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229話 奪還②

「アン、それじゃ行ってくるぜ。皇女様と一緒に見ていてくれ。反撃の狼煙が上がる瞬間をな。」


「はい!行ってらっしゃいませ。」


ニコッとアンが微笑んでくれた。


アンの笑顔は最高だ!


その笑顔に応えるようにアーク・ライトを掲げる。



「さぁあああ!行くぜぇえええええええええ!」




バサッ!


ヴリトラが背中に大きな真っ黒なドラゴンの翼を生やした。


「レンヤ!先にアイツらへ挨拶に行ってくるぜぇえええええええ!」


「おぉおおお!派手に頼んだぞ!」


「だけどな、お前達がモタモタしてたら俺がさっさと終わらせるぞ。」


ニヤリとヴリトラが笑った。


(おいおい・・・、頼むからあまり先走らないでくれよ。)



シュン!



あっという間にヴリトラの姿が俺達の前から掻き消えた。



ドォオオオオオオオオオオオオン!



直後に砦の門から大きな爆発音が聞こえる。


「おぉぉぉ~~~、派手にやってるな。」


「あれでも彼にとっては準備運動みたいなものね。本気で戦えばあの砦くらいの規模だと跡形も残さず消滅させられるでしょうね。手加減をしてあれだけなんて、心強いのか爆弾を抱えたのか微妙なところよ。」


ラピスが少し呆れた表情で砦の爆発を見ている。


「まぁ、あいつなら大丈夫じゃないか?ヒスイもいるし、無茶な事はしないと思うぞ。それにだ、俺があいつを信じてやらないでどうする?かつては敵として戦ったけど、あいつの戦いは決して悪い戦いじゃなかったしな。俺と戦う事だけ考えて、ティア達にも手を出さなかったし、正々堂々としていたからな。」


「そうね・・・、あの時、私達が倒したドラゴン達は人間を見下していた連中ばかりだったし、自分達が上位の存在だと驕って、意気揚々としてマルコシアス家の街に攻めてきて返り討ちにあっただけよね。」


そしてジッと俺を見つめる。


「それにね、レンヤの人を見る目は間違っていないと思うわ。レンヤが大丈夫だと思った人は全員が信じられる人ばかりだったしね。それは500年前から変わっていないよ。」


「おいおい、ちょっと持ち上げ過ぎだぞ。俺はそんなに大した事は・・・」



「「こらぁぁぁ・・・」」



ゾクッ!



背中に悪寒が走る。


「何を2人でイチャイチャしてるの?」

「お姉さんを除け者にするって、後でお仕置きかな?」


(マ、マズい!)


2人の目にハイライトが無くなっている。

ヤバい状態のテレサみたいだよ。

こんなところでヤキモチを焼かないでくれぇえええええええええええ!


「ふふふ・・・、冗談よ。」


マナさんがクスッと笑うと目のハイライトも元に戻り、隣のソフィアもマナさんと同じように微笑んでくれた。


「ちょっと緊張していたみたいだし、これで少しは緊張も解れたでしょう?」


そんな風にソフィアが言ってくれている・・・



がっ!



俺には分る、あの瞬間、殺気を感じたのは本当だ!

最近は確かに作戦の事でラピスと一緒にいる事が多かった気がする。


(ん?)


偵察の事もあってローズとの打ち合わせも多かった気が・・・


「マナさんにソフィア、落ち着いたら今度、別々にデートに行こうな。」


2人がとても嬉しそうに微笑んでいる。


「レンヤ君、ありがとうね。今後は私がお姉さんのプライドに賭けてエスコートをしてあげるわ。楽しみにしていてね。」

「レンヤさん、この前ね、冷華さん達とローランドを観光した時に見つけた美味しいお店があったのよ。絶対に一緒に行こうね。」


「はははぁぁぁ・・・」


取り敢えず今は笑って誤魔化すしかない。

作戦よりも俺のデートの方に意識が集中していないか?


「ごほん!」


皇女様が咳払いをしてくれた。

お陰で作戦の方にみんなの意識を戻してくれたのかな?

