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269話 魔王、真の姿

「アン!行くぜぇえええええええええええええ!」


「はい!レンヤさん!」


俺とアンが同時に魔王へと駆け出す。

背中の翼を広げ飛び上がり、一気に魔王へと近づく。


お互いの隣にはアルファとデスペラードが人の姿となって追従していた。

実体が無い俺達だけにしか見えない幻のようなものだけど、こうして一緒に並んで飛んでいるとちょっと違和感がある。


(気にしたらダメだな。)



『マスター!私が指示するタイミングで右に飛んで下さい!』



「どういう事だ?」


俺の言葉にアルファが頷いた。


『私はこのアーク・ライトの制御だけの役割ではありません。こうして顕現した事によってサポートも可能になったのです。』


(そうなんだ。)


「それじゃ頼むな。」


『はい!』



魔王に近づいた瞬間、背筋に悪寒が走る。


『マスター!急いで右に回避です!』


アルファの声が聞こえ、すぐに右に飛び退いた。



ズガガガァアアアアアアア!



「何ぃいいい!」


魔王の大剣の衝撃波かと思っていたが、あの漆黒の大剣がヘビの蛇腹のように伸び俺へと迫っていた。

まるで鞭に剣の刃を付けたような武器に変化をしている。

一気に横に飛びギリギリで躱せたが、今まで俺がいた床はあの蛇腹剣で切り裂かれ、その切り裂かれたところは下の階の部屋が見える。


「この丈夫な城の床を切り裂くって・・・、どんな馬鹿力だよ・・・」


それに、あの鞭のような刃だと、もしアーク・ライトで受け止めても意味が無く、簡単に真っ二つにされていた。


(アルファに感謝だな。)


『どういたしまして。』


パチンとアルファが俺へとウインクをしている。


おいおい・・・

最終決戦の最中なのにこの余裕は何?


ズリュ!


床に喰い込んでいた蛇腹剣が一気に床から飛び出してくる。

その先にアンが!


「アン!」


思わず叫んでしまったが、アンはニコッと微笑んだ。

アンの横には少女姿のデスペラードが蛇腹を指差している。


「大丈夫!こんな曲芸みたいな技でぇえええええ!」


今度がアンが叫びデスペラードを横薙ぎに振るう。


「時空破斬!」


デスペラードの刀身から漆黒のオーラが激しく沸き上がり、アンが剣を振るうといくつもの三日月型の斬撃が飛んだ。

俺の裂空斬と同じ原理の技だろう。

さすがはアンだ。


カカカッ!


アンが放った三日月型の斬撃が蛇腹剣へと当たった。



パァアアアアアアン!



「おぉおおおおお!」


あの蛇腹剣がパラバラになって吹き飛んだ。



「バカな!小娘ごときが俺の剣を破壊するだと!」



「これくらいの事!簡単ですよ!」


魔王が叫ぶが、アンも負けじと叫んだ。


「確かにあなたの剣は強力です!ですが、刃の継ぎ目まで強化されていませんでしたね。悪いですが、そこを突かせていただきました。これでしばらくは剣が使えませんね!」


「ふざけるなぁあああああああああああ!」」


魔王が破壊された大剣を投げ捨て、アンへ掌を向ける。


「これでも喰らえぇええええええええええ!」



ドン!



漆黒の巨大な玉がアンへと放たれる。


『マスター!あれはブラックホールです!いくらあのデスペラードでも対処は厳しいです!』


アルファが慌てた口調で俺へと話してくるが、その点に関して問題無い!


『アーク・ライトは光の剣だ!相手が闇属性の魔法なら!いくらでも切り捨てる!」


『そうですね。マスターの力、見せていただきますね。こうして顕現しているとかなりエネルギーを使いますので、一時的に姿を消しますね。』


ふふふ・・・とアルファが微笑んで姿が消えた。



「このぉおおおおおおおおおおお!」



アンに迫る巨大なブラックホールの魔法の前まで飛び上がり、俺の真正面まで迫った瞬間、アーク・ライトを上段から一気に振り下ろした。



ボシュゥウウウ!



俺の手で真っ二つにされた黒球はお互いに吸収し消滅する。


「レンヤさん・・・」


アンが俺を見つめている。


「気にするな。攻撃にも相性もあるからな。俺とアン、2人で1つだ。だから2人の力を合わせてあの魔王を倒す!」


「はい!」


アンが元気そうに返事をしてくれた。

これでまずは一安心だな。


魔王へと視線を向けると・・・


(マジかい?)


上半身裸だった魔王の全身に黒い瘴気が漂い巻き付き始めた。

全身が瘴気に包まれ完全に姿が見えなくなる。


『マズいですね・・・』

『アルファ姉さん・・・』


再び現れたアルファとデスペラードの2人があの瘴気の塊を見て呟いている。


「どうしたんだ?」


『私の計算ではマスター達が力を合わせれば、確実に魔王に勝てるはずでした。』


(はずだった?)


