207話 機械仕掛けの女神⑤
「あなたは奥の手を使いましたから私も見せてあげましょう。プラチナ・クイーンの真の姿を!あなたなど足下にも及ばない圧倒的な力を!そして・・・、あなたはもう終りです。」
マナが優雅に両腕を広げると、プラチナ・クイーンが輝き始めた。
「プラチナ・クイーン!マナドライブ出力全開!モード・ヒュージョン!」
カシャァアアアッン!
「えっ!女神様が壊れた!」
マーガレットが叫んだが、マナはマーガレットへ微笑む。
「マーガレット、安心して。これは壊れた訳じゃないのよ。」
プラチナ・クイーンがバラバラになって宙に浮いている。
「ふふふ・・・、この世界の魔法の元になっている魔素って言葉は、神様の世界じゃ『マナ』と呼ばれているのよね。私と同じ名前なんて・・・、これも運命なのかな?」
微笑んでいたマナがキッとデーモンと化したジョニーを睨んだ。
「よく見ていなさい!これがプラチナ・クイーンの真の姿よ!」
「装着!」
カッ!
プラチナ・クイーンのバラバラになったバーツがマナの全身へと装着されていく。
「「「おぉおおおおおおおおおお!」」」
王国の貴族や騎士達がどよめく。
彼らの視線の先にいたマナの姿は・・・
「マナお姉ちゃんも女神様になっちゃったよぉおおお!」
マーガレットが大声で叫んだ。
今のマナの姿はプラチナシルバーの女神の鎧を身にまとった状態で佇んでいた。
「何なのだ!この姿はぁあああああ!貴様までもが女神化しただと!」
しかし、マナはゆっくりと首を振る。
「私はただの人間よ、シャルとは違ってね。でもね・・・、マリオネットマスターである私の本領を発揮するのはこれからよ!」
マナの甲冑の指先から七色の光が輝くと、その光が血管のように全身を巡り輝く。
「な、何が起きた?」
まるで本物の女神のようにとても美しい笑顔でマナが微笑んだ。
「マリオネットマスターは単に人形を操るだけの称号ではないわ。私が私自身をも操る事も可能なのよ。さっきの戦いのように人の動きを超越する戦闘も可能なの。そして、このプラチナ・クイーンは私が操る単なる女神像ではないのよ。プラチナ・クイーンは神である機械神デウス様が私の為だけに作っていただいたカスタム兵器、正式名称は神創装甲デウス・ウエポン・アーマード・システム6号機、通称D-AWS-MkⅥ。対人戦闘に特化した12の神器とは別のコンセプトで創造されたものよ。対人戦闘だけじゃなく対大規模集団戦闘も対応出来る武器の豊富さに、女神族や天使族と同じように空中戦も可能よ。そして6号機としてロールアウトされたこの機体は、私のマリオネットマスターの技術を存分に発揮する事が出来る強化装甲。固定装備と豊富なオプションで戦闘力は他のシリーズを凌駕する性能に、この装甲があれば人間の限界を軽く超える事も可能、即ち神と同等の力を使えるようになるの。これでもうあなたに勝ち目は無いわ。いくら魔神の力を手に入れたとしてもね。」
「マナお姉ちゃん、凄い・・・、凄過ぎるよ。」
マーガレットが両手を胸の前に組んでウルウルした視線でマナを見つめている。
「人が人の身で神になれるとは・・・、素晴らし過ぎて涙が出そうです。」
ブランシュもマーガレットと同じような姿でウルウルしていた。
そんな光景をソフィアが微笑ましそうに見ている。
「こうして見るとやっぱり双子ね。全く同じ仕草なんてね。私も双子が欲しくなっちゃったな。」
そんなソフィアをサクラが見つめていた。
「こんな状況でもソフィアさんはマイペースですね。いえ、ソフィアさんだけでなく、レンヤさんのお仲間の人達みんなですね。ふふふ・・・、こんなところまでお母さん達に似ているなんて、美冬母さんもデウス様も気に入るのは分かりますね。」
「さすがマナ姉さんね、ギルドのNo.1受付嬢の肩書きは伊達ではないわ。あれだけ長い説明を的確で淀みなくスラスラと話す姿は完璧よ。でもねぇ・・・」
テレサが苦笑いをしている。
「確かに親切丁寧な説明は有り難いけど、敵に対してここまで丁寧に説明する必要がある?敵にはあまり情報を与えないものよ。まぁ、あの内容なら知っても知らなくても関係無いか。それ以前に専門用語が多すぎて、全く理解出来ていないのでしょうね。私にも全く分らないくらいだしね。それにしても、マーガレットちゃんとブランシュ王女様がしっかりと理解しているのには驚きよ。」
しかし、その苦笑いも消え真剣な表情でマナを見つめている。
「マナ姉さん、本気の力を見せてもらうわ。あの姿での戦いはほとんど見ていないから、どんな戦いをするか楽しみにしているわね。」
「ふん!そんなのはこけおどしだ。」
デーモンと化したジョニーが鼻で笑う。
切り落とされた右腕の肩からの血がいつの間にか止まっていた。
「人間がどんなに神を模倣しようが無理なんだよ!それこそ神に対する冒涜だ!俺のように人間を捨て新たな存在にならないとな!」
ズリュッ!
