものね。」


千秋と呼ばれた女性が絶対零度の視線でベルゼブブを睨んだ。



「夏子さんと千秋さんが現れた時点でチェックメイトになっている事も気付かないのですね。」



アヤがクスクスと笑った。


「何を言っている!この大軍が目に入っていないのか?徹底的に蹂躙してやる!」


ベルゼブブが両手を広げアヤへと叫ぶ。


「だから、もう終わっているわよ。」


夏子が心底つまらない表情で呟いた。




ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!




「はぁああああああああ?」


再びベルゼブブの間抜けな声が響く。


「う、嘘だ・・・、こんな事って・・・」


空を埋め尽くしていたデーモン達がことごとく細切れになり消滅していく。

あの大軍はどこに?と思えるほどに青い空がどこまで広がっていた。


「私達ロイヤルガードの力を甘く見ないでね。」


いつの間にか夏子が黄金に輝く剣を握りベルゼブブへ向けている。


「我々ロイヤルガードは全員が一騎当千の猛者の集まりよ。伊達にフローリア様直属の親衛隊と呼ばれていないからね。」


千秋は両手に漆黒の刀身の剣を持って構えている。


「そんなの・・・、いつの間に・・・」


「決まっているでしょう。夏子さん達が現れた瞬間に全てのデーモン達を切り裂いただけ。あなた達の感覚では斬撃があまりにも速すぎて切られた事に気付くのが遅かったみたいですね。ロイヤルガードたるもの、これくらいの事は当然ですよ。」


アヤがニコニコしながらベルゼブブを見つめていた。


「化け物がぁぁぁ・・・」


ギリギリとベルゼブブが歯軋りをしながらアヤを睨みつけた。


「私達のようなか弱い女性を化け物と呼ぶのは失礼ですね。そんな礼儀知らずにはお仕置きが必要かもしれません。」


「ふざけるな!貴様らのどこがか弱いだと!化け物の中の化け物めがぁあああああああああああ!だが!私は不死身!どんなに切られようとも、私を殺す事は不可能なんだよ!不死身の私に敵う存在はいないんだよぉおおおおおおおおおおお!」


「そうですか・・・」


ベルゼブブの言葉にアヤがゆっくりと黄金の斧を下げた。

大きさは少し大きいくらいのサイズになっている。


「では・・・、ダブルトマホーク!」


斧が輝き2つに分かれ両手で握った。


「あなたが本当に不死身なのか確かめてみますね。」



「無駄!無駄!無駄だぁあああああああああああ!」



シュン!



アヤの斧が見えなくなった瞬間、ベルゼブブが粉となって崩れていく。


「あなたのどこが不死身なんでしょう?たった十数億の斬撃で原型を保てなくなるって・・・、旦那様の本家無塵斬に比べれば私の斬撃はまだまだ子供騙しなんですけどね。」


粉となったベルゼブブから小さな物体が飛び立ちアヤから急いで離れようとしていた。



斬!



夏子が剣を軽く振るうと、かなりの距離があったのにも関わらず、その物体が真っ二つになって消滅してしまった。


「夏子、あれが奴の本体だったのね。」


千秋がその光景を見て「ふぅ」とため息を吐く。


「蠅の王と言われるだけあって、本当に蠅が本体だったなんてね。まぁ、魔界公爵だろうが私達の敵ではなかったわ。相手が悪かったと思ってね。ご愁傷様・・・」


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