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241話 激突!死天王④

「よし!取り付いた!」


俺達はテラスのガラスのドアをぶち破り部屋へと飛び込んだ。


俺の後ろからアン達が次々と部屋の中へと飛び込んでくる。

目の前に大きなドアがあるが、そのドアの先からの気配が感じられない。


「レンヤ・・・」


ラピスが難しい顔で俺を見ている。


「どうやジャミングされているみたいね。」


「そうみたいだ。サーチにも何も引っかかってこない。まるで霧の中にいるような錯覚に陥るな。」


「やっぱりレンヤもそんな感じね。」


ラピスとそんな話をしていると、エメラルダがズイッと前に出てくる。


「ここにいる全員がこの城内のルートを頭に叩き込んでいるし、サーチを切って目視と気配探知で進めば問題は無いだろう。かつての勇者パーティーが魔王城を攻略した時のようにな。」


そしてニヤリと笑う。


「500年前は魔王様を守護して魔王城の守りの要になっていた私が、こうして魔王を討ち取る為に魔王城となったこの城に乗り込むなんてな。まさか立場が正反対になるとは、長生きしてみるものだ。」


「ふふふ、私もそうだけどね。」


アンの方は嬉しそうに笑っている。


「私とソフィアは魔王討伐は2度目ね。」


「そうね。」


ラピスの言葉にソフィアが頷く。

そしてキッとソフィアが俺を見つめる。


「レンヤさん・・・」


(何だ?)


「今回は誰一人欠ける事無く戦いを終わらせて帰りましょう。」



(そうだな・・・)



かつての魔王城での戦いで俺は死んだ。

その時のソフィアやラピスの悲しみはどれほどのものか?


ヤンデレになってしまった程に彼女達の心の傷になってしまったのだよな。




そんな気持ちには二度とさせてはいけない!




「もちろんだ、今回の戦いは全員が無事に戻る!それが大前提だよ。」


ソフィアがギュッと俺に抱き着いた。

その目には涙が溜まっている。


「レンヤさん、今度は私の身に何があっても助けないで。そうならないように私は強くなったの・・・」


俺もソフィアを抱きしめる。


「分かっているよ。それにな、今のソフィアの強さはよく分かっているしな。だから、安心して俺の後ろを任せられる、頼んだぞ。」


「うん!」


ソフィアが元気よく頷き離れると、今度はラピスが抱きついた。


「レンヤ、私も同じ気持ちよ。だからね、絶対に死なないで・・・、レンヤってすぐに誰かを庇う癖があるからね。」


「そ、それはな・・・」


そう言われてもなぁ・・・

やっぱり目の前にいる人が危機になったら体が勝手に動いてしまうし・・・


「そうね・・・」


今度はクスッとアンが笑った。


「私は初めて会ってその後で広間に戻ったら、その部屋で復活したデスケルベロスに爪で引き裂かれそうになった時にね。レンヤさんが私を庇って死の寸前で勇者に目覚めたのよ。かっこよかったけど、もう二度としないでと思ったわ。」


「私もね・・・」


テレサもニヤニヤと笑って俺を見ている。


「私も兄さんに間一髪で助けてもらったわね。その時の兄さんはまだ普通の男の子だったし、おかげで大怪我をして町中が大騒ぎだったわねぇ・・・、無鉄砲なところは全然変わっていなかったのね。」


後ろからテレサが抱きついた。


「でもね、そんな勇敢な兄さんが大好き・・・、だけど、無理をしないでね。私も兄さんの背中を守れるようになるくらいに強くなったから・・・」


「テレサ・・・」



何だ?部屋の一角だけがどんよりとした空気になっている!

どうして?


(あ!)


そこにはエメラルダが拗ねて膝を抱えて座っていた。


「私は・・・」



「まぁまぁ!エメラルダ!しっかりして!」


アンが一生懸命フォローをしているよ。



しばらくして何とかエメラルダの機嫌が直って、再び外の通路に繋がる扉の前に立った。


(う~ん、本当に締まらない展開はいつもの事だな。)


まぁ、そのおかげで変に緊張もすることなく戦いに臨めるのもある。



「よし!行くぞ!」


アーク・ライトを構えドアを切り裂くと、左右に轟音を立てながら通路側へと倒れた。



ザザザッ!



「むっ!」


部屋を出た時は一直線の通路だったが、しばらく進むと二手に分かれる。


「これはリーゼロッテから聞いてないわね。情報だとまだ一直線の筈ね。こうして塞がれて左右に分かれる道・・・、まぁ、あれからかなりの時間が経ったし、少しは手を加えていてもも不思議でないわ。」


ラピスが左右の道を見渡している。


「どうする?」


「二手に分かれましょう。サーチは効かないし、どちらかが見当違いの場所に繋がっていても、最悪でもどちらかは辿り着けるんじゃない?その後で転移で移動して合流するだけだしね。これは確実に私達の戦力を分断する仕掛けに間違い無いわ。でもねぇ・・・」


