2話 まさかの外れ
本日は2話投稿します。
「レンヤ~、いい加減に起きなさい!」
う~ん・・・
あっ!朝か・・・
眠い目を擦って目を開けると・・・
「げっ!」
母さんが目の前で仁王立ちでベットの前で立っていた。
心なしか少し怒っているようだ。
(マ、マズイ!)
「レンヤァァァ~、昨日、学院を卒業したからといって気を抜き過ぎじゃないの?今日は何の日か分かっているでしょうね。」
「は、はい・・・」
「だったら、さっさと準備して朝ごはんを食べなさい!お父さんはもうテーブルで待っているわよ!早く来なさいね!」
母さんがそう言って、ノッシノッシと部屋から出ていった。
(今朝の母さんはいつもよりも迫力があったなぁ~。普段はとても美人でお淑やかと周りから言われているけど、怒ると本当に怖いよ。まぁ、今は寝坊した僕が悪いけど・・・)
思わず天井を見上げてしまった。
「それにしても・・・、とてもリアルな夢だったなぁ~、まさか僕が勇者になって魔王を倒すなんてね。でも、魔王を倒した後からの事は本とは違っていたよな?聖女のソフィアを庇って死んでしまうとは・・・、何でこんな夢を見たんだろう?不思議だよなぁ~」
僕は500年前に魔王を倒し、この世界を救った勇者の物語がとても大好きだ。勇者レンヤはこの国フォーゼリアでは神様のような扱いになっているし、子供に勇者の名前【レンヤ】って付ける事も多いんだよね。僕の場合は瞳が黒色だったのもあったから、父さんが勇者のように立派になるように願いを込めて付けたと聞いている。勇者レンヤは黒色の髪に黒い目だったと伝えられている。でもねぇ~、父さんも母さんも金髪で青色の瞳なのに、なぜか子供の僕は黒いんだ・・・、髪はだけはちゃんと金髪だけど・・・だから、昔、周りの子供達から『拾われっ子』って苛められた時期もあったし、母さんにも聞いた事があった。その時の母さんは僕を力いっぱい抱き締めて、『何を馬鹿な事を言っているの!あなたはお父さんと私の大切な子供なのよ!』と言って、涙を流しながらずっと抱き締めてくれていた。もう母さんを泣かせる事はしたくない。
「でもなぁ~」
本などで伝えられている勇者レンヤの物語は、どれもだけど魔王を倒した後は大賢者ラピスと夫婦になって、どこかへ行ってしまって幸せに暮らしているとなっている。勇者の力は過ぎた力、平和になった世の中には必要ないし、この力を巡って争いが起きる事を嫌がったという事だ。その文章で物語は締め括られている。
「カッコイイよなぁ~、世界を救った後はその力を見せつける事なく、平和を願って身を引くなんてね。」
いつからそう思っているか分からないけど、僕は将来は勇者レンヤのようになりたいと思っている。今は魔王もいないし平和な世界だ。だからといって安心して暮らせるかといえばそうでもない。この世界にはモンスターという魔物が存在するし、町から一歩外に出れば危険な事には変わりない。
だから・・・
「レンヤ!早く降りてきなさい!いつまでかかっているの!」
1階から母さんの怒鳴り声が聞こえる。
ヤバイ!ちょっと考え事をしてたら準備が遅れた!母さんに怒られる!
「はい!今すぐ行くよ!」
慌てて階段を降りダイニングのテーブルの椅子に座った。
みんなの視線が痛い・・・
父さんが呆れた表情で僕を見ている。
「お前、本当に弛んでいるな。そんな事だと憧れの勇者に笑われるぞ。勇者は今のお前と同じ15歳で既に魔族の討伐を行っていたと伝えられているし、それに引き替え・・・、まぁ、今日、お前の未来が決まるから俺からは何も言えないけどな。」
妹はいつもの感じだ。ちなみに僕の2歳年下である。
「まっ、兄さんはいつもマイペースだからね。今日みたいな日でもそわそわしてないなんて驚きよ。どんな結果になっても私は兄さんを応援するね。」
妹がニコッと僕に微笑んでくれる。妹は母さん譲りでとてもキレイなんだよな。まだ13歳なのに大人びた顔立ちだし、将来は間違いなく母さん以上にキレイになると思う。
実際に学院では妹はとてもモテるし、かなりの人から告白もされていみたいだ。
だけど、告白した人は全員が見事に玉砕している。断りの返事は『心に決めた人がいます。だから、私はその人以外は誰もときめかないのです。』だってさ。まぁ、単なる断り文句だと思うけど、本当に妹に好きな人がいるのか?
