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262話 魔王との決戦②

アーク・ライトが俺の右手に現われ、その切っ先を魔王へと向けた。



「全ての決着をつけに来たぞ・・・」



俺の視線の先には薄く笑いを浮かべた魔王がいる。

そして、この広い皇帝の間には魔王以外には誰もいない。


「魔王・・・」


あまりにも無防備過ぎる。


(罠か?)



「がはははぁあああああああああああああああ!」



(!!!)


魔王がいきなり大声で笑い始めた。


「既に神の力を得た俺には最早敵はいないわぁあああああ!俺よりも弱い護衛なども不要!この俺が!魔王がこの世界の神となる!その瞬間を貴様達に見せてやろう!」



ブワッ!



魔王の足元からは尋常でない禍々しい魔力が沸き上がる。


いや!


これは魔力とは違う!


「レンヤさん・・・」


アンが鋭い目で魔王を見てから俺へと視線を移した。


「あれは瘴気よ。しかも、あれだけ禍々しいなんて、どれだけの人を犠牲にしたの・・・」


やはり瘴気か・・・


真に魂まで闇に染まった者しか扱えない魔力とは正反対の力だ。

ここまで堕ちてしまうとは、どれだけ自分が世界の王になりたいと思っていたのか?

まぁ、それで邪神の配下になったみたいだし、人間が魔族の魔王となるには相当に覚悟が必要だったのだろうな。


完全に人間を辞めてしまってもな・・・


まだ、あのグレンやリズの瘴気の方が可愛いくらいだったよ。



「貴様の女神の加護でもある力!この俺の前では何も役に立たん!見ろぉおおおおおおおおおおおおお!」



ブゥン!



魔王の前に漆黒の魔法陣が浮かび上がる。


ズズズ・・・


(嘘だろう?)


あの500年前の魔王の愛剣でもある魔剣デスブリンガーよりも更に巨大な剣が魔法陣から浮かび上がってくる。

フォーゼリア城でデウス様が召喚した神器である大剣クローディアとほぼ同じくらいの大きさだ。


金色の神器に対し漆黒の神器のような禍々しい大剣が魔王の前に浮かんでいる。

その剣を無造作に右手で握った。


「ふん!」


ドガァアアアアアア!


単にあの漆黒の大剣を上へと振り上げただけでとんでもない衝撃波が周囲に起き、上へと昇っていく。

それにしてもとてつもない衝撃波だ。

床の表面をガリガリと削りながら俺達へと迫って来る。


「みんな!俺の後ろに!」


慌てて声をかけ迫る衝撃波を俺の剣で断ち切ろうとすると、ソフィアが俺達の前に飛び出す。


「レンヤさん!ここは私に任せて!」


グッと脇を締め右足を前に踏み出し、右腕も前に出して左腕は後ろへ下げ構えた。

スッと目を閉じ精神を集中している。


ダンッ!


右足を軸に体の回転を始め左足を前に踏み出す。地面が踏み出した左足を中心に放射線状のヒビが走った。

直後に左腕を中心にしたとても大きな黄金の魔力の渦が発生した。

その渦がグルグルと回転が激しくなり、更に大きく輝いている。


「唸れぇえええええええええええ!黄金の左ぃいいい!ファントムッッッ!クラッアアアアッシャーァアアアアアアッ!」


巨大な黄金の魔力のリングが衝撃波を放ちながら、ソフィアが突き出した左腕から飛び出した。



ゴシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



俺達へと迫っていた衝撃波の壁が真っ二つに割れた。


割れた衝撃波は俺達の横を通り過ぎしばらくして消えたが、周りの光景に息を呑んでしまう。


(目茶苦茶だぞ!)


魔王の衝撃波とソフィアの衝撃波がぶつかった影響で、ほとんどの衝撃が上へと方向が変わったようだ。

天井が跡形も無く吹き飛び、その上の階、いや、更にまだ上の階までもの床が無くなっていた。


(まさか3階ぶち抜きの吹き抜けが出来るとはな。)


以前の魔王とは全く違う。


(油断出来ない。)


無意識にアークライトを握る手に力が入ってしまっている。



「どうよ!」



ソフィアが左拳を突き出した姿勢で叫んだ。


しかし、その姿を見ても魔王は態度を変えていない。


「中々のものだ。」


尊大な態度は変わらず、表情だけがにちゃぁ~と粘着質な笑いをしてくる。


「どうやら、この俺と戦う資格があるようだな。」


次の瞬間、魔王の周囲に4つの魔法陣が浮かび上がる。

先ほどの大剣を召喚した漆黒の魔法陣と似ているが、大きさは少し小さい。


だが!


