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233話 奪還⑥

ズズゥゥゥン!


「派手にやってるわね。街の正反対のここまで音が響くなんてねぇ・・・」


ソフィアが少し感心した表情で街の方を見ていた。


街から少し離れた小高い丘の上にアンジェリカ達が待機している。


「姫様、そろそろですが・・・」


アーヴェルが騎士を引き連れ整列している。

彼らをリーゼロッテがグルっと見渡した。


「やはり我らも姫様に続いてあの街を奪還するお手伝いを!姫様の為なら我らは死も恐れません!」


しかし、リーゼロッテがゆっくりと首を振る。


「いえ・・・、もうあなた達には傷ついて欲しくないのです。先程も言いましたが、奪還してもこの街を無事に治めていかなくてはなりません。奪還するのは私達が行いますが、真にこの街の為に行うことはあなた達にかかっているのですよ。分かっていますよね?」


「で、ですが・・・」


「アーヴェル、後の事はあなた達に託しましたよ。私は帝国を出た身、そしてこの帝国を盛り上げるのは残されたあなた達ですからね。」


ギュッとリーゼロッテがアーヴェルの手を握った。


「アンジェリカ様の補佐をよろしくお願いしますよ。」


ザッとアーヴェル以下メイナード達も一斉に臣下の礼をとる。


「「「そのお言葉!心に深く誓い!この帝国の為に!」」」



「心配しなくてもよろしいですよ。」


アンジェリカがニコッと微笑んだ。


「私とソフィアさんがリーゼロッテ様を必ず守りますからね。安心して後から街へと入って来てください。」


「そうよ。」


ソフィアもニコッと微笑んだ。


「魔人がどれだけいようが私達の敵じゃないからね。さっさと開放して街の人達を安心させないとね。」


バサッ!


ソフィアの背中に大きな白い翼が出現した。


「私の方は準備OKよ。いつでも突入可能だからね。」


「それでは私も・・・」


カッ!


