21話 グレン達の末路④
ラピスの視線が怖い。
久しぶりにあの本気の冷たい視線を見た。
あのギルドマスターは叩けば埃が出るってレベルじゃなかったな。完全に犯罪者だぞ。
「これでこのギルドも良くなるわね。」
スッキリした表情のラピスだった。
いやぁ~、あの資料は一体何だった?確か昨日、俺が酷い目に遭った話をして、それから何かコソコソと連絡していたよな。そんなに時間が経っていないのに、相手の息の根を止めるまでの調査をしていたなんて・・・
エルフの里って何なんだ?恐ろしく優秀なスパイ集団なのか?
エルフ族は大森林の奥で自然と共に暮らしてるって聞いるし、あまり人里には現われないしなぁ・・・
前世の時のラピスもエルフの里の事はほとんど話さなかった。学院で勉強した記憶でもそんなものだよな。
『暗部』って物騒な組織の名前も出ていたし、俺が生まれ変わるまでの間に、ラピスは里に何をしていたのだろう?
ただ1つ確実なのは、ラピスにかかれば隠し事なんて無駄っていう事だ。恐ろしい・・・
これであのギルドマスターはもう表に出てこられないだろう。残りの一生は犯罪者として牢獄か犯罪奴隷でも最悪の環境で働かされて人生を終えるだろうな。
死んだ方がマシと思えるような地獄に落とされるのは確実だ。この国は犯罪者には容赦しないからな。
アンを見るとニッコリと微笑んでいる。
「ラピスさんの『ざまぁ!』、見事だったわ。レンヤさんを虐めていた人間が地獄に落ちるのを見ているのは気持ちいいね。」
「そ、そうか・・・」
アンも意外と怖いよ。
「後は黒の暴竜だね。どんな『ざまぁ!』をするんだろうね。」
アイツらは俺をデスケルベロスの餌として殺そうとしたからな、ギルドマスターよりも酷い目に遭わせるのは間違いないだろう。
リズがハッと我に返った。
「グレン!とっとと起きなさいよ。英雄のアンタが情けない格好して・・・」
周りにいた冒険者の1人がグレン達をあざ笑った。
「へっ!英雄が情けないよな。本物の勇者の前には英雄も形無しだったとは・・・、威張り散らしていたバチが当たったかもな。いい気味だぜ。」
「勇者?どういう事よ!」
リスがギロッとた目であざ笑っていた冒険者を睨んだ。
「あの無能って呼ばれていたアイツが実は勇者だったってさ。お前も見ただろう、あのグレンがあっという間に叩きのめされたところをな。しかも、回復魔法まで使えるんだぞ。あれだけボロボロだっったグレンが何とも無いだろう。チラッとしか聞こえなかったけど、スキルの量もハンパないみたいだ。魔王城から逃げ帰ってきた、お前達みたいなハリボテ連中とは違うな。」
「アイツが・・・、あの無能が勇者だって・・・、だったら、私のアレは・・・」
レンヤと目が合った。
「ひっ!」
ビクッと縮こまってしまう。
「どうしよう・・・、アイツはあのパラライズの事は覚えてるよ・・・、私、殺される・・・」
「それなら・・・」
グッと唇を引き締め立ち上がった。
リズが俺を見てたな。
だけど、目が合った瞬間ビビっていたけど・・・
グレンがああなってしまったし、自分も殴られると思っているのかな?
まぁ、俺にとってはもうどうでもいい相手だ。ちょっかいさえ出さなければ無視するつもりだし・・・
リズが急に立ち上がり、ダダダッと俺の方へ駆け出してきた。
俺の腕に抱きつき、胸の谷間に俺の腕を挟んでニヤニヤ笑いながら俺を見ている。
(ローブでよく分からなかったけど、かなり胸がデカイ!アンと良い勝負だぞ!)
