188話 裏切りの騎士団①
マーガレット達がナルルースさんの転移魔法で移動した後、俺達はまだ部屋に残っていた。
ローズからの報告を待っている。
だけど、その前に・・・
「マリアさん、悪いけど席を外して欲しいの。戻っても国王様達は朝まで帰ってこないから、あなたはそれまで自分の部屋でゆっくりしていいからね。」
シャルがマリアさんにそう話すと、彼女はギョッとした顔になった。
「い、いつの間に・・・」
「ふふふ・・・、それは秘密ね。でも、みなさんにとって悪い事じゃないし、今夜くらいは家族全員が水入らずも悪くないでしょう?マーガレットちゃんは本来はここにいたらマズいからね。」
「確かにそうですが・・・」
「そういう事よ。こうして私達も間に入ったし、今後のアフターサービスも併せて打ち合わせしなければならないの。あなたならその意味も分かるわね?」
ラピスがにこやかに笑っている。
しかし、マリアさんは引きつっていたけどな。
「それでは、私もお言葉に甘えます。どうか、みなさまのお力で彼女、ジョセフィーヌ様を助けて下さい。あの日から、彼女はずっと子供を捨てた罪悪感で苦しんでいました。そんな彼女の姿を見るのはもう・・・」
「もちろんよ、だから安心して。これからは気兼ねなく会えるようにしておくわ。」
「ほ、本当にですか?」
「もちろんよ。私は出来ない約束はしないの。」
「ありがとうございます!ジョセフィーヌ様達をよろしくお願いいたします!」
そう言ってマリアさんが部屋から出て行った。
「ついでにこの国の膿も一緒に出しておくから安心して。」
ラピスが呟きニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「ローズマリー姉様、どうでした?」
シャルがみんなの後ろに立っているローズに声をかけるとニヤリと笑う。
この笑顔は確実に悪い笑顔だよな。
どうやらみんなの危惧していた事が当たっていたようだ。
「ビンゴだったわ。この国は完全に真っ黒だったわよ。まぁ、一部のバカのおかげでね。」
「やっぱり魔王と内通していたのね・・・、ふふふ・・・、どうやって潰そうか?」
ラピスもローズの殺気よりも悪いオーラを出してニヤリと笑った。
「マウス隊!」
ローズが叫ぶと部屋の隅で黒い影が蠢く。
チューチュー
大量のネズミの鳴き声が聞こえる。
その黒い影は・・・
何十匹ものネズミの集団だった。
「普通のティマーって、最大でも2、3匹の同時操作しか出来ないのよ。それをこんな数をねぇ・・・」
ラピスが呆れた顔でネズミの大軍を見ている。
キーキー
窓の外には数十匹のコウモリが飛んでいる。
今は夜だからコウモリだけど、日中は小鳥などを使役しているんだよな。
「ねぇローズマリー、あなたのティムってどれだけの同時操作が出来るの?これだけの数に襲いかかられてしまうと思うと、さすがの私もヤバいと感じるわね。」
あまりの数にラピスがブルっと震える。シャルもそんな感じだ。
ソフィアだけは・・・
普通に椅子に座っているし、ネズミの大軍を見て『可愛い!』って喜んでいるよ。
この点に関しては、俺達の感性とちょっと違っているな。
「う~ん・・・、実際に限界まで試した事はないけど、今の数以上にはティムは可能ね。そもそも私がこの力に目覚めたのはレンヤさん、あなたに抱かれてからよ。アンもマナもそうだけど、規格外の力に目覚めるとはね、私達の眠っていた力を限界を超えて解放してくれる。ふふふ・・・、やっぱりあなたは最高ね。」
ローズが流し目で俺を誘っている。
しかもだ!まるでご馳走を見つけた猛獣のようにペロッと舌なめずりをしている!
今にも「いただきます!」と言って襲いかかりそうな雰囲気だよ!
