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209話 機械仕掛けの女神⑦

ホールに静寂が漂う。

誰も声を発していなかった。


「想像以上ね・・・」


ボソッと美冬の声が響いた。


「ホント、デウスもとんでもないモノを作ったわね。神界の者以外が手にするには過剰すぎる装備よ。あのメカオタクが自重を捨てればこんな結果になるいい例だわ。今度は私の防具を作ってくれるって言って製作中のはずけど、アレがアレだし、何か出来上がりが怖くなっているけど、気のせいじゃないよね?そういえば蒼太が言っていたわ。最近は自爆する機能に興味を持っていたって・・・、確か雪の神創装甲のモデルになったアレよね?まだ出来上がっていないけど、まさか?そんな機能は取り付けていないでしょうね?」


その視線がバルコニーへと向く。


「アイツならやりかねないわ・・・」


視線のその先には・・・


もはや、バルコニーそのものはキレイに無くなっていた。

壁には大きな穴が開き、壁近くの天井も床も消滅し、上の階、下の階も丸見えになっていた。


「なんとまぁ、見晴らしが良くなったもので・・・、城下町の風景がパノラマで見えるわ。」


美冬が苦笑してその光景を見ていると、全員が我を忘れたかのように呆然と立ち尽くしていた。



「これが母さんだけが使える究極魔法の一つ、私にはまだ使えない魔法トリニティ・ノヴァ・・・、この破壊力でも最低の出力で放っているなんて・・・、その機能をこの装甲にプログラムさせたデウス様も凄いけど、その魔法を問題無く行使出来るマナさんの魔法適性も凄まじいと思うわ。さすがは勇者パーティーの1人だけあるわね。」


女神サクラが引き攣った笑いで目の前の惨状を見ていた。


「さすがマナね、出来る子は何をしても出来るって事なのね。ギルドの受付嬢ばかりじゃなくて、今度は私の仕事も手伝って欲しいわ。もちろん、特別手当も付けるからね。」


ニッコリとローズマリーが微笑む。


「あっ!そうそう、ちょっとテレサちゃん。」


ローズマリーがテレサを手招きして呼んでいる。


「何?ローズ姉さん。」


2人の距離はかなり離れていたが、スッと一瞬にしてテレサがローズマリーの隣まで移動する。


「さすがはテレサちゃんね。この1週間の修行で更に強くなったようね。安心してこの子を任せられるわ。」


ローズマリーがニッコリと微笑み、その視線の先にいたのは・・・



「まさか・・・、見間違えるはずがありません!その剣は伝説のミーティア!私の師匠になってくれるお方って・・・」



目が大きなハートになってウルウルした表情で両手を胸の前に組んでいるマーベルだった。


「お姉様ぁあああ!お慕いします!」


マーベルが両手を広げテレサに抱き着こうとしている。

とても嬉しそうな表情だが、何故か口の端には涎が垂れているのだが・・・



「勘弁よぉおおお!」



スパァアアアアアン!



「うきゃああああああああああああ!」


マーベルがタックルのようにテレサに抱き着こうとしていた。

しかし、そのマーベルの突進を寸前で身を屈める事で躱し、床に手を付き右足をマーベルの軸足へと伸ばし、軽く足払いをする。

足を払われたマーベルはタックルの態勢のままヘッドスライディングの状態で床を滑っていた。

その際、顔面を擦りおろしながらだが・・・



「何かこの光景、既視感デジャブがあるわ・・・」


ソフィアがげんなりした表情でマーベルの惨状を見ていると、横にいたシルヴィアは苦笑いをしていた。


「このパターンも同じなのね。」


ソフィアの右手がマーベルへと伸び、仄かに輝くとマーベルの擦り傷だらけだった顔が綺麗に治った。


「テレサちゃん、実はね、この子を鍛えて欲しいのよ。」


ローズマリーが苦笑いをしながらマーベルを見ていた。


「えぇえええええ!ローズ姉さん、それは勘弁してよぉおおおおお!何かこの子キモイ!」


「まぁまぁ、そう言わずにね。この子の潜在称号は『剣聖』だし、剣士であるテレサちゃんが最適なのよ。ただ、問題があってねぇ・・・、それでもテレサちゃんなら大丈夫だと思ったからね。」


