244話 激突!死天王⑦
何て強烈な冷気なんだ・・・
驚きの感情しか出てこない。
神域魔法だけあって、ラピスが行使する極大魔法であるアブソリュート・ゼロよりも強力だと実感する。
単に対象を凍らせるだけでなく、物質を構成している繋がりそのものをも凍らせ破壊し、存在をも崩壊させてしまうなんてな。
俺とテレサが使える無蒼流の『無塵斬』も、物質を構成している原子そのものを破壊する技だ。
エメラルダが使った魔法と原理は似たようなものだろう。
神の技って本当にえげつない。
なんせ物質としての存在そのものを消してしまうからな。
ブルッ!
500前の戦いで、エメラルダから自分達がそんな技を受けてしまうと思うと寒気がしてくる。
あの頃のエメラルダはいくら強くても殺し合いは苦手だったようだしな。
(本気のエメラルダの相手をしなくて良かったよ。)
まぁ、そんな事があったから、今、こうしてエメラルダと一緒にいるんだしな。
「エメラルダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
アンが泣きながらエメラルダへ駆け寄り抱き着いた。
「良かった!無事で良かったよぉおおおおおおおおおおお!」
グリグリとエメラルダの胸に顔を押してけている。
「おいおい、ここまで心配しなくてもなぁ・・・」
「だってぇぇぇぇぇ、本当~~~~~に心配したんだからぁぁぁぁ、エメラルダが凍りついた時は心臓が止まりそうだったのよ。」
その言葉にエメラルダが優しく微笑んだ。
「すまんな。あの手の連中は普通に勝っても絶対に納得しないからな。最悪、レイスやゴーストのような怨霊となって復讐に来るかもしれん。だから、徹底的に力の差を見せつけて勝たないといけないのだよ。」
アンの頭をポンポンと軽く叩く。
「この戦い方はお前の父でもある魔王様から直々に教わったのもあるからな。
『四天王たるもの常に圧倒的な勝利を!』
その言葉は今でも忘れていない。」
そして、俺へと視線を移した。
「まぁ、勇者パーティーにはボロボロに負けてしまったけどな。」
少し苦笑いで俺を見ていた。
「そんな事は無いよ。エメラルダ、あの時のお前は命のやり取りは苦手だった事は分かっていたさ。そんな優しいお前だからアレックスも助けたのだろうな。」
俺の言葉にエメラルダの頬が少し赤くなった。
その赤い顔にアンが気付きニマニマと笑っていたけどな。
「エメラルダ、浮気はダメだよ。今はレンヤさんの奥さんなんだからね。ふふふ・・・、さっきまでの凛々しいエメラルダとは正反対ね。そんな可愛いエメラルダなんだし、レンヤさんが惚れちゃうのは仕方ないね。」
「こ、こら・・・」
更に照れて赤くなっているエメラルダがとても可愛いと思ったのは俺だけ?
エメラルダと目が合ってしまったけど、何だろう?ちょっと気まずい感じだよ。
クイッ!
(ん?)
エメラルダの後ろにシヴァに抱き着いていた白い髪の女の子が立って服を引っ張っている。
「どうした?」
その子にエメラルダもアンも気付き、アンがエメラルダから離れる。
エメラルダが女の子の前にしゃがむとニコッと微笑んだ。
「良かったな。」
『うん!ありがとう!お姉さん!』
その子は元気良く返事をし、嬉しそうにエメラルダに抱きついた。
「お姉さんって・・・、この歳でそう言われるとは・・・」
少し苦笑いしているエメラルダだったが、それでもとても嬉しそうな感じだよ。
その光景をニコニコした表情でシヴァが見つめている。
『ふふふ・・・、フラウめ、気の利いたセリフを・・・』
シヴァが呟いた言葉を俺もだけどアンも見逃さなかった。
「どういう事です?」
アンが小さな声でシヴァに尋ねると、シヴァがニヤリと笑う。
どうして?と思ったけど、次の言葉で納得した。
『我ら精霊は見た目は生まれてからそのまま変わらないのだ。だからな、フラウも見た目はあんな感じだが、実際にはこの世界が生まれた時から存在しているのだよ。私もそうだけどな。』
(マジかい・・・)
じゃぁ・・・
思わずアンと見つめ合ってしまう。
2人でゆっくりとエメラルダへと視線を移す。
エメラルダに嬉しそうに抱きついている精霊の女の子だけど・・・
どう見てもエメラルダがお姉さんで、妹が仲良く抱きついている姿にしか見えないぞ!