マズい!話が脱線し始めている気がする。
「はいはい、話を元に戻すわよ。」
ソフィアが冷静に場を収めてくれる。
(助かったぁぁぁ~~~)
「この城内の事ならマウス達が常に目を光らせていたからね。今からこの子達が見た光景を私の記憶としてみんなに見せるわ。」
ローズからの記憶が念話を通じて俺達の頭に中に流れ込んでくる。
ホント、ローズにかかれば隠し事は出来ないだろうな。
今回はネズミ達だったが、生き物なら基本的にどんなものでもティムが出来るみたいだ。
誰にも気付かれず、全ての秘密を知る事が可能・・・
今の俺達は単なる力だけで戦う訳にいかない、そんな時代は終わったと思う。
確かに力技が必要な時もあるだろう。
だが、かつての俺のような猪みたいに突撃ばかりな事をする訳にいかない。
出来る限り犠牲を少なくする方法を考える。
そんな戦い方をしていかなくてな。
まぁ、最後には俺達の武力が決め手となるだろうが、それまでの過程が大切だと今の人生で気付いた。
伊達に3年間も苦労していなかったからな。
頭の中に映像が浮かぶ。
「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガシャァアアアアアアアアアアアン!
先程の騎士団長が部屋の中で忌々し気にテーブルを足蹴にしひっくり返す。
上に乗っていたコップや皿が床に散らばり粉々に砕けた。
「何なのだ?あいつらはぁあああ!」
「ふふふ・・・、そう苛立っては・・・」
荒ぶる男とは対照的に、その男は冷静にソファーに座って薄ら笑いを浮かべていた。
「あいつらはこの私をコケにしたのだぞ!たかが女がだ!あのような屈辱を・・・」
「ほほぉぉぉ・・・、勇者以外にもあなた様に匹敵する人がいましたか?しかも女で?それは面白いですな。」
「バカにするな!この国最強の私が!女なんぞに!」
「さすがは勇者パーティーの面々ですな。私の予想を超える存在とはね。だが・・・」
その男がニヤリと笑う。
「それで大丈夫なのか?私がこの国の王になるのは?」
「もちろんですよ。私の計画に間違いはありません。先日、あなた様に施した処置で人外の存在になれるのですよ。あなたは神になれるのです!変化が馴染むまで少しだけ時間がかかりますが、もうしばらくすれば、勇者など足元にも及ばないくらいの存在になれのるですからね。あの魔王以上の存在にね・・・、こんなちっぽけな国の王でなく、この世界の覇者に・・・」
「ふふふ・・・、そうか・・・、私がこの世界の覇者にな・・・、そうだ!私は選ばれた人間なのだよ!愚民共が私にひざまづく、それが当然なのだよ!早く例の計画を実行にな!勇者が来て少し焦ったが、問題はないだろうな?」
「もちろんです。勇者といえたかが人間、私の計画の前にはちっぽけな存在にしかなりません。虫けらは虫けららしく無様に踏み潰されるでしょう。我らが神である主の力の前に無様にね、ふふふ・・・」
チュウ、チュウ・・・
「何だ?」
部屋の隅にネズミが数匹いたが、男の視線に気付くとサッと散らばり姿を消してしまった。
そしてすぐに騎士団長へと視線を戻し、再びニヤリと笑い、騎士団長の彼に聞こえない声で呟いた。
「ネズミか・・・、このような汚い部屋では仕方ないな・・・、まぁ、無能には無能なりの使い方がある。精々ロキ様のお役に立てるよう頑張る事だな。ただ、これだけ無能ならすぐに捨てられるだろうが・・・、それはそれで面白いがな。」
「「「「はぁ~~~~~」」」」
ローズ以外の俺達全員がため息をしてしまった。
「とっても分りやすい連中ね。」
ラピスが再びため息を吐いた。
「あの接見の間での態度でピンと来たけど、もうかなりヤバい状態ね。いつクーデターが起きても不思議じゃないわ。」
ソフィアがこめかみを押さえている。
「フードの男が魔族、いえ、感じからしてロキって魔神に改造された魔人かもしれませんね。そして、この国の騎士団長も魔人に改造されているのに間違いないわね。」
シャルがジッと俺を見つめる。