だけど、全くときめかないけどな。
「ねぇ~、勇者様ぁ~~~、あの時はゴメンね。あれはグレンに言われて仕方なかったのよ。ほら、グレンってあんな男でしょう。言う事を聞かなかったら何をされるか・・・」
(はぁ~、この女は・・・)
グレンが目を覚まし、リズが俺に抱きついている姿を見て愕然としている。
「リズ!お前、何をしている!俺というものがいるのに、何で嬉しそうに無能にくっついているんだよ!」
グレンが叫んでいるが、リズはにやぁ~と笑って俺を見た。
「だってこの方は勇者様よ!もうアンタなんかの言う事は聞かないわ。お別れよ!私は勇者様に付いていくのよ。だからね、勇者様、あの時のお詫びじゃないけど、私の体を好きにしてもいいからね。」
グイグイと腕を胸に押しつけてくる。
「体には自信があるからね。絶対にあなたを満足させてあげるし、あなたの恋人にして欲しいの。私はグレンに遊ばれていたのが分かったの、だからお願い・・・」
「リズ!何を言っているんだ!俺がどれだけお前に貢いだと思って!お前は俺以外に考えられないって言っていたじゃないか!」
「あれはアンタに無理矢理言わされたのよ!散々私の体を弄んで!」
(お~い、この茶番を何とかしてくれ・・・、この女はどれだけ身勝手なんだよ?俺に媚を売れば助かるとでも思っているのか?)
「うわぁ~、いくら助かりたいからといっても、あれは考えられないよなぁ~」
「そうだよな、あれじゃグレンの方が可哀想だよ。まっ、同情はしないけどな。逆にざまぁ!だぜ。」
「確かにハリボテ英雄に比べれば勇者に媚を売るのは分かるけど、あれじゃアホとしか言えないな。」
「尻軽にも程があるわ。」
「金だけが目的じゃないの?」
ガシッ!
「い、痛いぃいいいいいいいいいい!」
リズが悲鳴を上げている。
アンが片手でリズの頭を鷲掴みにしてギリギリと締め上げていた。
「この泥棒猫が・・・、私のレンヤさんに何をしてるの?あんな事をしてよくも恋人にしてくれって・・・、許さないわよ。」
アンの目が怖い!完全に殺る気満々だよ。
チラッとラピスを見ると、ラピスも目が据わり臨戦態勢に入っている。
【お前等!頼むからギルド内で殺人行為は止めてくれ!】
【ちっ!仕方ないわね。レンヤさんがそう言うならこれ以上は手を出さないわ。もう少し力を入れれば頭が破裂するところだったのに、運が良い女ね。】
【何なのあの尻軽女は・・・、後腐れが無いように、やっぱりサクッと殺った方がいいんじゃない?】
【ラピス、それは勘弁してくれ。】
【分かったわ。あなたに抱きついたから、この手で直接ぶち殺したかったけど仕方ないわ。レンヤの嫌がる事はしたくないし、プラン社会的抹殺を続行するわ。】
ふぅ~、何とかこの一帯が血の海になる事は無くなったな。
こんな時の念話機能は便利だよ。
「それじゃ、ゴミは捨てておくね。」
「あぁ、頼む。」
アンがリズの頭を鷲掴みにしたまま持ち上げ、ポイッとグレンへと放り投げた。
片手で人を軽く放り投げるアンのパワーって・・・
「「ぐえっ!」」
グレンとリズがぶつかり蛙のような悲鳴を上げた。
慌ててリズが立ち上がり、再び俺の方へと駆け出そうとする。
「わ、私を捨てないで!お、お願い!」
しかし、アンとラピスが俺の前に立ち、リズの動きを止めた。
ラピスが氷のような冷たい視線でリズを睨みつけた。
「このしょんべん臭い小娘が・・・、よくも私のレンヤに抱きつきやがったわね。あんたの臭い匂いが移ったらどうするのよ?あんた自身を焼却して消臭・消毒しておく?」
目の前に人差し指を立てると、指先に青白い小さな炎の玉が出来上がった。
「ひぃ!こ、この色の炎はメギドフレイムの炎!そんな最上級の炎魔法を無詠唱で簡単に使えるなんて・・・、化け物・・・」
ガタガタとリズが震え上がり、ペタンと座り込んでしまった。
