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215話 ロキとの決着

【くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!俺は死なん!死なんぞぉおおおおおおおお!】


ロキの叫び声だけが大空に虚しく響いている。


「おぉぉぉ~~~、何か騒いでいるようだな。」


マナの隣に移動したティアマットが嬉しそう空を見上げていた。


「ティア!大丈夫だった?」


マナが心配そうにティアマットを見つめていた。


「心配させたな。もう大丈夫だし、今の我は生まれ変わったようなものだぞ。」


「そうね、今のティアの見た目もかなり変わったし、翼以外は私と同じ様になったしね。」


嬉しそうにマナが微笑んだ。


「それにティアからの魔力が以前とは別次元ね。私も強くなったけど、ティアの方がもっと上かも?でもね、レンヤ君のお姉さんポジションは渡さないわよ。」


ティアマットも嬉しそうに微笑む。


「ふふふ・・・、この位置もライバルが多いな。マナを筆頭にエメラルダにローズマリー、我から見てもどいつも優秀過ぎる女達だ。だが、我も負ける気はないからな・・・、我も家事という技術を身に着け、お前達以上に立派な主婦となってやろう。ふふふ・・・、腕が鳴るぞ。」



「ねぇ・・・、ママ・・・」


フランがボソッとシャルロットへと話しかけた。


「どうしたの、フラン?」


「う~~~~~ん、ティアお姉ちゃんなんだけど、何か勘違いしている気がするんだけど・・・、主婦ってそんな勝負をするものなの?」


「まぁまぁ、気にしないでおきなさい。今のティアは人間らしい生活を身に着けている最中だからね。でもねぇ~~~」


「ママ、どうしたの?」


「ティアって元がエンシェントドラゴンだし、人間と比べてもとても頭が良いのよ。そんなティアが本気で勉強をしたらと思ってね・・・」


タラリとフランの頬に汗が流れた。


「わ!私も頑張る!私だって神祖のバンパイアなんだし、神竜と同じ格なんだから頭の良さは負けないわ!このまま娘枠で終わりたくない!」


「それにね・・・」


シャルロットが腕を組んで少し首を傾けている。


「他に何か心配な事もあるの?」


「フランは今は娘という位置でレンヤさんに対してはかなり近くにいる存在だけど、それ以上に妹枠最強のテレサもいるからね。テレサはもうレンヤさんと結婚してしまったけど、あの筋金入りのヤンデレがそう簡単に他人を認めないしね。そのテレサに認められるのは一筋縄ではいかないのよ。そんな中でフランも大きくなれば妹枠の人達と必然的に争うことになるのよ。テレサに認められる事はもちろんの事だし、それによ、あのマーガレットちゃんもあなた以上にアピールしているのは分っているよね?あの子の行動力は侮れないわ。そしてダークホースがいるのを忘れていない?」


「え!誰?」


「エキドナさんを忘れていない?」


「あっ!」


フランが再びタラリと汗を流した。


「彼女も強力だと思うわ。子供のようなとても可愛らしい外観だけど、時折見せるティアに匹敵する色気に羨ましい程のあの巨乳・・・、あのギャップは手強いでしょうね。最近はテレサとも仲が良いし、いつもテレサと一緒にレンヤさんにアプローチしているからね。あのままじゃ陥落するのもそう遠くないと思うのよ。それと、アイ、マイ、ミイもね。特にミイがレンヤさん専属メイドとして母様から任命されて頑張っているし、何かにつけてアイもマイもどさくさに紛れてレンヤさんの世話をするようになってきているのよね。あの3人はまだ成人になっていないけど、アイは来年成人だし、次々と成人してくるとなると、3人揃って絶対に将来はレンヤさんを狙ってくるのに間違いは無いわね。レンヤさんの年下枠は実は1番の激戦区だと思うわ。」


