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272話 邪神ダリウス

(くそぉぉぉ・・・)


まさか!ダリウスがこんなに早く復活するとは予想していなかった。

宝玉は例の神殿のダンジョンから持ち出されたと聞いてはいたが、その宝玉自体がダリウスそのものだとは考えもしていなかった。

てっきり、ダリウスの本体はダンジョンに封印されていて、あの宝玉はダリウスの力を与える触媒みたいなものだと考えていた。

ヴリトラも自身が封印されたのはダリウスが封印される前だったし、自分と同じように肉体そのものが封印されていたものだと思っていたと言っていた。


(あの宝玉自体がダリウスそのものだったとは・・・)


ダリウスの焦点が定まっていなかった視線が急に俺達に向いた。



ス・・・



「「「!!!」」」


ダリウスの姿が掻き消えた!



「どういう事だ?」



どうしてだ?

俺達の目の前でダリウスの声が聞こえる。


「私が作った種族からなぜフローリアの気配を感じる?」


一瞬でダリウスが俺達の前に現れた。

その視線がアンを見ている。


(マズい!)


ゾクッと背中に悪寒が走った。



キィイイイイイイイイイッン!



体が無意識に反応した。

多分、俺のスキルである『自動防御』が反応したのだろう。


「何?」


アンが目の前の光景を信じられない顔で見ている。


ダリウスの腕がアンへと伸びていて、その腕を俺のアーク・ライトがアンの目の前でダリウスの腕を止めていた。

俺と同じ事を感じ取ったのか、テレサもミーティアをダリウスの腕へと突き出している。

アーク・ライトとミーティアの刀身が交差し、アンへと伸びていた腕を阻んだ形だ。


「腐ってもフローリアの作り出した種族か・・・、精々・・・」


しかし、奴は自分の腕のすぐ前にある俺のアーク・ライトとテレサのミーティアを見て眉をひそめる。


「なぜ?神器の試作品がこの世界にあるのだ?」



『試作品って失礼ね。』



(!!!)


いきなりアルファが俺の横に立ち不機嫌そうにダリウスを見ている。


『ベーターもそう思うわよね?』


(はぁあああ!)


アルファが急に現れたのは驚いたけど、それ以上にビックリした事があった。


『そう、たかが邪神ごときが私達を下に見るって万死に値するわ。』


アルファそっくりの美少女がテレサの横に立っていた。

彼女は以前に見たあの美少女に間違いないだろう。

髪はミーティアと同じ輝くような銀髪に、瞳は埋め込まれている宝玉と同じくスカイブルーの透き通るような瞳だ。

そんな彼女は俺の視線に気が付いたみたいで、ペコリと軽く会釈をする。


「あんた喋れたの?」


テレサがワナワナと震えて銀髪の美少女を見ていた。


『そうですよ。こうしてお話しするのは初めてですね。主、私の事はベーターとお呼び下さい。でも、今まで通りミーティアと呼ばれても結構ですよ。』


自分の事をベーターと自己紹介した少女はテレサへパチンとウインクをする。



「お前達、私の前にいつまでも立ち塞がりブツブツと言っているとは、神の前で無礼だろう。」



いくら神だろうがアルファ達の姿は見えないようだ。

だが、ダリウスからの威圧が更に強くなる。


「脆弱なる人間よ、跪け。」



グッ!



(何ぃいいいいいいい!)


とんでもない圧力がダリウスから放たれたのを感じた瞬間、体がグッと床に押さえつけられるようになってしまう。

このままではダリウスの言葉通りに床に膝を付け跪く事に!


『マスター!今!呪縛を解きます!』


アルファの声だ。


その声が聞こえた瞬間、体がフワッと軽くなり、ダリウスからの圧力が消える。


(これは?)