「そうだな、この感じだとあの騎士団長が魔人化するには数日って感じか?だけどな、クーデターなら俺達に汚名を被せるのは意味があるのか?それか、このクーデターを利用して、俺達がこの国に甚大な被害を出させるように仕向けるって事か?」
「多分、その方向でしょうね。」
ラピスが頷いた。
「この国の騎士団を捨て駒にするのは間違いないでしょう。騎士団と私達に汚名を被せて、何食わぬ顔で高みの見物でしょうね。そして帝国に呑み込むんで領土とする。残った人間は奴隷にする。それが、やつらのやり方よ・・」
「ちょっと待って!」
ソフィアが手を上げた。
「ねぇ、騎士団が絡んでいるのよね?そうなると、騎士団の上位の人は殆どがこの王城に残っているわ。数日後に辺境への騎士団の出陣式を行う話よね。私にはその時に騎士団に祝福をして欲しいと頼まれているのよ。その時に最強の護衛達が一斉に国に反旗を翻すって事?」
「そういう事よ。」
ローズがニヤリと笑う。
「マウス達に調べてもらったけど、腐っているのは騎士団だけじゃないわ。貴族の何人かもあのフードの男に甘い話を囁かれてその気になっているしね。その時に薬を渡されていたし、あの薬はマウス達にとってもヤバいと危険を感じたくらいよ。」
「あのフードの男は?」
「う~ん・・・、詳しい事はマウス達でも追及は出来なかったわ。名前だけは分かったけど、ジョニーって名前ね。あの薬が魔人化する薬じゃないかって思うの。」
魔神のロキが黒幕に間違いはないだろうが、そのロキの名前がほとんど出てきていない。代わりにこのフードの男ジョニーが暗躍しているみたいだな。
ロキはあのヴリトラのように自分で前線に出てくるタイプではないだろう。
(こそこそしているタイプが一番厄介なんだよな。)
「それに騎士団の件だけど、3日後に帝国との小競り合いをしている国境への出陣式をする予定になっていたわ。そこで騎士団と同行する貴族連中も一緒に国王の前で宣誓する式のようね。」
(うわぁぁぁぁぁぁぁ)
「クーデターを起こすって、もろこのタイミングじゃないの?分かりやすいにも程があるわよ。」
ソフィアが呆れたように手をおでこに当てている。
「私達は相手の事情をほとんど知っているから簡単に分かるけど、知らない人達にすれば、ずっと信頼していた人に裏切られるのです。国王様達に同情してしまいますね。」
シャルが胸に手を当て切なそうな顔をしている。
確かにシャルの言う通りだ。
俺達はローズのお陰で普通では決して手に入れる事が出来ない情報を掴んでいる。
しかも、相手はまだ情報が洩れているとは思っていないだろう。
だからといって・・・
この国の人間ではない俺達がそう簡単に手を出せるものではない。
いくら今回の事で国王様達と繋がりが出来たとしても、相手のお国の事情にホイホイと手を出すものではないだろう。
魔王が絡んでると分っていても証拠が無いし、こちらから先手を打って騎士団に手を出す訳にいかないしな。
そんな事をすればシャルがいるから、下手すれば俺達の事は『内政干渉』とか言われ、奴らの攻撃の正当化の材料にされるかもしれない。
あくまでも俺達が出来るのは『内々に』なんだよな。
(それが一番の問題だ。)
ローズの調査でもどのような方法でクーデターを起こすか分っていない。
あと3日後なら、奴等も手段の打ち合わせも終わっているだろうしな。
せめてどんな行動を起こすのか分れば・・・
「今のところは警戒するしかないわね。幸い、ソフィアのおかげで私達もその日までこの国に堂々といられるしね。」
ラピスがグルッと俺達を見渡した。
「ローズマリーは引き続き奴等の監視を頼むわ。私達はソフィア以外は出陣式に出られないだろうし、常に不測の事態に備えるしかないわね。」
『少し待って下さい。』
(誰だ?)
いや!この声は俺の頭の中に直接響いた。
だが、俺以外にも全員が聞こえていたみたいだ。
キョロキョロとみんなが周りを見渡す。
しかし、誰もいない・・・
突然、俺達の目の前の空間が急に明るくなった。
(何が起きた?)




