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259話 帝国第8騎士団①

ダダダッ!


「ソフィア!この先で本当に合っているのか?」


俺達はフローリア様と分かれた後、部屋の扉をくぐり抜け大きな廊下へと出た。

ソフィアがデミウルゴスから聞いた情報では、この大きな廊下の先にある部屋が魔王のいる皇帝の間だという事だ。

廊下の先とはいっても廊下は真っ直ぐではなく、進む最中に何回かは直角に曲がっているし、デミウルゴスの情報が無かったら迷っていたかもしれない。

リーゼロッテ様から大体の内部構造は教えてもらってはいたが、やはり魔王もそこまではバカではなかった。俺達が来る事を見越して通路や部屋の位置もところどころ変えられていた。


(こんな短期間でここまで城の内部構造を変えるって、どれだけの労力をかけたのだ?)


最初にバルコニーから入った部屋から廊下に出たけど、その時でも城内の構造が変えられていた事に気付いた。皇帝の間に近づくにつれ単調で分かりにくい部屋や通路もあったから、気付かなけば同じ場所をグルグルと回っていたかもしれなかった。

外で戦っている仲間の為にも早く魔王との戦いを終わらせたい一心で、皇帝の間までは駆け足で進んでいく。


「デミウルゴスの情報だけど間違い無いと思わ。私達ならともかく、レンヤさんには嘘の情報は流さないと信じているからね。腹立たしいけど、彼女の気持ちは本物だと思っているから。」


ソフィアがデミウルゴスに負けて拘束された事を思い出したのか、ギリッと唇を噛んだ。


「まぁまぁ、姉さん、根に持たない。デミウルゴス姉さんの気持ちも分からなくもないし、あの時の戦いはデミウルゴス姉さんの覚悟が勝っていただけよ。次はソフィア姉さんがボコボコにすれば?実力的には似た感じだと思うからね。」


軽い口調でテレサがソフィアと並走ながら話している。


(おいおい・・・、軽くボコボコと言っているけど、どんな会話だよ。全然雰囲気と内容が違い過ぎる。)


「そうね、私も少し自惚れていたようだったしね。そのせいで足元を掬われた自覚はあるわ。おかげでこれからの戦いに備えて気合を入れ直し出来たわ。まぁ、この事に関してはある意味感謝するわ。」


「ふふふ・・・、ソフィア姉さんも素直じゃないんだから。」


ニヤニヤと笑いながらテレサがソフィアを見ていた。


(うん!仲が良くて何よりだよ。思った以上にデミウルゴスもみんなに溶け込むのが早いかもしれないな。)



俺達の少し後ろにアンとエメラルダが並んで走っている。

そのエメラルダだが、少し機嫌が悪そうな顔で周りを見渡しながら走っている。


「しかしなぁ・・・」


「ん?エメラルダ、どうしたの?」


アンがエメラルダの様子に気付いたみたいだ。

少し先行していたアンがエメラルダの隣まで下がって、今は完全に並んで走っている。


「いやな、この城の事なんだがな・・・」


「こんな立派な城の何が不満なの?」


「外観からでもとんでもない大きさの城だったけど、もの凄く無駄な城だと思っただけだ。フォーゼリア城と比べても無駄に大きすぎるし、それにな、この内装もな、無駄に豪華過ぎてなぁ・・・」


「そう言われればねぇ~」


アンがエメラルダの言葉にウンウンと頷いていた。


「確かに無駄が多すぎるわね。これだけの贅沢をするとなると、どれだけの国民が大変な思いをしていたか?リーゼロッテさんは質素倹約の素晴らしい考えだったけど、歴代の皇帝は確かに見栄の塊かもね?歴史書にも特にフォーゼリア王国の歴史書では帝国の歴史はあまり良く書かれていなかったわ。まぁ、そうでなけれなば、あの邪神ダリウスの甘い誘いに乗らないわね。ホント、見栄だけで生きていければこんなに楽な事はないだろうけど、それはそれで悲しい生き方よね。」


「確かにな。」


アンの言葉にエメラルダが頷く。


「だからこそリーゼロッテ様がアンをこの帝国の後継者になる事を熱望しているのだろうな。皇女として出来なかった事、父親の暴走を止められなかった後悔も含めて、この国を良くしようと考えての事だろう。アンの為政者としての心、この帝国の国民が心から笑える国を作ってくれると信じているのだろう。」


ポン!とアンが手を叩いた。


(ん?)