『良かったです。マスターの脳内の回路に直接思念を送られたので、その思念をシャットアウトしたら何とかなりました。ですが・・・、あまり抵抗するとマスターの脳にダメージが・・・』


(心配するな。基本的にアレは精神支配の一種だからな。もう同じ事は通用しない。俺の精神耐性が奴の攻撃を理解したからな。)



「ほほぉぉぉ~~~」



ダリウスが俺を見てニヤリと笑う。


「人間にしてはなかなかの存在だな。だが・・・」


キラッとダリウスの目の奥が光った。


「アン!逃げるんだ!」



「きゃぁああああああ!」



アンの悲鳴が響いた。



「ダリウス!貴様ぁあああああああああああああああああああ!」


一瞬にしてアンの目の前に移動し、アンの首を左手で握り持ち上げている光景が目に入った。


アンが懸命にもがいているが、ダリウスの力がかなりのものかビクともしない。


「こんな小娘がなぜフローリアの・・・」



ガキィイイイイイイイイイ!



「クソ!」


アーク・ライトをアンを持ち上げているダリウスの腕へ振り下ろしたが、ダリウスに剣が届かず見えない障壁に阻まれてしまう。


(何て強固な!)


「人間よ、どれだけの力を持とうが神の前では無力。」


感情の無い表情でダリウスが俺を見ている。


(こいつはぁぁぁ・・・)


そうか、こいつは俺達人間を道端に転がっている石と同じような認識しかしていない。

これが神の思考、いや!単なる神の傲慢なエゴだ!


フローリア様達とは全く違う思想のとは・・・


だからこの世界を滅ぼす事も躊躇する事もないし、邪神と呼ばれる所以なんだろう。



だが!



どんな強力な神だろうが負ける訳にはいかない!


そして!アンを助ける!



ダリウスがアンを見てニヤリと笑う。


「ふふふ・・・、この目、フローリアにそっくりだな。私が創造した生物の中でも最高の作品かもしれない。纏っている神気もそうだし、貴様は私の傍にいる資格があるだろう。フローリアの創造したものを全て破壊し、私と一緒にこの世界の神として君臨するのはどうだ?貴様は私の隣に立つ資格があるぞ。貴様が望むなら神として生まれ変わらせてやろう。」



「断ります!」



アンがキッとダリウスを睨んだ。


「何だと?」


ダリウスが怪訝な表情でアンを睨んだ。


「私の願いはこの世界から争いを無くす事です。種族が違うだけでも、そんな些細な事でも争いになります。私はそんな差別の世界を無くす。そして、今、あなたの言葉を聞いて分かりました。」


首を掴まれて苦しいはずのアンが鋭い視線でダリウスを真っ直ぐに見る。


「全ての元凶はあなたです!あなたがこの世界に争いの種を撒いたのです!この世界にあなたのような神は不要!神だからって私は負けない!あなたを必ず倒します!」



「ふざけるなぁぁぁ・・・、少しばかりフローリアの神気を持っているから殺される事は無いと思うな。貴様のような使えない人形は要らない。」



ギリギリ・・・



ダリウスの首を絞める力が少しづつ強くなっている。

アンの顔が徐々に苦悶の表情に変わっていく!


「このぉおおおおおおおおおおお!アンを離せ!」



ギィイイイイイイイン!



どれだけアーク・ライトをダリウスへと振り下ろそうが、透明なシールドに阻まれ刃が届かない!


(くそ!くそ!アンが!このままでは!)



「ビッグバン!」

「金剛神掌!」

「ブリザード!スラッシュ!」

「無塵斬!」



ラピスが極大魔法を放ち、ソフィアが黄金に輝く両拳を叩き付ける。

エメラルダが氷の大剣を上段から切り落とし、テレサがミーティア構え数億もの斬撃を叩き込んだ。



「「「「そんな!」」」」



彼女達の悲鳴が響く。


何て事だ!

あれだけの攻撃がダリウスに全く届かない。

全てダリウスに届く前に目に見えない壁に阻まれてしまった。



「アンッッッ!」



苦しいはずのアンが俺へと微笑んだ。


(くそぉおおおおお!)


心の中で慟哭する。


どうしてだ!

攻撃が全く通らないのに、なぜ声だけがしっかりとアンに届くんだ!


(残酷過ぎる!)


