19話 グレン達の末路②
「ほぉ~、俺が死んだって事でえらく盛り上がっているなぁ~」
グレンが信じられない顔で俺を見ている。
いやぁ~、これは愉快だよ。あのクソ野郎があんぐりと口を開けているしな。アンが言っていた『ざまぁ!』ってこの事か?
俺達はグレン達がギルドに入る前に既にギルドに着いていた。転移の魔法で一気に移動したから移動時間0は本当に楽だよ。
俺とラピスが転移魔法を使えるが、アンは使えなかったので俺の手を握って一緒に転移してきた。本人以外でも、俺に触れているなら一緒に転移出来る。最初は俺に抱きついていたけど、ラピスからクレームが出たので、アンが渋々と俺の手を握ってきたが、普通に握らずに指を絡めてきた。
「せめて恋人繋ぎで・・・」とか言って・・・
どうしてだろう?普通に手を繋ぐよりも恥ずかしい気がする。
その後、ラピスの『インジブル』(姿を消す魔法)で、ギルド内でグレン達が現われるのを待っていた訳だ。
「レンヤさん!」
マナさんが俺を見て大声で叫んだ。
ジッと俺を見つめていたが、ポロポロと大粒の涙が流れ始める。
「レンヤさぁああああああああん!」
もう1度俺の名前を叫んで駆け寄ってくる。
そのままマナさんに抱きしめられた。
「良かった!良かった!無事だったのね・・・、レンヤさんに何かあったら私は・・・」
俺の胸に顔を埋めて大声で泣いている。
(何でだ?こんなにもマナさんに好かれているんだ?)
あっ!
そうか・・・
マナさんは俺を小さい時に亡くなった弟さんと重ねていたんだ。それに無事に帰ってくると約束していたし、マナさんはそれを信じて待っていてくれたのか・・・
「マナさん、心配させてすまない・・・」
「良いのよ、レンヤさんが無事に帰って来てくれれば・・・」
そう言って微笑み、うっとりした表情で再び俺の胸に顔を埋めている。
「はぁ~、いつの間に現地妻を作っているのよ。レンヤも隅に置けないわねぇ~」
振り返るとラピスがニタニタと笑っている。
アンはというと・・・
「レンヤさん、私という者がいながら・・・」
おい!アンよ、落ち着け!全身からドス黒いオーラが出ているぞ!頼むから落ち着いてくれぇええええええええええええええ!
今のアンは人族の姿に変化しているけど、この殺気は尋常じゃない!確実に人を殺せる殺気だ!頼む!抑えてくれ!
今度はマナさんの視線が鋭くなって、アンとラピスを交互に見ている。
そして、ゾッとするような視線で俺を見て口を開いた。
「レンヤさん、あの2人は誰?いつの間に一緒になったの?」
(マナさん、怖い!何で俺がマナさんに睨まれなくてはならないんだ!)
アンが俺の手をグッと引き、マナさんから俺を引き離した。
そして腕を絡めてニコッと微笑む。
「初めまして、私はレンヤさんの『婚約者』のアンジェリカと申します。」
(おい、何かデジャブを感じるぞ・・・)
ラピスがアンとは反対の腕を組んでマナさんに微笑んだ。
「私はラピスよ。アンと同じくレンヤの『婚約者』ね。」
ガーン!とした感じでマナさんが硬直してしまった。
何か真っ白に燃え尽きてしまったようにも見えるが・・・
マナさん!本当にどうしたのだ?俺が帰ってきてから変だよ。
ざわざわと周りが一気に騒がしくなった。
いきなり俺が登場したから驚きで静かになっていたと思うが、アンとラピスの登場で男どもが一斉に注目をしたみたいだ。
「何だ、あれは?とんでもない美人じゃないか!」
「マナさんは俺達の女神だったけど、あの子達はまさに天使だ!本物の天使が舞い降りたのか?」
「俺は銀髪の子が好みかな?それに巨乳だぞ。揉んでみたい・・・」
「いや、俺はあの青い髪のエルフが好みだな。あのスラッとした体、堪らない・・・」
「何を言っている。俺はマナさん一筋だ!あの大人の色気は2人よりも遙かに上だ。ママって甘えたい・・・」
(おいおい、お前等、変態か?まぁ、アンとラピスが揃えば、こんな男だらけの場所じゃ大騒ぎになるのは間違いないか・・・)
「おい、あの男、金髪だったのが黒髪に変わっているけど無能じゃないか?」
「あぁ、間違いない。何で無能があんな美人を侍らせているんだ?どう考えてもおかしいぞ。」
「無能が・・・、信じられない・・・」
「しかも婚約者って言っていたよな?俺の耳がおかしいのか?」
「何で無能ばかりモテるんだ!」
「あぁ・・・、俺のマナさんがぁぁぁ・・・」
「もげろ!」
(無能、無能って・・・、まぁ、今までの俺の評価がそうだったからな。だけど、最後のもげろ!って・・・)
「レンヤ・・・」
「レンヤさん・・・」
2人が心配そうに俺を見ている。
「そうさ、ギルドでの俺の評価はこんなものだからな。だけど、こんなのは今日で終わりだ・・・」
俺が現われた事で呆気に取られていたグレンが我に返ったようだ。
「無能・・・、生きていたのか・・・、どうしてだ?」
しかし、他の連中と違いとても忌々しそうに俺を見ている。そうだろうな、死んだと思っていた相手が元気な姿で目の前にいるんだ。殺したと思った相手がな!
