22話 グレン達の末路⑤
「次はあなた達の番ですね。」
フローリア様がグレン達へ微笑んだ。
「「め、女神様・・・」」
2人がやっとの声で喋っている。しかし、表情は少し嬉しそうだ。
だけどな・・・
フローリア様が微笑んでいるから許してもらっていると思っているみたいだけど、俺には分かる。
同じ微笑みでもアンの時とは違って目が笑っていない。
ラピスの言う通り怒っているのに間違いないだろう。
「はぁ~~~~~」
フローリア様が盛大なため息をついた。
「あなた達には失望しました。人類の守護者、手本となるように称号を授けたのですが・・・」
「「えっ!」」
2人が真っ青な顔になった。
「【英雄】に【魔道士】、どれもSランクのレア称号なんですけどねぇ~、あなた方も祝福を受けるまでは善良な人間だったのに、力を手に入れた途端に人が変わったように力に溺れてやりたい放題でしたからね。清々しいくらいの悪行三昧・・・、私も人を見る目が無かったと反省です。」
「他の神の世界では、クズの勇者や強者が底辺だとバカにしていた人間に『ざまぁ!』されるのが流行っていますから、私も流行りに乗せてもらいましたよ。見事なかませ犬役、ご苦労様でした。おかげ様で歴代最高の勇者が誕生しましたから、この点に関してだけは感謝しますよ。まぁ、あなた方は今後の未来は絶望しかありませんが、これだけの悪事を働いていましたから、私も『ざまぁ!』させるのに心は痛みませんでしたね。」
うわぁ~、フローリア様も容赦無いよ・・・
2人は真っ青を通り越して真っ白な顔になっているよ。女神様から直々に絶望宣言を受けてしまったからな。ご愁傷様・・・
「「め、め、女神様ぁあああああああああああああああ!」」
へたり込んでいた2人が、額を床に擦り付けて土下座している。
「ど、どうかお許しを!俺が、いや!私が間違っていました!これからは心入れ替え、人の手本となるよう頑張りますぅうううううううううううう!」
「女神様!許して!私も心を入れ替えます!」
しかし、フローリア様は冷たい視線で2人を見ていた。
「もう手遅れです。あなた達はやり過ぎました。引き返せない程に・・・」
掌をグレン達に向けた。
「「ひっ!ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」」
グレン達の体が一瞬だけ光った。
「うっ!か、体が重い・・・、どうなって・・・?」
「魔力が!私の魔力が感じない!私も体が重い・・・、どうして・・・?」
「別に不思議ではありまんよ。あなた達の称号とスキルをはく奪して、代わりに散々バカにしていた文字通り【無能】って称号を授けただけですからね。ついでに【弱体化(強)】のスキルをおまけにサービスしておきました。」
ニヤッと笑う。
「ふふふ、どうです?今まで底辺だと思ってバカにして、自分達の快楽の為に『殺していた』人達と同じ存在になった気分は?あっ!今はそれ以下になってしまいましたね、ご愁傷様です。まぁ、私は女神ですから直接裁く事はしませんので、あなた方の処遇はここの人達にお任せする事にしましょう。」
「め、女神様・・・、お許しを・・・」
「助けて・・・、許して・・・」
もうグレン達には興味が無くなったかのように、懇願している2人を無視して背を向けてしまった。
そして、マナさんに微笑んだ。
「えっ!私!」
マナさんが驚きの表情でフローリア様を見つめていた。
「そうですよ。あなたにはとても感謝しています。」
「私が?何も関係無いと思いますが・・・」
「いえ、あなたはこの町でのレンヤさんの心の支えになっていました。私の旦那様が言っていましたよ。この町がレンヤさんの運命の分岐点だったと・・・」
「そ、そんな事が・・・」
「そうなんですよ。レンヤさんが勇者になる試練に耐え切れず心が折れてしまい、冒険者を諦め実家に戻ってそのまま家を継いで一生を終える未来もあったのです。レンヤさんは3年間、ずっと無能と言われて周りからバカにされ続けていました。他の町のギルドの受付嬢からもです。でも、あなただけは違っていたのよ。あなたは差別もせず、レンヤさんに優しく接してくれました。その事が、レンヤさんの冒険者を続ける力になったのですよ。そして、その努力が実り、見事にレンヤさんは勇者になれました。」
「わ、私は・・・、ただ、レンヤさんが死んだ弟と重なって見えたので・・・、死なせたくないと思って・・・」
「あら、私の前で嘘を吐くの?本音は分かっているのよ。私は女神なんですから全部分かっていますからね。ふふふ・・・」
悪戯っぽい笑みをマナさんに向けている。
「め、女神様・・・、勘弁して下さい・・・、みんなの前でそんな・・・」
真っ赤な顔でマナさんが俯いてしまった。
マナさんのあの照れよう・・・
やっぱり、さっきの告白のように、姉として俺と一緒にいたいのかな?