「魔装!」


アンジェリカの全身が輝くと、金色に輝く鎧を纏い薄く金色に輝く大きな翼が生えた。


「「「おおぉおおおおおおお!」」」


アーヴェル達全員が感嘆の声を上げる。


「このお姿はまさしく女神様・・・、聖女様もそうだが、ここまで神々しいとは・・・」


「えぇ、父上、彼女達はこの世界に降臨した女神様に間違い無いです。皇女殿下も同じお姿になり、そのお姿をこの目で見られる幸せを・・・」


騎士達も涙を流し感動していた。



「お姉ちゃん・・・」



メイナードの娘であるビアンカがアンジェリカへと近づいた。


「どうしたの?」


「お願い・・・、私達の街を取り戻して・・・」


ギュッとアンジェリカが彼女を抱いた。


「もちろんよ、必ずあの街は取り戻すわ。終わったらみんなでパーティーをしましょうね。私がとっても美味しいお菓子を作ってあげるわよ。だから、少しだけ我慢してね。」


「うん、分かった・・・、あ姉ちゃん、約束だよ。お菓子、楽しみにしているね。」


「ふふふ・・・、楽しみにしていなさい。」


そっとビアンカを下ろすと、彼女は「ありがとう!」とお礼を言って母親のところへ走っていった。


「絶対に負けられないわね。私はここで見ているけど、アン、頑張ってよ。」


マナがグッとアンジェリカへ拳を突き出した。

アンジェリカも拳を突き出し、マナの拳と合わせる。


「もちろんですよ。姉様、私達はこんなところでモタモタしている訳にいきませんからね。早く魔王を倒しこの国に平和を取り戻さないとね。」


2人も拳にソフィアがそっと手を乗せた。


「私を忘れてもらったら困るわ。元祖勇者パーティーの力を見せつけてあげるわ。」


3人が街へと視線を移した。


「それではみなさん作戦開始です!裏門はレンヤさん達が暴れていますし、少しは防衛が手薄になっているでしょう。ですが、気を抜いてはいけません。」


アンジェリカがリーゼロッテへ微笑む。


「リーゼロッテ様、先制攻撃は私が行いので、ソフィアさんと一緒に後ろから付いて来て下さい。」


リーゼロッテは真剣な表情でアンジェリカへ頷く。


「ほらほら、こんなに緊張してちゃダメよ。」


ソフィアがギュッとリーゼロッテの手を握った。


「リフレッシュ!」


2人の手が仄かに輝くと、リーゼロッテの表情が和らいだ。


「これで落ち着いた?」


「は、はい!すごく気分が楽になりました。」


「それでは行きますよ。後詰はよろしくお願いしますね。」


フワリとアンジェリカが空へと浮かんだ。

そして、一気に街の正門へと飛び出す。




あっという間にアンジェリカが正門のそばへと近づいた。

レンヤとラピスが裏門で陽動を行っているが魔人達もバカではない。正門からの襲撃を警戒して、裏門と同じくらいの魔人達が門の前で待機していた。


「何だ?」


グングンと近づくアンジェリカの姿に気づいた魔人が警戒し身構える。


「バカな!この人数を前にたった1人で来るのか?いくら空を飛べようが無謀にも程があるだろうが!」


正門前にいる魔人達がアンジェリカを迎え撃つ為に剣や槍を構えた。



「数を揃えようが無駄ですよ。」



アンジェリカが呟き右手を前に突き出す。


「ブラックホール!」


ブゥン!


彼女の前に握り拳大の小さな黒い球が出現する。


「げひゃひゃひゃひゃひゃぁあああああああ!何だ?あのちっぽけな玉はぁあああ!」


アンジェリカが打ち出した黒球があまりにも小さいので、魔人達が堪らずに笑い始めてしまう。


「空を飛べるかからとんでもない実力かと思ったが、とんだ見掛け倒しだな。ブラックホールでもあんなに小さいのなら、俺でも楽勝で相殺出来るぞ。ダーク!フレア!」


1人の魔人が笑いながら直径が1メートルはあろう漆黒の巨大な炎の玉をアンジェリカへと打ち出した。


「さっさと落ちろぉおおおおおおお!」



「お馬鹿さんね・・・、見た目に騙され、本質を見極めようとしないなんて・・・」



ニヤリとアンジェリカが笑った。



ギュリ!



「「「へっ!」」」


魔人達が変な声を上げてしまう。


アンジェリカの放った小さな黒玉が魔人の魔法に接触した瞬間、魔人の魔法以上の大きさに変化し、あっという間に飲み込んでしまう。

更に速度を上げ、魔人達へと迫って来る。


「「「に、逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


だが、気付いた時には既に遅かった。


「ぎゃぁあああああああ!」

「うぎゃぁあああああああ!」


魔人達は超重力に逆らえず、次々と巨大な黒球に体を潰されながら吸い込まれ、存在をこの世から消されてしまった。

そのまま門に衝突し、門そのものもどころか城壁にも大きな穴が開き、街の中が丸見えになってしまう。






「何て威力だ・・・」


メイナードが丘の上から正門が城壁ごと消滅する光景を見て絶句していた。


「あれが500年前に世界を恐怖に突き落とした魔王の娘の力・・・、姫様からお聞きした時は信じられなかったが、あれ程の魔法を放つとは・・・」


アーヴェルも絶句しているが、ポロッと涙を流した。


「皇帝が魔王になってからは絶望しかなかったこの帝国に希望が・・・、勇者殿を始め伝説の方々のお力、私の想像を超えています。アンジェリカ様・・・、この帝国の未来を頼みます・・・」






「ふふふ・・・、見晴らしが良くなっったわね。」


アンジェリカがスタッと正門のあった場所の前に舞い降りた。


「!!!」


かなりの魔人が魔法によって消え去ってしまったが、それでも巻き込まれなかった十数人の魔人がまだ正門の近くで剣や槍を構えて立っていた。

だが、アンジェリカの馬鹿げた魔法の威力により委縮してしまい、遠巻きで武器を構えて警戒しているのがやっとの状態だ。



ザザッ!



