208話 機械仕掛けの女神⑥
「エクスカリバー召喚!徹底的に殲滅するわよぉおおおおおおおおお!」
マナの足元に黄金の魔法陣が浮かぶ。
ズズズ・・・
その魔法陣から1本の黄金の剣が浮かび上がり、マナの目の前で浮いていた。
「ぎゃはははぁあああああああああ!何だその剣はぁあああ!さっきも見たが確かに凄まじい切れ味だよ!しかしだ!たった1本の剣で何をする気だ!」
十数体ものレッサーデーモンの群れに対し、マナの武器が剣1本だけだったので、あまりも無謀だと思ってなのかジョニーが大笑いをしている。
先ほどまでマナに主導権を握られ劣勢に陥っていたが、これで立場が逆転したかと思い悦に入っているようだ。
「レッサーデーモン達よ!波状攻撃で女神もどきを叩き潰せ!同時に二手に別れ人間共も蹂躙しろ!」
ジョニーが指示を出すとレッサーデーモン達が頷きマナの方と貴族達の方へと別れた。
「させないわ!」
次の瞬間、マナの目の前に浮いている剣がぶれた。
スッ・・・
1本の剣が2本に増え、その2本が4本にと・・・
あっという間にマナの周囲に十数本の黄金の剣が浮いていた。
「エクスカリバー!ガンビットモード!」
宙に浮いている剣の剣先が一斉にレッサーデーモンへと向いた。
刀身が縦に割れ、割れた刀身の空いた空間がバチバチと青く放電を始める。
「ガンビット!フルバースト!叩き落とせぇえええええええええええ!」
ズバババァアアアアアアアア!
1本の剣から何本もの光線が放たれ、マナの周囲から数十本もの青白い光線が発射された。青白い光がレッサーデーモン達を貫き次々と蜂の巣にしていった。
ドサドサドサ・・・
大半のレッサーデーモンが床へと落ちて動かなくなった。
残ったのはたった3体だけだが、その3体も満身創痍の状態で辛うじて浮いている。
「まだまだよ!」
マナが翼を大きく広げ、自分の周囲を回っているいくつもの剣の中から1本を手に取り、残った3体のレッサーデーモンへと向かって飛び出した。
ザシュッ!
すれ違いざまに1体の首を刎ねた。
ザン!
高速で旋回し、剣を大きく振りかぶり肩口から一気に袈裟懸けで縦に真っ二つにした。
「最後ぉおおおおお!」
ズン!
残りの1体のレッサーデーモンの胸に剣を突き刺したが、刺さった剣を掴まれてしまった。
「何ですって!捨て身で私の動きを止めるの?」
マナの眉間に皺が寄り怪訝な表情に変わった。
「よくやったぁあああ!そのまま抑えているんだぁあああ!」
ジョニーが喜々として叫んだ。
「詠唱が終わった!忌々しい女神もどきめぇえええええ!塵一つ残さず消え失せろぉおおおおおおおお!」
ジョニーが両手を前に突き出すと、先程までとは桁違いに大きな漆黒の球体が出来上がる。
「喰らえぇえええええ!闇の極大魔法!デッド!エンド!バニッシュ!」
魔法を唱えた瞬間、ジョニーの前にある漆黒の球体がマナへと高速で飛び出した。
「この闇の波動はなぁあああ!貴様のチンケなキャンセラーごときで消すことは不可能!俺に歯向かった事を後悔して消滅するんだな!ぐひゃひゃひゃははははははぁあああああああああああああああ!」
「何をもう勝った気になっているの?」
マナの視線がスッと鋭くなる。
レッサーデーモンの胸に刺さっている剣が激しく輝いた。
「グギャァアアアアア!」
大きな叫び声を上げ、全身が剣からの黄金の光の奔流に呑み込まれ一瞬で消滅した。
すかさずマナがジョニーの方へと向き直った。
剣を正眼に構え切っ先を放たれた魔法へと向けた。
「何をしようがもう遅い!このまま闇に呑み込まれてしまえぇええええええ!」
ジョニーが勝利を確信したのか大口を開け笑っている。
「何が遅いのかな?」
ニヤリとマナが笑った。
剣を握っていた左手を離し自分の胸の前まで動かすと、手の甲の甲冑にはめ込まれている赤い宝石が輝いた。
ブワッ!
