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231話 奪還④

チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーン!!!


(し!死んだぁああああああああああ!)



・・・



・・・



・・・



「あれ?何ともないぞ・・・」


恐る恐る目を開けると、俺の目の前にティアが立っていた。

そのティアは左手を前にかざしている。


「ご主人様よ大丈夫か?」


そう言ってニヤリと笑っていた。


ティアの前には差し出した左手を中心に障壁が展開され、その障壁でアンの魔法を防いだのだろう。


(助かったぁぁぁ~~~~~~~)


思わず安堵の息を吐いてしまったが、ふと気が付くとエキドナさんが俺にしがみついてブルブルと震えている。

余程怖かったのだろうな。

確かに、アンのあの殺気は俺でも恐怖だったよ。最近のアンは大人しかったから実感は無かったけど、さすが魔王の娘というの間違いはないな。


(だけど、そんなに怒る事か?)


少し血走った眼をしているアンをティアが見つめた。


「主よ、少し冷静にならないか?」


やれやれといった感じでティアが首を振った。


「確かに最近のご主人様はかなり忙しいし、主に構っている時間が少ないのは確かだ。そんな中で主以外のしかも、まだ付き合ってすらいないエキドナがご主人様にくっ付いているからな。主がヤキモチを焼く気持ちも分からんでもない。だが、エキドナは我の可愛い妹みたいな存在だ。いつも陰でご主人様を見つめているだけしか出来ないのだから、たまにはこうして触れ合う機会もあって良いと思うが?今回の事は我に免じて許してくれないか?」


アンの殺気がスッと消えた。


「そうね、私も大人げなかったわ。」


そしてジッと俺を見つめた。


「ちゃんと私の事を見てよね。エキドナさんの気持ちは分かっているけど、やっぱりね・・・」


次の瞬間、俺にしがみついていたエキドナさんが俺から離れアンへと走っていった。


「アンジェリカ様、すみません。私が勝手な事をして・・・」


そう言って、アンの前に立ってペコペコと頭を下げていた。

さすがにそんな態度をとられては、アンもこれ以上は言えないな。

彼女の頭を優しく撫でてニコニコと微笑んでいる。


しかぁあああああああっし!


ギロッとアンの視線が鋭くなった。


「だけどね、抜け駆けは許しませんよ。その点をきちんと弁えれば私は何も言いませんけどね。」


ブワッと一瞬殺気が漏れたがすぐに消えた。


エキドナさんはといういと・・・


「あわわわぁぁぁ・・・」


と、ガクガクと震えながらブンブンと首を縦に振って頷いていた。

世界最強と言われるエンシェントドラゴンの1体であるエキドナさんが、アンの迫力で完全に委縮している。

最初に会った時はもっと馴れ馴れしい態度だったけど、俺を意識してからは極度の照れ屋になってストーカーと化し、ちょっと残念な女の子に見えるよ。

そして、アンを始めラピス、ソフィアなどとエンシェントドラゴン以上に戦闘力が高い存在がゴロゴロと俺の周りにいるものだから、ドラゴン族の基準である強さ=序列を重視している彼女がビビってしまうのも仕方ないだろう。


そんなブルブルと震えるエキドナさんにアンがギュッと抱き着いた。


「そんなに怖がらなくてもいいのにね。もっと頑張って私達の仲間に入る努力をしなさい。みんな待っているわよ。」


その言葉で緊張が解けたのか、エキドナさんもアンにギュッと抱き着いた。


(こうして見ると仲の良い姉妹みたいだよ。)




そんな事があってからというもの・・・


「兄さん、今日は3人でお茶をしようね。」


テレサがニコッと微笑むと、その隣にはいつもエキドナさんがいる。


(本当にこの2人は仲が良いよな。)