失った右腕が肩の切り落とされた部分から生えてくる。
新しく再生した腕を確かめるように軽く動かし、手を開いたり閉じたりしていた。
「分るか?これが神となった俺の力だ。さっきのように不意を突いて俺の首を切り落としても無駄だ。」
「そうみたいね。」
クスクスとマナが笑う。
「今のあなたのような巨大化に無限ともいえる再生能力、これが邪神や魔神の加護なんでしょうね。しぶとさだけでいえば神と言っても差し支え無いでしょうね。でもねぇ、その色といい、しぶとさに関してもゴキブリと良い勝負よ。」
ピキ!
「き、貴様ぁぁぁ・・・、今、何と言った?神となった俺に何と言ったのだぁあああああああああ!」
ジョニーが額やこめかみの血管を浮き立たせピクピクと脈打ちながら叫ぶ。
「あら?そんなところは人間と一緒なのね。無駄に大きくなってただ吠えるだけ。受付している時もそんな冒険者も多くいたわ。無能な冒険者ほどよく吠えるものなのよ。」
「俺を無能だとぉおおお!」
「そうよ、吠える事しか出来ない可哀想な子犬、いえ、ゴキブリでしたね。ふふふ、失礼しました。ですが、あなたからの苦情は受け付けませんよ。私の上司に苦情を言っても無駄ですので・・・、だって真実ですからね。」
微笑みながらマナがペコリと頭を下げる。
「うわぁ~、姉さんも容赦無いわ。荒くれ者の冒険者相手の現役受付嬢は伊達ではないわね。そんな業界でのトップなんだし、口じゃ絶対に勝てる気がしないわ。」
テレサがまたもや呆れた顔で2人を見ていた。
マナが右手を前に出しクイクイと挑発する。
「先手は譲りますけど、もうダラダラと無駄な時間を過ごすのは止めましょう。さっさと終わらせて、あの巨大ゴーレムを排除しなければいけませんからね。」
「このメス豚がぁあああああああ!神である俺をバカにするなぁああああああ!」
ジョニーが両手を前に突き出すと巨大な炎の玉が出来上がる。
3メートルを超える体と同じくらいに大きな炎だ。
「死ねぇええええええ!骨も残さず燃え尽きろぉおおおおおおおおお!」
スッとマナが右手を突き出す。
スゥゥゥ・・・
「なっ!」
ジョニーが驚愕の声を上げる。
目の前の大きな火の玉がいきなり萎み消滅してしまった。
「魔法は無駄よ。」
マナがニヤリと笑う。
「どうして?」
「このプラチナ・クイーンに搭載されている機能の1つ、マジック・キャンセラーよ。どんな魔法も射程内なら全てを無効化出来るわ。だから魔法は役には立たないのよ。残念でしたね。」
前に突き出した手を頭上へと掲げた。
「サイクロン!」
巨大な竜巻がジョニーの足元に発生し、あっという間に呑み込まれてしまう。
「がぁあああああああ!」
しばらくすると竜巻が消え、全身がズタズタに切り裂かれたジョニーがやっとの状態でヨロヨロしながら立っている。
「うわぁ~、マナお姉ちゃんが魔法まで使っているよ。私もあの女神像をまとったら使えるかな?早く私自身の力で魔法を使いたいよ。」
「姉様、それは無理ですよ、説明にあったではないですか。あの女神様があのお方専用なのですからね。あのお方以外には使えないです。魔法を使う夢はきっぱり諦めましょう。」
「やっぱり~~~、はぁ~~~、早く成人になって魔法が使えるようになりたいよ。」
少し元気を無くしたマーガレットだった。
そんなマーガレットの頭をブランシュがポンポンと優しく撫でている。
「ふふふ・・・、ほんの数日前に会ったばかりなのに、ずっと昔から一緒にいるような感じね。仲が良くて何よりだわ。しかし、あの2人を見ていると緊張感も欠片も感じられないわ。こんなに激しい戦いの中なのに・・・」
