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203話 機械仕掛けの女神①

「お初にお目にかかります。私は三魔将が一人、魔神ロキ様の親衛隊隊長のジョニーと申します。無駄なあがきをすればするほどに、あなた達の苦しみは増すのに可哀想ですね。」


ニタァ~と粘着質な笑い顔を浮かべ、ジョニーと自己紹介をした魔人が濁った赤い目でローズマリー達を見ていた。


「無駄なあがきとは?」


ソフィアがキッとした視線でジョニーを睨みながら質問した。


「そりゃ、そうでしょう。」


相変わらずニタニタとジョニーが笑っている。


「私は分かっているのですよ。この騎士団を壊滅させるだけで女神様と天使様のお力をお借りしているのですからね。女神様達はまだこのようにこの世界にいますが、もう力を振るう事は無理でしょう。先程みたいに憑依するのは不可能、そうでしょう?」


「そうね、今の私達は単なる思念体のようなもの。戦う力は殆ど無いわ。」


「そうでしょう!そうですよね!ふふふ・・・、馬鹿な公爵達のおかげで、あなた達の最大戦力を苦労もせず減らせたのですから、無能にも少しは役に立つ事もあったのですね。」


おもむろに両手を掲げた。


「あなた達勇者パーティーはロキ様の仰る通り、決して油断する事の出来ない存在なのには間違いありません。ですが!あのフォーゼリア城での戦い、邪竜神王ヴリトラとの戦いをロキ様は冷静に分析しておりました。確かにあなた方は強い!この世界最強に間違いないでしょう!」


「それで何を言いたいのでしょうかね?」


ローズマリーが微笑みを先程から絶やさずにジョニーを見ている。


「確かに一対一での戦いだと確実に我らの負けになるでしょう。勇者パーティー個々の戦闘力は異常です。神が負けるほどですからね。ですが!」


ジョニーの周囲に真っ黒な魔法陣がいくつも浮かぶ。



ズズズ・・・



「これは?悪魔?いえ、ガーゴイル?」


怪訝な表情でローズマリー達が魔法陣から出てくる者達を見ていた。

まるで悪魔のような外観にコウモリの翼が生えている。だが、表情は全く無く置物のような雰囲気を出していた。表面も石のように見える。

そんな存在が十数体空中に浮かび、ガラスみたいな空虚な目で彼女達を見ていた。


「ひゃはははぁああああああああ!よくお分かりですね!ロキ様は偉大なる魔法の神だけでなく、ゴレーム使いでもあるのですよ。ロキ様の作られたガーゴイルはただのガーゴイルではありませんよ。ランクで言えばSランク以上の存在ですかね?そして、前回、フォーゼリアで失敗したのは、魔物達を外から襲わせた事です!まぁ、あの無能な7将軍が失敗したおかげで王都内部からの崩壊が出来なかったのもありましたけどね。」


「でも、今回は勝てると?」


ソフィアがジロッとジョニーを睨んだ。


「おぉぉぉ、怖いですね。聖女と言いましても地形まで変えてしまう攻撃力、だが、既に街中に現れたガーゴイル達には為す術もないでしょう?ふふふ、あなた様の圧倒的な攻撃力が仇となりましたね。そんな力を街中で使えば、あなた達がこの街を崩壊させる元凶となりますからね。どんなにあなた達勇者パーティーの個々が強かろうが、数千体ものガーゴイル軍団を1体づつ倒すには時間が足りませんませんよ!その間にこの王都は壊滅しますからね。しかもです!このガーゴイル軍団だけが我々の戦力ではありませんので。」


ジョニーはニヤニヤしながら深々と頭を下げたが、頭を上げた時は狂気を含んだ目でローズマリー達を見ていた。


「そして、この騎士団だけでなくあなた達を襲って失敗したのは、あなた達をどうにかして手元に置きたい気持ちがあったからですよ。確かにあなた方は美しい!馬鹿な男ほど何とかして自分のモノにしたいと思っていたでしょうね。それが隙となって負けたのもあるでしょうね。このバカな公爵も団長もそうでしょう?ですが!私は女にそんな興味はありません!」


ニチャ~と薄ら笑いを浮かべた。


「私は女が嫌いなんですよ。すぐに殺したくなるので・・・、今でも殺したくてウズウズしています。ですから、生け捕りにして奴隷にしたいなんて微塵もその気がありません。」


「とてもいい趣味をしているわね。」


そのような言葉にもローズマリー達は全く動揺していない。


「確かに私達は一対一の戦いに特化しているかもね。しかも、広域殲滅魔法や攻撃はやり過ぎなのは自覚しているわ。でもね、それだけが私達の戦力だと思っている?それで勝った気になっている魔神のロキも目が節穴なのかもね?いえ、彼にとってはあなた達も捨て石の一つに思っているかもしれないわね。」


「ふふふ・・・」と口角を上げてローズマリーが微笑んでいる。



ビキ!