「そうしたらさ、まず私達が最初にする事はこの城を少し小さく建て直そうよ。無駄に経費もかけたくないし、内装もここまで豪華にせずにね。」


「おいおい・・・」


エメラルダが少し呆れた顔でアンを見ているよ。

多分だけど、俺も似たような顔になっているかもしれない。


「アン、簡単に建て直しって言うけどな、それにはどれだけの費用がかかると思って・・・、はぁ~、やっぱり私がちゃんとアンの補佐をしないとな。しっかりしているようでも、お前は少し世間知らずのところも多いし、こうして突拍子もない事をポロっと言うからな。」


「むぅ~~~」


アンがプクッと頬を膨らませてエメラルダを見ている。

何かリスのような小動物感がとても可愛らしくて思わすにやけてしまった。


(最終決戦目前なのに何も気を張るような事が無いなんて、いつもの俺達だよ。)



俺の少し離れた横で走っているラピスがボソッと呟いた。


「また・・・、私だけ除け者?」


(うぉおおおおおおおおおおおおおおおっい!)


何だ?さっきの事がトラウマになっているのか?

ラピスって思った以上にメンタルが弱かったのかよ・・・


(まぁ、そんなラピスも意外と可愛らしかもな。)



ススス・・・


ちょっと嬉しそうな表情のラピスが近寄ってくる。

走りながら少しづつ寄ってくるけど、多分、アンやソフィア達に勘付かれないようにしているんじゃないかな?


「レンヤ、私の事を可愛いって?ふふふ・・・、ボッチな私を慰めてくれて嬉しい。」


(おい!いつの間に俺の心を読んだ?)


そっちの方が驚きだよ。



しかし!



急にラピスの表情が険しくなり、先の通路の曲がり角を睨んでいる。


「無粋な連中はいつもゴキブリみたいに湧いてくるね。」


次の瞬間、曲がり角から十数人の男達が現れる。


(これは?)


「魔人ではなくて人間だって?」


思わず声が出てしまう。

曲がり角から現れた兵士達は普通の人間だった。


しかし、彼らは俺達の姿を見てかなり細かく震えている。

魔人すら簡単に葬り去る俺達だ、ただの人間が俺達と対峙して怖くない訳がない。



「勇者達よ!ここは通さん!」



先頭の男が剣を構え叫んだ。


この男だけは他の兵士と違い装備も豪華だ。

しかも、震える事もなく堂々とした佇まいで立っている。

多分だが、この兵士達の隊長だろう。


俺達は足を止め彼らと対峙する。


(弱った・・・)


魔人相手なら俺達も遠慮無しに戦えるのだが、相手はどう見てもただの人間だ。

俺達相手では戦いにもならないのは確実だ。


それに・・・


彼らの目には全く悪意がない!

多分だけど、任務に対して忠実なだけなんだろうな。

だからといって、ただの人間だろうが死にものぐるいで戦いに挑まれるのも困る。


(死の恐怖で開き直った人間ほど怖いものはないな・・・)


先頭の男が1人だけ前に出て剣を構えて立っているので、俺もそれに倣いアン達を制止し後ろへ下がらせた。

右手を前にかざすとアーク・ライトが現れ握る。


「これが伝説の聖剣・・・、死ぬ前にこの目で見られるとは幸せだな。だが!」


正眼に剣を構えていた男がゆっくりと下段へと剣を下ろす。


「リーゼロッテ皇女様の仇!この身が滅んでも必ずや一矢報いる!」



(・・・)



「はい?」


今、何て言った?


『リーゼロッテ皇女様の仇』だって?


リーゼロッテ様は元気なんだけど・・・



「我ら第8騎士団、そしてこの騎士団の団長でもある私、ランガ・グリーフォードがリーゼロッテ様の仇を討つ!」



「ちょって待ってくれ!」



思わず叫んでしまう。

どこでこんな話になっているのだ?



「リーゼロッテ様の仇の話を聞く気は無い!」



おいおい・・・

全く聞く耳持たずでバッサリかい・・・


だけど、俺達がリーゼロッテ様を殺したというデマは何とかして撤回したい。

そして、彼らは魔人の持っている肌に纏わりつくような、独特な粘っこい魔力の嫌な空気感はしてないしな。

出来れば殺し合いのような戦いはしたくない。


「そうかい・・・」


しかし、今の目の前にいる騎士達は俺達の敵として立ちはだかっている。

魔人達と違って良識を持っている感じはするが、話をする気が無いとなると強行突破しかない。

だからといって、敵だから殺してでも突破する気は無い。


(多少手荒だが・・・)


スッと右手の人差し指を天井へと掲げる。



「スタンボルト!」



バリバリバリィイイイイイイイイイ!



