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211話 負けてたまるかぁあああああ!①

SISE  アンジェリカ



「みなさん!強大な魔力が迫って来ます!」


アンジェリカが後ろにいるみんなに叫んだ。


その瞬間、湖の方から真っ赤が光が見えると、その赤い光に一瞬青白い光の柱が重なって見えた。

青白い光の柱を中心にし、赤い光が左右に別れた。



ズバァアアアアアアア!



その光は王都を避けるようにして外側を通り過ぎていく。



「あれが、ロキの奥の手なの?レンヤさんのおかげで直撃を避けられたけど、まともに喰らえばこの城壁くらいの強度だと、一瞬で貫通されて街は火の海になってしまうわ。私のイージスの盾でも防げるか・・・」


シャルロットはギリッと奥歯を噛んで湖の方を見ている。



「そこを何とかするのが我の仕事だ。」



ティアマットがズイッとみんなの前に出てくる。


「確かに神の力は強大で我と比べても絶望的な程に差があるのには間違い無い。だが!我は感じるのだ。ご主人様に愛してもらったあの夜、その時から我の中に何かが目覚めた気がする。ご主人様にはその人の秘めた力を目覚めさせてくれる力があるのだろうな。皆もそうだろう?」


その言葉にフラン以外が頷いた。


「えぇぇぇ~~~、私はパパにはまだ・・・」



ゴン!



シャルロットがフランの頭に拳骨をおとした。


「痛ったぁぁぁぁぁ~~~、ママ、いきなり殴るなんて酷いよ!」


「フラン、子供が何を言っているのかな?そんな話は大人になってからしなさい。」


「でも、ママの知識から男と女のアレの事も受け継がれていたしね。私の見た目はコレでも、私自身はもう大人と一緒の中身なんだよ。うふふ・・・、それにしてもママって以外とムッツリ・・・」


「こ、こ、こら!何て事を言うの!」


真っ赤な顔になったシャルロットが慌ててフランの口を塞ぐ。


「あなたはレンヤさんの血を飲んだら本来の姿に戻るのでしょう。だから、レンヤさんから力を貰っている事は私達と一緒なのよ!そういう事はきちんと体が成長してからよ!レンヤさんはロリコンじゃないし、ママとしては見た目的にも認められないの!」


「フランよ、諦めるのだな。」


ティアがニヤニヤしながら2人を見ている。


「いくら神の力を持っていても、ご主人様の協力が無くては満足に力を発揮出来なければ子供と同じだ。我らドラゴン族に匹敵する強さを誇るバンパイア族も不便な種族だな。だからな、存分に力を発揮できる歳になるまで我慢する事だ。お前程ならそう時間はかからんだろう?ヒスイと同じようにあと数年で大人になるのは確実なんだからな。」


「うん・・・、そうだけど・・・」


「我が番を見つけるまで1万年近くもかかったのだぞ。それに比べれば僅か数年など一瞬だ。そうだろう?貴様は生れてからまだ若い、確かにご主人様以外に魅力的な男はいないだろう。しかし、貴様は我等と違う優位性を持っているのだぞ。ご主人様の娘という立場をな。だからな、そう焦る事はない、存分に娘の立場を楽しむ事も大事だと我は思うぞ。恋人や妻とは違う位置にいるのだからな。」


ポンポンとティアマットがフランの頭を優しく撫でた。


「今は子供としてご主人様に存分に甘える事だな。今しか出来ない幸せだし、我も出来るなら変わって甘えてみたいものだ。」


「うん、分った。ティアお姉ちゃん・・・」


「そうだ、子供は素直が1番だ。下手に大人の知識を持っているから背伸びをしたがるが、焦る必要はないからな。心配するな、ご主人様は逃げていかないし、キチンとお前の受け入れてくれるだろう。ちゃんと大人になっていればな。」


そしてクルッとフランに背を向けた。


「さて、我も姉らしいところを見せないとな。」


一気に城壁の外まで飛んで行く。

ティアマットの後ろをかなり離れた距離を保ちながらアンジェリカ達も後を付いていった。


「テァア!第二波が来るわ!今度は直撃コースよ!王都ローランドの未来はあなたにかかっているからね!」


アンジェリカが叫ぶと、ティアマットの姿が巨大なドラゴンの姿に戻った。

湖の遙か彼方から真っ赤な光が迫って来る。


『今度は我の本気を見せてやろう!邪神よ!この世界の王たる我を舐めるな!最大威力の我のブレスを喰らえぇええええええええええええ!』


ティアマトが口を大きく開けると漆黒の炎が渦を巻きながら赤い光へと飛んでいった。



ドォオオオオオオオオオオオオン!



