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25話 専属受付嬢

アンとラピスが火花を散らしながら睨み合っている。


はぁ~、全くこの2人は・・・

仲が悪いのか良いのか?仲が良いからこうやって素直に張り合えるのだろうな。

お互いに本音でぶつかり合える相手がいるのは良い事だと思う。


多分な・・・



やり過ぎない事を願う・・・




「お前達!勝手に外に出て何をやっている!」


理事長がマナさんを連れて外に出てきた。

慌ててサブマスターが走って行き、ペコペコと頭を下げていた。


「部屋から出たら建物内には誰もおらんし、何をしていたか説明しろ!」


「はっ!申し訳ありません!私が我儘なお願いを申し出しまして、勇者様にお力を見せていただきたいとお願いしました。それで、あちらにいらっしゃるアンジェリカさんと模擬戦を行った次第でございます!」


理事長がギロッとサブマスターを睨んだ。

「模擬戦だとぉぉぉ?彼女が勇者様に匹敵する力の持ち主だったのかぁぁぁ?」


「はい!そうです!彼女は【魔剣士】の称号持ちでした。それはもう本当に見事な試合でした。」


「何と!【魔剣士】だと!そんな強者が一緒だったとは・・・、勇者様と一緒におられたから只者ではないと思っていたが・・・」


しかし、がっくりと肩を落としてしまった。

「そんな模擬戦を見られなかったなんて・・・、何で儂を呼ばなかった・・・」


「理、理事長!元気を出して下さい!次は必ずお誘いしますからぁあああ!」

サブマスターがオロオロしていた。


(まるでコントみたいだよ。)


2人のやり取りで思わず笑ってしまったけど、理事長の後ろにいるマナさんも俺と同じように思ったのかクスクスと笑っていた。

しばらくして、マナさんが俺を見つめてきた。


(何だ?)


嬉しそうな表情で俺の方へ歩き始めた。


(???)


俺の前まで来るといきなりガバッと抱きつかれてしまう。

ニコニコした表情で


「レンヤ『君』、これからは私の事を『お姉さん』って思って欲しいな。」



・・・


・・・



(はっ!)




(はぁあああああああああああああああああああああああ!)



訳が分からない!


俺の頭の上には?マークが大量に回っているだろう。そいれくらい衝撃的な告白だった。


「マナさん!どういう事だ?分かるように説明してくれないか?」



「それは、私から説明するわ。」


いつの間にかラピスが俺の隣に立っていた。

(アンとの睨み合いは終わったのか?あれは単なるじゃれ合いだったのかもしれん。俺にとっては心臓にとても悪いけどな・・・)


「その前に、マナ、レンヤから離れて。このままだとアンが暴走して、説明どころではなくなってしまうからね。」


ラピスの後ろには全身からどす黒いオーラを噴き出しているアンが仁王立ちになっていた。


(怖い、怖いよ・・・、予想はしていたけど、アンってかなり重度のヤキモチ焼きだったとは・・・)


マナさんが俺から離れると、慌ててアンが俺の隣に移動し腕を組んできた。

「レンヤさんは渡さないわ。」


何かブツブツ言っているけど、詳しく聞かない事にしよう。


「それじゃ説明するわ。」


「あぁ、頼む。」


「まずはレンヤの所属だけど、ギルドの所属にするわ。勇者は本来、国が管轄して国が抱えるはずなんだけどね。人類の最終兵器と呼ばれているくらいだから、どの国も抱えたがっている訳だしね。500年前はそうだったでしょ?まぁ、あの時は王子であるアレックスもいたし、必然的にそうなってしまったけどね。」


「まぁ、確かにな。それに、里は元々フォーゼリアの領土内だったし、アレックスが俺を助けてくれなければ、里を滅ぼされた当時の俺は死んでいたから、フォーゼリアに義理があってフォーゼリアの戦力として魔王と戦っていたよ。」


「だけど、今回はちょっと状況が怪しいからね。集めた情報によると、やっぱり帝国は怪しいわ。どうも神殿のダンジョンが攻略されたみたいなのよ。」


アンが真っ青な顔になった。

「ま、まさか・・・、そんな事が・・・、ダンジョンを攻略出来る人間がいるの?」


【今からの話は念話でないと話が出来ないけど・・・】

ラピスが念話で話を続けた。

【フローリア様も完全には把握していないけど、ダリウスはどうやら魔族から人間に興味を持ったみたいね。過去に何度も魔族を魔王にして人間を滅ぼそうとしたけど、その度に勇者を含めた人間によってことごとく阻止されてしまっていたわ。人間の底力に興味を持ったみたいなの。】


