186話 7年ぶりの家族の団欒②
頭を上げると、目の前にいる女神様の姿が薄くなり消えてしまいました。
これは絶対に私の幻覚ではありません!
女神様はマーガレットをずっと見守っていてくれたのですね。
次は私達がマーガレットを守ります。
(必ず!)
「フィー、どうしたのだ?突然誰もいない場所に頭を下げていたが・・・」
テオが心配そうに私を見ています。
そんなテオに私は微笑みました。
「大丈夫よあなた、どうしてなのか急にお礼がしたくなったのよ。」
そう言ってから3人を抱きしめました。
ずっと夢見ていた4人一緒に抱き合う事。
双子だからだと我が子が引き裂かれてしまった過去。
(もう離ればなれになりたくない!)
そんな思いはありますが・・・
ジッとマーガレットを見つめます。
(マーガレットはどうしたいの?)
マーガレットは私達と一緒にいたいの?
エレノアの名前を戻して?
それとも・・・
「お母さん、どうしたの?」
マーガレットが心配そうに私の顔を覗き込んでいました。
いけない、今の私の心を察知されてしまったかも?
「大丈夫よ。何にもないからね。」
そう微笑みましたが、少し不安です。
「そっかぁぁぁ・・・」
(ん?)
マーガレットが何か考え込んでいます。
そして、急に何かを思いついたのか、ポンと手を叩きました。
「ねぇねぇお母さん、ここにはね、とっても美味しい飲み物があるんだよ。」
本当に美味しいのでしょう、マーガレットの顔がキラキラと輝いてとても嬉しそうです。
「そうなの?」
「そうだよ、ねっ!マイお姉ちゃん!」
マイさんが頷き微笑みました。
「本当は夜はダメですけど、今夜は特別ですよ。寝る前にちゃんと歯磨きをして下さいね。」
「もちろんだよ!やったぁああああああああああああ!」
ふふふ・・・、とても嬉しそうですね。
(ありがとう・・・)
私に気を遣ってくれたのですね。
思いやりの気持ちもしっかり備えているなんて、この子は本当に・・・
マーガレットは嬉しそうにブランシュの手を握り一緒に並んでソファーに座りました。
「ここに置いてある飲み物はね、シャルロットお姉ちゃんでもお城では飲んだ事の無い飲み物ばかりだったと言っていたんだ。どれも美味しいし、ブランシュもビックリするよ。」
「そうなんですか?」
美味しいって言葉にブランシュも嬉しそうですね。
普段の王女としての振る舞いはここでは必要ありません。思いっきり女の子らしく伸び伸びとしてもらいたいです。
「フィー、私達もゆっくりしようじゃないか。」
テオが私の手を握りソファーへ座らせてくれました。
(はい?)
何でしょう、この異次元ともいえる心地良さは・・・
深く体が沈むのに柔らか過ぎず、下半身を包み込むような心地良さです。
背中もとても楽にもたれかかれます。
(何て極楽なソファーなんでしょう。)
こんなのって・・・
「ふふふ・・・、とても気に入ったようですね。」
マイさんがニコニコしながら私を見つめています。
「えぇ・・・、こんなソファーがあったなんて、今までのソファーって何?と言いたいですね。」
「みなさん、そう仰いますよ。ご希望でしたらお土産にレプリカ品をお渡しも出来ますよ。我が国の貴族には褒賞として最も喜ばれているのです。このソファーだけでなく、ベッドもありますので、今夜じっくりとお休みになってお決めになってよろしいですからね。」
何と!ベッドまで・・・
こんな極上なソファーだけでなく・・・
今夜は是非ともベッドで眠らせていただきます!
楽しみです!
「マーガレットちゃん、どうぞ・・・」
マイさんが透明な液体が入ったグラスをマーガレットの前のテーブルの上に置きました。
(!!!)
ちょっと待って下さい!
あんな綺麗なグラスって存在するの?
単に透明なだけでなく、宝石みたいに細かなカットをしているグラスなんて・・・
しかも!注がれている液体は単なる水ではないの?
しかもですよ!
中に入っている氷も普通ではありません!
サイコロのような小さな氷がいくつも入っています。あれだけの精密な氷のキューブを大量にどうやって作っているのでしょうか?
(それに何?飲み物が泡立っているけど・・・、アレってまさか!)
「ちょっと!子供にエールを飲ます気ですか!」
キョトンとした顔でマーガレットが私を見ています。
(何で?)