ジョセフィーヌが嬉しそうに2人を見ていた。
「そうだな、本当に神経が図太いというか、肝が据わっているというか・・・、将来は間違いなく私達以上の大物になるのは間違いないだろう。そして、こうして無事に巡り合えたのも女神様のおかげ、そのような機会を与えてくれた勇者パーティーには感謝しかない。」
テオドールがそう話すと2人が見つめ合い、サクラ達へと深々と頭を下げた。
そのサクラ達も嬉しそうに微笑んで2人を見つめていた。
「う~ん、思った以上にダメージを与えられなかったわ。邪神の加護が思った以上に強いのかも?それと、室内だとどうしても強力な攻撃が出来ないのよね。建物をあまり壊ししたくないし、どうしようかしら?」
マナが少し困った顔で目の前にいるジョニーを見ている。
「こ、こんなのは悪夢だ・・・、神となった俺が人間に負ける?そんなのは・・・」
ギリギリと音が聞こえる程に憤怒の表情でジョニーが睨んでいる。
「だったらぁあああ!その忌々しいキャンセラーの効果が届かない場所でぇえええ!」
シュゥゥゥゥゥ!
傷だらけの体から煙が立ち、みるみるうちに傷が塞がっていく。
コウモリのような翼を広げ一気に後ろへと退いた。
「ここなら!だが、こいつら達を完全に消滅させる魔法だと詠唱に少し時間がかかるな。」
ブォン!
ジョニーの周囲に真っ黒な魔法陣がいくつも浮かび上がる。
ズズズ・・・
その魔法陣からジョニーに似た姿のデーモンが十数体も出現した。
「これは?レッサーデーモン?」
美冬が怪訝な表情で魔法陣から出てくるデーモンを見つめている。
「ぐふふふ・・・、よく分かったな。俺のような魔神になると眷属も神クラスを呼べるのだよ。確かに俺よりも階級は低いが、それでも1体で街くらいなら簡単に滅ぼす事も可能な程だ。さっきのようなガーゴイルとは強さの次元が違うんだよ!ガーゴイルとはなぁあああああああああああ!」
「確かにね。ギルドの基準だとレッサーデーモンでも伝説級の魔物だし、危険度SSクラスの災害級には間違いないわ。」
マナがやれやれといった表情で首を振った。
「お前達よ!俺の呪文が完成するまでの時間を稼ぐのだ!まぁ、殺せるならそれでも良いけどな。ぐふふふ・・・、これだけのデーモンに貴様がどこまで耐えられるか?例え凌いでも、俺の魔法で塵一つ無く消滅させてやる!」
「出来るならね。」
パチンとマナがウインクをする。
「ふざけるなぁああああああああああああああ!いくら貴様が神の域に達しようが!これだけの数がいる神クラスのデーモンの攻撃を凌げるものかぁああああああああああ!狙うのはお前1人ではない!後ろにいる貴族達を守りながら何が出来る?俺を舐めるのもいい加減にしろぉおおおおおおおおお!」
ジョニーが叫ぶと一斉にレッサーデーモンがマナたちの方へと飛びかかった。
「さっきも説明したでしょう?あなた、何も聞いていなかったのね?」
ニヤリとマナが笑った。
「このプラチナ・クイーンは大規模集団戦闘にも対応出来ると言ったよね?その力!あなたの濁った眼にじっくりと見せてあげるわ!」
ザっと両手を広げると、背中の翼も大きく広がった。
「エクスカリバー召喚!徹底的に殲滅するわよぉおおおおおおおおお!」
美冬がクスクスと笑っている。
「あらら、マナもやっと本気になったようね。あの子は優し過ぎるから本気で戦わないかと思って心配していたのよ。私の出番も必要無くなったし、ゆっくりとこの戦いを見物出来るわ。これでアイツは塵一つ残さず消滅する事は確定したわ。ご愁傷様・・・」




