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20話 グレン達の末路③

「バ、バカなぁあああああああああああああああ!あの無能が【勇者】だとぉおおおおおおおおおおおおお!」


ギルドマスターが思いっ切り叫んで髪の毛を掻きむしっている。


(あぁ~、ただでさえ髪の毛が薄いハゲのに、あれじゃ本当のツルツルハゲになっちまうぞ。まぁ、そんなのはどうでもいいか・・・)


マナさんが潤んだ瞳で俺を見ている。

「弟のように思っていたレンヤさんが、実はこんなすごい人だったなんて・・・、遠い人のように感じてしまうわ。」


「マナさん、そんな事はないよ。勇者っていってもちょっと前になったばかりの新米勇者だからな。」


「ふふふ、勇者になってもレンヤさんの謙虚さは変わらないわね。実を言うとね、レンヤさんには冒険者を辞めてもらおうと思っていたのよ。みんなにバカにされ、帰って来るまでずっと心配する毎日だったし、私の弟のように死んじゃうのでは?と、どれだけ思ったか・・・、私と弟は孤児院でずっと一緒にいたけど、10年前のある日、いきなり弟が死んでしまったのよ。流行り病であっさりと・・・」

マナさんが涙を流し始めた。

「レンヤさんもね、そんな風になってしまうかと思って・・・、黒の暴竜に連れていかれて、そして亡くなったって聞いた時は、あまりの悲しさで気がおかしくなりそうだったわ。でも帰って来てくれた、元気な姿で・・・、どれだけ嬉しかったか・・・」


「そしてね、前から言おうと思っていたの。『私が養ってあげるから、冒険者を辞めて私と一緒に暮らさない?』ってね。『私をお姉さんだと思って、今まで苦労した分、私に甘えていいよ。』って言いたかった・・・、ずっと、レンヤさんと2人っきりで住んで私だけを見て、私の事を『お姉さん』って呼んで欲しかったの。私はレンヤさん事を『レンヤ君』や『弟君』て呼びたかった・・・」



「でも、レンヤさんは勇者・・・、私なんかとは違う存在の人になってしまったのね。」


「マナさん・・・」


いやいやいや!俺の事はマナさんの弟さんと重ねて見ていたという気はしてたけど、ここまで考えていたなんて思っていなかったぞ!

それでか?アンとラピスを見た時に怖い顔になったのは・・・、俺がマナさんから離れると思っていたのか?


(マナさんって、意外とヤバイ人かもしれん・・・、いや、今の告白を聞くとかなり危ないかも?もしかしてブラコン?)



「えぇえええええい!貸せ!」

ギルドマスターがマナさんの手に持っていたステータスプレートを奪い取った。


「あいつは無能なんだ!何かの間違いだ!私がしっかりと確認してやる!」

手にしたステータスプレートをジッと見ていたが、動きが完全に止まってしまう。


「そ、そんなぁあああ!間違いなく【勇者】と書かれている・・・、それにこのスキルの量は・・・、Sランクどころでない、これが勇者の力・・・」

そして、ギギギ・・・と油の切れたおもちゃのように、ギルドマスターがゆっくりと俺に首を向けた。



「レンヤさん、いや!レンヤ様!」


とっても良い笑顔で俺に微笑んでくれた。


(まぁ、そうなるだろうな。)


ダッシュで駆け寄り俺の手を握ってくる。


「レンヤさんは我がザガンのギルドの宝です!どうかこの町を拠点にしていただけませんか!このギルドに勇者がいるとなれば私達も心強いです。」


(何だ、この変わり身の早さは?呆れてものが言えないぞ。)


【レンヤ、予想通りの展開になったわね。そろそろ着く頃よ。】

ラピスから念話だ。


【そうか、最後の仕上げだな。これで、このギルドの膿も出せるって事だな。】


【そういう事よ。】


ギルドマスターは俺が勇者と分かった途端に態度がコロッと変わったけど、周りの冒険者達はザワザワして遠巻きに俺を見ている。

そうだろうな、今まで散々俺を無能と言ってバカにしてきた連中だ。まだ気絶しているグレンのように仕返しされるのを怖がっているのだろうな。

リズもまだ放心状態だよ。あれだけ傲慢な恋人のグレンがああなってしまったし、頭の中が整理出来ていないのだろう。



「何だ!騒々しいぞ!」


全員が一斉に声の方に振り向いた。


そこにいたのは、ビシッとした仕立ての良い服を着た初老の男だ。その男の後ろに冒険者風の服装をしたエルフの女性5人が立っていた。


「こ、これは理事長!」

ギルドマスターが直立不動の姿勢を取った。そして、ギルド内の職員をグルッと見渡す。

「馬鹿者!お前達は知らないと思うが、あのお方は各地のギルドを統括するセンターギルドのお方だぞ!それも、5人おられる理事の中でも最高の地位の理事長だ!すぐに立って挨拶しないか!」