「あの子の視線で大体は予想がついたわ。」


はぁ~~~~~~~っと、テレサが盛大なため息をする。


「百合属性なんでしょう?それも筋金入りの・・・」


「そうよ。」


パチンとローズマリーがウインクする。


「だけどね、レンヤさん大大大好きのテレサちゃんなら問題無いでしょう?どんな男も寄せ付けなかったし、百合の女の子の1人や2人大して負担にはならないと思うな。」


「いやいや!それとこれは別問題でしょう?」


「そこを何とかお願いね。レンヤさんに頼むと嫌な予感がするの。これ以上は出来るだけ増やしたくないでしょう?」


「そういう事なら仕方ないわね。兄さんにこれ以上虫が付くのは勘弁だしね。兄さんなら百合だろうが関係無しに惚れさせてしまいそうだわ。今でも兄さんに近づく女共はどんどんと増えているし、アイ達も兄さんに対して露骨にアプローチをしてくるようになってきたし、少しでもライバルは減らさないとね。」


ローズマリーがギュッとテレサの手を握った。


「ありがとうね、助かったわ。アイちゃん達はシャルとセットみたいなものだし仕方ないにしても、私もレンヤさんに惚れる人はなるべく増やしたくないのよ。彼女はしばらくはフォーゼリア騎士団扱いにしようと思っているの。テレサちゃん1人だとこれからの事もあるし無理な事も多いから、シヴァちゃんにも一緒に面倒を見てもらうように約束してもらったわよ。あの子はあなたと一緒でカイン王子一途だし他には目もくれないから、変態百合の毒牙にはかからないと思うの。それなら良いでしょう?」


「ローズ姉さん・・・、本当に仕事が早いわね。てか、早過ぎよ!ここまで話をまとめられてしまったら断れないじゃないの。分ったわ、シヴァなら私以上に厳しいし、言い寄る暇は無さそうね。これで少しは性癖も直れば嬉しいんだけどねぇ・・・」


「それは本人次第かな?」


2人が同時にマーベルに視線を移したが、テレサとローズマリーの会話を聞いていたのか、絶望的な表情で魂が抜けたように佇んでいた。


「マーベル・・・、いつもあなたは私に対して距離が異常に近かったのはそういう事だったのね・・・、まさか百合だったなんて・・・、少しはあっちで性根を鍛えてもらってきて。」


シルヴィアが少しブルッと震え、イタい子を見る視線でマーベルを見ていた。



「百合ね・・・」


美冬が再びボソッと呟いた。


「冷華、上空に待機していて正解だったわね。ここにいたらあんたも確実に巻き込まれたわよ。あんたも女の子からは異常な程にモテるしね。でもね、女の子に追いかけられるそんなあんたも久しぶりに見てみたい気もするけど、どう?」




「絶対に勘弁よぉおおおおおおおおおお!私は凍牙一筋なんだからぁあああああああああああああ!」




どこからかそんな叫び声が響いた。



「それと、彼女が一人前になるまでの間は、別の人がこの騎士団を鍛え直す予定ですが、どうですか?」


ローズマリーがテオドール達へと深々と頭を下げた。


「ここまでご厚意に甘えてもよろしいのか?」


心配そうにテオドールとジョセフィーヌがローズマリーを見つめていたが、彼女はニッコリと微笑んだ。


「今は誰かとは言えませんが、とても心強い2人が指導にあたってくれますよ。フォーゼリア王国の関係者ではありませんので、国の思惑も入りません。思いっきりこの国の騎士団を強化させる事も出来ますよ。シャルロット王女殿下もこの国をとても気に入っていますし、是非ともこれからはお互いの国の友好を深めてもらいたいとの事です。一時的にでしたが、こうしてフォーゼリア王国とのご縁もありましたし、それ以上にブランシュ王女様とマーガレットちゃんがお互いに不自由なく行き来が出来るようにしたいのもあります。」