だけど、実際は・・・
そんな子に『お姉さん』言われてしるし・・・
またもやアンと視線が合った。
(この事は知らなかった事に!)
そう思った瞬間にアンも頷いてくれたよ。
アンと心が通じ合った瞬間だった。
『人間にあれだけの目に遭ってもなお人間を慕うか・・・、いや、彼女だからこそかもな・・・』
シヴァがエメラルダへと体を向ける。
『フラウよ、お前はこの者達と一緒にいるのか?』
そう話すと、女の子は『うん!』と元気よく頷いた。
『お姉ちゃん達と一緒にいたい!』
そう言って、ギュッとエメラルダの腕に抱きついていた。
『分かった。それでは元気でな。』
カッ!
シヴァの全身が青白く輝き吹雪に包まれる。
すぐに吹雪は消え去ったが、シヴァの姿は掻き消えたかのようにいなくなっていた。
(妖精界に戻ったのだろうな。)
その後、女の子が俺達をジッと見つめているのに気付いた。
アンも気が付いたようで、ニコッと微笑むと嬉しそうに女の子が俺達の方へと駆け寄ってくる。
そのまま俺にギュッと抱きついた。
『お兄ちゃん、私の為に怒ってくれてありがとう。とても嬉しかった。』
すぐ隣にアンがしゃがんで女の子の頭を撫でている。
『お姉ちゃんもありがとう。』
「もう大丈夫だからね。」
アンが微笑むと女の子は俺から離れアンへと抱きついた。
『うん!ありがとう!それにね、お姉ちゃんも温かい・・・』
「温かいって、あなたは大丈夫なの?」
『大丈夫、私はね、フラウって呼んで。温かいってのは、一緒にいると気持ちがポカポカになるんだ。こんなのは初めてなの・・・』
「良かったね。好きなだけずっと一緒にいてもいいのよ。」
『うん!シヴァ様が昔、人族としばらく一緒にいたって事があったけど、シヴァ様もこんな気持ちだったのかな?お姉ちゃん達のおかげで人族を嫌いにならなくて良かった・・・』
さすが子供の扱いに長けているアンだ。
すぐに子供心を掴んでいる。
(ん?)
フラウって見た目は子供だけど、実際の年齢は俺達とは比べ物にならないくらいに年上だったじゃないか?
まぁ、見た目もしゃべり方もマーガレットと同じくらいにしか見えないから、子供扱いでも大丈夫そうだな。
こうしアンに抱き着いている姿を見ると、本当に仲の良い姉妹にしか見えないよ。
(だけど、この子は普段はどうするのだ?ずっと顕現化したままか?)
そんな疑問はすぐに解決したよ。
『ずっとこの姿は無理だから、あっちのお姉ちゃんと一緒にいるね。とっても居心地が良さそうだよ。』
フワッ
アンの手から離れ宙に浮くと全身が雪に包まれ、小さな雪の吹雪に変化した。
そのままエメラルダの胸に吸い込まれてしまう。
「エメラルダ、大丈夫?」
アンが心配そうに尋ねているが、エメラルダの方は満足そうに頷いた。
「大丈夫どころか、今、『雪の女王』の称号を得たぞ。ふふふ・・・、これでみんなから置いていかれないくらいに強くなれたかな?」
(マジ?)
フラウを仲間にした事によってエメラルダがパワーアップしたようだった。
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「さて・・・、派手に暴れますかね。」
ソフィアがグッと拳を構えた。
「サーチが使えないけど、私でもこの扉の先に誰かがいるくらいは分かるわ。」
ラピスが杖を構えている。
「姉さん達、あまり派手にしないでね。私の分が無くなっても困るから・・・、ふふふ・・・、兄さんもいないし、少しは羽目を外しても大丈夫よね。」
テレサがにたぁ~~~と、うっすらと口角を上げミーティアを右手で構えていた。
3人の前にはレンヤ達が入ったロザリアがいた部屋と同じくらい大きな扉がある。
「よっしゃぁああああああああ!唸れ!私の右拳!一撃で吹き飛ばすわよぉおおおおおおお!」
ソフィアが突きを放とうと右手をグッと後ろに引き、左足を前に踏み出そうとした瞬間・・・
「ちょい待ち!」
グイッ!