それにしても・・・
マナさんがこの町で俺の心の支えになっていたとは思っていなかった。
でも、確かにマナさんは1番親身になって接してくれていたし、俺も依頼を達成してマナさんが喜んでくれるのを楽しみにして頑張っていたな。どんな小さな依頼でも喜んでいてくれたよ。
(マナさん、ありがとう・・・)
「マナさん、詳しい事はラピスさんに伝えますから、みんなでお話して下さいね。私からアドバイスよ。もっと自分の心に素直になってね。遠慮は美徳だけど、過剰な遠慮は損するだけですからね。分かりました?」
「はい、分かりました。女神様、ありがとうございます。」
まだ真っ赤な顔だけど、マナさんが頷いていた。
「さて、レンヤさん。」
フローリア様がクルッと俺へと振り向いた。マナさんと話していた時と違って真剣な眼差しで俺を見つめている。
「私がこうしてラピスさんの体をお借りして現れたのは、『ざまぁ!』をする為だけではありません。最も大事な事をお伝えする事です。」
「それは?まさか・・・」
「はい・・・」
フローリア様がゆっくりと頷いた。
「魔王が現れました。」
フローリア様に祈りを捧げていた周りの人々も我に返り、次々と立ち上がった。
ギルド内が一斉にザワザワと騒がしくなった。
「落ち着きなさい!」
フローリア様の一声で一気に静かになった。
「みなさん、心配はありません。こうして勇者が再び甦ったのです。そして、500年前に魔王を倒した勇者パーティーも再びこの時代に蘇るでしょう。」
「彼等ならこの世界に光を照らしてくれるでしょう。ですから、希望を失ってはなりません。」
周りの人々が再びフローリア様に祈りを捧げ始めた。
「フローリア様、俺だけでなくて勇者パーティーもですか?ラピスは既に復活していますし、ソフィアも眠りについていると聞いていますが、アレックスは?アレックスも俺みたいに・・・」
しかし、フローリア様は首を振った。
「いえ、彼は天寿を全うし、既にこの世にはいません。ですが、彼の意志と聖剣『ミーティア』は受け継がれています。後は、その者の真の目覚めを待つだけです。その者と巡り会うのも、あなたの運命ですよ。まぁ、既に会っていますけどね。会っているというか、ふふふ・・・」
(フローリア様の含み笑いが気になる・・・、既に会っている?一体、誰なんだ・・・)
「レンヤさん・・・」
「はい」
「再び、あなたを戦いに巻き込んでしまい、誠に申し訳ありません。願わくば、過去から延々と続く因縁を断ち切り、この世界に真の平和を・・・」
フローリア様が再びアンへと向き直った。
「こうして私が具現化する時間はもう僅かしかありませんが、アンジェリカさん、あなたに伝える事があります。あなたに加護を与えた事により、あなたの運命を見る事が出来るようになりました。」
「あなたの周りには多くの人々が集まってくるでしょう。あなたの想いは必ず伝わります。ですが、それを成就するには、あなたへの試練も過酷になるでしょう。決して諦めないで下さい。あなたはもう1人ではありませんからね。」
アンが深々とフローリア様へ頭を下げた。
「はい、フローリア様の大切なお言葉、この胸に刻み込んでおきます。仰る通り、私はもう1人ではありません。レンヤさんとラピスさんと共に・・・」
フローリア様が満足そうに微笑むと、金色に輝いていた髪が元の青色の髪に戻った。
ガクッと全身の力が抜けたようになり倒れそうになる。
「ラピス!」
咄嗟に駆け寄りラピスを抱き止めた。
「レンヤ、ありがとう・・・、いつもよりも時間が長かったから体力を使い果たしちゃった。」
ラピスを見ると、汗びっしょりになっていてかなり辛そうだ。
「ヒール!」
ほのかに全身が輝くと、顔に元気が出てきた感じだ。
「どうだ?立てるか?」
だけど、ラピスが少し不機嫌そうだ。何で?