アンも冷ややかな視線でリズを見下ろしてる。
「レンヤさんは強大な敵の前でも絶対に逃げなかったのにね。それを、あなた達はさっさと逃げ出したって聞いたわよ。これならどう?どこまで頑張れるかな?嫌なら逃げても構わないからね。」
ニヤッと笑った瞬間に、アンから殺気がリズ達に向けて放たれた。
「ひぃいいいいいいい!」
へたり込んでいたリズの足下にシミが広がっていく。
「あらら、ラピスさんが言ったように、本当におしっこ臭くなってしまったわ。たったこれだけの殺気で失禁するなんて・・・、お笑いよ。」
にやぁ~とアンがリズに笑いかけていたが、リズと一緒に殺気を受けたグレンも失禁してしまっている。
うわぁ~、お前達、容赦しないなぁ・・・、完全に心をへし折ってしまっているぞ。
ラピスの強さは分かっているけど、アンの殺気から感じる強さも相当のものだな。魔王の娘っていうのは伊達ではないよ。
「さて、最後の仕上げをしましょうかね。」
ラピスがグレン達に微笑みかけた。2人はガタガタと震えている。
「あんた達の今までやったことは全てフローリア様は把握しているんだからね。かなり怒っているわ。」
両手を胸の前で合わせ目を閉じ静かに佇んだ。
「フローリア様の巫女の力・・・、この目に焼き付けなさい。」
ラピスの深い青色の髪が徐々に輝き始め金色に輝いた。
ゆっくりと目を開けると瞳も金色に輝いている。
「あの姿は・・・、間違いない、あの白い世界で見た女神様と同じ髪と瞳だ。」
ラピスから発せられている存在感も尋常ではない。だけど威圧的ではなく、とても安心する心地良さだ。
ふと周りを見ると・・・
「あぁ、女神様・・・」
俺とアン以外の者は全員が床に両膝を着け、ラピスに祈りを捧げていた。
グレンとリズは2人に対する恐怖心で心が折れているから、それどころじゃないけどな。
アンもうっとりとした表情でラピスを見ている。
「これが女神様の神気・・・、何て心地良いの・・・」
「アンジェリカさん・・・」
ラピス、いや、フローリア様がアンの名前を呼んだ。
「はい、女神フローリア様。」
アンが両膝を着き祈りを捧げる姿勢でラピスに頭を下げた。
「ふふふ、そんなに畏まらなくても良いですよ。」
「いえ、そういう訳には・・・」
「とてもキレイな心の方ですね。ラピスさんが気に入る訳です。」
フローリア様がにっこりと微笑んだ。
「あなたの願いはレンヤさんからお聞きしました。ですが、あなたの道は茨の道になりますよ。それでも前に進むつもりですか?」
「はい、私は迷いません。私にはレンヤさんがいます。レンヤさんと一緒にいればどんな苦難も乗り越える自信があります。私とレンヤさんがこれから一緒に暮らすには避けて通れない道だと思いますし、平和な世の中でありたいと願うのに種族は関係ありません。相手を滅ぼし自分達だけが幸せになる考えは間違っていると思います。お互いに手を取り合う事が真の平和に繋がる事だと私は考えています。」
「ですから、見ていて下さい。私とレンヤさんの歩む道を・・・」
ゆっくりとフローリア様が頷いている。
「あなたの覚悟はしっかりと私の心に伝わりましたよ。」
右手を高々と掲げた。
「私からも少しお手伝いさせていただきますね。神は理により世界に干渉出来ませんが、加護を与える事は出来ます。私の加護を授けましょう。少しはお役に立つと思いますよ。」
アンの体が一瞬、金色に輝いた。
「こんな私に加護をいただけるとは・・・、ありがとうございます。」
涙を流しながら深々と頭を下げていた。
(アン・・・、女神様に認められて良かったな・・・)
「さて・・・」
フローリア様がグレン達の方に向き直った。
「「ひぃいいいいいいいいい!」」
グレンとリズが抱き合いながらガタガタ震えている。
「次はあなた達の番ですね。」