みんながマーガレットとブランシュへと視線を移した。

2人は寄り添い手を繋いでいる。


「そうね、この子達にも国の未来が明るい事を見せないとね。」


ジョセフィーヌが2人を見ながら微笑んだ。



「お前達!」


テオドールが生き残った騎士団達へと号令を下す。その言葉に全員が背筋を伸ばし直立不動となった。


「これからはこの国も騎士団も生まれ変わる!その重責をとくと噛みしめるだ!今までがどれだけ甘く怠惰な騎士団だったのか、だが!お前達は必ずや生まれ変わる事を信じているぞ!どんなに辛くても、我らシュメリア王国の誇りを今度こそ見失うな!」


「「「はっ!」」」


騎士達が剣を上に掲げテオドールへと誓いの宣誓を行った。


この光景をローズマリーが見ていた。


「ふふふ・・・、この元気がどこまで続くやら・・・、お願いね、いくらソフィアさんが生き返らせる事が出来ても、彼らを死なせないように程々に頼むわよ。たまにはレンヤさんと戦わせてあげるし、それで息抜きもさせてあげるからね。」


その後、外に向かってニヤリと笑った。


「レンヤさんがこの事を知ったらどれだけ驚くやら・・・、今のところは私しか知らない、いえ、ヒスイちゃんも知っているか・・・、みんなの驚く顔が楽しみね。」




ズズ~ン!


いきなり城が小刻みに揺れた。


「何が起きた?こんな事は初めてだぞ。」


ローズマリーの視線が鋭くなる。


「とうとう動き始めたわね。」


彼女のその言葉にソフィア達も真剣な表情になった。


「マナ、ソフィアさん!」


その言葉に2人が頷く。


「マナは最後の仕上げを頼むわ。2人はロキのサーチに気付かれないようにかなり上空で待機しているけど、合図があったら行動を始めるわ。あなた達3人がこの作戦の最後の肝だし、失敗は許されないわよ。」


ローズマリーの言葉にマナがニコッと微笑んだ。


「ローズマリーさん、任せて下さいね。その為にこのプラチナ・クイーンを創造したくらいだし、邪神ダリウスにも私達の事は侮れないって見せつけなくてはね。」


「ふふふ・・・、頼むわよ。」


次にソフィアへと視線を移した。


「ソフィアさん、万が一の結界をお願いします。」


ソフィアがグッとサムズアップをする。


「任せなさい、聖女とは比較にならない大聖女の力を見せてあげるわ。この王都全体を覆うほどの結界を張っておくから、気にしないでぶっ放して構わないわよ。」



カッ!



ソフィアの全身が輝くと、エメラルドの瞳が金色に変化し背中には真っ白な大きな翼が生えている。



「ほぇぇぇぇぇ~~~~~~、ソフィアお姉ちゃんも女神様になっちゃったよ。」



マーガレットがソフィアの姿を見て唖然としていた。



「ふふふ・・・、こうやって見ると女神のバーゲンセールみたいね。」


美冬がマナとソフィアを見て微笑んだが、急に真面目な表情になった。


「この世界にこれだけの規格外の人間が何人も現れるなんて、世界の終末であるラグナロク・・・、そろそろ神々の最後の戦いが近いのかもね。そして、聖剣の最後の封印も・・・、私達の助けはここまで、この先、まだまだ戦いは続くけど最後まで諦めないでよ。どんなに苦しくてもね。」




「マナさん!行くわよ!」


フワリとソフィアが浮かび上がると、マナも続いて浮かび上がる。


「マーガレット!」


マナがマーガレットへと呼びかけた。


「何?マナお姉ちゃん?」


「今夜はみんなでご馳走を食べようね。アンが腕を振るって夕飯を作ってくれるわよ。あなたの本当の家族も一緒にね。司祭様もヘレン母さんも楽しみにしているわよ。」


「うん!」


マーガレットが勢いよく頷くと、ブランシュも嬉しそうにマーガレットを見て頷いた。

テオドールもジョセフィーヌも深々と頭を下げる。


「それじゃサクッと終わらせて帰ってくるからね。」


マナが勢いよくテラスの壊れてしまった穴から外へと飛び出した。

ソフィアもマナの後に続き飛び立った。


「みなさん、魔神ロキは腐っても神の一族・・・、先ほどのデーモンとは比べものになりません。油断は禁物です。そんな相手ですし、戦いは大変でしょうが必ず勝って下さいね。」


サクラが2人の飛び立った姿をジッと見つめていた。


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