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24話 模擬戦

アンと距離を取って対峙している。


いつもニコニコして俺を見ているが、今回ばかりは真剣な表情で見つめている。



「おぉ~、凛々しいアンジェリカさんも尊い・・・」

「この姿、俺は一生目に焼き付けておくぞ。」

「ファンクラブでも作るか?」

「良いな、それ!俺がファン1号だ!」

「アンジェリカ様!勇者のメッキを剥がして下さい!」



(外野!五月蝿いぞ!)


まぁ、ちょっと前までは無能って馬鹿にされていたからな。いきなり勇者になったと言っても信じてくれない奴が大半だろう。


俺は木剣を正眼に構えているが、アンの構えは何なんだ?初めて見る構えだ。

右手に剣を握っているが、足を少し開き浅く腰を落として、体を俺に対して直角の向きで構えている。

右腕、肩、足まで俺の方へ向いている構えだ。腕を少し曲げ剣を俺に真っ直ぐに向けている。対して左腕はしっかりと曲げている。

俺から見ると、剣から左腕までが真っ直ぐ一直線に見える。


(理に適った構えだ。体の正面の急所は全て隠されてしまう。これなら防御をあまり気にしないで攻撃出来る。攻撃特化の剣の構えなのか?)


「レンヤさん、行くわよ。」


「あぁ、始めるぞ!」


空気が一気に緊張した。



(なっ!)



アンが一瞬で俺の目の前まで移動している。動きが読めない!

そのままの姿勢で右足を1歩前に踏み出すと同時に、後ろに曲げていた左腕を一気に振り下ろした。

凄まじい速さで剣の切っ先が俺に迫ってくる。


「くっ!」


咄嗟に体を捻り剣を躱す。


アンが剣を引き、そのままの姿勢で後ろに下がった。


(何て攻撃の速さだ・・・、それに体の軸が全くブレていない。)


タイミングが読めないのは当然だ。アンが後退する時にその秘密が分かった。

上半身が全くブレていない上に見事な足さばきだ。滑らかに地面を滑るように移動している。

こんな動きをされると、並の剣士なら初見で何も分からないうちに倒されてしまう。



「おい、あの動きを見たか?」

「いや、早すぎて全く分からなかった。」

「あんな突き、誰も避けられないよ。」

「だけど、あいつは避けたよな。どんな目をしているんだ?」

「いきなりハイレベルな戦いだぞ。」



アンがニコッと微笑んだ。

「さすがレンヤさんね。避けられるとは思いもしなかったわ。私の中では一番自信のあった突きだったし、先生も褒めてくれたのに、あっさりと避けるなんて凄い。」


「いや、辛うじて見えて避けられたけど、ギリギリだったぞ。」


「じゃぁ、もう少しギアを上げるね。」


再びアンが俺に迫って来た。

1度見ているから、今度はアンの動きが読める。


しかし・・・


(何だ!これは!)


剣が何本も増えて見える。それが一斉に俺に襲いかかってきた。


「ちぃいいいいい!」


ガガガガガァアアア!


襲いかかってくる全ての突きを剣で払った。幻でなく全て実体のある剣だ。

どれだけの速さで連続の突きを繰り出しているのだ?


カァアアアアアアアアン!


最後の一突きを木剣の腹で受け止め、その勢いで後ろにジャンプした。

再びアンとの距離が空く。


「レンヤさん、どれだけの動体視力なの?私の『五月雨突き』を難なく躱すなんて・・・、本当に強いよ。」



「おい、どうだった、あの攻防は?」

「全然見えなかったぞ・・・」

「アンジェリカさんの腕が何本にも見えたけど・・・」

「どっちも規格外だよ!」

「やっぱり、あの無能は間違いなく勇者になっていたんだ・・・」


「じゃぁ、こっちから行くぞ!」


正眼の構えから剣を横に構え一気にアンに近づく。

「はぁああああああああ!」

横に剣をなぎ払った。


カッ!


剣を受け止めたが、いくら中に鉄芯が入っているとはいえ、その細い木剣だと耐えきれずに折れるぞ。どうする?


フッ!


手応えが急に無くなった。

剣を巻くようにして衝撃を受け流されてしまう。まるで水を切ったような感覚だ。


「隙あり!」

アンがニヤッと笑った。

空いている左手の掌が赤く輝いている。


(魔法か!)


「ファイヤーボール!」


至近距離で魔法を撃ってくるとは予想外だ。これは躱せない!


「だけど、甘いぞ!」

握り拳を作って、裏拳の要領で手の甲でファイヤーボールを殴った。


「嘘!」

アンが驚きの表情で俺を見ている。


殴って方向が変わったファイヤーボールがラピス達のいるところへと飛んでいってしまう。。


(げっ!ヤバイ!)


「うわぁああああああああああああ!」

「死ぬぅうううううう!」


ギャラリーが騒いでいるが、ラピスは涼しい顔で見ている。


ボン!