「どうした?俺がここにいるのがそんなに不思議か?どうも確実に俺が死んだって事で話が進んでいた気がしたけど?」
リズが金切り声を出して叫んでいる。
「無能!何でアンタがここにいるのよ!デスケルベロスの前で動けなかったはずでしょう?」
ニヤッと俺は笑った。可笑しくてたまらない。
「そうだな、誰かのおかげで酷い目に遭ったよ。だけどちょっと効果が弱かったかもな?」
「何言っているのよ!私のパラライズは完璧だったわ!指1本動かせなかったはずよ!何で餌になら・・・」
「はっ!」
リズが顔面蒼白になって俺を見ている。
感情がすぐに表に出る奴だから、思わず本当の事を口走ってしまったな。
思いがけない自爆だったけど、さて、どうする?
「おい、聞いたか?あの魔法使い、無能を麻痺させてデスケルベロスの餌にしたって・・・」
「うわぁ~、恐ろしい事するなぁ~、そうやって無能を使って自分達だけ逃げてきたってか?」
「噂は本当だったんだ・・・」
「あぁ、黒の暴竜と組んだ奴の死亡率が高いってのは、あいつらに殺されていたんじゃないか?」
「あり得るな、見舞金を懐に入れようとしていたし、完全に犯罪だぞ・・・」
「おい、お前等!何を言っている!」
グレンが野次馬の冒険者達に怒鳴っている。
そして俺を見てニタニタ笑っている。
「無能、いや、レンヤ、よく生きて帰ってきたな、心配したぞ。さすが俺が目を付けた奴だけある。お前は凄い奴だったんだな。」
(おい、ここまでよくも白々しい嘘を吐けるな。誰が聞いても嘘と分かるだろうが。)
「がははは、お前の実力なら黒の暴竜に入れても良いぞ。もちろん、その女達も一緒にな。」
そう言って、アンとラピスを舐めるように見てくる。正直、こいつの目をくり抜きたくなった。
案の定、アンもラピスもゴミを見るような目でグレンを見ている。
「品位の欠片もない男ね。気持ち悪いから見ないでちょうだい。吐き気がするわ。」
「はぁ~、こんな男の視線は昔から変わらないわね。レンヤ、助けて・・・、えへ!」
そう言って、2人がギュッと俺に抱きつく力が強くなった。
「そういう事だ。俺はもうお前達には関わりたくないし、2度と話しかけないでくれ。」
グレンの顔が真っ赤になってくる。
「無能が・・・、俺様に生意気な口を叩きやがってぇぇぇ・・・、無能は無能らしく這いつくばっていればいいんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!女は俺がたっぷりと可愛がってやる!痛い目に遭いたくなければ、女2人を置いて黙って出ていけぇええええええええええ!」
怒鳴り声を上げながら俺に殴りかかった。
(おいおい、痛い目に遭いたくなければなんだろ?先に痛い目に遭わせようとして何を考えている。やっぱり頭が悪いな。)
しかし、アンとラピスが俺の腕を抱いている。両腕が塞がっているからどうしよう?
そう思った瞬間に、2人がパッと離れ後ろに下がった。
(すげぇ~素早いな。2人に比べればグレンの動きなんて遅過ぎる。)
パシッ!
グレンの拳を片手で受け止め、そのままグッと握った。
「何!無能がどうして!」
驚きの表情で俺を見ている。
「どうした?そんなに驚く事だったか?」
グレンの拳を握った手に少し力を入れると、グレンの表情が苦悶の表情に変わった。
「どうした?もしかして痛いのか?俺はそんなに力を入れていないけど・・・、Aランクの実力ってFランクの俺に劣るのかな?」
今度は俺がニヤニヤと笑ってあげる。
「こ、この無能が・・・、何があった・・・」
「別に、大した事はないさ。ほんのちょっとだけ強くなっただけさ。驚くほどでもないだろう?」
「くっ!ビクともしない!無能!お前は何者だ!」
メキョ!