にやぁ~~~と、ラピスが黒い笑みを浮かべる。


「私達の力を過小評価してない?こんなもので足止めをしようなんて無駄だと分からせてあげるわ。ふふふ・・・」


「そうね・・・」


ソフィアもニヤリと笑う。


「最悪は壁をぶち抜いて進めばいいだけだしね。どうせこの先、どちらに進んでも強敵が待ち構えているのは間違いないわ。」


グッと拳を握る。


「罠くらい噛み砕いてあげるわ。誰を相手にしてしまったのか分からせてあげる。」


こんな状況でも冷静にいるなんて、、本当に心強い仲間だよな。

妻としてもパーティーメンバーとしても最高だ。


「よし!俺は右側へ行く!」



・・・



・・・



・・・



「何で全員が俺の後に付いてくる?二手に分かれるって言ってなかったか?」



「「「だってぇぇぇ~~~~~」」」



みんなが可愛らしく上目づかいで俺を見てきた。



「はぁ~~~~~」




 ◆◆◆




「ふふふ・・・」


「やはり日頃の行いかな?」



俺の隣でアンとエメラルダがニコニコしながら一緒に歩いている。


全員が俺の後ろに付いてきてしまったので、結局はくじ引きでチーム分けを行った。

俺を含めてメンバーは6人、3人づつに分ける事になり、


(いやぁ~~~)


あのくじ引きは正直生きた気がしなかった。

あいつらは今ままでの中で一番の本気モードで臨んでいた気がした。

多分だけど、あの時に『もし』魔王や邪神がいても、あいつらに瞬殺されるのでは?と思う程に恐ろしい空気が張り詰めていたよ。


(恐ろしや・・・、恐ろしや・・・)


しかもだ!

俺達のと別れ際には、


「この憂さ晴らし、どうしうようかしら?簡単に消し炭にしても面白くないわね。」

「そうねぇ~~~、徹底的に虐めてあげないと気が済まないわ。玉潰しはもちろんだけど、地獄のキャメルクラッチで胴体を真っ二つにしようかしら?」

「このミーティアが血を欲しているわ・・・、ふへへへ・・・、どいつを血だまりの中に沈めてあげようかな?」


こんなセリフをブツブツと言いながら別れたのだが・・・


(ある意味、あいつらと遭遇した魔人に同情する。)



こうして俺とアン、エメラルダと通路を歩いていると、目の前が行き止まりになり大きなドアがあった。

ドアを開けない限り俺達は引き返すしか方法が無い。


「アン、どう思う?」


「間違い無く誘いでしょうね。」


「やっぱりだよな。」


「今度は私がやるわ。」


アンがドアにそっと手を添えた。


「はっ!」



ドォオオオオオオオオオオオン!



轟音を響かせドアが消し飛んだ。


(おいおい、ソフィアみたいな気でドアを吹き飛ばしたのか?)


「スッキリしたわね。」


嬉しそうにアンが俺に微笑んでいる。


「アン・・・、いくらなんでもやり過ぎだぞ。」


エメラルダが少し呆れた顔でドアが無くなった部屋の入り口を見ていた。


「大量の魔人が中で待ち構えていたらどうする?少しは慎重に進めないとな。」


「うん・・・、ゴメン・・・」


エメラルダの説教にアンが少しバツの悪そうな顔になった。


「まぁ、ここまで見事にぶっ飛ばせば、ドアの前に待ち構えていても一緒に消し飛ぶだけだな。ホント、どれだけ天井知らずに強くなるのだ。羨ましいしかないよ。」


アンのあまりにもの非常識ぶりにエメラルダが少し呆れていたよ。



「さて、進むとするか。今の見た目では部屋には誰もいないな。」


そう思って部屋に入りグルっと周りを見渡すと、かなり広い部屋のように見える。

その部屋の奥には今、吹き飛ばしたドアと同じ大きさのドアが見える。


「どうやら、単なる部屋のようだな。」


そう思って再び足を踏み出し歩き始めようとした。



「レンヤさん!止まって!」



エメラルダが急に叫んだ。



ピッ!



「うっ!」



(これは?)


俺の首に薄く傷が付き、タラリと血が流れる。


「良かった・・・」


俺へと叫んだエメラルダがホッした顔で胸を撫で下ろしている。


「何だ、これは?」


「トラップね。目に見えないくらいに細い糸が部屋中に張り巡らされているわ。気が付いたから良かったけど、何も知らずに突っ込んだらあっという間に全身がバラバラにされてしまうわ。」


「エメラルダ、じゃぁ、このトラップはどうすれば良いの?普通じゃ見えないくらいに細い糸よ。見落としでもして首を刎ねられたらシャレにならないわ。」


アンの言葉にエメラルダがニヤリと笑い、俺達の前に出た。


「大丈夫よ。任せて!」


スッと右手の掌を前に向けた。



「ダイヤモンドダスト!」



極寒の冷気がエメラルダの掌から発せられる。



ピキィイイイイイイン!