「うがっ!」
ラピスがソフィアの髪の毛を掴むと、ソフィアの体だけが前に進もうとした為に頭だけが後ろへと下がるような格好になった。
カエルのような悲鳴を上げ、首を押さえ床をのたうち回っている。
「うわぁぁぁ、痛そう・・・」
そんな光景をテレサが青ざめた顔で見ていた。
「う~、死ぬかと思ったわよ。」
ソフィアが首を押さえジト目でラピスを睨んでいる。
「ラピス!この止め方は止めてって何度も言っているでしょうが!むち打ちどころか、首の骨が折れるわ!本気で私を殺す気にきてる?」
「あんたがこれしきの事で死ぬようなタマじゃないでしょうが!」
そして扉の前に立った。
「ここは私に任せて。レンヤに教えてもらった気配察知で2人の強力な魔人の気配を感じるわ。それ以外のザコが100人近くかな?どう?」
ラピスがチラッとソフィアに視線を移す。
「正解よ。気配察知も上手くなったじゃないの。」
ソフィアがグッと親指を立てるとラピスが嬉しそうにしている。
「皇帝の間までの案内役は1人しかいらないし、建物の構造からしてこのルートが1番の近道っぽいしね。まずは1人目は徹底的にすり潰すわ。」
「分かったわ。この首の分も足し算してあいつ等に払ってもらう事にするわ。」
そう返事をしてソフィアがラピスの後ろに立った。
ソフィアの後ろにはテレサがミーティアを構えて立っている。
「私対策か知らないけど、この扉に対魔法用防御結界を張っているけど無駄よ!そんな結界ごと吹き飛ばしてあげる!」
扉の中央にまるで太陽のような激しく輝く炎の玉が浮かび上がった。
「全てを吹き飛ばせぇえええええええええ!ビッグ・バン!」
ドォオオオオオオオオオオオン!
激しい爆発音と衝撃が起き、扉が木っ端みじんに吹き飛んだ。
煙が充満している扉へとソフィアが飛び込む。
「さぁあああああああああ!蹂躙よぉおおおおおおおおおおおおおおお!皆殺しにしてやるわ!」
「どっちが悪役なのよ・・・」
テレサが苦笑いをしてソフィアの後姿を見ていた。
「勇者パーティーよ、俺達にかかれば・・・、ぐふふふ・・・、泣き喚く姿を想像するだけでも涎が・・・」
部屋の中央に2人の男の魔人が立っている。
2人揃ってニヤニヤと笑いながら扉を見ていた。
その後ろにはズラッと100名余りの魔人達が武器を構えて立っていた。
ドォオオオオオオオオオオオン!
いきなり扉が大音響を上げながら爆発した。
「な!何が起きた?!」
魔人達がいきなり目の前で爆発が起きたのでおろおろしている。
「あの扉を破壊した?死天王最強のロザリアでさえも壊せない扉を?」
しかし、死天王と呼ばれるだけの2人の魔人はそんなにも慌てていない。すぐに剣を構え腰を屈め戦闘態勢に入った。
シュン!
「な!」
扉が爆発し煙の中から1人の人影が飛び出す。
魔人の1人がその姿に気付き剣を振り下ろそうとしたが遅かった。
「遅い!」
一瞬にしてソフィアが剣を振りかぶった魔人の前まで移動する。
ダン!
左足を床に踏みつけ体を深く沈み込ませ、右腕をグッと後ろへ引き床すれすれの超低空のアッパーを放った。
ズム!
「お”!」
憐れ!魔人の股間に深々とソフィアの右拳がアッパーの軌跡を描きめり込む。
「どっせぇええええええええ!」
ソフィアがそのまま拳を頭上へと振り上げる。
魔人が最大の苦痛を味わうようにと、ソフィアは玉潰しの攻撃を気を失うギリギリまでの痛みに抑えている。男を終わらされてしまい気が狂いそうになる激痛だったが、いっそ気を失った方が幸せだったかもしれない。
「あ”あ”あ”あ”あ”ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
情けない悲鳴を上げながら魔人が天井へと飛び上がった。
「真っ向唐竹割ぃいいいいいいいいいい!」
ザン!
いつの間にかテレサが魔人の頭上までジャンプし剣を振り下ろした。
「あひゃ!」
脳天から股間まで一気に線が走り体がズレ始めた。
ゴォオオオオオオオオオ!
巨大な炎の鳥が魔人の頭上から襲いかかり、あっという間に呑み込んだ。
「フェニックス!プロミネンス!」
杖を前に構えているラピスが、既に消滅してしまった扉のところに立っていた。
塵一つ、細胞一つ残さず死天王の1人の魔人が、ラピス達3人の連携であっさりと消滅した。