そのアンジェリカの隣に真っ白な大きな翼を広げたソフィアと、マナのプラチナ・クイーンを纏ったリーゼロッテが降り立った。

そのリーゼロッテは少し上気した表情になっている。


「私が鳥のように空を飛ぶなんて、何て気持ち良いの・・・、癖になりそう・・・」


「あらら・・・、ちょっとリラックスさせ過ぎちゃったかな?」


リーゼロッテの様子にソフィア少し苦笑いをしてしまった。

しかし、すぐに真剣な表情に戻り、正門があった場所にいる魔人達へと体を向ける。

ズイッとアンジェリカの前に立ち、魔人達へニコッと微笑んだ。


「貴様は!」


魔人の誰かが叫んだが、彼女はそのままニコニコと微笑んでいるだけだ。


そのまま、ゆっくりと魔人達の方へ歩き始めた。


「と!止まれ!」

「その顔は!まさか!報告にあった勇者パーティーの1人、聖女ソフィアか!」


自分達へと歩き始めたソフィアに、魔人達には更に動揺が広がっている。


魔人達の慌て振りと対照的に、ソフィアはまるで目の前には誰もいないような素振りで優雅に歩いている。


「あら?私を知っているなんてね。だけどね、何で私が止まる必要があるのかしら?それによ、そんなにビクビクして何を怖がっているの?レンヤさんを見習ってもっと男らしく振る舞ったらどうなのかな?」


その言葉に魔人達から殺気が溢れ始めた。

ソフィアの言葉に自分達が侮辱されたと分ったようだ。


「たかが聖女・・・、回復しか能の無い女ごときがぁああああああああああああああ!」


1番近くにいた魔人が一気にソフィアへ迫り魔剣を振り下ろした。



パキィイイイイイイイッン!



辺りに甲高い金属音が響いた。



「そ、そ、そんな・・・、バカな・・・」



魔剣を振り下ろした姿勢で魔人がワナワナと震えている。

その魔人は驚愕の表情で目を見開き、自分の魔剣をジッと見つめていた。


「我等の魔剣を素手で折るだと?そんなのあり得ない・・・」


血走った目でソフィアを睨むと、折れた魔剣に黒い霧のようなものが纏わり付き、再び元の魔剣の姿に戻った。


「何かの間違いだぁあああああ!我等魔人がぁあああ!人間を遙かに陵駕した我等が人間にぃいいい!しかも!女に負ける訳がないんだよぉおおおおおおおおおお!」


絶叫しながら再びソフィアへと魔剣を振り下ろした。



「何度やっても無駄よ。」



ソフィアは目の前に迫る魔剣に対し裏拳を刀身の腹に軽く当てた。


パキィイイイイイイイッン!


またもや先ほどと同じ音を立て、魔剣が刀身の半ばか折れてしまった。


「そ、そんなぁぁぁ~~~」


魔人の情けない声が上がる。



ゴシャ!



呆然としていた魔人の顔面にソフィアの右拳が深々と突き刺さった。


「ぶへりゃぁああああああああ!」


豚のような悲鳴を上げながら、10メートル以上水平に吹き飛び、地面に落ちてからゴロゴロと転がった。


ボシュゥウウウウウウ・・・


地面を転がりながら全身が砂となり崩れ消滅してしまった。



「「「・・・」」」



余りの光景に魔人達の動きが止り硬直している。


「そんな、たった一撃で・・・」

「動きが見えなかった・・・」

「聖女が肉弾戦?」


ザッと右拳を前に構えた姿勢でソフィアが立っている。


「どうしたの?たかがこれしきの事で驚いているの?もしかして、自分達よりも強い存在がいないとでも思っていたのかな?」


ジリッと魔人達が後退りを始めた。


「あなた達がこの街で行っていた事は聞いたわよ。さすがにあなた達を許す事は出来ないわ。」


ソフィアが魔人達を見る表情が変わった。

まるでどう猛な肉食獣が獲物を見つけた時の様な表情でニタリと笑った。



ブワッ!



ソフィアの全身からは魔人達以上の殺気が溢れ出す。



ドン!



目にも止らぬ速さで魔人達へとソフィアが飛びだした。




「さぁああああああ!覚悟しなさぁああああああああああっっっいいい!」


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