『だけど、あの形態は初めて見る形態ですし、神界でもあのようなデータはありません。今の魔王は魔神の領域にいる存在です。それなのですが、あれだけのエネルギーを発する魔神の存在はいないのです。まるで魔神が昇華して更に上の存在に進化しているのかも?』


ギリっと唇を噛んだ。


『正解ではないかもしれませんが、神界には唯一伝承として伝わっている話があります。』


「どんな話だ?」


アルファがあんな顔をしているって事は、今のあの魔王の状況はかなりマズいって事なのか?


『かつてですが、ラグナロクで神界が一度滅びそうになった際に初代創造神様と敵対した存在、闇の陣営最強の王【邪神王】の片腕と言われ、数多の神々を滅ぼした存在・・・』




『魔神王』




『そんな存在が蘇るの・・・』




「そうかい・・・」


何だろう?

アルファの『魔神王』の名前を聞いた瞬間、体の内側から何か熱いものが沸き上がってきた。

あの魔神王とは因縁があるかもしれない。


いや!


間違いなくあるのだろう。

俺の魂が震えているのが分かるからな。


『マスター・・・』


心配そうにアルファが俺の顔を覗き込んできた。


「心配するな。どうしてか知らないけど、なせか俺の心が燃えているんだ。絶対に奴を倒せとな・・・」


『マスターのお心のままに・・・、今からはアーク・ライトの制御を行うのでしばらく表に出られません。ですから、必ず勝って下さい。』


「任せろ。」


グッと親指を立てると、アルファが嬉しそうに微笑んで姿が消える。


(絶対に負けられないな。)



フワっ!



アンが俺の隣に並んで浮いている。


「レンヤさん、アレは?デスペラードから聞いたけど、最悪の敵だと・・・」


「大丈夫だ!」


心配そうにしているアンへ俺は力強く応えた。

士気が下がっては勝てないものも勝てないしな。


「レンヤさん・・・」


すぐにニコッとアンが微笑む。


「そうですね!私達がしっかりしないと!」


「無理をするなよ。」


「大丈夫ですよ!もう気後れしてはいませんからね。勝つ為にどうするか?それを考えて戦うのみです!」


「そういう事!」


アーク・ライトをグッと握りしめる。

赤い宝玉が激しく輝く。


「ふっ・・・、こんなにも応援されているから情けない姿は見せられないな。」


「そうですね。」


隣にいるアンが俺を見つめている。

アンが握っているデスペラードの宝玉も激しく輝いていた。



魔王へ視線を戻すと・・・




ズズズ・・・




全身を覆っていた漆黒の瘴気が少しづつ薄くなっていく。

まるでその瘴気を魔王が吸い取っているようだ。


(多分、そうんなだろうな。)


そして、その瘴気が無くなり魔王の全身の姿がハッキリと見えてきた。


「これが魔王の真の姿?そして、あの『魔神王』の姿?)


俺達の視線の先には魔王が床の上に立って佇んでいた。


その姿は・・・


全身が漆黒の全身鎧に包まれている。

あれは普通の鎧ではない。

間違いなくアンと同じような、魔力が物質化してそれが全身を包んでいるのだろう。

いや、あれは魔力なんて生易しいものではないな。


(瘴気の鎧ってものだろうな。)


それ以外にも背中には大きなコウモリの翼が生えている。



「完全に人間を辞めたようだな。もう元に戻る気もないか・・・」



俺の言葉に魔王がニヤリと笑う。

魔王の鎧は基本的にフルフェイスの兜だが、顔の部分だけは開いていて表情がハッキリと見えるようになっている。


「何をふざけた事を・・・、俺は最強になるならいくらでも人間を辞めてやろう!そし手に入れたのだよ!神をも超えた力をなあぁああああああ!そして、この世界を征服するのは単なる足掛かりに過ぎん!」


魔王が両手を広げ高らかに笑った。


「俺は神を超えた存在なのだぞ。神?女神?もうそんなちんけな存在なんぞ俺の足元にひれ伏すだけだ!俺は神の世界をも支配出来る存在なのだぁあああああああああああ!」



「そんなのは認められません!女神フローリア様の使徒の名に懸けて!あなたを撃ち滅ぼします!」


アンがデスペラードの刀身に指を添える。

スッと刀身をなぞると、刀身から星のような煌めき発せられた。


「あなたのその余裕が命取りでしたね。おかげで最大の技のチャージが出来ましたよ!」


グッと剣を上段に構えた。


「虚空閃!存在すら消え去るこの虚無の力!喰らいなさい!」



ズバァアアアアアアアアア!



漆黒と銀色の混ざり合った斬撃が魔王へと飛んで行く。




スッ・・・




魔王がゆっくりと左手を前にかざし掌を広げた。



バシィイイイイイイイイイ!



「何だとぉおおおおおおお!」


あの!アンの虚空閃を受け止めた?


いや!あれは違う!


魔王の掌にはアンの放ったエネルギーがまだ渦を巻いているが、その渦を握りしめると消え去ってしまった。


「なかなかのものだな。」


ニタァ~と魔王が笑う。



ゾクッ!



またもや背中に悪寒が走る。


「だが、まだだ!本物の虚無の力を見せてやろう。」


魔王が今度は右手の掌を突き出した。



ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!



