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192話 裏切りの騎士団⑤

時間は少し遡る



SIDE  ソフィア


馬車に乗ってホテルから出発して王城に入ったけど、城のどこに向かっているのかしら?

先日、王城を表敬訪問した時に案内された場所とはは全く別の場所へと進んでいる感じね。


(まっ!予想通りだから笑いたくもなるわ。)


ニヤニヤを我慢するのも大変よ。


「う~ん、魔族、いえ・・・、魔人の気配がプンプンするわね。」


レンヤさんと別れ私1人だけで馬車に乗ったけど、前に座っている女性からは人間の気配がしないわ。

あのフォーゼリア城で感じた魔人の気配ね。

どんなに見た目を偽装しようとも、私の目は誤魔化せない。

魔族の気配とも違う独特の粘っこい嫌な気配は魔人に間違い無いわ。


そう私が呟くと、その女性がピクンと震えた。


(当りね・・・)


「せ、聖女様、気のせいでしょうね。それよりも魔人とは何の事です?魔族なら私もそのような存在がいるとは存じておりますが・・・」


(ふふふ・・・、誤魔化すのが下手よ。『私が魔人です』と宣言しているようなものね。)



目の前に座っている女性だけど、かなり緊張しているのかダラダラと冷や汗をかいて私をチラチラと見ている。

魔人と言われた事を気にしているのでしょうね。

あれ以来、お互いに一言も言葉を交わす事無く馬車が進み、ある建物の前で止ります。


「ここは?」


彼女は黙って何も言いません。


「あの入り口から瘴気が漏れているわね。もしかして、騎士団の本部?それとも、人間を辞めてしまった連中のたまり場なの?



ザワッ!



ふふふ・・・、どうやら本性を現したようね。



「どうして、それを?」


ゆらりと彼女が立ち上がったわ。

殺気を全開に放っているから、私を殺す気なのかしら?

出陣式の祭典に私が祝福をする手筈だけど、私が式典に行く前にクーデターを起こすつもりなのね。


(無駄な事で・・・)


彼女の姿が変貌を始めています。


肌が少しずつ紫色に変化し、緑色の瞳も血のように真っ赤に変わってしまったわ。


バキバキ!


額が割れ、中から真っ黒な1本の角が生えてきました。

珍しいですね。普通の魔族でしたら頭の左右に角が生えているのですが。

魔人は魔族とは少し違う感じかもしれませんね。


でも・・・


(へぇ~~~)


彼女は魔人には間違い無いですが、フォーゼリア城で戦った魔人とはちょっと違う感じがします。

あの魔人達と違い、何かこう意志というものが違うというか・・・


「聖女様・・・」


どうや猫を被る気は無くなったようね。

私に向けて殺気を飛ばしているしね。


「何かご用かしら?」


確かに凄まじい殺気ですが、師匠達と比べれば涼風同然ですし、全く気になりません。


「ふふふ・・・、聖女様は団長から聞いた話と全く違いますね。見た目の華麗さとは裏腹のこの落ち着き・・・、あの女たらしの団長だけありますよ。見た目だけに惑わされてあなたの本質を見誤るとはお笑いです。」


ペロッと舌舐めずりをします。

何、この人は?私なんか美味しくないですよ!


「私は強くなる為にこの騎士団に入ったのに、毎日毎日私を見れば口説く連中ばっかり!あのクソ団長も女の事ばっかりよ!女だからって上の地位にもなれず雑用ばかりの日々に、体を差し出して愛人になればそれなりの地位を与えてくれるって・・・、私はそんなのにはならない!私は私の実力で男共の上に立つべきと思っていたのよ。」



「だけど、あなたは手を出してはいけないものに手を出したようね。人間を辞めてまでの事なの?」



「あなたに何が分る!聖女とチヤホヤされ苦労も知らないあなたがぁああああああああああ!」


ふふふ・・・

彼女は私に似ているわね。

強くなりたい目的は違うけど、強くなるには手段を選ばない事には共感するわ。

私は女神様に、そして彼女は邪神に力を求めた。


(だったら!)


右手を上げクイッと人さし指を立てました。


「かかってきなさい。人間はどこまでも強くなれるって事を教えてあげるわ。こんな借り物の力を使わなくてもね。」


「ふざけるなぁあああああああああ!」


彼女からどす黒い殺気が爆発するように弾けました。



ドォオオオオオオオオオオオオン!



そのおかげで馬車が粉々に吹き飛びました。

私は咄嗟にシールドを展開しましたので全くダメージはありません。


「何!む、無傷だと!」


爆風を利用してのジャンプで、彼女から少し離れた場所に降り立ちます。

汚れ一つ無い私の姿を見て驚いていますね。


「だが!」


彼女の右手に黒いモヤが現われたと思ったら、そのモヤが集まり真っ黒な剣が握られていました。

あれはどうやら魔剣ですね。

さすがに自信満々なだけありますね。魔剣を作れる事は上位の証ですしね。


「後衛の回復しか出来ない人間が私に敵う訳がないんだぁあああああああああああ!その舐めた態度を取った事を後悔しながら死ねぇええええええええ!」



ダン!



