189話 裏切りの騎士団②
3日後
とうとう騎士団の出陣式の日が来てしまった。
俺達は国王様が用意してくれたホテルに泊まっている。
さすがは国御用達のホテルだ。この国で1番のホテルに間違いないだろう。
そのスイートルームに泊まらせてもらっているんだよね。
(こんなに贅沢させてもらってもねぇ・・・)
だけど、「あなた方には一生をかけても返せない恩をいただきました。少しでもお返し出来れば・・・」と言われてしまっては俺達も何も言えないよ。
黙って厚意に甘えさせてもらった。
そして、とうとうこの日が来てしまったのだよな。
俺達はホテルを出てソフィアだけが王城へと行く事になっている。もうしばらくすれば迎えの兵が来るだろう。
そんなソフィアが俺達の前に立っていた。
「レンヤさん、私は王城内で警戒しているわ。多分だけど、私に対しても何かしらの行動があるでしょうね。」
「そうだろうな。まぁ、ソフィアなら何があっても問題ないだろうけど、気を抜くなよ。」
「分かっているわよ。」
ソフィアがギュッと抱き着き頬に軽くキスをする。
「レンヤさんも無理しないでね。」
「もちろんだ。」
そうしばらくしないうちに豪華な馬車がホテルの前に止まった。
(ん?1台だけではないぞ。)
この国の紋章が入っている馬車は1台だけだったが、もう1台、紋章の無い馬車も止まっていた。
各々の馬車から女性が降りてくる。
豪華な馬車から降りた女性がソフィアの前に立ち頭を下げた。
「聖女様、どうぞこちらの馬車にお乗り下さい。」
そしてソフィアは馬車に乗り込み王城の方へと行ってしまった。
そして、俺達はというと・・・
「王道の展開だよな。」
一緒にいたラピスもシャルも苦笑いをしている。
まぁ、王城には俺達4人しか城に行っていないので、アン達は別のところで待機してもらっているんだよな。
もちろん、この事を知っているのは国王様達だけだ。
そして、クーデターの事は国王様達には話していない。
俺達はローズのおかげでこの情報を手に入れる事が出来たが、簡単に国王様に伝える事は出来なかった。
伝えてしまえば必ず国王様は対策を行うだろう。それでは相手に警戒させてしまう事になってしまう。
不穏分子を一掃させる為にも、あえてこの知らないフリに決め込んだ。
(まぁ、あのお方のお願いもあったからな。)
この国の双子の認識も正してもらう為にも必要な事だと言われたし、あの方達なら万が一もないだろう。
(マーガレット、頑張れよ。)
あからさまな誘いの馬車に乗り込んで動き出したが、最初から城とは反対方向に動き出した。敢えて黙って何も言わずにいると、しばらくして街外れの森の中で馬車が止まった。窓から外を見るとザっと20人以上の騎士達に囲まれている。
俺達と一緒にいた女性は事情を知らなかったのか、馬車の中で真っ青な顔でガタガタと震えているよ。
いくら俺達が勇者パーティーだろうが、正式な訓練を受けている騎士達20人以上の前にはどうしようもないと思っているのだろうな。
「レンヤさん、私が黙らせておくわ。」
馬車の席からシャルが立ち上がった。
「単なるお飾りの姫と思われているみたいだしね。最近のお姫様は危険人物だと分からせてあげますよ。」
「シャ、シャルロット様・・・、だ、ダメです。私が犠牲になりますので、お逃げになって下さい。私のような女性でも時間稼ぎくらいは・・・、何としても国王様に・・・、騎士団が裏切ったとお伝え下さい。」
お付の女性がガタガタしながらもドアを開けて外に出ようとする。
多分この女性は騎士のようだな。
本来は俺達の護衛なんだろうが、こうして騎士団の連中が俺達を襲う事は想像もしていなかったのだろう。
もしかして、俺達と一緒に厄介払いされのかもしれない。
「大丈夫ですよ。」
シャルがニコッと微笑む。
「し、しかし・・・」
「普通の人間の騎士がたかだか20人くらいですからね。たったこれだけの人数では準備運動にもなりませんよ。」
再びシャルが微笑むと女性の顔が真っ赤になってしまった。