(信じられん・・・)


魔王の掌には信じられない程に大きな漆黒の玉が浮き上がっている。


「これが真の虚無の力だ!存在すら消え去り消滅しろぉおおおおおおおお!」



ドン!



「マズい!」


あの破壊の玉がアンへと飛んで行く!


このままじゃ!



「何だとぉおおおおおおお!!」



魔王が叫んだ!


(どうなっている?)


あの玉がアンの手前で止まっていた。

いや!アンが両手で握って突き出しているデスペラードの先でだ!

次の瞬間、朧げながらデスペラードのあの少女が剣先の前に姿を現し、両手を前に突き出してあの漆黒の玉を受け止めている光景が見えた。


(デスペラードがアンを守ってくれているのか?)


『ご主人様!もうエネルギーが!』


ゴバッ!


その瞬間、漆黒の玉が真っ二つに割れアンの体を呑み込みながら飛んで行く。



「アンンンンンンン!」



「きゃぁああああああ!」


アンが悲鳴を上げて落ちていく。


あの黄金に輝く鎧があちこちひび割れ、かなり破損しまっている姿が見える。


アンに追い付こうと急降下を始めるとテレサの声が響く。


「兄さん!アン姉さんは任せて!今は魔王を倒すのが先よ!」


すぐにエメラルダの声も聞こえる。


「レンヤさん!アンの事なら大丈夫よ!私も今では回復魔法も使えるから、すぐに治療するから安心して!」


テレサとエメラルダが飛び上がりアンを抱きかかえた。


(ほっ・・・)


アンは薄く目を開けているし、2人に微笑んでいるから何とか大丈夫そうだな。

デスペラードが結界を張ってアンを守ってくれたのだろう。

アンの事は2人に任せるしかないだろう。



しかし・・・



(よくもアンを・・・)



許さない・・・



体の奥底から怒りが沸き上がる。



絶対に許せない!



「魔王!許さんぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



「ゴミ虫が何をほざく。」



「黙れぇええええええええええええええええええ!」



アークライトを前に突き出し、一気に急降下し魔王へと迫る。



ガキィイイイイイイイイイ!



「何ぃいいいいいいい!」



あの魔王の漆黒の鎧に阻まれて、アーク・ライトの剣が全く刺さらない!


「ゴミ虫がぁあああ!どんなに頑張ろうが無駄!無駄!無駄ぁああああああああああああああ!」


完全に見下した表情で高らかに笑っている。


(隙があり過ぎなんだよ!)


「だったらぁあああああああああああああああああ!」


魔王が装着している鎧だが,唯一隙がある部分を!


「喰らえぇええええええ!」



ドゴォオオオ!



「がっ!」


魔王の唯一鎧に覆われていない顔面を思いっきり殴りつけた。


「これだけじゃ済まないんだよ!アンの分もおお返しだぁあああああああああああ!」


バチッ!


魔王の顔面を殴りつけた拳に放電が走る。


「これでどうだぁあああああああああああ!ギガ!ライトニング!」



バババァアアアアアア!



魔王の全身に放電が走った。


いくらあの頑丈な鎧だろうが、中からの最大級のライトニングは防げなかったようだな。



ズザザザァアアアアアア!



俺に殴られた魔王が派手に部屋の奥へと転がっていく。


「ぐっ!」


だが、俺も無傷では済まなかった。


「くそ・・・、右手1本持っていかれたか・・・」


右拳は魔王に直接ライトニングを撃ち込んだおかげで炭化してしまっている。

俺のヒールではちょっと治しきれないな。



「エクストラヒール!」



ポゥ!


あれだけ酷い状態だった右腕があっという間に元の姿に治っていく。


「私を忘れるなんて酷いわよ。」


スタッ!


俺の右隣にソフィアが立っていた。


「罰として後でジャイアントスイングの刑ね。」


パチンと可愛らしくウインクしたが、おいおい・・・、それは軽く虐待だぞ。


「そうよ・・・」


今度はラピスの声が聞こえる。


「私からは電気椅子の刑ね。最近は私に構ってくれる回数が減っているし、それも含めて少し厳くするわよ。」


おい!何でそうなる?

それって、単に八つ当たりじゃない?


声は俺の左から聞こえる。


クルッと顔を向けるとニコニコした表情のラピスが立っている。


「レンヤ・・・」

「レンヤさん・・・」


ラピスとソフィアが同時に俺の名前を呼んだ。


「元祖勇者パーティーの力、魔王に見せつけようじゃないの。」


嬉しそうにラピスが微笑む。


「あの時のように私は守られるだけじゃないの。レンヤさん、私達の力、魔王に見せつけてあげましょう。」


(そうだな・・・)


アレックス・・・

今はお前はいないけど、お前の分まで戦ってやるよ。



『俺はずっと一緒だぞ。』



何だ?


アレックスの声が?



ブォン!



アーク・ライトの刀身が輝きだした。


(アレックス・・・、これはお前の仕業か?)


多分そうだろうな。



スチャ!



アーク・ライトを下段に構えた。


「みんな!行くぜ!」


俺の言葉にラピスもソフィアも頷いた。


「魔王!今度こそ最後の戦いだ!俺達の力!見せてやる!」


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