「レンヤの意地悪・・・、もう少しこのままレンヤに抱かれていたかったのに・・・、出来ればお姫様抱っこをして欲しかったな。」
「お前なぁ~、時と場所を考えろ。こんな場所で出来るか!」
「後でな・・・」
小さく耳打ちした途端にラピスが元気よく立った。
「ふふふ・・・、約束よ。」
【レンヤさん、私もね!】
【分かったよ。ラピスだけじゃ不公平だからな。ちゃんとアンにもお姫様抱っこしてあげるよ。】
【ありがとう!レンヤさん大好き!お姫様抱っこには憧れてたんだ。楽しみにしてるね!】
アンがとても嬉しそうにしているよ。
(ホント、この2人は・・・)
チラッとマナさんの方に視線がいってしまった。
(なぜだ?何でマナさんまで羨ましそうな顔をしている?俺達の会話が分かってしまっているのか?)
マナさん、恐るべし・・・
周りもどうやら我に返ったみたいだ。
冒険者達は床に蹲って未だに泣きながら謝り続けているグレンとリズを見ている。
「もうすぐSランクと言われていたのに、最後はこのザマか・・・」
「女神様まで怒らせてしまうなんて、どれだけの悪事を重ねていたんだ?」
「俺、これからは真面目にやるよ・・・、ああなりたくないし・・・」
「そうだな、女神様の目は誤魔化せないって事だ。」
「俺も頑張って、勇者みたいにモテるようになるぞ!」
いや、最後の奴、それは違うと思うぞ。
「理事長、ちょっと話があるんだけど良い?」
「はっ!すぐに!」
ラピスが理事長に声をかけると慌ててラピスの元に走って行った。2人で何かコソコソと話をしているが・・・
しばらく2人で話をしていたが、理事長が離れグレン達の前まで行った。
忌々しそうな視線でグレン達を見ている。
「お前達・・・、今まで隠れて行っていた悪事、全てラピス様から聞いたぞ。この書類にも全て記載されている。もう、誰もお前達を庇う者はいない。」
そう言って、手にしている書類をポンポンと叩いた。
「「ひぃいいいいいいいいいいいい!」」
「ゆ、許して下さい!」
「理事長様!私の体を好きにして良いから、助けて!」
必死になって2人が土下座をしていたが、理事長の視線は厳しかった。
「おい、この2人をヘンリー達と一緒に連れて行け。楽に死ねると思うなよ・・・」
じたばたしていたが、警備の職員にズルズルと引きずられながらギルドの外へ連れ出されてしまった。
そして理事長が俺の前で土下座してきた。
「レンヤ様、今までの事は大変申し訳ありません!あなたを馬鹿にしていた受付嬢は全てクビにします。どうかお許しを!」
正直、俺にとってはもはやどうでもいい話だと感じている。今までの苦労は試練だったという事だし、そのおかげでアンに出会えて勇者になれた。
今の俺はこれからの事を考えている。アンにはこれから試練が待っているとフローリア様が言っていた。アンには俺のような悲しい思いをさせたくない。
「理事長さん、そこまでしなくても良いですよ。これからは俺のようにバカにされるような事が無くなれば良いだけですからね。そういった教育をしてもらえれば十分です。」
「何と寛大なお方!さすが勇者様です!分かりました、多少の罰は与えますが、教育はしっかりさせますので、これからのギルドの対応を見ていて下さい。」
深々と理事長が頭を下げた。
チラッとアンの方へ視線を移すとニッコリと微笑んでいた。
「レンヤさんは優しいね。そんな優しいレンヤさんだったから、1人ぼっちになった私をずっと励ましてくれた。レンヤさんを好きになって良かったと心から思うの。」
そう言って俺の腕を組んできた。
そうだ、俺はアンのこの笑顔を守る為に戦う。アンだけじゃない、ラピスもだ!
前世の俺は復讐で戦っていた。
今の俺はそんな理由で戦う事はしない。アンが望む人と魔族が分かり会える世の中にする為に戦う。
魔王!
今回のお前はアンに対する試練なんだろう・・・
アンの勇者でもある俺が、必ず貴様を叩き潰す!みんなと一緒にな・・・