もし本当なら、こんな美少女な妹に想われている奴って誰だ?
そいつが羨ましいよ。
兄としてどんな奴か見極めないといけないよな。
「さぁ、早く食べましょう。いくら時間に余裕があるっていっても、ギリギリで行く訳にはいかないんだから。まぁ、私もテレサと同じで、どんな称号をもらっても応援するわよ。出来れば、お父さんと同じような称号が希望なんだけどね。そうなればあなたがお店を継いでくれるしね。」
母さんがニコニコしながら僕にスープの入った器を置いてくれた。
ちなみに、我が家はパン屋だったりする。
朝食が済んでから父さんと一緒に町の教会へと向かう。
「お前もとうとう学院を卒業したんだよな。それにしてもこの国の学院制度は本当に感謝だよ。これだけ教育に力を入れている国はここだけだからな、おかげでお前もテレサも計算など店の手伝いをしてもらって助かっているよ。」
そう、この国は6歳から国民全員が学院と言うものに強制的に通う事になって勉強をしている。15歳で卒業という事になるが、成績上位者は更に上の大学院へと進級するのだけど、僕の成績は並だから15歳で卒業となった。
この制度は500年前の勇者パーティーにいたアレックス王子が魔王を討伐した後、当時の国王や側近と共に起こした大事業との事だった。王子は討伐の旅の際に各国を回っていたが、国力や文化水準の差に衝撃を受け、自分達の国を豊かにする為に色々と考えていたみたいだった。国力を向上させるには武力も大事だけど、それだけでは国民が豊かにならないと。国民も豊かにするにはどうすれば良いか考えた結果、識字率を上げる事になったみたいだ。教育の水準が上がれば、それだけ国が豊かになる信念の元に王子が率先して行ったと伝えられている。
僕もこの考えには賛成だ。小さい頃から教育を受けていたからこそ分かる。ちゃんと計算も出来てお店の手伝いも出来たし、こうして成人してから自分で生きてく事にも役に立つと思っているからだ。
アレックス王子が王様になってからも国を良くしようと頑張っていたみたいだ。そのおかげか、500年経った今では大陸一の国となっているし、他の国でもこの国の出身だと優遇されると聞いている。
そんなアレックス王子は、学院の教科書では『賢王』として勇者と同等の尊敬を集めているんだよね。
「僕も頑張らないと・・・」
教会に着き中に通された。
立派な祭壇の前に連れていかれると、目の前に大きな女神像があった。
この女神像は『フローリア』様と呼ばれている。女神様がこの世界を造り、僕達人間やエルフ、獣人などを創造したと伝えられている。
その逆でモンスターや魔物などは、かつて女神様が封じた邪神から生まれたと教会でそう教えられていた。
そして、教会にはもう1つの役割がある。
それは『称号』と『スキル』というものを授けてくれる。
15歳になってから教会で洗礼を受けると女神様から授けてくれるものだ。
しかし、全ての人が授かるものではない。どんな理屈で授かるか分からないけど、授かれば普通の人よりも遙かに身体能力などが向上する。
例えば【戦士】の称号を授かれば力がとても上がるし、それに【剣技】などのスキルまで授かれば剣士としての将来は約束されて、国の騎士団に無条件で入れるというものだ。
【魔法使い】だった場合は、【火魔法】や【水魔法】などの魔法を扱えるスキルを授かり、魔法使いとして人々から尊敬される。
勇者レンヤの物語でも出ていた【聖女】ソフィアや【大賢者】ラピスみたいな最上級の称号などは、この500年の間ではまだ誰も授かっていない幻の称号とも言われているけど、もしかして、僕にもこんな称号が授かれば良いなと思っているけどね。
でも、やっぱり僕が一番欲しい称号は【勇者】なんだけど、これは無理みたいだ。勇者は勇者一族だけしか遺伝でしか手に入れられない称号であって、女神様から授ける事が出来ないと言われている。
「でもなぁ~、やっぱり男としては欲しいよなぁ~」
「だけど、父さんみたいに称号持ちになれるだけ凄い事なんだけどね。」
そして父さんを見ると、父さんも僕を見てくれた。
「どうした?」
「うん、やっぱり父さんって凄いんだなって思った。」
「そんなに褒めるなよ。俺の称号なんて【クラフトマン】って手先が普通の人より器用になるだけだぞ。」
「そんな事ないよ。だって父さんが作ったパンは町で一番美味しいって有名なんだからね。尊敬するよ。」
「嬉しい事言うなぁ~」
父さんが嬉しそうに僕の頭をワシャワシャと撫でてくれる。
「お前も称号がもらえれば良いな。でも、もらえない人の方が多いから、もらえなくても落ち込まなくて良いからな。」
そうしている間に司教様が僕達の横に立っていた。父さんよりも少し年上って感じの人だ。
「それではレンヤ、フローリア様の像の前で祈りなさい。フローリア様に認められれば称号が授かるでしょう。」
女神像の前で傅いて目を閉じ祈りを捧げる。
(どうか勇者レンヤのように強い人になれますように・・・)
しばらく祈ると司祭様が「おぉぉぉ・・・」と声を上げるのが聞こえた。
(もしかして、称号がもらえた?)