赤い光と漆黒の光がぶつかり大爆発を起こす。

その衝撃で湖面に大きな波が立ち、津波となって城壁へと襲いかかった。


『マズい!これだけの津波は我の力では!』



聖結界ホーリーシールド!」



一瞬で城壁よりも高い光の壁が王都ローランドを取り囲んだ。

大きな津波だったが、その障壁を乗り越える事は無く王都は無事だった。


『これは!』


ティアマットが後ろを向くと、ソフィアがドヤ顔でアンジェリカの横に浮いている。


「どうやら間に合ったようね。」


『ソフィアよ!助かったぞ!』


「どういたしまして。でもね、これくらいの津波なら防げるけど、あの赤い光線は防ぎ切れないわ。それと、ラピスから連絡があったけど、あの先にいるゴーレムはとんでもないブツを抱えているって。師匠の言った通り、とっても分の悪い賭けになったようね。最悪の想定が当たったみたいよ。」


「そうね・・・」


アンジェリカがギリッと奥歯を噛みしめて苦い表情に変わった。


「レンヤさんのところにもう一人の魔神デミウルゴスが現われたわ。ラピスさんと一緒に足止めを喰らってしまったわ。」


『主よ心配するな。』


「ティア・・・」


『最初の予定通り我が奴を迎え撃つ。主や美冬様から聞いた奴の性格なら我の挑発で一騎打ちへと持ち込めるはずだ。奴は我等を原住民と見下しているからな。絶対に負ける事は無いと高を括っているその傲慢、我が食らい尽してやるわ!』




しばらくすると、段々とゴーレムのシルエットが見えてくる。


『まさかここまで化け物のような大きさだとはな・・・、アレに比べれば我など豆粒ではないか。』



【原住民どもよ、何を無駄な努力をしているのだ?エンシェント・ドラゴンだろうが、俺の存在に比べれば貴様等はアリと変わらん。さっさと消え去るがよい。】


巨大ゴーレムからロキの声が響く。


『ふん!貴様が馬鹿にしているアリに対してここまで大げさな乗り物で現われたものだ。何が神だ、貴様は単なる臆病者だ。ふふふ・・・、そうだろう?直接に戦う自信がないからハリボテの虚勢を見せつけているだけなのではないのか?そんなハリボテごと我が吹き飛ばしてくれるわ。』



【何だと・・・】



ゴーレムから誰もが経験したことが無いほどの強烈な殺気が放たれる。


【このギガンテスをハリボテと言ったな。良かろう、このギガンテスの力をこの身に刻みながら死ぬがよい。】


ドラゴン状態のティアマットが高速でゴーレムへと迫る。


【特攻か?だが、そんな小賢しい作戦でこのギガンテスに勝てると思うな!】


ゴーレムが右手を伸ばしティアマットを掴もうとしている。



カッ!



ティアマットが輝くとその姿が消えた。


【何ぃいいい!どこへ行った?】



ドォオオオオオオオオオオオン!



ゴーレムの右ひじが爆発を起こす。


【どうしたぁあああ!ギガンテスよ!】


「ふふふ・・・、デカイだけあって隙間だらけだな。このサイズならおかげで関節の内部に楽々と攻撃が通るぞ。」


いつの間にか人間に姿になったティアマットがゴーレムの右腕に立っている。


【貴様ぁあああああああああああ!舐めた真似を!】


ロキの声が響く。


「あぁぁぁ、煩いぞ。それにしても馬鹿デカイのも考えのものだな。よくこんな無駄なものを作ったものだ。」


【だが、それでも貴様のような虫けらにはこのギガンテスには傷すらも付けられまい。いくら関節部に装甲が無いとはいえ、そんな蚊のような攻撃力では内部構造すらにも傷は付けられん。精々無駄な努力をするのだな。】


「そうか?」


ティアマットがニヤリと笑った。


「我を誰だと思う?単なる人族とは違うのだぞ。我は誇り高いドラゴンの王、竜王だ!その意地を見せてやろう!」


ティアマットが鎧の隙間からゴーレムの右肘の内部へと入り込んだ。


【だから無駄だと言っただろうがぁあああ!貴様では傷一つ付けられんとなぁああああああああああ!】



ゴシャァアアアアアアアアア!



ゴーレムの右肘が音を立ててふき飛んだ。

破壊された右腕がゆっくりと湖へと落ちていく。


【な、何が!】


破壊された部分の煙が消えると、ドラゴン状態のティアマットが浮いていた。


『だから言っただろうが、ハリボテだとな!貴様のゴーレムは強固であると自慢していたが、我が本来の姿に戻る力に耐え切れなかったようだな。』



「ティア!」



アンジェリカが叫んだ。

それもそのはず。今のティアマットは全身傷だらけの満身創痍の状態で浮いていた。


『我の丈夫な体がこうも役に立つとはな。健康な体で本当に良かったと心から思うぞ。』


【何を減らず口を・・・】



ガコン!