「レンヤさん・・・」


「アン!」


「私の事は気にしないで・・・、レンヤさんはレンヤさんのやるべき事を・・・」


アンの右手にデスペラードが握られていた。

剣を振り上げようとしたが・・・


「まだ抵抗する元気があるとは面白い。」


ダリウスがニヤリと笑い、空いていた左手でアンの右手首を掴んだ。


「く!」


苦悶の表情でアンが呻く。


「もう終わりだな。」


そう言ってアンの手首を持ち上げるとデスペラードが手から離れ床に落ちる。


「ひと思いには殺さん。仲間の前でじわじわと殺してやろう。」


そして俺達へと首を動かし口角を上げてきた。


「ふはははぁあああああああ!神に逆らう愚かさを!無力さを噛みしめろ!何も出来ず、目の前で仲間が殺される様を見ながらなぁああああああ!」


ダリウスのアンを掴んでいる腕から電撃が放たれ、アンの全身が電撃に包まれる。



「あぁああああああああああああああ!」



アンの悲鳴が上がった!






(許さない・・・)




(絶対に・・・)




(殺す・・・)




(殺す・・・)




「殺してやるぅううううううううううう!」


視界が徐々に赤く染まっていく。


それにどうしてだ?

アーク・ライトの宝玉から赤い光がまるで水が流れるように溢れている。


『マスター!その力はダメです!憎しみの力で戦って・・・』


「五月蠅い!アンが!アンを助けなきゃならんのに!ごちゃごちゃと言うな!」



ブワッ!



アーク・ライトの刀身が真っ赤なオーラに包まれている。


しかもだ!

今までにないくらいに力が溢れている。


(この力ならぁああああああああああああ!)




「ダリウス!死ねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」




剣を上段に構えると刀身を覆っていた赤いオーラが渦を巻き、少し遅れて黒いオーラも刀身から吹き上がる。赤と黒のオーラが混じり合い螺旋となって天井へと上っていく。



ドォオオオオオオオオオオオッン!



オーラの螺旋が天井を吹き飛ばした。


一気に左足を踏み込み剣を振り下ろす。



しかし!




「「ダメぇえええええええええええええええええええ!」」




剣を振り下ろす瞬間!



ラピスとソフィアが俺に抱きついた。

視界も思考も赤一色に染まっていた俺だったが、2人の声と温かさで徐々に思考がクリアになっていく。


「俺はどうした?」


ラピスとソフィアが泣きながら俺に抱きついていたのだが、抱きついていたのは理解してはいる。

しかし、何で泣いているのだ?


「良かった・・・」

「レンヤさん・・・」


どうやら俺が正気になった事に安堵しているみたいだ。


ギュッとラピスの抱きつく力が強くなる。


「ラピス・・・」


「レンヤのバカ・・・、憎しみの力で戦っても勝てないわ。それどころかダリウスに力を与えるだけ・・・、帝国のした事を分かっているのに簡単に踊らされるなんて・・・」


「すまん・・・、迂闊だった・・・」


「仕方ないわね。」


今度はソフィアがギュッと力を入れてくる。


おいおい・・・、ちょっと胸を押し付け過ぎじゃないか?

そんなソフィアの行動をラピスが絶対零度の視線で見ているよ。

そんなソフィアだけど、ラピスを見てニヤッと笑っているし、分かってグリグリと押し付けているのか?


『巨乳』VS『貧乳』の対決再び?

ソフィアとラピスが絡むとこのパターンが多い気がする。


(しかもこの場で?)


「ソフィア、本気で私に殺されたい?」


更に冷たくなったラピスの視線と声が響く。


「ラピスも本気にならないでよ。」


クスッとソフィアが微笑んだ。


「レンヤさん、落ち着いた?」


(そういえば・・・)


言われてみれば、目の前が真っ赤になるほどまでの怒りが消えていた。

俺が冷静になるように考えての事か?


ジッとソフィアを見たが・・・


(ちょっと違う気がすると思うのは間違いではないだろう。)


なぜそう思ったのか?

それはソフィアが一瞬ペロッと舌を出したのが見えた気がしたからだった。




「ちっ!殴り損ねたか。」


(その声は!)


俺の後ろから声が聞こえる。

聞き覚えのある声だったので慌てて振り向くと・・・



「お前達・・・、どうしてここに?」



視線の先にはヴリトラとデミウルゴスが立っていた。


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