「た、確かに・・・」


フランが少し落ち込んだようになったが、すぐにグッとガッツポーズする。


「だけど頑張る!今はパパの娘としてたくさん甘えてパパから離れない!そして大人になったら・・・、へへへ・・・」


薄ら笑いを浮かべて少し涎が垂れていた。


「フラン、何を妄想しているのよ・・・、ふふふ、いくら大人の知識を持っていても、やっぱり精神はまだまだ子供ね。」


そんなフランの様子をシャルロットが微笑みながら見ていた。




「何をやっとるんじゃ、あの2人は・・・」


ティアマットが呆れた表情で2人を見ていたが、すぐに嬉しそうな顔になった。


「それにしてもだ、シャルはしっかりと母親をしているな。あんな姿を見ていると我も子供が欲しいと切に願うな。」


隣のマナも頷く。


「そうね、私も家族に憧れるわ。孤児だった事もあったし、親の温もりはほとんど記憶に無いから尚更に憧れるのでしょうね。」


そしてキッと空へと視線を移した。

その視線の先には冷華と雪によってグングンと上昇し姿が小さくなっているゴーレムがいる。


「その為にはこの世界を平和にしておかないとね。みんなが安心していられる世界を!私達の子供達の為にもね!その為に私達は戦う!」


ブリュナークを腰だめに抱え砲身を上空へと向けた。


「そうだ!我も同じ願い!さぁ!最後の仕上げだ!」


ティアマットが叫ぶと、この場にいる全員が頷いた。




「雪!そろそろ予定ポイントよ!」


「分かっている!それじゃ、ワイヤーを切り離すわ!」


2人がワイヤーを切り離すと、ゴーレムが自由落下を始めた。


「どうやら地面スレスレに浮く事が出来ても高度を保って浮くのは無理だったみたいね。」

「私もそう思うわ。あれだけ無駄な大きさだし、ギリギリに浮くだけで精一杯だったのでしょうね。」


「さて!私達も最後の仕上げに入るわよ!」


冷華が叫ぶと雪が頷く。


「もたもたしていると高度が落ちてしまうし、その分地上に被害が出る可能性が高くなるからスピード勝負といきますか!」


グン!


一気に2人が急降下を行い、あっという間にマナの隣に立った。


「さすがは高機動が売りの初号機と2号機ですね。あれだけの距離をほとんどノータイムで到着するのには驚きですよ。それにこのスピードに対応できるあなた達も凄いと思いますよ。」


マナがゆっくりとブリュナークの砲身を遥か上空にいるゴーレムへと向けた。

あれだけの大きさだが、肉眼ではギリギリ見えるかどうかの状態だ。しかしマナは落ち着いて砲身を構えた。


「標的の距離約3000!弾道予測演算開始!標的までの空気圧抵抗値入力、重力干渉による誤差修正!」


マナの目の前に透明なキーボードのようなものが浮かび上がり、左手だけで高速で打ち込んでいる。

すぐにキーボードが消え、再びブリュナークを両手で腰だめに構えた。


「弾道予測演算終了しました!冷華さん!雪さん!照準をバイザーにトレースします。それに合わせてロックして下さい!」


「ひゅぅ~、ちょっと優秀過ぎよ。こんなに早く弾道の計算が出来るなんて驚きね。ホント優秀どころではないわ。私達のメンバーに欲しいくらいよ。神界にいるデウス様の片腕としても十分に通用するわね。」


冷華が感心した表情で雪へと視線を移す。


「そうね、いくら内臓AIのサポートがあっても、私じゃここまで正確に1回で計算は出来ないわ。せめて試射してからの修正演算がやっとね。ここまで適応出来るって、本当にこの世界の人間なのか疑わしいわよ。」


雪も両手を広げお手上げのポーズをしている。



「さて、私達も気合を入れるとしますかね!」


ガコン!


冷華の左側の背面装甲に折りたたまれて収納されていた砲身が展開し、腰だめにグッと構えマナと同じ方向へと砲身を向ける。


「アルテミス!第三形態神器解放!」


カッ!