ファイヤ-ボールがギャラリー達の手前で弾けて消えた。


「レンヤ、こっちの方は障壁を張ってあるから安心して。多少の無茶も大丈夫だからね。」

ラピスがサムズアップしながら微笑んでくれた。


(さすがラピスだよ。助かる。)


「レンヤさん、信じられない魔法の躱し方ね。さすがに驚いたわ。」

驚いたと言っている割にはアンが嬉しそうだ。


「まぁな、普通に殴れば手が消し炭になるけど、魔力を纏わせて殴ってみたら上手くいったよ。ぶっつけ本番だけどな。」


「普通でもあんな真似は無理よ。凄過ぎてどれだけの魔力量なのか想像もつかないわ。」


アンが左手の掌を前に差し出した。

「ギャラリーの心配が無いなら、少し本気で戦っても大丈夫みたいね。」


「マジック・アロー!」


ズドドドドドドォオオオオオオオ!


掌から何十本もの光の矢が俺目がけて飛んで来る。


(マジック・シールドで防ぐか?いや、俺が勇者だと示さなければならない戦いでもあるしな。)



(ならば!)



剣を握っていない左腕を掲げ、人差し指を立てた。

「サンダー・レイン!」


ドガガガガガガァアアア!


大量の雷が俺の前に壁のように落ちてきた。全ての光の矢が雷に落とされてしまう。



「あれは雷魔法!」

緑の狩人の1人が叫んだ。

「間違いないわ・・・、あの魔法は勇者にしか使えないとされている勇者魔法の1つ、雷魔法・・・、この目で見られるとは、何て幸せな瞬間なの・・・」


別の1人が上気した顔でレンヤを見つめている。

「とうとう我らが仕えるあるじが現れたのね・・・、我ら緑の狩人、生涯忠誠を尽くす事を誓います。」


冒険者達もざわついている。

「何なんだ、あの魔法は・・・、あんな量のマジック・ミサイルなんて見た事無い・・・」

「あれが伝説の雷魔法・・・、あの1本でも喰らえば黒焦げだぞ。」

「やっぱり本物の勇者なんだ。」

「どうしよう?俺、散々あいつを馬鹿にしていたぞ。殺されるぅぅぅ・・・」

「誠心誠意の土下座しかないな。グレン達のようになりたくない・・・」



「今度は俺の番だ!」


左腕の人差し指をアンに向ける。


「ライトニング!」


指から雷が迸りアンへと一直線に高速で真っ直ぐに飛んで行く。

しかし、アンがニヤッと笑った。


「甘いわ!」


アンの目の前で雷が弾け消滅してしまった。


「アン、やるな。ライトニングの速度でも反応して障壁を張るなんてな。魔法の展開速度は俺以上だよ。」


ニコッとアンが微笑んだ。

「レンヤさんに褒めてもらえて嬉しい。」


「でも、魔法だとやり過ぎてしまうから、やっぱり剣で勝負を着けるしかないわね。」


アンがグッと剣を構える。

俺も正眼に構え、いつでもアンの動きに対応出来るようにする。


「レンヤさん、行くわよぉおおおおおお!」


滑るように俺に迫って来る。

「はぁあああああああああああ!」


ガガガガガァアアア!


嵐のように剣が突き出され何とか払っているが、どんどんと押し込まれてしまっている。


(どうなっているんだ?これだけの攻撃なのに剣が折れない。木剣だからそこまで耐久力は無いはずだ。剣に何かエンチャントしているのか?)


アンの勢いでどんどんと後ろに下がってしまっていたが、背中に何か当たってしまった。

(これは?)

打ち込み用の鎧人形が立てられていて、そこまで後退させられてしまったか。


「もう後が無いわね。これならどう?」


ずっと突きだけの攻撃だったが、腕を振りかぶり、剣を横薙ぎにしてアンが切りかかってきた。


スパッ!


一気に鎧人形よりも高く跳躍し剣を躱したが・・・


(何だ!この切れ味は!)


鎧人形が見事に輪切りにされていた。

あんな木剣であり得ない。



「マジか!あんな木の剣で金属の鎧が切れるなんて!」

「いくら中に鉄芯が入っていても、普通は無理だぞ!」

「どうなっているんだ?あり得ない・・・」

「アンジェリカさん!尊い・・・」

「おい!そんな事よりも、あいつの動きを見たか!助走なしであんな高く飛ぶなんて、本当にFランクなのか!」

「あんなのは俺でも無理だ。」



「レンヤさん、よく避けたわね。でも避けて正解よ。剣で受け止めていたら折れていたからね。」


再びアンが構えた。

アンの剣をよく見てみると・・・


剣に黒いオーラが纏わりついているのが見えた。

さっきの俺が魔法を殴った時のように、アンも剣に魔力を纏わせていたみたいだ。

これなら木剣でも並の剣以上の切れ味と耐久力が出せる。


(やるな・・・)


「アン、俺も同じ手を使わせてもらうぞ。」


剣を頭上に掲げた。


いかづちよ!我が剣に宿いし破邪の力を示せ!」


ガカッ!