たったの1歩踏み込むだけで私の前まで飛んで来ました。

見事な身体能力ですね。

しかも、剣を見えないように全身で隠すように構え、ギリギリまで剣筋を私に見せないようにまでするなんて、彼女は間違いなく一流の剣士でしょう。


(だけど・・・)


私と対峙するまでのレベルとなるとまだまだですね。



ザン!



全身を捻るようにしてから剣を横薙ぎに振ってきました。

パワーもスピードも申し分ない剣閃です。

しかも、魔人となった身体能力の上昇もあって、かなりの達人でも見切る事も出来ず一瞬で体を輪切りにされてしまうでしょう。


それでもまだまだ私には通用しませんけどね。



パシィィィィィ



「ば、バカなぁあああああああああああ!」



彼女の絶叫が響きます。それもその筈ですね。

まさに神速の剣といった斬撃を私は親指と人差し指で優しく刀身を摘まんでしまいましたからね。

単純に避ける事も可能でしたが、これなら簡単に彼女の心を折ることが可能でしょう。


「こ、こんな止め方って・・・」


「まずまずですね。でも私には通用しませんよ。」


「こ、こんなのはあり得ない。聖女は戦いは苦手なはずよ。」


しかし、急に視線が鋭くなり私を睨みます。


「貴様も私のように何かを?」


そんな彼女に対して私はニッコリと微笑みました。


「何を言っているのでしょうか?私は何もしていませんよ。師匠からは才能は全く無いとも言われましたし、単純に努力だけで強くなったのです。」


そんなのは信じられないようで、彼女は更にギリギリと歯軋りをしています。


「そんなのはぁあああああああああああああああ!」


グッと剣に力が籠ります。


(隙あり!)


摘まんでいた剣をグルっと捻じると、手首に激痛が走ったのか剣を握る力が一瞬だけ弱くなります。

そのまま左手を彼女の脇の下に滑り込ませ、軸足を払いますと・・・



クルッ!



何も力を入れずに彼女が回転し背中から地面に倒れ込みました。

いわゆる相手の重心を崩すと自然と勝手に倒れてしまう『崩し』という技です。


「な、何が起きた?」


そのまま彼女をうつ伏せにし、剣を握っている腕を後ろへと回し持ち上げ体は地面に押さえつけます。


「う、動けない!」


ジタバタともがいていますが、ガッチリと極めていますからビクともしません。

無理に動いても剣を持っている腕が折れますし、この状態から彼女が挽回する手筈は全て摘み取りました。


「無駄ですよ。本来はあなたが倒れた瞬間、顔面か喉、それか心臓か鳩尾を目がけて膝を叩き込んでいたのですけどね。そうすれば確実にあなたは即死でしたよ。」


「こ、こんなにあっさりと・・・」


彼女からの力が抜けてきましたが、まだ私は気を抜きません。


「ところであなたの名前は?」


完全に力が抜けています。

どうやら私と戦う事を断念したようです。私との実力の差を理解したのでしょうね。


「私の名は『シルヴィア・ヘリオス』だ。男爵家の跡取りにもなれない女だから、昔から得意だった剣で頑張っていたが、こうも簡単にあしらわれるなんて・・・」


「ふふふ・・・」


私が手を放し彼女から離れるとゆっくりと立ち上がりました。

だけど、先ほどのような殺気は感じられません。


「落ち着いて私の話を聞く気になったようね。」


「聖女様、大変申し訳ありませんでした。あなた様こそ、私が真にお仕えするお方です!」


ザッと地面に片膝を付き私に対して臣下の礼をとりました。

正直、ここまで畏まられてもねぇ・・・

まさか、邪神の力に飲み込まれてしまった魔人が私に師事する?

どうやら彼女の意志の力が邪神の束縛よりも強いのかもしれないわ。


だけど、いつ邪神の力に呑み込まれるか分からない。

まだここまで意識が汚染されていないなら、私の力でも浄化できるかもしれません。

あの時、レンヤさんを救えなかった未熟な私・・・



今なら!

邪神の呪いをも解き放てるはず!

私はその為に強くなったのですから!




「げひゃひゃひゃぁあああああ!」



「はぁ?」


誰です?いきなり聞こえたこの不快な笑い声は?


建物の入り口からゾロゾロと男達が出てきたのですが、どの男も私達を舐め回すような目で見ていますね。

この男達が私達を襲う手筈だったようです。

だけど、彼らには魔人特有の気配を感じません。普通の人間のようですね。

魔人だったら即滅ぼすつもりでしたが、人間相手ではさすがに命を奪うわけにいきません。


(さて、どうしましょう?)