ヴリトラだけが蚊帳の外で戦うのも淋しいだろう。

モタモタしてたら本当にあいつだけで終わらせてしまうかもしれん。


そう思ったら自然と苦笑いが出てしまったよ。


「それにしてもみなさんは緊張といったものが感じられませんね。」


少し呆れた表情で皇女様が俺達を見ている。


「そんなもの、考えるだけ無駄よ。」


ラピスがニヤリと笑う。


「それはどういう意味です?」


「私達は常に勝つ姿を想像して戦っているの。負けた時の事は考えないわ。だって、私達が負ける事はあり得ないからね。」


ドヤ顔のラピスとその表情に合わせてソフィアもマナさんも微笑んでいる。

俺達の後ろに控えているフラン達も同じだ。


「そういう事ですよ。」


アンも皇女様へと微笑んだ。


「そうですね。」


皇女様も微笑んでくれた。


「あの魔王達も魔神達も退けたあなた達です。心配する方が失礼ですね。それではよろしくお願いします。この国の国民を救って下さい。」


「もちろんですよ。」


皇女様が深々と頭を下げるとアンはニッコリと微笑み、ラピスがグッと親指を立てる。


「さてと・・・、ヴリトラばかり美味しいところを取られては勇者の立場が無くなるな。」


ギュッとマナさんが俺の手を握る。


「ローズマリーさんからの情報を整理したわ。」


プラチナ・クイーンを通して俺の頭の中に砦の構造が浮かび上がる。


「この緑の点が奴隷として連れてこられた人達の場所よ。赤い点が魔人の居場所ね。ホント、マウス隊の情報収集能力は完璧。おかげでここまで綿密な作戦を立てられたしね。」


いやはや・・・、さすががマナさんだ。砦の立体的な構造がとても分かりやすく映像化してくれている。

しかも、侵入経路も救出ルートも詳細に描かれている。

さすがはギルドNo.1受付嬢だけある。説明も資料のまとめ方も最高の出来だ。


「ルートの策定は私が作成したのよ。マナばかりにいいところを取られては大賢者の名が廃るしね。」


マナさんに対抗心を出しているラピスも可愛いよ。

だけど、足を引っ張るような嫌なやり方でなく、あ互いに認め合い更に上を目指すライバルのような良い関係だよな。


「ラピスにマナさん、ありがとうな。絶対にみんなを助けよう。」


「もちろんよ!」


ソフィアがガッツポーズをする。


「今回の作戦の計画段階では参加出来なかったけど、現場の方は私に任せてね。あの砦の中で重症や重体になっている人は私が治してから転移させるわ。その方が彼らの負担は少ないし、聖女である私の仕事でもあるからね。」



さて・・・

気合いを入れ直して作戦開始だ!



(ん?)



どういう事だ?


俺の頭の中に展開されている砦のマップの中にある赤いマークが次々と消えている。

これは魔人の反応だが、次々と倒されているのか?


「レンヤ!」


ラピスが俺へと叫んだ。


「ちょっと!いつの間にか入り口が静かになっているわ!まさかヴリトラが突入したのかもよ!」


(マジかい?)


魔人の反応が次々と消えているからあり得る。

あいつは本気で1人で終わらせるつもりか?


「みんな!急いで行くぞ!連れ去られた人達が心配だ!」



バサッ!



俺、ソフィア、ラピスの背中に真っ白な翼が現われ、マナさんは背中の翼を大きく広げた。


俺達もあっという間に砦の上空へと到着したが、砦からは物音がしない。

マジでヴリトラ1人で制圧してしまったのか?


スタッ!


砦の入り口の広場へと降り立つ。

門は粉々に吹き飛び、入り口の扉も大きな穴が空いていた。


「ほとんど一撃でぶっ壊しているな。」


門だけは派手に壊れていたが、入り口はそう派手には壊れていない。

砦自身も外観から見る限りは変化は無さそうだ。



ドン!



!!!


入り口の扉が内側から吹き飛んだ。

全員が一斉に身構えた。




がっ!



