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256話 デミウルゴス再び⑫

(状況が理解出来ん。)


何でラピスが簀巻きにされて床に転がっているんだ?

どうも俺が破壊した壁の瓦礫と一緒に吹っ飛んだように見える。

だけど、上手く瓦礫と一緒に吹っ飛んだからか怪我は無さそうだな。


(良かったぁぁぁ~~~)


チラッとアンとエメラルダに視線を移したが、2人揃って微妙な表情をしていたよ。


「ははは・・・、ラピスさんの事は全く聞いていなかったわ。この状況から見て何があったのか分かったけど、フローリア様も可哀想な事をしましたわね。」


そう言ってアンが魔剣を取り出し軽く振った。



パラ!



ラピスをグルグル巻きにしていた黒いロープだけが切れ自由になったようだ。

いやはや、アンの魔剣の空間を切る能力だけど、精密な制御も今じゃお手の物みたいだな。

ラピスの体も服も全く傷一つ付いていない。

俺だったらあそこまで丁寧な作業は無理だろう。まぁ、性格もあるけどな。



「レンヤぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~」



自由になったラピスがガバッ!と勢いよく立ち上がり、ポロポロと大粒の涙を流しながら俺へと駆け出した。

いつもよりも三割増しの勢いで俺へと向かってくる。


両手を広げもう少しで俺に抱き着くところで・・・



ドン!



「ぐぇえええええ!」


ラピスの真横から何かが飛び出て、その何かにラピスが思いっきり弾き飛ばされてしまった。

変な悲鳴を上げてゴロゴロとと転がり、またもやさっき俺が壊した壁の瓦礫のところへ戻ってしまったよ。


そんな風に吹っ飛ばされてしまったラピスに意識が向いてしまったところに、いきなり誰かに勢いよく抱き着かれた。


(はい?)


「ふえぇええええええええええええええええん」


可愛く泣きながら俺の胸に顔を埋めているが・・・



(誰?)



「ダーリン!みんなが虐めるよぉぉぉ~~~~~~~~~~」



(その声は?)



!!!



「お前!デミウルゴスか?」


何だ?うるうるした表情でデミウルゴスが上目遣いで俺を見つめている。



(状況が理解出来ん?)



思わず冒頭と同じセリフが頭の中をグルグルと回っている。

少し落ち着いたので周りを見ると、ソフィアとテレサが苦笑いをしながら俺を見つめているよ。


(本当に何があった?)


「あれ?」


こうしてデミウルゴスが抱き着いているのも不思議だったのだが、何でここにフローリア様がいるんだ?


(そういえば・・・)


壁をぶち破る前にアンが言っていたな。


『実はね、さっきフローリア様から状況を教えてもらっていたの。フローリア様からの連絡は問題なかったみたい。』


(そういう事ね。)


ここにフローリア様がいるから、この部屋の場所も状況も分かったって事だな。

まぁ、何でここにフローリア様がいるか?それも不思議だが、何かあったら教えてくれるだろう。


(だが!)


この状況はどうする?

いまだにデミウルゴスが抱き着いて離れる感じもしない。


それに・・・


今のデミウルゴスからは今まで彼女から漂っていた敵意というものを全く感じない。

泣きながら俺を見つめていたデミウルゴスだったが、どうやら泣き止んで落ち着いたのか少し顔を赤くしながら俺を見ている。


「ダーリン・・・」


ボソッと彼女が呟いたが、あの棘のあるような冷たい笑みは無くなっていた。

素直に可愛いと思える表情だった。

今のデミウルゴスだったら俺達に対する悪意は無さそうだと思う。


そう思うと新たな疑問が出てくる。


(何でデミウルゴスがこうなった?何か悪い物でも食べたのか?)


彼女には失礼かもしれないがそう思うのは当然だろう。

ここにフローリア様がいるのは彼女に絡む事なのかもしれない。


「え、えっとぉぉぉ・・・」


「どうした?」


あのデミウルゴスが顔を赤くしながら言い淀んでいるよ。

前回のラピスとの戦いの時のような自信に溢れている態度では無いな。まるで初々しい女性のような感じで本当に可愛らしい。



「パラライズ!」



「ひゃん!」



デミウルゴスの全身が紫色の光に包まれたと思ったら、ヘナヘナと力なく崩れ落ち床にへたり込んでしまう。


「ライト・バインド!」


ギュッ!


