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246話 デミウルゴス再び②

「あの時の決着をつけましょう。そして、あなた達を皆殺しにしてあげるわ。」


デミウルゴスが優雅にラピス達へと微笑んだ。


だが!


そのデミウルゴスはかつてラピスと戦った時とは少し違っていた。


「あら?あの時に受けた傷はまだ癒えていなかったの?」


ラピスが微笑みながら話しているが、目元は全く笑っていない。


そう、その目の前にいるデミウルゴスだが、抜群のスタイルを誇る体のラインを強調するかのような黒色のボンテージ調の衣装を着ているは変わっていないかったが、顔の左半分だけが真っ黒な仮面で覆われていた。


「そうよ・・・」


そう呟いてデミウルゴスが仮面を外した。


「「「うっ!」」」


ラピスを始めソフィアもテレサも小さく声を上げた。


マスクを外したその下の素顔は・・・


左目の額から頬にかけてひどい火傷の痕が残っている。


「この部分だけはね、まだあなたの魔力が残っているのか完全に治らないのよ。こんな顔じゃダーリンに会えない・・・」


にちゃぁぁぁっと狂気を含んだ笑顔をラピスへと向けてくる。


「だからねぇ~~~、ラピス、あなたの存在をこの世界から完全に消滅させれば、この傷はやっと治ると思うの。でもね、そう簡単にはあなたは殺されないでしょうね。認めるわ、あなたは私が全力で倒さなければならない相手、私のライバルのフローリアと同格だとね!」


ラピスに微笑んだ後、ソフィアへと視線を移す。

ソフィアはいつでも行動出来るよう、グッと拳を構え臨戦態勢をとっていた。


「あの城で私の顔に傷を付けたのは忘れていないわ。それにね、あなたのこの構え、見覚えがあるわ。フローリアといつも一緒にいたフェンリル族の小娘・・・、絶対に忘れない!」


微笑んでいたデミウルゴスの表情が少し険しくなった。


「師匠を知っているの?」


ソフィアの視線が更に鋭くなる。


「知ってるも何も、神界で私を封印したのはフローリアとあの小娘なんだからね。実力では私とフローリアは同じくらいなのに、あの小娘が加勢してくれたおかげで私は負けたのよ。この屈辱・・・、忘れることはないわ。それにあの小娘めぇぇぇ、神界を出た私に弟子をぶつけるなんて、どんな意地悪なのかしら?そう思える程にタイミングが良すぎるのよ。」


スッとデミウルゴスが人差し指をソフィアに向ける。


「あなたも消滅確定よ。あの小娘に付けられた傷と同じ場所に付けられるなんて屈辱以外に何もないわ。つくづくフローリアとその仲間に因縁があるなんてね。嬉しくない因縁だわ。」


ニヤリとソフィアへと微笑んだ。


「あの時の憂さはあなたで晴らしてあげる。いい声で鳴いてくれないと、もっと酷い目に遭わせてあげるわ。うふふふ・・・」


その瞬間、どす黒いオーラがデミウルゴスから吹き出した。


「アレは堕天のオーラ!」


ラピスがサッとソフィアの前に立つ。


「ラピス!」



ヒュン!



「ぐっ!」


ソフィアの前に立ったラピスに何か黒いものが巻き付いた。


「いつの間に?」


「ふふふ・・・、親友を庇うとなったら隙だらけだったわね。奥の手を持っているのはラピス、あなただけではないのよ。」


ニヤリとデミウルゴスが笑ったが、その右手には黒い紐のようなものが握られていた。

その紐はラピスへに巻き付いている紐と繋がっていた。


「あなたは最後に消滅させるから、隅っこで大人しくしていなさい。」


グイ!