「何でお前が?」


粉々に吹き飛んだ扉の影から現われた人影がニコッと微笑む。



「パパ、遅いよ。ヴリトラさんがさっさと終わらせちゃたよ。ホント、こんな時までイチャイチャしてたから、エキドナお姉ちゃんをなだめるのが大変だったのよ。」


「ヒスイ・・・、どうしてここに?しかも、エキドナさんもいるのか?」


どうしてか分らないがヒスイが吹き飛んだ扉の陰から現われた。

いや、砦の中にいたヒスイが扉を破壊したのだろう。

見た目はマーガレットと同じ7~8歳くらいにしか見えない女の子だが、神竜だけあってティアと同等の戦闘力だしな。たった1人でも魔人相手なら瞬殺だろう。


「決まっているでしょう。この砦に奴隷として強制的に連れて行かれた人達を治療していたのよ。エキドナお姉ちゃんも戦うより治療の方が得意だから手伝ってもらったの。ヴリトラさんも含めて私達3人はチームなのよ。」


(はぁ?)


意味が分らない・・・


「そういう事なのね。」


ラピスが納得した表情で頷いた。


「ラピス、どういう事だ?」


「私も話に聞いていただけだったけど、まさか本当にエルフの里の暗部みたいな組織を作るとはね。」



「姉様、それは違いますよ。」



上空からシャルの声が聞こえる。


スタッと俺達の前にシャルが降りてくる。


「レンヤさん、黙っていてごめんなさい・・・、」


シャルが申し訳無さそうに俺に頭を下げてきた。


「シャルお姉ちゃんは悪くないの!私が無理にお姉ちゃんに頼んだの!」


ヒスイが慌てて俺の腕に抱き着いてくる。


「ヒスイ・・・」


「私だってみんなの役に立ちたいの!フランもユウ達もパパと一緒に戦っている!私だって一緒に戦いたいのに、シュメリア王国の王城でのメイドとして安全なところで働くって、みんなとは別の扱いなの!」


「そ、それは・・・」


「分っているわ。私はみんなにとってお客様扱いみたいになっているって!そんなのは嫌!私も仲間としてみんなと一緒にいたいの!」



「そういう事だよ。こいつは真の意味でお前達の仲間になりたいと思っているんだよ。安全な場所で1人で温々しているのは性に合わないみたいだな。」



今度はヴリトラの声が聞こえる。

壊れた扉から出てきているところだ。


「ヴリトラ・・・、お前・・・」


「俺と結婚しようとして押しかけてきたくらいの奴だぞ。俺と同じで大した変わり者だぞ。」


「もぉおおお!」


今度はヒスイが頬を膨らませる。いつもの2人のやり取りだよ。


「レンヤさん、そういう事なの。」


シャルがそう行って視線をヒスイへと移した。


「彼らはエルフの里の暗部のような事はさせないつもりよ。普段はシュメリア国の騎士団の指導する将軍の地位だけど、場合によっては遊撃隊のような独自の存在になるでしょうね。それが彼にとっては1番やりやすいと思うわ。」


「確かにな。」


「彼らの管轄はフォーゼリア王国になるわ。そしてチーム名はチーム・ドラグナーと名付けてあるの。」


「レンヤ、すまんな。内緒にしてでもしておかないと、お前はヒスイを絶対に戦わせるような事はしないだろうしな。だけどな、俺は誓うぞ、ヒスイは何があっても俺が必ず守る。」



「分ったよ・・・、だけどな、次からはちゃんと俺に相談してくれ。仲間外れってのは意外とくるものがあるしな、」


「ふふふ・・・、その気持ちがヒスイの気持ちだよ。」


ヴリトラに言われ俺の腕を掴んでいるヒスイを見ると、ヒスイが嬉しそうに笑っていた。


「へへへ・・・、これで私もパパの勇者パーティーに入れたかな?でもね、普段はちゃんとメイド仕事も頑張るからね。」


子供だと思っていたヒスイが、しっかりと自分の意見を言うとはな。



それよりもだ!



ヴリトラとヒスイがここまでの仲になっていたのに驚きだよ。

まだ婚約中の2人だけど、将来は似合いの夫婦になりそうだな。



いや・・・



やっぱりヴリトラがヒスイの尻に敷かれている未来しか見えないかもな。



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