そのまま幾重もの光の輪に拘束されてしまった。

何か、モガモガしながらプルプルと懸命に動いているようだが、パラライズの麻痺の上にこの拘束だ、まともに話す事も動く事も不可能だろう。


(それにしても・・・)


視線をデミウルゴスの後ろに移すと、いつもよりも五割増しに目が吊り上がったラピスが立っていた。

あれだけ苦労して撃退したデミウルゴスをこんな簡単に拘束するなんて、ラピスの怒り具合、いや!本気度が違うのは明らかだよ。


「ふふふ・・・、どう?さっきまでの私の気持ちを思い知る事ね。」


こんかカオスな状況に俺の頭は追いついていけない。

助けを求めようとアンとエメラルダへ視線を移すと、2人揃って首をプルプルと横に細かく振っていて、顔には『私達も巻き込まないで!』とハッキリ書いてあった。



   ※   ※   ※




「大体の事は分かった。」


ソフィアからの説明でこの部屋で起きた事は分かった。


しかしだ!


ちょっと俺の想像を超えた事態が起きていたのにはビックリした。

俺がどうしてこんなにもデミウルゴスに言い寄られていたか、そしてフローリア様がここにいたのかも簡単に教えてくれた。

かつての神の世界での因縁でここにいるっ事だってな。


それ以前にだ!


俺が神の生まれ変りだって事はあまりも話が大き過ぎて実感は全く沸かない。


(とはいってもなぁ・・・)


ヴリトラの戦いの時も、ヴリトラはそんなような事を匂わしていたな。



ギュッ!



俺の手が優しく握られる。

慌てて横を振り向くとアンが俺の手を握って微笑んでいた。


「レンヤさんはレンヤさんよ、過去に何があって誰の生まれ変わりだろうがね。私の好きになったレンヤさんは私の目の前にいるレンヤさんだけよ。」


「アン・・・」


アンの隣にいるエメラルダも微笑みながら頷いてくれる。

そして反対側に振り向くと、ソフィアもラピスも微笑んでくれていた。


そして、俺の前にはテレサが立っている。

髪が肩までのショートカットがいつの間にか腰までに伸びたポニーテールになっている。

それに・・・


(何だ?今までと少し雰囲気が変わったな。少し大人びた感じだ。)


目が合った瞬間、俺の体が無意識に反応する。

スキルの『自動防御』が作動した。



キィイイイイイイイイイッン!



瞬間にアーク・ライトを握りしめて、テレサがいつの間にか握っていたミーティアの袈裟切りを受け止めていた。


俺がニヤッと笑うとテレサもニヤッと笑う。


「強くなったと思ったけど、兄さんにはまだまだ及ばないわ。」


そう自嘲気味にテレサが言ってきたが、受け止めた剣の衝撃は今までとは次元が違っていた。


「そんな事は無いぞ。今までとは全く違っているし、本当に強くなったと思う。俺もうかうかしてられないな。」


その言葉にテレサが嬉しそうにしているよ。

実際に剣筋が鋭く重くなったし、テレサから発せられる気迫も段違いだと思うな。


その瞬間、テレサの青い瞳が金色に変わった。


(!!!)


「へぇ、これがワタルのねぇ・・・」


(何だ?この気配は?)


ソフィアの師匠でもある美冬さんと同等か、それ以上に強烈な神気を感じる。

同じテレサの体から発せられているとは思えない程にだ!


「今はまぁまぁかな?でも、あのワタルの気配と同じには間違いないわ。これで、私の悲願も・・・」


「お前は誰だ?」


テレサとは思えない雰囲気に思わず身構えてしまう。



チュッ!



一瞬で俺の顔の前に移動しキスをされた。


全く反応が出来なかった。

この状態は確実に俺以上に強い存在だろう。


しばらくしてから離れると、少し赤い顔で俺を見つめている。

すると、金色だった瞳が元の青色に戻った。


「ホント、あいつは・・・、外に出るならちゃんと言ってよね。」


少し不機嫌ないつものテレサに戻っていた。


「テレサ・・・」


「あ!兄さん、私の体でね、ちょっと色々とあってね。」


そう言いながら光の輪に簀巻きにされ床に転がっているデミウルゴスと、そのデミウルゴスの隣でしゃがんでツンツンしているフローリア様を見ていた。


(この2人が原因か?)