そのままうっとりとした顔でシャルを見つめている。
「私が真にお仕えするお方を見つけた・・・」
シャルが馬車のドアを開けると優雅に地面に降り立った。
あまりにも堂々とした態度なので、周りを囲っていた騎士達の方に動揺が走るのが分かった。
「さて・・・、みなさま・・・」
ぐるりとシャルが周囲を見渡す。
「コレは一体どういう事なのでしょう?詳しく教えてもらえませんか?」
「ぐひゃひゃひゃあははは!」
下品な笑いが響くと、騎士達の1人がズイっと前に出てくる。
「お姫様って何も分かってないお花畑な頭なんだなぁ~~~、これからどうなるか・・・」
ニヤニヤと笑いながらペロリと下品に舌なめずりをいている。
(うわぁぁぁ~~~、あれは間違い無い、死刑確定だな。)
そう思ってラピスを見ると、ラピスもそう思ったのか、すっごい怖い目で男達を睨んでいる。
「ば、馬鹿な!なぜロベルト様がここに?」
女性が鋭い目で騎士達を見ていた。
「お姉さん、何か知っているようね。まぁ、あなたも騎士なんでしょうが、想定外の事なのかしら?」
ラピスがニヤニヤした顔で女性を見ているよ。
「も、申し訳ありません!私は騎士団見習いのマーベルと申します。ロベルト様は我が国の騎士団の副団長です。どうしてここにいて、こうなったのか見当もつかず・・・」
(やっぱり騎士だったのか。)
でも、見習いなんてな。
「まぁ、あなたが見習いなら仕方ないわね。どうやらあなたも一緒に厄介払いされたようね。」
「そ、そんな・・・」
またもやマーベルと名乗った女性がガタガタと震えている。
「ここまで堂々としているなら、王城もヤバいわ。レンヤ、どうする?」
そう言われてもなぁ・・・
「俺達の出番ってあるのか?あのお方達が見守っているんだぞ。ロキの計画が無残に台無しになるところを見ていようじゃないか。」
「そうね、シャルだけは応援に向かわせましょう。フォーゼリアの王女がどんな存在なのか・・・、たかが魔人ごときが私達に楯突く無謀さを理解させてあげましょうね。」
ラピスがニタァ~と笑った。
(おいおい、段々と悪役キャラが板に付いている気がするぞ。)
「あ、あのぉぉぉ、こんなに落ち着いていますけど、大丈夫なんですか?」
マーベルさんがオドオドしながら話しかけているよ。
「大丈夫というかぁぁぁ~~~~~」
ラピスがこめかみに指を当てている。
「あなた、ここから先は覚悟して見た方が良いかもね。誰に手を出したか?あれだけ怒っているシャルは初めて見たわ。ご愁傷様ね。」
俺も今のシャルの状態は分る。
こまで殺気を放っているなんて初めてだ。
まぁ、あんなゲスな目で見られているんだ。気分は最悪だろう。
本気のシャルの相手をするんだ、冥福を祈る・・・
「私達をどうするのですか?」
鋭い目でシャルが男達を睨んでいる。
「決まっているだろうが、俺達全員の相手をしてもらうのさ。性奴隷となってなぁあああああああ!」
男達がニタニタと笑っている。
「勇者は男だから死んでもらう、俺達の相手には必要無いからな。うひゃははははぁあああああ!世界一の美姫と呼ばれる貴様!それにそこにいるエルフの女!俺はなぁ、最初に見た時から俺の女にしたいと思っていたんだよ。俺達のオモチャとしてなぁああああああああああああああああああ!」
「本当にゲスね・・・」
うわぁ~~~、シャルの周りの温度がどんどんと下がっているぞ。
マジで本気で怒っている。
(命知らずにも程があるぞ。もう知らないからな。)
「その高慢な顔がどれだけメスの顔になるか、想像するだけでも堪らん!げへへへ・・・、貴様はたかが王女の地位だけの何も出来ない女、俺達男に尻を振って奉仕するんだよ!それに勇者がいようが俺達精鋭がこれだけいるんだぞ、どう足掻いても俺達に勝てる要素は無いんだ!無駄な抵抗は止めて素直に俺達の相手をするんだな。おれが真っ先に貴様を女にしてやるぞ。そうすれば少しは長生き出来るかもな。まぁ、その時はもう頭はおかしくなってアレしか考えられ・・・」
「それが遺言ですね・・・」
バチッ!