「変だぞ・・・」
そんな事を司祭様が呟いたものだから、チラッと見てしまった。
司祭様の前に透明な板のようなものが浮いている。
(これは称号がもらえる時に現われるステータス・ウインドウだ。やっぱり僕にも称号がもらえたんだ!)
・・・
(でも変だな?とても難しい表情だよ。何で?)
「司祭様、どうかしました?」
父さんも司祭様の状態が不思議に思ったのか、司祭様のところまでやって来た。
「えぇ・・・、ステータス・ウインドウには何も表示されないのですよ。授からない時はそもそもウインドウ自体が現われませんし、何も表示されないなんて・・・」
しばらくすると司祭様の表情が変わった。
「お!何か浮かび上がってきました!」
「何?勇・・・」
(嘘!本当に勇者になれるの!)
思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。
「勇気ある者・・・、何だ、これは?こんな称号は初めてだ・・・、私の記憶には無いぞ・・・」
「それにスキルは・・・、全く無し・・・」
(はいぃいいい?『勇気ある者』って何ですか?称号に関しては僕もかなり勉強してきたけど初めて聞く称号だ。しかもスキルが全く無いって!)
司祭様がガックリした表情で僕を見つめている。
「残念ですが・・・」
これ以上の言葉は無かった。
(あぁ~、そうなんだ・・・、とても希だけど『外れ称号』っていうものなんだ・・・)
だからって!僕の勇者に憧れる気持ちはそんな事じゃ負けない!外れといっても称号は称号だ!初めてで前例が無いからといって外れでないかもしれない。だったら足掻いてみせる!
同時刻、大森林の奥深くにあるエルフの里
「長老、これは・・・」
「儂にも分からん・・・、氷の結界に自ら封印され、いつ目覚めるか分からない永遠の眠りについて400年、これまでずっと変化は無かった。だが、どうしたのだ?ラピス様が微笑んでいる。もしかして目覚める兆候なのか?」
2人のエルフの前には巨大な氷の棺のようなものがあった。そしてこの中には1人の女性が眠ったように入っていた。絶世の美女と言われる程に美しい表情は確かに微笑んでいた。
同時刻、フォーゼリア国王都教会、教皇の執務室
「教皇様!」
「どうした?そんなに慌てて入る事か?」
「はい!開かずの間に安置されています大聖女ソフィア様の聖域結界に揺らぎが!しかも、眠っているはずのソフィア様が微笑んでいます!」
「何だと!この事は誰かに?」
「いえ!定期巡回の際に分かった事で、すぐに教皇様にご報告と思いまして・・・」
「でかした!この件は誰にも伝えてはならん!今後は私が確認する。」
「はっ!」
男がサッと踵を返し部屋から出て行く。
教皇と呼ばれた老人が立ち上がり天井を見上げた。目から涙が溢れている。
「もしや、ソフィア様がお目覚めになられるのか?女神フローリア様に認められ大聖女となり眠りについて500年、我々代々の教皇はずっとソフィア様を見守ってきました。教皇だけに言い伝えられている伝説がついに・・・、あぁ・・・、私の代でソフィア様のご尊顔を拝めるなら本望です。」