それにしてもいやらしい目で私達を見ていますね。

シルヴィアさんも魔人となっていますが、かなりの美人には間違いありません。騎士団の中では口説かれていたのも分ります。


10人ほどの騎士が私達の前に立っています。

先頭の人がニヤニヤしながら更に前に出てきました。


「何だ、シルヴィア、団長から支給された薬を飲んでも聖女すらに勝てなかったのか?どんなに頑張っても女は女だな。貴様のような奴は男を悦ばすだけの存在なんだよ。俺達と違っておままごとの剣術じゃなぁ~~~、聖女と一緒に楽しませてもらうぞ。」


「き、貴様ぁぁぁ!」


シルヴィアさんがギリギリと歯を鳴らすくらいに怒っているけど、私も同じ気持ちよ。

この国の騎士団は完全に腐っているわね。


「副団長達はフォーゼリアの姫を奴隷にするって言っていたけど、聖女も悪くないな。噂以上の上玉の女なんて、こんなに楽しみな事を出来るなんて騎士団に入って良かったぜ。」


男に合わせて周りの男もゲラゲラと笑っています。



(確定ですね。)



シルヴィアさんがスクッと立ち上がりましたが、全身がプルプルと震えているのが見えます。


「騎士の風上もおけない奴め!この手で・・・」


気持ちは分るけどね。



トン



彼女の胸の中心に掌を添えます。




「浄化!」




「がっ!」


短い悲鳴を上げましたが上手くいったようですね。


「こ、これは?」


シルヴィアさんが自分の手を見て驚いています。

紫色の皮膚が普通の人間の皮膚の色に戻りましたからね。彼女は自分の目で見てはいませんが、額の角も消えていますよ。

邪神の呪いだけを消滅させましたから、魔剣も身体能力も引き継いでいるみたいですね。


「これであなたは自由になりましたよ。それに、こんなクズな男達の血であなたを汚す訳にいきません。」


彼女の前に立ちます。


「し、しかし!これは騎士団の問題ですから、聖女様はお逃げ下さい!いくら強くても正規の訓練を受けた騎士10数人と戦うのはさすがに・・・」


心配そうに私を見ていますが、怒っているのはあなただけではないのですよ。


「よく見ていなさい。あの男達には本当の地獄を見せてあげましょう。」



「はぁ?何をほざいている?聖女だからってチヤホヤされて、自分は強いって勘違いしているんじゃないのか?たかが女のくせに俺達に・・・」


本当にムカムカする連中ですね。

もう一切手加減はしません!



「黙りなさい。そして隙だらけです。」




ドムッ!




「お”!お”お”お”・・・」


こんな男達に使うには勿体ない技だけど、瞬歩を使って一瞬で男の前に移動しました。

連中に時間を無駄にするなんて非常に勿体ないです。

そんな時間がありましたら、少しでも長くレンヤさんと一緒にいたいですよ。


私の腰の捻りを利かせたすくい上げるような蹴り上げた足が、彼の股間に深々と食い込んでいます。


足を下ろすと両手で股間を押さえゆっくりと崩れ落ちます。

うつぶせで腰を浮かせながら口から泡を吹き小刻みに震えていました。

股間からは赤い染みが広がっています。


(確実に潰れましたね。)


そして、過剰な程に回復魔法を流しましたので、アレの神経もズタズタにしておきました。

回復魔法は確かに傷などを癒やす魔法ですが、過剰に魔力を流すと細胞が癌化したり壊死します。何事も程々が大切なんですよね。

目の前に倒れている男は種無しに起たず、股間はもう2度と男としての機能は失いました。



「どう?これが『玉潰し』の真骨頂よ。私を襲おうとしたのだから容赦はしないわ。」



ジロリと残りの男達へと視線を移しました。



「「「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」」



全員が股間を押さえガタガタと震えています。


「ゆ、許して下さいぃいいいいいい!」

「こんなの!いっそ殺された方がマシだよぉおおおおおおおおおお!」

「い、いやだ・・・」

etc


みなさん口々に騒いでいますが、残念ですけど誰一人絶対に許すつもりはありません。

親指を立て首を搔き切る動作をし、最高に凶悪な笑顔で微笑みました。






「「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」






・・・






後日、シルヴィアが語るには


「ソフィア様は絶対に怒らせてはいけません!あの光景は本当に地獄絵図でした・・・、股間を潰された男達が死屍累々と・・・、思い出すだけでも震えが・・・」


しかし、ポッと頬を赤らめた。


「あの時、ソフィア様、いえ、師匠に師事した私の判断は間違っていませんでした。女神様のような完璧な美しさに闘神のごとく誰も寄せ付けない強さ、私の理想の女性です!」


胸に両手を当て更に顔が赤くなった。


「そして、師匠の旦那様でおられるレンヤ様・・・、私もお慕いしております。いつかは師匠と一緒に私もお側に・・・」






「ぶえっくしょん!」


急に背筋が寒くなった気が・・・


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