赤い光が膜のようにマナの全身を覆う。
次の瞬間、マナの全身が漆黒の闇の玉に呑み込まれてしまった。
ボシュゥウウウ・・・
マナを飲み込んだ玉がみるみると小さくなる。
「やったか?ふはははぁああああああああ!」
歓喜の表情でジョニーがその光景を見ていた。
「フラグを立てているバカがいるわ。マナの力を過小評価し過ぎよ。」
呆れた表情で美冬が呟いた。
「な!何だとぉおおおおおおおおお!」
ジョニーが信じられない表情で叫んだ。
マナは・・・
赤い光に包まれ全くダメージを受けていない姿で浮いている。
「ど・・・、どういう事だ?極大魔法を受けて無傷?いや・・・、魔法を受けた形跡も感じられない?」
ワナワナと震えているが、キッとマナを睨んだ。
そのマナは涼しい顔でジョニーを見つめている。
「どうしたのかな?そんなに私のこの状態が不思議なの?」
フッとマナを包んでいた光が消えた。
「ディフェンス・シールド」
「はぁ?」
マナが左腕を伸ばし、手の甲に装着されている宝石をジョニーに見せつける。
「この神創装甲に搭載されている防御システムの1つよ。このシステムにより張り巡らせたシールドはね、神域防御魔法であるイージスの盾と同レベルの強度を誇るシールドを展開出来るの。」
「そ、そんなバカな・・・、人間が神の魔法が使える?ただの人間が?」
しかし、そんな状況をジョニーは認めなかった。
「そんな筈がない!貴様のような下等な人間風情が神である俺様よりも格上だと?その化けの皮を剥がしてやる!地べたを這うゴミが神に逆らう事は不可能なんだよぉおおおおおおおおお!」
ブワッとジョニーの前に再び漆黒の大きな玉が出来上がった。
先程よりも更に大きい。
「何?一瞬で詠唱を構築した?しかもこの禍々しい気配は?」
ジロッとマナが黒い球を睨む。
「ぐはははははぁああああああああああああああああ!神が人間に負けるのは許されないんだよ!これは俺の魔力に生命力を分けた特別な魔法だぁあああ!今度こそくたばれぇえええええええ!」
ドン!
再びマナへと漆黒の玉が飛び出す。
「あなたのプライドの為に殺される訳にはいきません。残念ですがそのご提案はお断りさせていただきますし、死ぬのはあなただけでお願いします。」
マナの右手に握られていた剣が光の粒となって消滅し、ゆっくりと両手を頭上に掲げる。
ゴォオオオ!
ジョニーの打ち出した黒球よりも更に大きな真っ赤な炎の玉がマナの頭上に現れた。
あまりの熱量に全員がジリジリと後ろへとたじろぐ。
「何なのだ!この化け物のような魔力の塊はぁああああああ!貴様ぁあああああ!本当に人間なのかぁああああああ!」
信じられない表情のジョニーとは対照的に、マナの表情はギルドの受付嬢の時と同じくニコニコしている。
「失礼ですね。きっきも言っていたではないですか、私は普通の人間ですよ。ただ、ちょっと特別なだけ・・・」
巨大な炎の塊が急激に姿を変えた。
「う、嘘だ・・・、神域魔法でも最上位の1つであるフェニックス・プロミネンスだと・・・、俺でも使えない最高難易度の魔法を・・・」
炎の塊が巨大な炎の鳥に変化する。
その炎の鳥の頭がワナワナと震えているジョニーへと向いた。
「たかが下等なゴミの人間のくせに、しかもだ!女ごときが俺よりも上位の存在だとぉおおお!認めん!絶対に認められん!」
絶対零度の視線でマナがジョニーを見下ろしていた。
「あなたのその凄まじいまでの偏見、もはや救いようがありませんね。ここまで歪んだ思想があったから邪神や魔神に付け込まれる隙になったのでしょう。ですが、私は同情しません。人は平等です、人族だろうが魔族だろうが、男も女も関係ありません。あなたのような人がいる限り、私はレンヤ君と一緒に戦い続けます。プラチナ・クイーンはその為に与えられた力です。」
「だから、安心して絶望しなさい・・・」
バサッ!
大きく翼を広げ、一気に漆黒の玉へと飛びかかった。
「フェニックス・プロミネンス!全てを燃やし尽しなさい!」
巨大な炎の鳥がジョニーの放った漆黒の玉を軽々と呑み込み、更に姿が大きくなりジョニーをも呑み込んだ。
「うぎゃぁああああああああああああああああああ!」
ジョニーの絶叫が辺りに響いた。
ブスブスブス・・・
ドサ!