「きゃぁあああああああああああ!」


デミウルゴスが紐を持っている手をクイッと上に掲げると、縛られているラピスが宙に浮かんだ。

そのままソフィア達の後ろへと飛ばされ、ゴロゴロと床を転がってしまう。

何とか止まり、紐を解こうとしているがビクともしない。


「このぉおおおおおおお!だったら魔法で!」



・・・



「嘘・・・、魔法が発動しない・・・」



「くくく・・・、そうよ、これは単なる拘束具じゃないのよ。これはねぇ、私のスキル『愛の束縛』よ。この拘束にかかってしまえばどんなスキルも魔法も使用出来ないの。芋虫のように這いつくばる事しか出来ないわ。あなたの仲間が私に無残に殺される様を見ていなさい。」


にやぁとデミウルゴスが笑う。


「そうそう、あなたのエンシェント・エルフの力も封じているからね。魔眼も残念ながら使えないわ。うふふ・・・、あぁあああああ!楽しいわ!この前に受けた屈辱をやっと晴らせるしねぇええええええええ!」


「くっ!」


ギリギリとラピスが歯軋りをしながら懸命に体を動かしている。

しかし、全身に巻き付いている紐は全くビクともしない。


「ラピス!」


ソフィアが慌ててラピスの方へと振り向こうとした。



ヒュン!



空気を切り裂く音が響く。


「なっ!」


ソフィアが慌ててジャンプするが、ラピスの方向とは正反対の方向へと飛んでしまう。

着地するが、鋭い視線でデミウルゴスを睨んだ。


「そう簡単にあなたを行かせる訳にいかないわ!魔眼の使えない状況なら、あなた達2人くらいなら私でも勝てるのは間違い無いからね。」



「そうかしら?」



ソフィアもデミウルゴスと同じようにニヤリと笑う。


「ラピスを封じたからって私を舐めていない?」


グッと右拳と右足をを前に出して構えた。

しかし、デミウルゴスの笑い顔は変わっていない。


「舐めているのはどっちの方かしら?その構えはよく理解しているわよ。『白狼神掌拳』、散々と手こずらせてもらったし、封印されている間はずっと復讐だけを考えていたわ。」


ビシッ!


「きゃ!」


いきなりソフィアの足元の床が弾ける。


「あら?そんな怖い顔をして以外と可愛い声を出すわね。その声でダーリンを惑わせている?だったらぁあああああああ!」



ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!



「う!嘘ぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


ドォオオオオオオオオオオオン!


咄嗟にソフィアがジャンプしたが、今までソフィアが立っていた床が弾けたように爆発した。



「こ、こんなのって・・・」



かなり離れた場所に着地したが、今まで立っていた場所は床が抜け下の階の広間が丸見えになっている。


ギリっとソフィアがデミウルゴスを睨む。


「何て破壊力よ・・・」



「ふふふ・・・、どう?」


ソフィアとは対照的にデミウルゴスはにこやかに微笑んでいる。


シュン!


いつの間にかデミウルゴスの右手に漆黒の長い鞭が握られていた。


「このクィーンズ・ウイップの破壊力は?軽く撫でただけでもこの通りよ。」



ヒュン!



その鞭が一瞬で消えた。


「くっ!」


ソフィアが咄嗟に顔を横にずらした。

しかし、彼女の頬にうっすらと傷がつき血が流れて始めた。


「見えない・・・」



「さすが白狼神掌拳の継承者だけあるわね。見えずとも気配だけで避けるとは・・・、あなたの顔半分を吹き飛ばすつもりだったのにね。少し評価を改めないといけないかも?」


デミウルゴスはニタリと笑い、引き戻した鞭を両手に握り、その鞭をペロリと舐めた。


「この鞭はねぇ~~~、私の魔力で作られているのよ。そして、堕天のオーラで強化され、神器にも劣らない強靭さと攻撃力を誇るわ。だからね・・・」



バシッ!



「何のぉおおお!」


ソフィアへと飛んできた不可視の鞭を右手で掴み取る。

その行動にデミウルゴスは一瞬だけ驚愕の表情になったが、すぐに笑みを浮かべた。


「これはこれは・・・、まさかそう簡単に私の鞭を見切られるとは驚きよ。たかが人間がここまで成長するとは・・・」


「人間を舐めないで!これであなたの鞭は封じたわ!今度は私のターンね!」


しかし、デミウルゴスは笑みを崩していない。


が!