慌てて理事長へと駆け出し、理事長も歩き始めた。後ろの5人のエルフも一緒に歩き出した。


「これはこれは理事長、よくぞザガンのギルドにお越しで・・・」


しかし、理事長達は目の前まで来ていたギルドマスターを無視して歩き続ける。

「はいぃぃぃ・・・」

無視されたギルドマスターが変な声を出してしまう。


ラピスの前でピタッと立ち止まり、6人が揃って片膝を床に着け頭を下げた。


「理、理事長・・・、一体、何を・・・」


「これはラピス様、よくぞお越しいただいて・・・、私が理事長の時にお目にかかれるとは、これ以上の幸せはございません。そして、申し訳ありません。昨日はわざわざセンターギルドへお越しいただいたにも関わらず私が不在で・・・、慌てて本日、後ろにおられる『緑の狩人』の力を借りて参上しました。ラピス様に対する不敬、どのような罰も進んでお受けします。」


「我ら『緑の狩人』、こうしてラピス様のお顔を拝見出来まして、これ以上の幸せはございません。アラグディア様より詳細をお聞きしましたが、隣の方がラピス様の想い人なんですね。とても力を感じます。幸せになって下さい。エルフの里全員が祝福しています。」


「理事長・・・、どうしたのですか?たかがエルフの女に頭まで下げて・・・」

ギルドマスターが冷や汗をかきながら話し始めた。


ギロッと理事長以下エルフの5人もギルドマスターを睨む。

今にも手を出して殺しそうなくらいの殺気がエルフの5人から発せられていた。


理事長が忌々しそうな表情で口を開いた。

「ヘンリー・・・、お前はたった今をもって、クビだ。本当は査問をしてから処分を決める予定だったが、もう良い。お前の顔など見たくもない、さっさと出て行け・・・」


「理、理事長・・・、そんな横暴な・・・、私が何をしたのですか?」


「まぁまぁ、理事長、落ち着きなさい。そんな事をすれば、このバカマスターがさっきレンヤにした事と同じ事になってしまうわよ。あなたもこのバカと同類になりたいの?」


「い、いえ!決してそんな事は・・・」

理事長が冷や汗をダラダラとかきながらラピスに頭を下げている。

そしてギルドマスターをキッと睨んだ。


「ヘンリー、お前はこの方を『たかがエルフの女』と言ったよな?バカ者!このお方はなぁ、各地でバラバラで活動していたギルドを1つに纏め、数々の魔道具を作られ、今のギルド組織の礎を作られた方だ。その後、魔王討伐に赴き、そして姿を消された。お前なら知っておろう、このギルドのグランドマスターの名前を、我ら理事よりも更に上のギルドの頂点に立つ方の名を!」


「た、確か・・・、ラピス・ウインディアと・・・」

絞り出すような声でラピスの名前を言うと、ハッとした表情になった。

「理事長がその女に言っていた名前は!」


「どうやら分かったようだな。このお方こそ、我らギルドの頂点に立つラピス様だ!ラピス様がいつお帰りしても良いように、我ら代々の理事はギルドを正しく運営するように心がけてきた。そして、500年の時を経てとうとう戻られたのだ!それをお前はぁぁぁぁぁ・・・」



周りの冒険者達が理事長の言葉を聞いてザワザワと騒ぎ始めた。

「マ、マジか!あの無能、いや!勇者と一緒にいるエルフの女って、伝説のラピス様だと!信じられん・・・」

「いや、伝説ではラピス様は勇者と一緒に表舞台から消えたって話だけど、勇者が復活したんだ、ラピス様も復活しても不思議ではないぞ。」

「理事長の後ろにいる5人のエルフも見た事があるぞ。あれは『緑の狩人』、Sランクのパーティーだ!そんな凄いパーティーが頭を下げるなんて・・・」

「やっぱりラピス様に間違いないのか?」

「伝説ではラピス様は絶世の美女と言われていたが、こうして見ると本当だ。一緒にいる勇者が羨ましい・・・」

「こうして実際にラピス様を見る事が出来るなんて俺は何て幸せなんだろう・・・」

「それにな、ラピス様だけでなく、もう1人の可愛い子もいる。勇者ってどんだけモテるんだ!」

「あと、俺達のマナさんもヤバイぞ。あの感じだと、このままじゃ勇者に取られてしまう・・・」

「あぁぁぁ・・・、俺達の女神様と天使達がぁぁぁ・・・」



「まぁ、落ち着きなさい。」


「はっ!」

理事長が深々と頭を下げた。


「まぁ、500年も経つとどんな組織でも歪が出てくるものよ。でも、あなた達が頑張っていたから腐った組織にはならなかったみたいね。でもね、ちょっと許せない事もあるわね。若い冒険者が無謀な事をして死なないようにと、ステータスチェックを行ってランク付けの制度を導入したけど、これが差別とイジメの温床になっているとは思わなかったわ。私のレンヤがこれでどれだけ酷い目に遭っていたか・・・」