雪の左手にはまっていた金色のブレスレットが輝く。

輝きが納まるとブリュナークよりも一回り小さな武器が握られていた。

それでも冷華と同じく十分大きな武器だが・・・


「これは?あなたの武器は確か弓だったはずでは?」


マナが珍しそうな顔で雪の新しい武器を見つめていた。


「これもアルテミスよ。デウス様に少し改良してもらったの。通常のアルテミスも十分に強いけど、他の神器に比べると絶対的な火力が不足していたの。元々が後方支援が目的だったけど、これからの事も考えて一点突破の機能も増やした訳よ。」


「そうそう、これで雪の死角は無くなったわよ。」


冷華がチラッとソフィアを見た。


「そうですね。ここに来てからは私とは模擬戦は行っていませんね。帰る前に一度手合わせをしてみたいですね。」


ソフィアがニヤリと笑った。


「まぁ、その話は追々ね。まずは私達が今やるべき事をしないと・・・」


雪が苦笑いをしながらマナの隣に並ぶと、アルテミスを2人と同じように構えた。

マナを中心にし、冷華は右側、雪が左側に並び、砲身を上空のゴーレムへと向けた。


「マナ!トリガーを預けたわ!」

「私の方もいつでもOKよ!」


「了解です!」


辺りに静寂が漂う。



「3つの力を1つに!トリニティー!ブラスター!いっけぇえええええええええええええ!」



マナが叫んだ!



カッ!




ズバァアアアアアアアアアアアアアアア!




マナのブリュナークから黄金の光が発射されると、左右の冷華と雪の砲身からも赤色と青色の光が迸る。

ブリュナークの光の柱を中心にし、赤色と青色の光の帯が螺旋のように巻き付き一直線に上空のゴーレムへと飛んでいった。




「な!何なのだぁあああ!この馬鹿げた魔力はぁあああああ!たかが原住民の人間が神を越えるだとぉおおおおお!この俺が死ぬ!死ぬだとぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


何も出来ずにただモニターを見ていただけのロキだったが、そのモニターが目を開けられなくなるほどに眩しく輝いた。

一瞬にして操縦席が光に呑み込まれてしまう。



「うぎゃあああああああああああああああああああああ!」



ロキの声が響き渡った瞬間、全ての存在が光に呑み込まれ蒸発してしまった。




ボシュゥウウウウウウウウウウウ!




3色の光がゴーレムを呑み込み遙か上空へと飛び去った。

一切の爆発も起きることもなく、あの巨大なゴーレムの姿の影も形も無い。



「塵の一欠片も残さず蒸発したようね。」


マナが「ふぅ」と息を吐くと、ゆっくりとブリュナークを下ろした。

2人もマナに続き武器を下ろした。


「これで一先ずこちらの方は終わったな。本当の最後の仕上げに行ってくる。」


バサッ!


ティマットが翼を広げ地上へと急降下を始めた。






城壁の外の地上に1本の腕が落ちている。


ズルッ!


腕の切り落とされた部分から肉が次々と湧き上がってくる。

湧き出た肉の部分がどんどんと大きくなり人の形を取り始めた


ズズズ・・・


しばらくすると1人の男の姿になると裸だった体に波が湧き、みるみるうちに服が形成された。

全身に服を着た状態になるとゆっくりと起き上がった。


「はぁはぁ、まさかここまで追い込まれてしまうとは・・・」


ロキが地面に膝を付き荒い息を吐き上空を見つめた。


「だが、俺は不死身だ。どんな事をしても死ぬ事は無い。次は必ず・・・」



「もう次は無いぞ。貴様はここで終わりだからな。」



ロキの後ろでティアマットの声が響く。

恐怖の表情でロキがティアマットへと振り向く。


「何だとぉぉぉ・・・、どうしてここが分かった?」


ニヤリとティアマットが笑う。


「誰かさんから聞いていなかったのか?『もう貴様の解析は終わっているのだぞ。安心して貴様は死ぬのだな。』とな。」


「お、俺の秘密が分かっただと?いくらデウスの言葉だろうが出まかせを言うな!」


「出まかせだと思うか?まさかな、貴様はスライムからの進化で魔神となったから、普通に考えれば擬態でこの姿をしていると誰もが思うしな。まさか、貴様の本体は細胞に擬態しているとは想像もしなかったぞ。その体も他の神の体を乗っ取っただけで、上手く隠れ蓑にしているとはな。」