黒焦げになったジョニーが床へと落ち、うつ伏せになって横たわっている。
「神へと進化した俺が・・・、たかが人間の女などにここまでの醜態を・・・、悪夢だ・・・」
「弱りましたねぇ・・・」
マナがボロボロになったジョニーを見ながら困った表情になっている。
「邪神の加護が想像以上に強力ね。神域魔法でも完全に消し去れないなんて・・・、いえ、城の被害を気にして本当の力を発揮しきれていないのでしょうね。」
クルッとテオドール達の方へ振り返る。
「申し訳ございませんが、今から私が展開する魔法で、このお城を一部損壊させてしまいます。大変心苦しいのですが・・・」
「マナお姉ちゃん・・・」
マーガレットが前に出てくる。
ニコッと微笑みグッとサムズアップをした。
「マーガレット・・・」
「遠慮しなくていいよ。いよいよとなったら本物の女神様が直してくれるからね。私も女神様と一緒なら魔法も使えるし、壊れたら壊れたでその部分だけの時間を巻き戻すわ。」
女神サクラもマーガレットの横に立ちゆっくりと頷いた。
「だからね、私達の事は気にしない。いつも私達を怒っている怖くておっかないマナお姉ちゃんならいくらでもあの悪魔に勝てるよ。それも余裕でね。」
その言葉にマナが真っ赤になる。
「こ、こら・・・、マーガレット!何を言うのよ・・・」
「だからね・・・」
グッとマーガレットが右手の握り拳を前に突き出した。
「気にしなくてもいいから!お姉ちゃん!思いっきり!やっちゃってぇええええええええええええ!」
その言葉にテオドール達も勢いよく頷いた。
「みんな、ありがとう・・・」
マナが振り返りジョニーの方へと向き直った。
「はひぃぃぃ・・・」
黒焦げになり背中の翼さえも燃え尽きていたジョニーだったが、床を這いずりながらマナから離れようとしている。
失っていた翼も背中の肉が盛り上がり始め、少しずつ再生が始まっている。
「本当に凄まじいまでの再生能力ね。細胞が1つでも残っていたら確実に復活するかも?」
勢いよく両手を広げた。
「逃がしません!」
その言葉にジョニーが振り返り叫んだ。
「ば、化け物めぇえええええ!貴様は神でも女神でもない!正真正銘の化け物だぁあああああああ!」
バサッ!
ジョニーの背中の翼が一気に再生し宙へと浮かび上がった。
「ロ、ロ、ロキ様ぁあああああああああ!お、お助けを!ひぃいいいいいいいい!」
一気に飛び上がり外に繋がるバルコニーへと飛び出した。
ジョニーを逃がすものかと、ジョニーが向かっているバルコニーの前に立っていた美冬達が身構える。
「言ったでしょう!逃がしませんと!」
ブンッ!
マナが叫ぶと周囲に3つの大きな魔法陣が浮かぶ。
その魔法陣を見て美冬が叫ぶ。
「エメラルダにテレサ!すぐにマナの魔法の射線上から離れるのよ!この場所だと確実に巻き添えを喰らうわ!」
「げっ!師匠がここまで慌てるなんて!どんな危険な魔法を放つつもりよぉおおおおお!」
「マナ、本気のあなたの力、この目で見届けさせてもらうわ。レンヤさんのお姉さんポジションは私なんだからね。落ち着いたら勝負よ!」
美冬達が叫びながら一気にバルコニーから離れた。
「これで心置きなく魔法を放てるわ!炎の精霊イフリートよ!その力を解き放てぇえええ!メガ・フレアァアアア!」
マナの頭上の魔法陣が赤く輝く。
「氷の精霊セルシウスよ!我の呼びかけに応え、その力を示せ!この地を氷の世界に!アブソリュート・ゼロォオオオ!」
左側に展開した魔法陣が青く輝く。
「風の精霊ジンよ!世界を包み込む抱擁の力よ!その怒りの力を!ゴッド・ブレスゥウウウ!」
右側の魔法陣が緑色に輝いた。
「3つの極大魔法よ!その力を1つに!そして全てを消滅せし究極の破壊を!」
「究極合体魔法!トリニティイイイイイ!ノヴァアアアアアアアアアア!」
マナの正面に黄金の魔法陣が浮かび上がった。
各々の魔法陣から赤色、青色、緑色の光の奔流が放たれた。
その光が黄金の魔法陣に吸い込まれる。
カッ!
魔法陣が一際激しく輝くと、黄金の巨大な光の渦となった光線がジョニーへと放たれた。
「ひっ!い、嫌だぁあああああああああああ!死にたくないぃいいいいいいいいいい!」
その叫び声も一緒にジョニーが光の渦に呑み込まれた。
「うぎゃぁああああああああああああああああああ!」
ボシュゥゥゥゥゥゥゥ!
黄金の光が消え、静寂がこの場に漂った。