ラピスがとても冷たい目で理事長を睨んでいた。


「ま、誠に申し訳ありません!ラピス様の報告にあった者は相応の処分をさせていただきます!」


「まぁ、イジメは陰でこそこそとするものだから、あんた達トップが把握するのは難しいわね。今後はこのような事が無いように改革してくれれば良い訳だから、これ以上は私の方からは言わないわ。」


おい、ラピスよ・・・、いつの間にこんな事を・・・

昨日、出かけていたのはこれの事だったのか?


「トップなのにバカな事を堂々とする奴もいるけどね。」

そう言って、ラピスがギルドマスターをギロッと睨んだ。


「ひっ!」

睨まれたギルドマスターはピクッと体を震わせ、直立不殿の姿勢で硬直してしまっている。


「ラ、ラピス様・・・」


やっと声が絞り出せる事しか出来ない程にラピスに対してビビッている。


「あんたの本当の地獄はこれからよ。」

ラピスがニヤッと笑った。


「はい?」



「ラピス様、これを。」

理事長の後ろにいるエルフの1人が書類をラピスに渡した。かなり分厚い。

受け取ったその書類をペラペラと読んでいた。


「さすがアラグディアが鍛えただけあるわ。短時間でよく調べ上げたものね。感謝するわ。」


「勿体ないお言葉です。暗部の者が頑張ってくれました。お礼は彼らにもお願いします。」

そう言って、エルフの女性が深々と頭を下げた。


「ふふふ・・・」

ニヤニヤ笑いながらラピスがギルドマスターを見ていた。


「ラピス様、その書類は一体?」

理事長が恐る恐るラピスに尋ねると。ラピスが嬉しそうに書類を理事長に渡した。


「まぁ、見てみれば分かるわ。」


理事長も書類を読み始めたが、みるみるうちに顔が真っ赤になりプルプルと震え始めた。

そして、憤怒の形相でギルドマスターを睨んだ。


「ヘンリー・・・、これはどういう事だ?」


「はい?どういう事を申されても・・・」


「何を惚けている・・・、この書類に書いてある事に決まっているだろう!よくもやってくれたな・・・」


「ひぃいいいいいいいいい!」

悲鳴を上げたギルドマスターが顔面蒼白で立ち尽くしている。


「この町のギルドマスターになってから、どれだけの横領と素材の横流しをしていた?事細かに横領額や横流し品の明細まで記載されている。それに関与した経理や受付嬢も記載されているぞ。どう申し開きをするんだ?」


受付の奥にいた職員2人が慌てて立って立ち去ろうとしている。


「逃がしませんよ。」

緑の狩人のメンバー2人が一瞬に移動して逃げようとした2人を捕まえ床に押さえつけた。


「はひぃ、はひぃ・・・」

顔面蒼白のギルドマスターがブルブルと震えている。


「しかも、これだけじゃない。前の町で副ギルドマスターの時にお前は黒の暴竜と知り合ったみたいだな。このパーティーは同行者の死亡率が高い。しかも、死亡した者に対する保証金もお前の権限で直接リーダーのグレンに渡していたと・・・、中には不審な死を遂げた者もいたが。それをお前はことごとく事故死として処理をしていた。中には異議を唱えた遺族もいたが、そんな遺族は誰だか分からない者に死ぬ寸前までの重症をを負わされていたとな。そのおかげで誰も文句が言えなくなったと。そいつらの正体は黒の暴竜と記載されている。」


「どういう事だ?」


「そ、そ、それは・・・」


「もう、いい・・・、お前は何も喋らなくてもいい。ここまで私達をこけにしたのだ、楽に罪を償えると思うなよ。」


「た、助けてく・・・」


「パラライズ!」

ラピスの掌から紫色の光がギルドマスターへと飛んだ。

光を浴びるとピクピクしながら床の上に転がっている。


「クズはホント往生際が悪いわね。」


ゴミを見るような目でラピスがピクピクしているギルドマスターを見ていた。


「私を本気で怒らせた者の末路よ。ただ殺すだけでは私の腹の虫が収まらないからね。徹底的に地獄を味わってきなさい。」


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