【確かに、魔王が世界を掌握した事は無かったな。全てが勇者を筆頭にして人間に倒されていた。】


【だからよ、人間を魔王にして国と国とで戦争を引き起こそうとしているのでは?と思っているの。】


【まさか、そんな事を・・・】

アンの顔が更に青くなっている。


【そのまさかだと思うわ。人間は魔族に比べて人口が圧倒的に多いし、魔族だけで戦争するよりは遙かに効率が良いからね。ダリウスはそこを狙ったのでは?と思うのよ。この世界を滅茶苦茶にするには別に手段はどうでもいいからね。】


【それじゃ、神殿のダンジョンが攻略されたっていうのは?まさか、帝国がその情報を手に入れた事を知って、敢えて攻略出来るようにして、自ら人間に接触したと言うの?】


【アン、その可能性はすごく高いと思うわ。帝国が魔族の歴史書を手に入れて、魔王の力の源が分かったから、神殿を攻略していたのでしょうね。その力を欲しがっている帝国、そして、人間を滅ぼしたいダリウス、両者の思惑が一致したのかも?】


「そんな訳で、レンヤは国に縛られる事にしたくないのよ。勇者はあくまでも人類の守護者だし、人間同士の戦争に駆り出させる訳にはいかないわ。今はまだ情報も少な過ぎるし、レンヤの立場を自由にしたいのもあって、ギルド管轄にして国がレンヤに手出しする事を出来ないようにしたいのよ。」


「ラピス、事情は分かった。だけど、マナさんがどうして関係するんだ?」


「それはね、フローリア様からの提案なのよ。」


「提案?」


「そう、レンヤはギルド管轄になるからね。さっきもそうだったでしょう?あなたが勇者と分かった途端に受付嬢の態度がガラッと変わったし、しまいにはお誘いまでされたよね?」


「あぁ、そういえば・・・」


「どこのギルドに行ってもそんな感じになると思うのよ。あの糞魔法使いもそうだったからね。レンヤに取り入るなら手段も選ばない人も出てくる可能性があるのよ。かなりの高確率でね。だけど、マナだけはそうじゃないって言ってくれたの。」


「マナさんが?」


「そう、あなたも分かっているでしょう。レンヤが無能だと呼ばれていた頃からでもずっと親身になっていたし、変な下心は全く無かったからね。まぁ、別の下心があったのは間違いないけど、決してレンヤを利用しようとは思っていなかったわ。マナの優しさでレンヤは挫ける事も無く、見事に勇者になれたってね。挫ける運命もあったけど、そうはならなかった。マナがレンヤの運命の分岐点だったと・・・」


「そ、そんな・・・、私はただ・・・」

マナさんが赤い顔になっている。


「だからね、マナをレンヤの専属受付嬢にって言われたのよ。どこのギルドに行ってもマナがあなたの担当受付になるようね。もちろんマナの気持ちを汲んでの考えよ。」


(どこに行っても?)


「ちょっと待った!そうなると、マナさんは俺達と一緒に行動しなければならないぞ。このギルドだけでなく他の町に行くのだから、旅をする事にもなる。マナさんの今までの生活はどうなる?」



「レンヤ君・・・」



「マナさん・・・」


マナさんが嬉しそうに首を横にゆっくりと振った。

「私の事は心配しなくてもいいのよ。私は元々孤児院出身だし、身寄りは誰もいないの。今、住んでいる場所もギルドの寮だから、荷物もそんなにないし、それとね・・・」


何だ?マナさんがモジモジしている。


「さっきも言ったけど、レンヤ君さえ良ければ私の弟として一緒に住みたいと考えていたからね。一軒家をを借りて2人でね。半年前に初めて会った時からレンヤ君を弟にしたいと思っていたのよ。亡くなった弟に面影が似ているし、私、レンヤ君のお姉さんになりたいの。フローリア様には見抜かれていたけどね。」


(はいぃいいいいいいいいいいいいいいいい!)


ブラコンだぁあああああ!マナさんは間違いなくブラコンだ!それもかなりヤバイ方向で・・・


(気付かなかった・・・、俺をそんな目で見ていたなんて・・・)


でも、マナさんの優しさで俺は救われていたんだよな。その点には感謝するけど、いきなり姉になりたい宣言をされても・・・


マナさんがニコッと微笑んでくれる。

「だからね、私がレンヤ君の専属受付嬢になって欲しいと理事長からお話があった時は歓喜したわ。ずっとレンヤ君と一緒にいられるからね。フローリア様に言われたわ、あまり遠慮したらダメってね。このチャンスは私にとっては最大のチャンスなのよ。だから、喜んで引き受けたのよ。私はレンヤ君から離れたくないの。」


