222話 戦い、その後・・・④
数日後・・・
フォーゼリア王国から国王様とシャル、そしてアベル第1王子殿下とリーゼロッテ皇女殿下が、聖教国からナブラチルさんとドット司祭様、シュメリア王国からはジョセフィーヌ女王様と王配であるテオドール様が会談を行った。
会談の進行役はギルドのグランドマスターでもあるラピスが執り行った。
まぁ、ラピスなら贔屓もないだろうし、公平な進行が出来るとの各国からの意見だったけどな。
それだけ『大賢者』(実はもう称号は変わってしまっているが・・・)の肩書は絶大なのだろう。
ラピスの補佐としてソフィアも参加していた。
この2人なら問題は無いな。
デミウルゴスとの戦いで丸一日眠っていたラピスだったが、魔力も完全に回復したようでいつもの態度が復活し、普段の態度でみんなを仕切っていたけどな。
相変わらずのソフィアとのキャットファイトはもう日常になっているよ。
それを微笑ましく見ているみんなも通常営業だな。
会談の結果、3国間に同盟が結ばれ、特に帝国と隣接しているシュメリア王国に対する防御の事で、フォーゼリア王国と聖教国も援助を惜しまない事になった。
今回の戦いでシュメリア王国の辺境が帝国に狙われた事もあり、最重要課題で防衛に力を入れるようにした。
まぁ、美冬さん達のおかげでやつらの侵攻は未然に防げたが、その際、帝国側の領地を不毛の地にした、テレサの聖剣ミーティアの固有能力『メテオ』の威力を目の当たりにして、テレサに対しては相当ビビってしまったのはねぇ・・・
そして、魔王や邪神を倒した後の帝国の立て直しをリーゼロッテ皇女殿下がみんなの目で演説し、フォーゼリア王国の国王様はもちろんの事、シュメリア王国と聖教国も全面的に支援をしてくれるよう、アンに約束してくれた。
また、ティアの計らいでドラゴンの山に住んでいるドラゴンやワイバーンを輸送の手段に使う事を了承してくれ、俺達の新しい仕事に協力してもらえるよう、新たに竜王となったバハムートさんに協力を取り付けてもらった。
というか、あのヴリトラ戦で俺達が大量のドラゴンを倒しまくってしまっていたから、俺達はドラゴンよりも上位の存在だと認識されてしまったようで、二つ返事で引き受けてくれたけどな。
今までの馬車を使っての陸路での物流と違い、空を飛べるワイバーンやドラゴンが荷物を運ぶのだ。時間も一度に運べる物量も今までとは桁違いだ。なんせ、ワイバーン1体でも馬車数台分の荷物を運べるし、ドラゴンに至ってはそれ以上の輸送能力だ。
それに最強種と呼ばれるドラゴン族だ。空を飛べる事もあるが道中で襲われる心配は全く無い。誰がドラゴン相手に喧嘩を売る?そんな訳で護衛を雇う必要も無いし、移動にかかる時間もとても短くなったから経費がかなり軽減され、最終的には遠方からの仕入れでもそんなに高価にならなくなった。
物流における一大革命を起こした事になった訳だ。
さすがに全ての輸送を空輸に切り替えることは無理だし、あまりやり過ぎると従来の輸送業者や護衛の仕事を請け負っていた冒険者達の仕事も無くなってしまうので、ある程度は程々にとなってしまったけどな。
それでも、そのまとめ役として、ローズの商会が物流とドラゴン達の手配を一手に仕切っていた事もあり、莫大な利益が入ってしまった。
識字率がフォーゼリア王国よりも低いシュメリア王国と聖教国に対し、その利益で学校を建て平民の子供達に無償で勉強を教えるようになった。
そして優秀な人材がどんどんと育ち、この3国は更に発展していくことになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
女神フローリアの神殿内で2人の女性が向かい合っていた。
神界へと戻った美冬が真剣な表情で女神サクラに視線を移す。
「サクラ」
「はい、美冬お母さん。」
「本当の最後の仕上げはあなたに任せたわよ。何十年後になるか分からないけど、ここで待っている彼女にもハッピーエンドにしないとね。」
「もちろんですよ。未練を残した魂の救済も私達の仕事ですからね。」
女神サクラは美冬の後ろに立っている人影に微笑むと、その人影は深々と頭を下げた。
・・・
・・・
・・・
・・・
「お母様・・・」
マーガレットが心配そうに私の顔を見ているわ。
「ふふふ・・・、大丈夫よ。ちょっと疲れただけ、しばらく休めば元気が出るわ。」
「し、しかし・・・」
ブランシュもマーガレットと同じように私の顔を覗き込んでいるわね。
(そんなに心配しなくても・・・)
グルっと周りを見渡してみると、ブランシュの娘である現女王のアプリコットも心配そうに見ているわね。
その隣にはアプリコットの娘で私の曾孫の1人であるシレーヌも大きなお腹で立っている。
強がってみたけど、自分の体の事はよく分かっているわ。
ここ数日、私はベッドで伏せって寝たきりになっています。
(もう十分に長生きしたわ。)
あの時の戦いからどれだけの月日が経ったのかしら?