同じストーカーだったからか、意気投合していつも一緒に俺の周りにいるようになった。

テレサも一緒にいるから、彼女が抜け駆けするような事は無かったな。

そんなエキドナさんをアンやティアが微笑ましそうに見ていたよ。




「この砦だけど、壊さずに再利用する事にするわ。」


ラピスが砦を見ながら俺達へと話をする。


「それはどういう意図で?」


皇女様がラピスをジッと見つめると、宰相様達も一緒に俺達を見つめた。


「まずは、ここに連れてこられた人達の数が予想以上に多い事ね。彼らは周辺の町や村から奴隷として強制的に連れてこられたわ。残った家族を殺されたり住む場所を奪われたりしてね・・・、この砦を出ても彼らの居場所がなかなか見つからないのも理由よ。このまま彼らの住む場所にする事にすれば?って思ったのよ。」


「そうですね。これだけの大勢の人々が何も知らない場所にいきなり移住しろと言われても無理なお話ですね。」


うんうんと皇女様が頷いている。


「そして、この砦はこれから奪還しようとしているドルフの街に通じる街道を押さえているのも重要な点ね。この街を中心としての衛星都市はこの砦を通るようになっているの。だから、ドルフの街を押さえてしまえば、この街を拠点として他の街の奪還もやりやすいと思うのよ。まぁ、この砦が重要地点として帝国からの攻撃が激しくなるのは仕方ないけど・・・」


「それなら、俺達の出番だな。」


ヴリトラが腕を組んで立っている。


「腑抜けたあの国の騎士団の連中にとっては最高の実戦訓練だ。嫌でも死ぬ気で頑張るだろうな。」


(おいおい・・・、指導の仕方が鬼だぞ。)


「それなら僕達も同じだね。父さん、僕達の聖騎士団と合同でこの砦の防衛をするようにすればどう?」


ユウが一歩前に出て意見を言ってきた。


「そうね、これは良いアイデアだと思うわ。さすがに相手は魔人だから普通の騎士だと相手にならないし、しばらくはあんた達が最前線で頑張ってもらうわ。」


「任せろ!」

「分かったよ。」


ヴリトラとユウが頷いた。


「それなら私達がユウ達の補佐ね。」

「ふふふ・・・、久しぶりに国から出ての生活ね。」


ユアとアズがとても嬉しそうにしている。


「アーク!」


ユアが誰かの名前を呼んだ。


「は!ここに!」


1人の青年がユア達の隣に現われ、片膝を付き頭を下げている。


「アーク、あなたはいつも生真面目過ぎよ。もっと楽にしないとねぇ~~~」

「そうよ、あんまりガチガチにしていると気疲れで頭が禿げるわよ。」


2人がクスクスと笑っている。

ホント、ユアとアズは俺達以上に緊張感といったものが感じられないよ。

天真爛漫というか、深く考えないというか・・・


(見た目はな・・・)


ユウもそうだけど、俺とローズの血で進化して真祖のバンパイアになって、その時にローズの知識もかなり受け継いでいるんだよな。

あんな雰囲気だけど、実際のアイツらはかなりのやり手に間違いない。

ナブラチルさんやドット司祭様達と一緒に聖教国の改革を行っているが、主だったバンパイアを俺達が倒してしまい、組織として機能しなくなってしまったところを、ユウ達が中心になって騎士団や教会の組織をまとめてしまったのだよな。

もちろん、ソフィアやローズ達の協力もあったけど、組織をまとめる手腕は母親のローズ譲りで間違いないよ。


「アーク、悪いけど私達が留守の間は、本国の騎士団は任せたわ。」


「御意!」


そう言って深々と頭を下げた。



ユア達が呼んでいたアークなる人物はというと・・・


何と!かつて聖教国での戦いの際、ソフィアを襲ったバンパイアのアサシン部隊の1人だったと・・・

彼以外はソフィアに全て滅ぼされてしまったが、ソフィアは彼は悪でないとの事で見逃して、今はユウ達騎士団の団長補佐になっているんだよな。

まぁ、性格はとっても生真面目、いや!真面目過ぎるよ!