空から1本の雷が俺の剣に落ちた。


パァアアアアアアアアアアアアアアン!


「あれ?何で?」


刀身が中の鉄芯諸共砕け散ってしまった。


「レンヤさん、聖剣じゃないから属性魔法のエンチャントは無理よ。普通の剣でも僅かしか持たないのに、木剣なら尚更無理よ。こうして砕けるのがオチね。」

そしてニヤッと笑った。

「丸腰でも手を抜かないからね。勝ちはもらったわ!」


左手を前に突き出した。

「ダイヤモンド・ダストォオオオオオ!」


細かい氷の結晶が俺の全身を覆う。

昨日のオーク達と同様に足下が凍りついてしまい身動きが取れない。


(これはマズイな・・・)


「レンヤさん、模擬戦だし、さすがに全身を凍らす訳にはいかないからね。足下も表面だけ凍っただけにしたから安心して。でも身動きは取れないけどね。」


アンが剣を構えた。

「突き刺すまでの威力は出さないけど、打ち身ぐらいは覚悟してね。トドメよぉおおおおおおお!」

今までの中で最高のスピードの突きが迫ってくる。


「トドメは勘弁してくれ。」



ビタッ!



「えぇえええ!!!」

アンが驚愕の目で俺を見ている。


「何だ!アレはぁああああああああ!」

ギャラリーの冒険者達も信じられないような表情になっていた。


「そ、そんな・・・、信じられないよ。こんな剣の止め方って・・・」


「残念だったな。」

ニヤッと俺が笑う。

俺の左腕を前に突き出して、アンの剣を人差し指と中指で挟み込んでいる。

アンが懸命に剣を動かしているがビクともしない。


「くっ!何て力なの!」


そのまま手首を捻るとアンの手から剣が離れた。


「くっ!ならば魔法で!」


アンが咄嗟に右腕を出して掌が赤く輝き始めたが・・・


「遅い!アース・インパクトォオオオ!」


地面に手を当て魔法を発動する。


ドォオオオオオオオオオオオン!


「きゃぁああああああああああ!」


アンの足元の地面がせり上がり一気に上昇する。本来は槍のように鋭いけど、そんな事をしたら串刺しになってしまうので、今回は地面をそのまま上昇させた。アンが勢いよく上空へ高く飛ばされてしまう。


(ヤバッ!勢いが付き過ぎた!)


右拳を自分の足元に打ち込んだ。


ドォオオオン!


足元の氷が粉々に砕け自由になったので一気に跳躍する。


パシッ!


空中でアンを抱きかかえ地面に着地した。


「アン、すまない、やり過ぎた・・・」


しかし、首を振ってニコッと微笑んでくれた。

「いいよ、こうやってお姫様抱っこしてくれたからね。ふふふ、幸せ・・・」

そう言って両手でギュッと抱きついてきた。



・・・



ギャラリーの視線が痛いよ・・・

だけど、満足そうに抱きついているアンは離れそうにない・・・


(これって公開処刑?)


よく見ると、何人かの男達が血の涙を流しながら地面に四つん這いになっているよ。


(おい!サブマスター!お前まで泣いているのか!)


受付嬢達もガックリとしているよ。


「こぉおおおおおおらぁああああああああああああああああ!いつまで甘々空気を出しているのよ!いい加減に離れなさい!」


ラピスの怒鳴り声で慌ててアンを降ろしたけど、アンも状況が分かったみたいで真っ赤な顔になってモジモジしている。

これはこれで、こんなアンの姿も可愛いけどな。


ズンズンと怒り肩でラピスが迫って来る。

「ホント、あんた達はちょっとでも目を離すとこうなんだからねぇ~~~~~、でも、アンの実力はよく分かったわ。とんでもない強さね。魔法だけでなく剣も達人級よ。さすが【魔剣士】の称号は伊達でないわね。」


「ありがとう、ラピスさん。でも、レンヤさんには全然敵わなかったわ。結構本気で頑張っていたけど、レンヤさんは全く本気じゃなかったし、私もまだまだ強くならないとね。」


微笑んでいるアンにラピスも嬉しそうにしている。

「ふふふ、私のレンヤの強さがよく分かったみたいね。」


ピキッ!とアンのこめかみに血管が浮き出た。

「あらぁ、レンヤさんは私のなのよ。私が1番だからね。」


ラピスの目が細くなりブルブルと震えだした。

「あら・・・、何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたけど・・・、私の耳がおかしくなったのかな?1番はもちろん私よぉぉぉ・・・」


幻覚か?

ゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオオ!と、天まで届くような2人のオーラが見える。



「ふふふ・・・」



「くくく・・・」



2人がニヤッと笑った。


(頼む!場外乱闘は勘弁してくれぇええええええええええええええええ!)

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