「「「うがぁあああああああ!」」」


男達が悲鳴を上げて倒れ込む。


しかしだ!

そんな状況なのに先頭にいる騎士団長だけが倒れ込む事も痙攣もせずに剣を杖代わりに支えにし、膝を床につけて「はぁはぁ」と荒い息を吐きながら俺のスタンボルトの魔法に耐えていた。


(思った以上に根性があるな。)


それか、俺達に対する復讐心が勝ったか?


「少しは話を聞く気になったか?」


「だまれ!」


騎士団長が再び俺を睨む。

洗脳されている感じも無いし、完全に嘘を信じ込まされているのだろう。

そんな簡単に信じる程、それだけリーゼロッテ様に対する忠誠心が高いのかもな?


それにしても、そこまでリーゼロッテ様に固執するなんて、どういう事?


「我らは第8騎士団は7将軍の騎士団とは別にリーゼロッテ様専属の護衛騎士団であった。だが、あの時の遠征は我らは同行出来なかった。皇帝が万が一との事でこの帝都の防衛の任を請け負ったからだ。」


しかし、その騎士団長は顔をしかめギリギリと歯を鳴らした。


「私が、いや、我ら騎士団が同行しなかったせいでリーゼロッテ様が・・・、フォーゼリアの連中に殺される事はなっかたのに・・・、しかも、リーゼロッテ様にトドメを刺したのはぁあああああああ!」


血走った目で俺を睨んだ。


「貴様だ!貴様!勇者がリーゼロッテ様を魔族の手先と言って問答無用で殺したとなぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」



(はぁ?何を言っている?)



確かに500年前の俺なら魔族(魔王)を恨んでいたから、問答無用で倒す事もあり得ただろう。

しかし、すぐに殺す事まではしなかったぞ。

あくまでも明確に敵だと認識した相手だけだったしな。


「それにだ!皇帝が魔王となったのも全て貴様のせいだ!」


「はい?」


それこそ意味が分からん。


「貴様達にリーゼロッテ様を!七将軍も全て殺され、かろうじてフォーゼリアから逃げ延びた皇帝が、追手からの絶対絶命の危機の時に現れた邪神と契約し魔王となった。大切な娘と仲間の仇を討つ為なら魂すらも売ってな!全ては貴様等のせいだ!」


大体読めてきた。


皇帝が魔王となったのはフォーゼリアに復讐する為に邪神と契約したという話で、帝国民のヘイトをフォーゼリアに向けて魔王としての立場を正当化しようとした訳か。

しかも、魔王は復讐との大義名分で兵士を魔人と化し忠実で残酷な部下を増やした訳だったとはな。

それでこんなにもこの国に魔人が蔓延っていたとは・・・


フローリア様は邪神は人間の負の感情をエネルギーにすると言っていたな?

これもダリウスの計画の内なのかもしれない。

魔族には持っていない人間の残酷な精神部分を増幅させるためにな。



(さて、どうやってこいつらの誤解を解こうか?)


魔人にも堕ちていないし、リーゼロッテへ様の高い忠誠心を魔王の嘘により俺達への復讐心へと変えられただけだ。


力任せに押し通しても納得出来ず、必ず戦いになってしまうだろう。

かといっても時間をかけて説得する事も出来ない。

今の俺達は少数精鋭の電撃作戦の最中だしな。そもそも時間さえ惜しい状態だ。



「勇者よ!ここを通りたければ我々を殺す事だな!今回の混乱は貴様らが生み出したのだ!我が主リーゼロッテ様と共に地獄から貴様らが魔王に殺されるのを見ているぞ!フハハハハハァアアアアア!」



(くそっ!)


事情も知らないくせに、好き放題言いやがって!

かなりイライラしてくるが、これも魔王の作戦なんだろう。

この騎士団では俺達に勝つ事は絶対に無い。

だけど、恨みを持って俺達に殺されれば邪神のエネルギーになるだろう。

人間の恐怖や怒りの感情が邪神や魔王にとっては最高みたいだしな。

これ以上は奴に力を付けさせる訳にいかない。


眠らせる事も考えたけど、あの騎士団長の纏っている鎧は魔法の鎧ではないか?多分そうだろう。

だからだろうな、俺のスタンボルトにも耐えられたのだろう。

スリーブの魔法も効果が薄いかもしれない。


あの団長は捨て石にされているようだけど、滅茶苦茶厄介な捨て石だよ。




「いい加減にしてぇええええええええええええ!」




テレサの絶叫が響き渡った。


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