そしてペコリと頭を下げた。

「不束な姉ですが、末永くお願いします。」


ダメだぁぁぁ・・・、話の展開が凄過ぎて俺の頭では付いていけない。マナさんはそう言っているけど、アンはどう思っているのだ?ラピスはフローリア様に言われたから納得しているみたいだけど・・・


アンが俺から離れマナさんの前に立った。

マナさんがアンを見て微笑んでいる。

「ふふふ、レンヤ君だけでなくて、こんな可愛い妹も出来るのね。私の事はお姉さんと思っても良いからね。」


しかし、アンは真っ直ぐマナさんを見つめている。

「マナさんでしたっけ?あなたの本心が知りたいの。あなたはレンヤさんの姉の位置付けだけで満足してるの?それとも、それ以上の関係を望んでいるのかしら?返事によってはあなたへの対応を考えなくてはならないからね。」


マナさんがクスッと笑う。

「ふふふ、あなたには全て見透かされてしまっているのかもね。レンヤ君の姉になっても血は繋がっていないわ。その意味はアンジェリカさんも分かるよね?私はレンヤ君とずっと一緒に過ごしたいの、妻としてね。それが私の本心よ。レンヤ君が私を妻として受け入れてくれない限り私は単なる姉であり続けるわ。それ以上の関係は望まないし、レンヤ君に嫌われたくないからね。あなたやラピス様を出し抜くなんて思っていないから安心して。もし受け入れてくれてもあなた達には迷惑はかけないわ。その時は私は3番目で構わないからね。」


アンもクスッと笑った。

「ふふふ、マナさん、正直ね。素直にレンヤさんの奥さんになりたいって言ってくれて・・・」


何だ、あのヤキモチ焼きのアンがマナさんと仲良く話をしているぞ。しかも、マナさんが俺の奥さんになりたいって?

ブラコンを拗らせて結婚願望までになってしまっているのか?マナさん・・・、そんな事まで考えていたとは思っていなかったよ。


「ここまで正直に言われると、私も覚悟を決めないといけないようね。マナさん、レンヤさんはマナさんのおかげで勇者になる運命から外れる事は無かったわ。そして、私はレンヤさんと運命の出会いをしたの。マナさんに感謝しているわ。だから認めますよ、レンヤさんの妻になる事も私の姉になる事もね。」


「アンジェリカさん・・・」


「私は一人っ子だったから姉妹に憧れていたの。そして、母様も早くに亡くなってしまった。だからね、私も甘えていいかな?」


マナさんがコクッと頷くと両手を広げた。

嬉しそうにアンがマナさんの胸に飛び込んだ。

ギュッとマナさんがアンを抱きしめている。


「姉様・・・」


「アンジェリカさん・・・」


「アンって呼んで、敬語もいらないわ。」


「分かったわ。アン、あなたも大好きよ。ずっと一緒にいましょうね。」


「うん、姉様・・・」




「う~ん・・・、俺の意志に関係なく落ち着いてしまったな・・・」


ラピスがそっと俺の腕に抱きついてきた。

「あら、レンヤは嫌だったの?」

悪戯っぽく微笑んでいる。


「いや、そんな事は無いよ。マナさんにはとても感謝しているけど、いきなりだからなぁ~、ちょっと心の整理が出来ていないのもあるけどな。だけど、あの嬉しそうな2人を見ていると、マナさんを受け入れても良いと思っているよ。」


「私はレンヤが決めたなら何も言わないわ。」


「ラピス、お前はどうなんだ?アンとあれだけいがみ合っているのに、ライバルが増えるんだぞ。いつ血の雨が降るんじゃないかと思って心配だよ。」


「失礼ね、私達もそこまでバカじゃないわよ。マナに関しては、私達と全く違うタイプみたいだしね。仲良くやっていけると思うわ。アンも甘えられる人がいれば、少しは大人しくなると思うわ。」



「だけどねぇ~~~」



「ん!どうした?」


「レンヤには私を含めてもう3人の婚約者が出来てしまったじゃないの。ソフィアのポジションがあるのかな?って思ったのよ。」


そうだ!ソフィアがいたんだ・・・

ソフィアはずっと俺を待っている。500年もずっと・・・

ラピスと同じで重くて痛いだろうが、俺の中では既に妻にしても良いと思っている。

ここまで一途に俺の事を想ってくれているのは嬉しいのもある。



だけど・・・

ソフィアを無事に俺の妻に迎えるにはどうするか?ラピスはヤバイ奴だと言っているが、どこまで危ないレベルなのか分からない。既に3人も婚約者がいるし、その事でソフィアがどんな行動を起こすのか?最悪、血の雨が降るかも?俺の最大の試練かもしれない・・・

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