ゴーレムの胸部装甲が左右に開き、内部から巨大な砲身が現れ伸びてくる。


【まぁ、これだけの傷、黙っていてもしばらくすれば死ぬだろう。だがな、もう余興は終わりだ。貴様らがどれだけ頑張ろうが真の神には勝てん。勇者はデミウルゴスが相手をしてしまったから汚名を被す事は難しいが、それでもだ、勇者がいてもこの国は滅んでしまったと無能を宣伝する事には変わらん。貴様らは勇者パーティーの全滅という事実の生贄になってもらおう。】


砲身の先が真っ赤に輝き始めると、ティアマットの体が再び輝き人の姿になった。


「この時を待っていたぁあああああああああああ!」


両手の掌を前に突き出す。


竜闘気ドラゴニックオーラを限界まで圧縮させる!」


信じられないエネルギーがティアマットの両手に集まった。


「徹底的に細く!高密度に!その力をもって貴様の魔力を穿つ!我の最大最強の技を喰らえぇええええええええええええ!竜牙掌波ドラゴニックキャノン!」


砲身より赤い光が発射されるよりも先にティアマットの真っ黒なオーラが両手から発射された。

その漆黒の細い光が砲身から放たれようとされた赤い光を射抜き砲身の中へと消えた。


すかさずソフィアが再び結界を展開する。


聖結界ホーリーシールド!」



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッンンン!



ゴーレムの胸が大爆発を起こした。

だが、腹部に搭載されているメギドの火は起動していないようだ。



【ば、馬鹿な・・・、魔導キャノンを暴発させただと・・・】



ロキの驚愕の声が響いた。

ティアマットが放った闘気が砲身の内部で大爆発を起こし、砲身が根元から破裂したように破壊されて煙を上げている。


ティアマットは・・・


ソフィアの結界が目の前に展開していたおかげで爆風の直撃は避けられたようだ。

そして、城壁にも一切被害が出ていない。


「どうだ?貴様がアリと呼んだ我にダメージを受けた感想は?ふん!我を舐めるなぁあああああああああああ!」

しかし、今のティアマットは全身が傷だらけで出血しており、今にも気を失いそうにフラフラと浮いている。


【き、き、貴様ぁぁぁ・・・】



ガコン!



ゴーレムの頭部が開き、中からロキが浮きながら出てきた。

忌々しそうな表情でティアマットを睨んでいる。


「まさか、原住民がここまでやるとはな・・・、だが!もう限界だろう?こうして浮いているだけでも限界ではないのか?」


しかしティアマットがニヤリと笑った。


「ふん!何をほざいている、我はまだまだだぞ。それか?神と呼ばれる貴様はアリすら殺せない程に貧弱な存在なのか?ふはははぁああああああああ!それはそれで面白いぞ!」



「「「ティア!」」」



全員がティアマットへと叫んだ。


「皆よ、心配するな。我がこれくらいの事ではくたばらんのは知っておろうが。だから、安心して見ておれ!」


「し、しかし・・・」


アンジェリカが涙を流しながら見ている。


「主よ、もうそろそろなのだ。我の中に眠る力が目覚めようとしている。」


そして、ゴーレムの前に浮いているロキに鋭い視線を飛ばした。



「何をごっちゃごちゃとぉおおおおおおおおおお!」



ドン!



「ぐはっ!」


ロキが一瞬でティアマットの目の前に移動した。

右手を振り上げ、拳をティアマットの腹に叩き込んだ。

そのまま城壁まで吹き飛ばされ、張り付けにされたように城壁にめり込んでしまった。


「ぐぅぅぅ・・・、ここまで差があるとは・・・」


壁にめり込んだままティアマットがギリギリと歯を鳴らしながらロキを睨みつけている。

対してロキはニヤニヤを笑いながらティアマットを見下ろしていた。


「原住民のアリが・・・、虫は虫らしく神の前では大人しく這いつくばっていれば良かったものを・・・、身の程知らずがぁあああああ!」


ドン!


「うがっ!」


再びロキの右拳がティアマットのボディに深々と食い込んだ。


「壁にめり込んだまま俺に殴り殺されろ。俺はな、女だからといって情けはかけん!徹底的に苦痛を味わいながら死ねぇええええええ!」


「負けてたまるか・・・、我は竜王・・・、我は最強なのだぁあああ!」


「アリが何をほざく!虫は虫らしく惨めに潰れろぉおおおおおおお!」



「もう見てられないわ!」

「ティア!死なないでぇえええ!」


アンジェリカとソフィアが一気に飛び出したが、ロキはその光景を見て高らかに笑った。


「この距離ではもう間に合わん!どれだけ頑張ろうが無駄だったなぁあああ!ふはははははぁあああああああああああああああ!無駄!無駄!無駄ぁああああああ!確実に一撃で殺してやる!」


拳を開き指を伸ばし、貫手でティアマットの心臓目がけて右手を振り下ろした。



「「「ティアァアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」






ドシュッ!






真っ赤な鮮血が大量に飛び散った。


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