そんな彼をユアとアズがとても気に入ってしまってねぇ・・・、まさか、結婚するまでになったのには驚きだった。

まぁ、真面目な彼だったから俺も心配しないでユア達との結婚を認めたけど、娘を嫁に出す気持ちはやっぱり淋しかった・・・



おっと!話が脱線してしまった。



「ヴリトラ・・・」


俺が声を掛けると彼がニヤッと笑う。


「心配するな。ここを任された以上、必ず守りきってやるさ。それにな・・・」


チラッとユウへ視線を移す。


「お前の息子も楽しそうだな。退屈しないで済みそうだよ。」


「僕も負ける気はありませんよ。父さんの血を受け継いでいるのに恥ずかしい事は出来ませんからね。」


ユウも負けじとニヤリと笑った。


「「ふふふ・・・」」



(おいおい・・・)


お前達2人がまともに戦うとこの砦くらいなら一瞬で木っ端微塵だしな。


頼むぞ、普段は大人しく過ごしていてくれよな。



そんな心配は結局杞憂で終わったけどな。






「勇者様にラピス様・・・」


皇女様が困惑した表情で俺達を見ている。


「リーゼロッテ皇女殿下。本当に似合いますよ。」


マナさんがうっとりした表情で皇女様を見ていた。


「私以上にプラチナ・クイーンを纏った姿が似合うなんてねぇ~~~」


何とだ!皇女様がマナさんのプラチナ・クイーンを装着していた。

全身がプラチナシルバーの鎧姿に、皇女様の明るい銀髪がとても映えている。

冗談抜きに女神様が降臨したように見えた。


チラッと宰相様達を見ると・・・


涙を流しながら「姫様は女神様の生まれ変わりに間違いありません!」と言って感動していたよ。


「コレってマナさん専用の装備じゃなかった?」


俺がそう話すとマナさんがニコッと微笑んだ。


「基本的にはそうなんだけどね。でもね、私が認めた人物なら装着は可能よ。だけど、かなり制限されてしまうわね。そうでないと、私専用にカスタマイズされた訳にいかないからね。それでも魔人相手では十分に渡り合えると思っているわ。」



「皇女様、戦いの最前線をお願いする事になり申し訳ないわね。でもね、今回の戦いに関しては絶対に皇女様が旗印になってもらわないと困るのよ。だけど安心して。いくら魔人だろうが、このプラチナ・クイーンにはかすり傷1つすら付けられないわ。」


ラピスが皇女様に頭を下げたけど、皇女様はそんなラピスの手を取り微笑んだ。


「大賢者様、称号も無い私が戦うなんて大変おこがましいでしょうが、この戦いは私が先陣を切って戦わないと意味がありません。魔王となった父との決別、そして魔人となったかつての私の部下・・・、そんな人が帝国民を虐げているのは許せません。本来は私の国だけの問題なのに、みなさんのお手を煩わせてしまった事には謝っても謝り切れません。」


「気にしないで。私も皇女様が戦う姿を見せるのは重要だと思っているからね。人々にとっては皇女様が無事でみんなの前で戦う姿が必要なの!その姿がみんなの希望になるからね。私達がサポートするから安心して戦って!」


ラピスが皇女様の前でグッと拳を突き出した。

その仕草に皇女様も微笑む。


「そうですね。いよいよとなったら弱気になってしまいました。みなさんを助けようとしているのに、こんな態度だと助けられる事も出来なくなってしまいます。ドルフの街の解放!それがこの帝国を救う第一歩ですしね。」


「そうですよ。」


アンもニッコリと微笑む。


「私も一緒に突入します。だから安心して戦って下さいね。」


「私も一緒よ。」


ソフィアがニヤリと笑った。


「万が一も無いよう、私も障壁を展開しながら一緒に突入だしね。モタモタしていると、私が全員をぶっ飛ばしてしまうわよ。レンヤさんに恥ずかしいところを見せられないしね。」


「そういう事だ。俺とラピスで裏門から陽動を始めるからな。だからみんな頼んだぞ。」


全員が俺の言葉に頷いた。


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