ジョニーのこめかみにいくつもの血管が浮かびピクピクと脈打っていた。


「貴様ぁぁぁぁ・・・」


「あら?どうかしたのかしら?もしかして、ロキの事を悪く言ったからかしら?」


更にローズマリーの口角が上がった。



「ロキ様の事を侮辱するなぁああああああああああああああ!我らが敬愛するロキ様の事をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



余裕の笑みを浮かべていたジョニーだったが、いきなり態度が豹変し絶叫を上げる。


「ふん!どうやら図星だったみたいね。邪神達をここまで狂信しているとは・・・」



「殺す・・・、貴様等を今すぐに・・・、ロキ様を侮辱した者には即刻死を!まずは何も出来ない雑魚の貴族からだ!女共に手出しされる前に殺すんだ!勇者パーティーは誰も助けられられないとな!」



数十体のガーゴイルが目の前の公爵派だった貴族達へと向かって動き出した。

翼を広げ両手の鋭い爪を長く伸ばして一斉に飛びかかった。

彼女達が貴族達の間に入る前にガーゴイル達が貴族達を切り刻むのが早いだろう。




ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッン!




いきなりホールに爆発音が響いた。

ジョニーと貴族達の間に煙が立ち込める。



「何が起きた?」



しばらくしてから煙が薄くなり、何かが姿を現す。


「これは?こんなのは情報に無いぞ。」


ジョニーがジッと見つめているのは真っ黒な箱だった。しかも、高さは2メートルはあろう巨大な長方形の大きな箱だ。


「それよりもだ!ガーゴイルども!何をしている!動け!動くんだ!」


しかし、ジョニーが怒鳴ってもガーゴイル達は空中に浮いたまま1体も動き出す気配はなかった。


「どういう事だ・・・?」


ジョニーの顔に冷や汗が浮かぶ。



「ふふふ・・・、そんなに驚く事?」



みんなの視線が床の上の巨大な黒い箱に集中していたので気が付かなったようだが、その箱の遥か上から女性の声が聞こえる。


「そ!その声は!」


マーガレットが叫んだ。


「マナお姉ちゃん!」



「当たりぃぃぃ~~~~~!さすがマーガレットね。」



場違いな明るい声が響いた。

全員が声のする方へと顔を上げると、ギルドの受付嬢の制服を着ているマナが空中に浮かんでいた。

貴族達や騎士達は信じられない表情で見ているが、ローズマリーやソフィア達は笑みを浮かべている。


「き、貴様ぁあああああ!何者だぁあああああああああ!」


「私ですか?」


そう言ってマナがその場から床へと一気に飛び降りた。


スタッ!


まるで重力を感じさせる事が無いように軽やかに床に着地をし、ギルドでいつも行っている綺麗なお辞儀をする。


「私は勇者レンヤの妻の1人マナと申します。以後、お見知りおきを・・・」



「バ、バカな!貴様は単なるギルドの受付嬢なだけで、戦闘力は皆無のはずだぞ!それを・・・」



予期せぬマナの登場でジョニーが慌てている。


「誰が戦えないって?」


マナのジョニーを見る目付きが鋭くなる。


「そ、そんな情報は・・・、どの戦闘記録にも貴様の戦いは一切無かったはず・・・、しかも、そいつらと違ってただの女だろうが!」


「そう?あなたにはそう見えるのね。でも、このガーゴイルが何で動いていないのかな?これはあなたの魔力で操作していたんじゃなかったのかな?」


クスクスとマナが笑っている

その態度にジョニーの顔が真っ赤になりプルプルと震えていた。


「貴様・・・、何をしやがった?」


相変わらずマナはニコニコしている。

まるでギルドでの仕事のように笑みを絶やさない受付嬢らしい態度だった。


「まだ分からない?そして私が空中にいた事も関係しているわよ。」


しばらく2人が睨み合って(ジョニーが一方的だが)いたが、マナが優雅に右手を横に振った。



ザッ!