ジリ・・・


ロキが冷や汗をかきながら少しずつ後ろへと下がっていく。


「あの時、ヴリトラに右腕を切り飛ばされた際、流れ出す血液に紛れ込んで切り飛ばされた腕に隠れるとはな。あのゴーレムに乗っていたお前が本体だとみんなが思うだろうな。デウス様の目は誤魔化せないという事だ。」


「だが!俺の本体はどこにあるか分かるはずがない!この体の中にある細胞1つ、誰が分かると思う!傷を付けられれても血の中に紛れる事も可能!結界で逃げ道を塞ごうが、俺の本体はどんな攻撃でも壊す事は不可能!それが我が主であるダリウス様の絶対防御の加護!あの創造神でさえ俺の本体の核を壊す事は出来なかったのだぞ!」


それだけの自信があるのか、ロキがニヤニヤしながら両手を広げている。


「だから、貴様の解析は終わったと言っただろうが。当時はあの天使、『神殺しの天使』がいなかったとデウス様より教えられた、今はその男が我のすぐそばにいる・・・、あの破壊竜のヴリトラさえも敵わない男がな、それがどういう意味か分かっているのか?」


「ま、まさか・・・、本当にあの破壊神が蘇っただと?デミウルゴスの戯言じゃないのか?」


顔に冷や汗をかきながらロキがジリジリと後退をしている。


「我はな・・・、ご主人様と夜を共にした時に力を授かったのだよ。そして、神龍となった今、その力を発揮できるようになった!」



ブン!



ティアマットが右手を振るうと1本の長い水晶の刀身の剣が現れる。


ピキ・・・


その刀身の水晶部分に細かいヒビが入った。


パキィイイイイイン!


刀身が砕けかのように見えたが、まるで鏡のように研ぎ澄まされた銀色の刀身が露わになる。


「こ、これは?」


ジリっとロキが下がると、その分、ティアマットがズイっと前に出る。


「コレか?これは我とご主人様の力が融合して出来た剣だ。その名も『竜滅剣ドラゴンスレイヤー』、上位神に匹敵する我ら神龍すらも軽く滅ぼす事が出来る伝説の『神殺しの剣』だ。その意味は分かっているよな?」


「う、嘘だ・・・、そんな伝説の剣が貴様のような原住民に・・・」


剣を握っている右手をゆっくりと上に掲げた。


「この剣の威力、貴様の体で体験してもらおう。真の神殺しの力をな!」



斬!



ティアマットが上段より袈裟切りでロキの体に剣を振り下ろした。


「あ”」


ロキが短い悲鳴を上げた。


「お、俺の核がぁぁぁ、何で俺の核の位置が分って・・・」


「そんなのは我にかかれば造作も無い事。それよりもどうだ?今ので確実に貴様の核は真っ二つになったぞ。良かったな、神殺しの剣を堪能出来てな。」


彼女はロキに背を向け翼を広げた。


「それではさらばだ。核が無くなった貴様は依り代の体も原型を保てなくなるだろう。安らかに眠るが良い。永遠にな・・・」


バサッ!


振り返ることも無く大空へと羽ばたいた。



ズル!


「!!!」


ロキの左足が崩れ地面へと倒れ込んだ。

慌てて起き上がろうとして腕を地面に付けると、今度は肩から腕が崩れ去ってしまった。

そのまま地面にうつ伏せになってしまい起き上がる事すら出来ない。


「い、嫌だ・・・、死にたくない・・・」


しかし、全身が崩れ去り、ロキの存在はこの世界から消滅した。


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