その魔法陣から信じられらない存在が浮かび上がってくる。



「この女は私が倒したはずだ!」



エメラルダが叫ぶ。


確かにエメラルダが倒したロザリアが魔法陣の中から浮かび上がってくる。

最初の頃に対峙した妖艶な女性の姿ではなく、下半身が巨大な蜘蛛のアラクネの姿になっていた。


(エメラルダの神域魔法で塵も残さずに消滅したはずだぞ?)



「これって!私達が倒した奴等じゃないの!」

「何で甦るのよ!」


エメラルダに続きソフィアとラピスも叫ぶ。


残りの3つの魔法陣からも男の魔人が現れた。

多分だが、こいつらはラピス達が倒した相手なのか?


「俺にかかれば死んだ者すら蘇らせる事は容易い!だけどな、単純に生きかえらせるのも芸がないだろう?だからな、ちょっとだけ細工をしておいた。」


魔王がニヤリと笑う。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


ロザリアが獣のように叫んだ。


「貴様!何をした!」


怒りの表情でエメラルダが魔王へと叫んだ。


「何だ?貴様は敵だった者を気に掛けるのか?甘い!甘いなぁあああああああああ!」


ゆらりとロザリアが蜘蛛の足を動かしゆっくりと前に出てくる。

しかし、その顔には表情が全く無く虚ろな目だけがエメラルダを見ていた。


「少しだけ細工をしたと言っただろう!少しだけな。お前達に負けたこいつらはだ、元に生き返らせるだけではまた負けるのは確実だ。だからな、俺の力を少しだけ分けてあげたのだよ。偉大なる神ダリウス様と同じ力を直接にな!」


ロザリアだけでなく他の3人の魔人もロザリアの後ろに続き前に出てきた。

同じように表情も無く虚ろな目をラピス達へと向けている。


「ふむ・・・、少し力が強過ぎたか?折角生き返ったのに脳が破壊されてしまったかもな?まぁ、それならそれで楽しい事になりそうだ!リミッターが無くなったこいつらの力!存分に味わうがよい!ふはははぁああああああああああああ!」



「貴様ぁあああああああああああ!」



エメラルダが右手を前に突き出す。


「ダイヤモンドダストォオオオオオオ!」


極寒の冷気が掌から魔王へと放たれた。



バシィイイイイイイイイイ!



「何ぃいいいいい!」


ロザリアと他の3人の魔人が一瞬にして魔王の前に立ちはだかり障壁を展開した。

薄い半透明な障壁がエメラルダの吹雪を防ぐ。


「くっ!こうも簡単に防がれるとは・・・」


「ふはははぁああああああああああああ!」どうだぁあああああ!」


高らかに魔王が笑う。


「俺からの魔力の供給に耐えられなくなって脳は破壊されたが、傀儡として十分な性能は残っているのだ!俺の忠実な手足となってこいつ等を殺せ!」


その言葉でロザリアがエメラルダへと飛びかかった。

他の3人の魔人もラピス、ソフィア、テレサへと飛びかかる。


「お前達ならさぞかし高性能な傀儡が出来上がりそうだ!ふはははぁああああああああああああ!人類の救世主?お前達が俺の傀儡となり、そんな幻想を抱いている下等生物達の顔を絶望に染め上げてやろう!誰がこの世界の神なのか?存分に分かるようにな!」



「そんな事を誰が許す!くたばるのは貴様!魔王だぁあああああああああああ!」


[そう!この世界は誰のものでもありません!等しく平等に生きる権利があるのです!たった1人のエゴの為に混乱に落とす訳にいきません!」


俺とアンが一気に魔王へと飛びかかる。


「しゃらくさい!勇者に先代魔王の娘!俺は最強だぁあああああ!この世界の覇者の力を見せつけてやろう!ぐはははぁあああああああああ!」


魔王が漆黒の巨大な大剣を振りかぶり、俺達に向けて一気に振り下ろした。



ドォオオオオオオオオオオオッン!