女王としてこの国に為に頑張ったわ。
お忍びで城下町にも何度も出かけたけど、国民のみんなはとても楽しそうに生活をしていたわね。
こんな私でも役に立てたのかな?
それに、これ以上私が頑張って長生きしてしまうと、私よりもマーガレットやブランシュが先に・・・、って可能性もあるし、十分に人生を生きてきたわ。
(みんなのお陰で私は幸せだったわよ。)
そのみんなが私が横になっているベッドを囲んで心配そうに見ているわね。
もう体も自由に動かなくなってきたわ。
それに瞼がどんどんと重くなって目を開けられなくなってしまう。
(不思議ね。)
私の脳裏には、もう私の隣にいなくなってしまったテオの姿が次々と浮かぶ上がってくるわ。
(テオ・・・、私を迎えに来てくれたの?)
意識が少しずつ真っ暗になってきました。
(これが死なのね・・・、テオ、私もあなたの元に・・・)
しかし、突然、視界が開け明るくなります。
「ここは?」
キョロキョロと周りを見渡しましたが、どこまでも真っ白な景色が広がる世界でした。
私は死んだはずでしょう?
(もしかして、ここが死後の世界ですか?)
ポゥ
いきなり目の前に光の玉が浮かび上がります。
その光が激しく輝き目を開けられなくなって、思わず目を閉じてしまいました。
しばらくしてゆっくりと目を開けます。
「そ、そんな・・・、私は夢でも見ているのですか?」
(クラリス様?)
信じられない光景が私の目に飛び込んできました。
クラリス様が・・・
生前とお変わりない姿で・・・
あの太陽のような優しい微笑みを浮かべながら・・・
女神サクラ様と一緒にクラリス様が私の目の前に立っています。
【フィー・・・】
クラリス様の声が聞こえます。
【あなた1人にさせてしまい、あれからずっと苦労をかけさせたわね。本当にごめんなさい。】
「いえ!そんな事はありません!クラリス様の身に起きた事に比べれば些細な事です!」
思わずクラリス様へと近づき手を握りました。
あぁぁぁ・・・
クラリス様は当時と全く分っていません。私の記憶にあったクラリス様の手の温もりと違っていません。
(あれ?)
私の手が?
クラリス様の手を握っている私の手が?
どうして若い頃の手なの?
今の私の手はシワシワのおばあちゃんの手のはずなのに?
「ふふふ、どうしました?」
サクラ様がニコニコと微笑んで私に語りかけてくれました。
「いえ・・・、私の手が若返っているので、どうしてかと思い・・・」
「この世界はですね、肉体は存在しない世界なのですよ。あなたの想いがそのまま表われる世界よ。かつての親友に会えたから、その当時の気持ちが甦ったのでしょうね。だからよ、見た目が若返ってしまったのはね。」
「は、はぁ・・・」
信じられない事ですが、やはりここは死後の世界だったのですね。
でも、こうしてクラリス様に会えるなんて想像もしていませんでした。
(はっ!)