1体のガーゴイルが動き始めジョニーへと襲いかかる。


「な、何が!」


右手を前に突き出すと真っ黒な玉が出来上がり、襲ってきたガーゴイルへと飛んだ。


ドォオオオオオン!


ガーゴイルがバラバラになり吹き飛ぶ。


「はぁはぁ・・・、どうなっている?」



「まだ分からない?」



スッとマナが右手を突き出した。

彼女の5本の指先からキラキラとしたとても細い糸のようなものが見える。

辛うじて見えてはいるが、かなり集中していなければ見えない程に細い輝く糸だった。



「糸だと?」



「そうよ。この糸に魔力を伝え、私がガーゴイルをハッキングして操作していた訳ね。空中に浮かんでいたのは、この糸で足場を作って立っていたのよ。あまりにも細いから見えないし、浮いて見えていたの。」


「そ、そんなバカな・・・」


「そして、応用はコレよ。」


ザっとマナが両手を交差し左右に広げた。



ズバァアアアアアアアアアアアア!



十数体のガーゴイルが全てバラバラになり床へと転がった。


「な、何が起きた?」


信じられない顔でジョニーがマナを見つめている。」


「単分子ワイヤーの威力、どうだったかな?切れ味もこの通りよ。」


パチンとウインクをする。



「マナさん、見事です。ロイヤルガードの技術をここまで受け継ぐとは・・・」


ガーベラがニコニコしてマナを見つめていた。


「いえいえ、本家の渚さんに比べれば私はまだまだですよ。」


「もう十分にあなたは強いです。その神鉄製の単分子ワイヤーを最初からいきなり使える事自体があり得ませんし、これは渚母さん以外のロイヤルガードの方々でも簡単に使えない代物なんですよ。あなたにその武器を勧めたラピスさんから母さんがその話を聞いてビックリしてましたよ。それで母さんがあなたに指導を申し込みましたからね。そして、今では母さんと同じレベルまでに・・・、あなたの才能を見抜いたラピスさんも凄いですが、それにしても、マリオネットマスターの称号はここまでの応用が利くとは驚きです。」



「単なる人形使いがこんなにも強い訳が無いだろうが!何を隠している!」


ジョニーが叫ぶが、マナは涼しい顔で受け流している。


「別に難しい事をしていた訳じゃないですよ。『人形使い』は『糸使い』でもあり、糸を使わせれば誰にも負けないのですよ。その糸がちょっと特別なだけ・・・」


「そ、そんなのはあり得ん!『人形使い』は下位の称号の筈!この称号は単なる大道芸にしかならんものだぁあああああ!」



「何を言っているのかな?マナさんの称号は『人形使い』じゃなくて正確には『マリオネットマスター』よ。元々は確かに『人形使い』だったけど、クラスチェンジして『マリオネットマスター』になったのよ。似たような感じだけど、全くの別物だからね。」


そう話しをしながら、今度はソフィアがニヤニヤしながら前に出てくる。


「それにねマナさんはね、私と同じ方法で強くなったのよ。あの世界でひたすら何十年も頑張ってね。この世界だと数日しか経っていないけど、努力は裏切らないって事よ。」


パチンとソフィアがウインクをした。


ワナワナとジョニーが震えている。


「あら?どうしたのかしら?さっきまでの紳士的な言葉遣いも無くなったし、あなたの余裕が無くなってきたのかな?少しはレンヤ君を見習ったらどう?下品な男はモテないわよ。」



「ふざけるな・・・、ピーチクパーチクと・・・、これだから俺は女は嫌いなんだよ!少しくらい有利になったと思って調子に乗るんじゃねぇえええええええええええ!」


ブォン!


先ほどよりも大量の黒い魔法陣があちこちに浮かび上がる。


「もう遊びは終りだぁああああああああ!さっきよりも大量のガーゴイルを召喚してやったぞ!さっさと死ねぇえええええええええええええええええ!」


ジョニーが絶叫すると100体以上ものガーゴイルが現われた。

普通の人間ならあまりの数に腰を抜かしているだろう。実際に貴族や騎士達はガタガタと全身が震えているだけで、戦う気概は全く見せていなかった。


「やっぱりこの国の騎士団は当てにするだけ無駄だったわ。レンヤ君のように頼りになる男の人っていないのね。」


マナが大きく息を吐いた。


「まぁ最初から期待していなかったし、少しは私も本気を出そうかしらね。」


巨大な黒い箱の横に立った。


「戦闘準備完了!出番よ!」


スッと右手を前に差し出した。




「プラチナ・クイーン!出撃!行くわよ!」


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