「うぎゃぁああああああああああああ!」
グレンが俺の握っていた拳を握りしめ絶叫してしまった。
「すまん、ちょっと力加減を間違えた。悪いな、拳を潰してしまって・・・」
「無能・・・、お前は・・・」
大量の冷や汗をかきながら俺を睨みつけている。
「そういえば、ここを出る前にお前に殴られたよな。それに、魔王城までの道中や魔王城の中でも、どれだけお前に殴られたり蹴られたか・・・」
ニヤッと笑う。
「お別れの挨拶だ、まとめて返しておくぞ。」
「ひっ!ひぃいいいいいいいいいいいいい!や、止めてくれぇええええええええ!」
ドキャッ!
「ぶひゃぁああああああああああああああ!」
俺の右ストレートがグレンの顔面に炸裂した。
汚い悲鳴を上げて吹っ飛んでいき、壁に激突して気絶してしまった。
(ふぅ、スッキリ!)
気絶したグレンの周りに人が集まった。
「おい、見たか?グレンが水平に吹っ飛んでいったぞ。どんなパワーなんだ・・・」
「うわぁ~、ひでぇ~、右拳が潰れてるし、顔面も陥没してるぞ!」
「ギリギリ生きているのか?」
「あの無能が・・・、一体・・・」
「魔王城に行ったからか?まさか魔王になったのか?」
「あの女達はあいつに従わされているのか?」
「俺もお仕置きされたい・・・出来ればマナさんに・・・」
(おい!ここに変態がいるぞ!)
ゆっくりと気絶したグレンに近づくと、野次馬の冒険者達がサッと俺の前から退いてくれた、どいつもビビった顔で俺を見ていた。グレンの前に立ち掌をかざす。
「ヒール!」
グレンの潰れた拳も、陥没した顔面も元に戻った。
「どうなっている!無能が回復魔法だと!」
「信じられん・・・」
「アイツは本当に無能なのか?」
「おい!無能!何て事をするんだ!」
ギルドマスターが真っ赤な顔で怒鳴っていた。
「別に、お返ししただけですよ、何か?」
「ギルド内での暴力はご法度だ!それを分かっているのか!」
(おいおい、前もそうだし、グレンが暴力を振るう分には見て見ぬフリかい・・・、ホント、このギルドマスターは腐ってるな。)
「いえ、先に暴力を振るってきたのはアイツの方ですからね。俺の方は正当防衛が成り立ちますよ。それに、怪我はちゃんと治しましたから問題は無いでしょう。」
しかし、ギルドマスターが更に真っ赤になって怒鳴ってくる。
「無能が私に口ごたえするなんて生意気だ!私はここで1番の立場の人間だぞ。私に逆らえばお前の資格をはく奪する事も簡単だからな。ここを出ても無駄だぞ。どのギルドでも活動出来ないようにしてやる!」
「どうぞ、ご自由に。好きにしても構いませんよ。困るのはあなたでしょうけどね。」
「とことん生意気な奴だ!貴様は永久追放だ!さっさとここから出ていけぇえええええええええええ!」
余りにもバカ過ぎて思わず笑ってしまう。
「その前に1つ面白いものを見せてやるよ。」
俺とギルドマスターのやり取りでオロオロしていたマナさんの前に立った。
「マナさん、悪いけど、もう1度俺のステータスを鑑定してくれないかな?半年前は外れ称号だったけど、今は面白い物を見させてあげられるからな。」
「えぇ・・・」
マナさんがコクコクと頷いて、自分の机まで戻りステータスプレートを持ってきてくれた。
ラピスが面白そうにそのステータスプレートを覗き込んでいる。
「懐かしいわね。コレって実は私が作ったのよ。500年以上経っても問題なく稼働しているなんて、我ながら良い仕事をしたと思っているわ。」
「へぇ~、コレってラピスが作ったんだ。知らなかったよ。」
「まぁ、レンヤが知らないのも仕方ないわね。さぁ、鑑定してもらいましょう。」
またギルドマスターが怒鳴りだした。
「おい!お前達、私を無視して何をしている!すぐに出て行け!」
ラピスがマナさんに語りかける。
「放っておきなさい。吠えられるのも今のうちだからね。もうしばらくするとどうなるか・・・、ふふふ・・・、楽しみね。」
ステータスプレートに手を乗せた。
しばらくするとプレートが輝いたが、すぐに光が消えた。
表面に文字が浮かび上がる。
その文字を読んだマナさんがそのまま硬直してしまった。
「そ、そんな!信じられない・・・、まさか、この目で見られるなんて・・・」
しばらく沈黙が続いたが、ゆっくりと顔を上げ俺を見つめる。
「レンヤさん、あなたは【勇者】だったのですね・・・」