突然、表情が険しくなりソフィアを睨みつける。


「人間がぁぁぁ・・・、図に乗るな!サキュバスの頂点であるクイーン、そして闇の女王と呼ばれるまで上り詰めた私の力を舐めるなぁああああああああああああああああああ!」


左手にも鞭が出現したが・・・


「そ、そんなの・・・」


ソフィアが驚愕した表情でデミウルゴスを見ている。


「誰が鞭の数は1本だと言ったの?この鞭は私の魔力で作られているのよ。いくらでも何十本、何百本も作れるのよ!それにね!あなたは徒手空拳の使い手!遠距離攻撃の私の鞭とは最悪の相性よ!私の鞭捌きの前では何も出来ずにボロボロになるのよ!」



「サウザンド!ウイップ!」



ソフィアの全身にデミウルゴスの左手から伸びた何十本もの漆黒の鞭が巻き付いた。


「あぁあああああああああああああああ!」


ギリギリと締め上げられ苦悶の表情になっている。



「こんなのぉおおおおおおおお!」


テレサがミーティアを構えソフィアへと近づく。


「ザコは引っ込んでなさい!」


デミウルゴスの右手に握られていた鞭が一瞬消え、新たに現れた鞭をテレサへと振った。


「はっ!」



ガキ!



「何ですって!」


テレサへと伸びた鞭を切り払おうとミーティアを振ったが、鞭を切る事も出来ず逆にテレサが吹き飛ばされてしまう。


「くっ!」


床をゴロゴロと転がりしばらくして止まった。

ミーティアを床に立てヨロヨロと起き上がるが、かなりのダメージを受けているようだ。


「あら?たったこれだけの事でボロボロになるなんて、あなた、ラピス達と比べれば圧倒的に弱いのね。」



「五月蠅い・・・」



ボソッとテレサが呟く。


「はぁ?人間風情が神に向かって何を言ったのかしら?」


デミウルゴスの視線がスッと鋭くなる。


「五月蠅いって言ったのよ!」


テレサが叫んだ。


「確かに、私が弱いのは間違い無いわ。この魔王城に乗り込んだメンバーの中では最弱なのは自覚している。」


ギュッとミーティアを正眼に構える。


「だけどねぇえええええ!私は勇者レンヤの妹!テレサ!兄さんの背中は私が守ると決めているのよ。だからね、いくらあんたが神だろうが怯む暇はないのよ!私の前に立ちふさがる者はどいつもこいつも切り進むのみ!弱いなら強くなれば良いだけよ。あんたの強さを!その強さを踏み台にして私はもっと強くなる!」




「素晴らしいわ・・・」




デミウルゴスがとても嬉しそうに微笑んだ。


「さすがはダーリンの妹さんね。その高潔な心・・・」


ソフィアに巻き付いている大量の鞭を握った左腕を軽く上に振った。


「きゃぁああああああああああああああ!」


ソフィアが簀巻きにされた状態のまま高く飛ばされ、そのままラピスの隣まで転がされてしまう。


「あなた達はこの戦いの見届け人ね。ふふふ・・・」



ブワッ!



いきなりデミウルゴスから大量の漆黒のオーラが噴き出た。


「あなた、何を甘っちょろい事を言っているの?戦いは生きるか死ぬかのせめぎ合いなのよ。絶望的な力の差の前にあなたがどう頑張るって?そんな状況で私を踏み台にして強くなろうって?」


右手に1本の鞭が現れる。


「本気の私との力の差!見せてあげる!ダーリンの妹だからせめてもの情けよ、痛みを感じる事も無く首を落としてあげるわ!」



ヒュン!



「テレサ!」

「テレサちゃん!」


ラピスとソフィアの悲鳴が響いた。



バシィイイイイイイイイイ!



テレサとデミウルゴスの間に激しい衝突音が響く。



ボト!



2人の間に鞭の先端が落ちた。


シュゥゥゥ・・・


黒い霧となって消滅した。


「嘘・・・」


デミウルゴスが信じられない表情で、手に握られている鞭を見つめた。

その鞭の先端は消滅している。


「単なる人間が私の本気の鞭を見切っただと・・・」


下段にミーティアを両手で構えたテレサがニヤリと笑った。


「私を舐めないで。何度もソフィア姉さんの前で見せてもらったからね。私に同じ技は2度と通用しない。」


そしてミーティアを右手に握り直し剣の切っ先をデミウルゴスへ向ける。


「これが神の剣術無蒼流よ。あなたこそ覚悟は出来て?」


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