「ロザリア・・・、確かにさっきまではお前とは敵の関係だったな・・・」


エメラルダが両手に氷の剣を握りロザリアと対峙している。


「・・・、コ・・・、ロ・・・、ス・・・」


「もうまともな事も考えられなくなってしまったとはな・・・」


少し寂しそうな顔でエメラルダがロザリアの虚ろな目を見つめた。


「敵とはいえせめてもの情けだ!一思いに再びあの世へと送ってやろう!」


エメラルダが跳躍し、ロザリアとの距離を一気に縮め目の前に立った。


シュン!


目にも止まらぬ速さで剣をロザリアの首に叩き込んだ。



ガキィイイイイイイイイイ!



「何ぃいいいいい!」


エメラルダが驚愕で目を見開きロザリアを見ていた。

いや、その剣を叩き込んだ場所を・・・


エメラルダの剣は鋭くロザリアの首へと吸い込まれるようにして叩き込まれた。

しかし、その剣がロザリアの首を刎ねる事は無かった。

刎ねるどころか、剣が皮膚にも全く喰い込む事なく、切られる事は無かった。


「信じられない硬さだな。」


驚愕の表情になり一瞬動きが止まったエメラルダの事をロザリアは見逃さなかった。


「JAAAAAAAAAAAAAAA!」


まるで猛獣が叫ぶかのような雄叫びを上げ、両手を頭上に掲げる。


ジャキィイイイイイイイイイ!


両手の指全ての爪が鋭く長く伸びた。


ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!


その爪を縦横無尽に振りかぶりエメラルダに襲いかかる。


「ちっ!」


しかし、すぐさま後ろへと飛び退き、襲いかかる爪を辛うじて躱した。


スタッ!


優雅に床に降り立ったが、頬が少し切られ血が流れ始める。


しかし、エメラルダは全く動じていないどころか、微かに微笑んだ。

頬から流れる血を指で撫で、その血をペロッと舐める。


「ふふふ・・・、やるわね。これがリミッターを解除したあなたの強さ。でもね・・・、あなたの心の声が聞こえるわ。涙を流しながら・・・」


キッとロザリアを見つめる。



「『助けて』とね・・・」



スゥゥゥ・・・


エメラルダの後ろに雪がチラチラと降り始める。

そして、空中に真っ白な髪の少女が浮いていた。


『お姉ちゃん・・・』


その言葉にエメラルダが小さく頷く。


「フラウ、お前の力を借りるぞ。」


『うん!』


雪の精霊であるフラウが大きく頷くと、全身が輝き細かな雪の結晶に変化する。

その結晶がエメラルダの全身を覆った。



「まさか、アンと同じ姿になるとはな・・・」



結晶がエメラルダの全身へ纏わりつくと、その結晶がまるでドレスのような姿の鎧に変化する。

薄い青色の氷の翼を背中から生やし、翼と同じ色合いの女神の鎧とそっくりな鎧を纏ったエメラルダが立っていた。


「これが『雪の女王』の真の姿とは・・・、今までと違って圧倒的な力が溢れ出るのを感じる。」


ブゥン!


軽く右手を振ると巨大な氷の刀身の大剣が握られていた。


「ヴォーパルソードよ。全ての邪悪を切り裂け!」


大きく翼を広げ高く飛び上がる。



斬!



一気にロザリアへと急降下し剣を袈裟切りで叩き込んだ。


音も無く着地し、クルッと背中を向けた。


「終わりだ・・・」



ズルッ!



ロザリアの肩口から腰にかけて線が走り、少しづつ体がずれ始める。


「今度こそ安らかに眠れ・・・、もし来世があるなら次は友として巡り逢おう。」



ピシッ!



徐々にロザリアの体に細かいヒビが走る。


「私の事を友と?」


表情が無かったロザリアの瞳から涙が流れた。

死の間際で正気に戻ったようだ。


「そうだ。本気で戦えば、その後はお互いに友となる。例え殺し合いだろうが、お互いの心と心が触れ合えば敵などという感情は無くなるのだ。私はかつての戦いでこの事を知った。」


「そうだね・・・、負けてこんなにすっきりした気持ちは初めて・・、そして私の為に涙まで・・・」


ロザリアだけでなくエメラルダからも一滴の涙が流れていた。


「ありがとう・・・、こんな幸せな気持ちで逝けるなんて・・・、あなたはまるで女神ね・・・」



ザザザァァァ・・・



ロザリアが細かな光の粒子に変わり消え去った。




「さらばだ、友よ・・・」


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