「クラリス様・・・」
私がジッとクラリス様のお顔を見ると、クラリス様はニコッと微笑んでくれます。
「もしかして?私がこの場所に来るのをずっと待っていたのですか?」
「大丈夫よ。」
「し、しかし!あなた様が亡くなられてからどれだけの月日が経ったと・・・、今までずっと?」
しかし、クラリス様は微笑みながら首を振りました。
「私は魂だけの存在よ。かつて生きていた時とは時間の概念が違うの。だから心配しないで。それにね、テオにも会ったのよ。」
「テ!テオにですか?!」
「そうよ、テオは輪廻の輪に行かなくてはならなかったから、私にフィー宛に言付けを頼まれたの。いつかはフィーがここに来る時には自分がいないけどご免とね。私はテオに会えたから満足だったけどね。」
「そうでしたか・・・」
テオには会えませんでしたが、クラリス様はテオに会えたのですね。
まるで自分の事のように嬉しく感じます。
「テオはね、あなた、フィーと出会えて一緒に過ごせて幸せだったと言っていたわ。ちょっと妬けちゃったけど、テオが幸せだったのなら何も言うことは無かったわ。私の死をずっと引きずりながら後ろ向きで生きていたら、私も後悔だらけだったわよ。でもね・・・」
パチンとクラリス様が私にウインクをしてくれます。
あぁぁぁ、この仕草・・・、本当にお変わりないのですね。女の私でもこの仕草にはいつもドキッとさせられましたよ。
「テオの幸せは私の幸せなんだしね。」
「だけど・・・」
クラリス様が俯き細かく震えています。
「だけど・・・、私もフィーと一緒に生きたかった・・・、親友であるあなたと一緒にずっと・・・」
「クラリス様・・・」
「いくら私の力をもってしても人生をやり直す事は不可能よ。時間は巻き戻せても人生は巻き戻せないの。」
「「サクラ様・・・」」
「でもね・・・」
そう言ってサクラ様がウインクをしてくれます。
「生まれ変わって新しい人生を送る事は可能よ。真っさらな気持ちで新しい人生を送る事をね。生まれ変わりというのは記憶を無くす事になるけど、あなた達の友情が本物なら記憶を無くそうが想いは忘れないはずよ。再び親友として巡り会い一緒に人生を歩む可能性もあるわ。だけど、その可能性はかなり低いけどね。」
クラリス様が私の眼を見て頷きました。
その気持ちは私にも伝わります。
(私もクラリス様と同じ気持ちです。)
「「お願いします!」」
クラリス様と同時に叫びました。
「生まれ変わって巡り合うか分かりませんが!」
「それでも私達は必ず見つけます!」
「「だって!私達の友情は永遠ですから!」」
「あなた達の覚悟は確かに伝わりました。それでは希望通り生まれ変わって再び出会う奇跡を信じて・・・」
サクラ様の右手にあの黄金の杖が現われ、黄金の光が私達へと降り注ぎます。
「これは?」
私達の体が黄金の光に包まれました。
そしてゆっくりですが体が浮き上がり上昇を始めたのを感じます。
隣にいるクラリス様に視線を移すと、クラリス様も私と同様に黄金の光に包まれていました。
少しづつ意識が薄れていきますが、絶対にクラリス様の事は忘れないように頑張りました。
でも・・・
何も考えられなくなり、意識が無くなり始めました。
(クラリス様!必ず見つけずっと一緒に・・・)
「女神なのに嘘を付いてしまったわね。でもね、おかげであなた達の気持ちはよく伝わったわ。ふふふ・・・、記憶は残しておいたけど、あの2人なら問題無いでしょう。いえ、前世の記憶があってこそ新しい第2の人生を送れるでしょうね。」
ピンク色の髪の毛を掻き上げた。
「最初は戸惑って大変でしょうが、ずっと仲良くね。まぁ、あの2人ならそんな心配はいらないでしょうけどね。念の為、私の加護もオマケをしてあげるわね。生まれつき女神の加護を持っている人は普通はいないのよ。それこそ、英雄や聖女になる資格がある人だけ。ふふふ・・・、あなた達もその資格があるかもね。双子の姉妹として生まれ変わるあなた達の未来に幸せを・・・」
2つの黄金に輝く光の玉が遙か上空に消えるまで、女神サクラはずっと見つめていた。
「「おぎゃぁあああ!おぎゃぁあああ!」」
「シレーヌ奥様!無事に生れました!」
ベッドの中でグッタリとしていた女性が嬉しそうに微笑んだ。
「泣き声が2人に聞こえるけど、もしかして?」
「そうです!可愛い双子の女の子ですよ!」
出産を手伝っていた女性達の1人が嬉しそうに叫んだ。
生れた子供達は産湯で洗われおくるみに包まれ、シレーヌと呼ばれた女性に抱かれた。
「かつてこの国は王族で双子が生れると不吉と言われていたけど、マーガレットお祖母様とブランシュお祖母様がこの風習を打ち破ってくれたわ。女神様に愛されし存在の偉大なるお婆様達・・・、しかもその風習も掌を返したように、双子は幸せの象徴と呼ばれるようになったのね。」
そしてジッと双子を見つめ微笑んだ。
「あなた達もお祖母様達のように女神様に愛されると良いわね。」
「おや?奥様・・・」
「あら、あなたも気付いたの?」
「はい、この子達は生れたばかりなのにもう仲良く手を繋いでいますよ。そしてとても幸せそうに微笑んでいるなんて・・・」
「本当ね、こうして見ると本当に親友のような感じよね。この子達にもお祖母様達のように女神様の加護がありますように・・・」