「ぐあっ!」
副団長の男が急に声を上げた。
いきなりうつ伏せになって倒れ込んだ。
「な、何が起きた?急に体に力が入らなくなって・・・」
少しの沈黙の後、シャルが口を開いた。
「スタンボルトで体を麻痺させました。あなたは少し黙ってもらいますね。」
シャルがとても冷めた目で男達を見渡している。
「これがラピス様がかつて経験した男のゲスな視線と態度なのね。こんなのが続けば男性不信になるのも当然よ。男は全て滅んでも良いと思いますよ。レンヤさんは例外ですけどね。」
スッと右手を頭上に掲げた。
「私はこの国の者ではないから、本来は手を出せないはずなの。いくら王族でも外交問題に発展するから・・・、だけど、例外もあるのよ。」
「一級不敬罪って言葉は知っています?」
ニヤリとシャルが微笑む。
「他国に赴いた際に現地の国の人に不当な扱いを受けた場合はね・・・、今のように貞操や命の危機に陥った場合は、他国の人であっても自国と同様に不敬罪が適用されるのよ。この法律は全ての国に共通しているし、裁判も必要無し。その場の判断で死罪も含め全ての裁量を私達が下せるのよ。証拠、そんなのも必要無いわ。だって、誰一人ここから生きて返さないからね。」
絶対零度の殺気が放たれる。
ザワッ!
シャルが一歩踏み出すと男達が後ずさる。
あまりの殺気にガタガタと震えている者までいた。
「お、おい・・・、こんなの聞いていないぞ・・」
「副団長があっという間に・・・」
「生きて返さないって?俺達どうなるんだ?」
「あのフォーゼリアの姫とヤれるって聞いたのに、どうして・・・」
狼狽えている連中の中から、勢いよく数人が飛び出す。
「そんなこけおどしにぃいいいいいいいいいいいいい!」
「お飾りの姫に何が出来る!」
「さっさと縛り上げるぞぉおおおおおおおおお!」
(アホだな・・・)
それ以前に、お前らは人間としても終わっている。俺でもこいつらは皆殺しだ!
(やはり例のアレの副作用なのか?)
ボン!
「「「あ”!」」」
飛び出した男達が間抜けな声を出して硬直している。
その腹には大きな穴が開いていた。
シャルのプラズマボールを受けたようだ。
あまりの高温で受けた部分が炭化し血管が塞がってしまうので血も出ない。
だけど、あれだけの大きな穴がどてっ腹に開いてしまってはなぁ・・・
ゆっくりと崩れ落ちピクピクと震えていたが、すぐに動かなくなった。
いくら傷口が炭化して最初は出血していなかったとしても、ピクピクと動いていたせいかすぐに血が大量に溢れ地面を濡らしている。
ほぼ即死だろう。
「そ、そんな・・・、何も見えなかった・・・」
マーベルさんがまたもやガタガタと震えている。
見習いの身分の彼女では目の前の光景は刺激が強過ぎたかもしれん。
「シャルは王女だと思って舐めるとああなるのよ。お分かり?」
ラピスがマーベルさんに向けてウインクをする。
「まだまだ序の口よ。あんたの国の騎士団が誰に喧嘩を売ったか?身をもって知る事になるでしょうね。もちろん、その命が授業料だけど・・・、ご愁傷様ね。」