間違いないだろうし、きちんと説明してもらわないとな。

あの2人の姿を見ていると、どうやら顔見知りに間違いないだろう。

それでフローリア様もここにいるのだろうな。




「これで完全に納得したよ。」


今度はソフィアだけでなくフローリア様も含め、ラピスとテレサも参加し状況の説明を受けた。


「で、彼女は参加させないのか?一番の元凶だと思うが?」


「良いのよ。」


とても良い笑顔でラピスが微笑む。


「私もすっと無視され放置されていたんだから、これくらい放置しても問題無いわ。私がどれだけ血の涙を流しながら1人寂しい状況でいたか・・・」


(おいおい・・・、ここまで悲惨じゃないだろうが・・・)


まぁ、こんな事は言えないけどな。

言ったら、今度は俺に矛先が向かって碌な目にしか遭わないのは想像出来る。


(触らぬ神に祟りなし。)


南無南無・・・



「それでレンヤさんはどうするのかな?」


アンが簀巻き状態のデミウルゴスをを見てから俺に話しかけてくる。


「どうかな?聞いた話だとそこまで悪い感じではないだろうし、それになぁ・・・、テレサと約束してしまったのだろう?嫌だと言ったら、今度はテレサの立場が無くなるからな。」


「兄さん・・・」


ウルウルした瞳でテレサが俺を見てくるよ。

期待の籠った視線が痛い。


「良いんじゃない。私も元々が敵の立場だったしね。そんなのはもう関係無いと思うわ。」


エメラルダがニコッと微笑んでデミウルゴスを見つめた。


「そうね、そんなのに拘っていたらレンヤに嫌われるし、私もレンヤに全てを任せるわ。」


ラピスがパチンと指を鳴らすと、デミウルゴスを縛っていた光の輪が消える。


「ラピス・・・」


ギロッとデミウルゴスが起き上がりながらラピスを睨んだが、フッと表情が緩んだ。


「今までの事は謝罪するわ。」


そして右手を差し出す。


「そう、こうやって謝るのはいい心がけね。お互いに何もないと言えば嘘になるでしょうが、でもねもう今までの事は忘れるわ。」


そう言ってラピスがデミウルゴスの差し出した手を握る。


「でもねぇ~~~~~」


とても鋭い目付き(先程よりも更に五割増し)でデミウルゴスを睨む。


「私の方がレンヤに愛されるのよ。あんたのような淫魔には負けないわ。レンヤはねぇ、私のような清楚な女が好みなのよ。ふふふ・・・」


「そう?」


今度はデミウルゴスが不敵に笑った。


「貧租な胸の女が何をほざいているのかしら。男の人はねぇ、私のような胸が大きい女をを好むのよ。この胸こそが包容力の証、あんたのようなつるペタ女にはどうしても太刀打ち出来ない、私が誇る絶対的なアドバンテージよ。ダーリンもメロメロになるのに間違いはないわ。ふふふ・・・」


「何を言っているのかな?レンヤはねぇ、外見で女の人を選ばないのよ。胸の大きさで選ぶようなチャラい男じゃないのよ。それにね、イイ男っていうのは、私のような理知的でミステリアスな女に引かれるものなの。あんたこそ胸にばかり栄養が集まって、頭の中身はスカスカじゃないのかな?」


ラピスが勝ち誇ったような表情で、フン!と鼻を鳴らした。



ギリギリ・・・



おいおい・・・、お互いに握手している手が震えているぞ。

どれだけの力で握っているのだ?


(何かとても嫌な予感がする。)



「あらあら、とても仲が良さそうですね。うふふ・・・」



フローリア様が2人を見てニコニコと笑っているよ。

アレがどうして仲が良いって見える?


(どう見ても一触即発の空気に間違い無いだろうが!)


アンとエメラルダを見てもニコニコしている。

お前らもどうした?


不意にラピスとデミウルゴスが俺へ同時に振り返った。


「レンヤ!」

「ダーリン!」


「はい?」



「「私の方が良い女よね?!」」



見事に2人がハモっている。


これを見れば確かに仲が良い気がする。


別の方向でな・・・


(頼むから仲良くしてくれよな。)


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