「これは!」


思わず声が出てしまう。


部屋中に張り巡らされた糸がエメラルダの魔法の冷気で凍りつき、霜が糸に付いてキラキラと輝きハッキリと見えるようになっている。


「どう?」


エメラルダがドヤ顔で俺達へと顔を向ける。


「さすがエメラルダね。かつての魔王四天王の肩書きは伊達ではなかったね。」


アンが嬉しそうに微笑む。


「それじゃ、邪魔な糸はこうね!」


いつの間にかデスペラードを構え一気に真横に振りかぶった。


スパァアアア!


凍りついた糸がことごとく切り刻まれ床へと落ちていく。


「これであのドアまで行けるわ。」


アンがドヤ顔で俺に『褒めて!褒めて!』と訴えるようにしているよ。

なんだろう?アンに尻尾が生えてブンブンと振っているような光景が見える。


(ははは・・・)



再び前に進もうとしたが・・・


(むっ!)


天井に気配を感じる。


アンもエメラルダも気付いたようだ。

全員が一斉に天井へと目を向けた。


「女?」


そう!とても妖艶な女性が天井に張り付いている。

まるで悪い方向に色気が向いたローズのようだ。確かにとてつもない妖艶な色気だが、あの色気は危険な香りがしてヤバいと俺の本能が訴えている。

まぁ、そんな奴とローズを比較してしまうとローズの方が怒りそうだな。

その女はまるで重力が天井に向いているかのように四つん這いになっていた。


「残念だったわね。」


ニチャ~~~と薄気味悪い笑顔を俺達に向けてくる。


(こいつがこの部屋に仕掛けた糸のトラップの?)


四つん這いになっていた姿だったが、ふわりと天井から離れゆっくりと床へと下りてくる。


「宙に浮かんでいる訳じゃないわね。」


アンが女から目を離さずジッと見つめている。


「アン、アレはマナのあれと同じじゃないの?このトラップといい、宙に浮かぶのといい・・・、まるでマナの戦い方を見ているみたいよ。」


エメラルダが女をそう分析していたが、俺もそう思った。

間違いなく糸使いのスキル持ちだろう。

しかも、かなり高度な技術を持っている感じだ。



スタッと床へと下り立っていた。

相変わらず妖艶な笑みを浮かべているが・・・


(ん?)


何だろう?女の視線が俺へと集中しているような気がするけど、気のせいか?


いや!違う!

絶対に俺に集中している!


「ふふふ・・・、あなたがあのデミウルゴスの想い人ね。確かにいい男だわ。」


(やっぱりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!)


「待て!デミウルゴスだと?」


何でこいつからその名前が出てくる!


「そう、半端者の魔神の事ね。ふふふ・・・、可笑しいわよ、サキュバスクイーンなのに男を知らないなんてね。サキュバスは男の精を吸収して格を上げていくのよ。それなのによ、想い人以外には体を許さないなんてね、バッカじゃないの?」


何だろう、確かにデミウルゴスは敵だけど、こいつの話を聞いているとバカにされているようで腹が立ってきた。


「それじゃ、貴様はそれだけの格を得たという事か?」


エメラルダが冷ややかな目で女を睨んでいる。


「そうよ、私はねぇ、サキュバスの因子を組み込まれ、数多の男の精を喰らい尽くしてきたわ。どの男も最後には・・・」



ドス!



「黙れ!そんな話は反吐が出る!」


エメラルダが魔法を放ち、巨大な氷の柱が女の前に突き刺さった。


「なかなかの魔法ね。」


ニヤリと女が笑う。


「だけどね、私の足元にも及ばない羽虫が何を騒いでいるのかしらねぇ~」


まただ!

俺をジッと見つめている。


「くくく・・・、何たる幸運・・・、あのデミウルゴスが狙っている男を喰えるなんてね。どれだけの格が上がるのかしら?最高の男を喰って!サキュバスクイーンを超えるのよ!私は魔人から真の魔神になってダリウス様にぃいいいいいいいいい!愛されるのよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」



グバァアアアアア!



「何だと!」


女の口が耳元まで大きく避け、ノコギリのような歯がギラギラと剥き出しになっている。


「レンヤさん!アレは!」


アンがデスペラードを構え鋭い視線で女から目を離さず俺へと話しかけてきた。


「あの姿はサキュバスの合成魔人だけでないぞ!多分だけど、それ以外の魔族やモンスターの因子も取り込んでいるかもしれん。」


「そうみたいね。『喰う』って言っているけど、アレは物理的に頭からバリバリと『食べて』いるんじゃ?」


エメラルダが俺達の前に立った。


「多分な・・・、男の精だけじゃなくて、男そのものを吸収しているみたいだ。そんな種族はアレだな。いや、間違いないだろう。」


そして冷たい視線で女を睨んだ。


「私が行く。アン、それにレンヤさんは手を出さないでくれないか。」


「「エメラルダ!」」


俺とアンが叫ぶと、エメラルダが俺達へと視線を移した。


「あの女に羽虫と呼ばれたのだ。この私に対する暴言、許さん・・・、私が誰なのか知らしめないとな。」


ニヤリと口角を上げ、500年前のあの時のような表情のエメラルダが立っていた。


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