「お母さん、これはエールじゃないよ。中に泡が入っているけど透明だしね、これは甘いジュースなの。」
「はい?」
そんな飲み物って存在するの?
「はい、お母さんも飲んでみる?」
マーガレットがグラスを差し出したので手に取ってみました。
「冷たい・・・」
「そうだよ、ここにはね『冷蔵庫』ってものがあって、冷たい物や凍っている物をいつも保管出来るんだよ。これはソーダってジュース、とても甘くて美味しいんだ。」
「そうなの・・・」
グラスには細長い管のようなものが入っていて、グラスの内側に細かい泡が立っています。
これがエールじゃなければ何なのかしら?
「このストローから吸って飲むんだ。」
「こう?」
ストーローと言われた管に口を付け吸ってみると・・・
(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
言葉にならない刺激が口の中にぃいいいいいいいいい!
シャンパンに似ていますが、それとは全く違います。
「甘くて美味しい・・・」
とても冷たいから美味しく飲めます!
これは子供が大好きになるでしょうね。
私も気に入りました。
チラッとブランシュを見ると、ブランシュは黒い色の液体を飲んでいます。
とても美味しいのか、幸せそうな表情です。
「あれはコーラーね。私、どっちも好きなの。」
コーラー?ここでは驚く事ばかりです。
(このままでは驚き過ぎて気を失うかも?気を強く持たなくては・・・)
「国王様と奥方様にはこちらを・・・」
私達の前にとても綺麗なグラスが置かれました。
マーガレットやブランシュとは違う形状のグラスです。
ワイングラスの形状とは違いスラッと逆三角形のシンプルなデザインのグラスですが、中に注がれている飲み物がカラフルでまるで虹のように輝いています。
「これは?」
「カクテルという名の飲み物ですよ。お子様達もいらっしゃいますので、今回はアルコールを減らしてあります。慣れないお酒で悪酔いされても大変ですからね。本格的なカクテルをご所望でしたら、後日、お作りしますよ。今回ご用意した飲み物以外にも、カクテルは種類が豊富にあります。色々と配合を試してご自身のお好みのカクテルを作る事も可能です。」
一口飲みました。
「こ、これは!」
確かにお酒の風味はありますが、私達の飲んでいるお酒とは次元が違います。
ワインとは違うこの芳醇な風味、それにフルーツの自然な酸味に甘み、こんな上品な飲み物は初めてです。
確かにうっかりと飲み過ぎてしまいそうですね。
「どうやら気に入られたようですね。我らが主でおられる王妃様も大好きな飲み物ですよ。」
フォーゼリア王国はこんな上品なお酒も嗜んでいるなんて・・・
「テオ・・・」
私は隣に座っているテオに視線を移しました。
テオも同じ事を考えていたのでしょう。テオも私を見ていました。
「フォーゼリア王国の文化はここまで進んでいるとは・・・、そして、この技術を惜しみなく披露する心の広さ・・・、今までの関係を改めなくてはならないな。」
「そうね、昔からの風習に囚われている私達にはショックだったわ。是非とも新しい風をこの国に取り入れなくてならないでしょうね。」
マイさんがペコリと頭を下げました。
「それでは、この事はシャルロット様にお伝えしておきます。お互いに良い関係になれるとよろしいですね。」
敵いません。
マイさんはメイドですよね?
私達の要望を的確に判断しくみ取り、しかも大使のように橋渡しまでするなんて、我々の国にはいないレベルの優秀なメイドがいるなんて・・・
全てにおいて我々よりも上回っている気がします。
さすがに夜も遅くなってきましたので、子供達はこれ以上夜更かしをさせる訳にいきません。
「それではお休み前に軽くシャワーでもいかがですか?さっぱりされた方がぐっすりとお眠りになられると思います。」
シャワー、そんな設備まであるのですか?
ここにいる限りは驚くだけ無駄ですね。
一生分の驚きを体験した気がします。
もう私達の常識は通用しない世界ですよ。あの魔王が勇者パーティーの前で敗退し尻尾を巻いて逃げたと報告にあがっていましたが、これだけの技術です、間違いはなかったのでしょう。
「お母さん、私が使い方を教えるから一緒に入らない?ブランシュも一緒に入れると思うし、3人でっどうかな?お風呂は無いけど、お風呂に入るより簡単にキレイになるしサッパリするんだ。」
そんなに大きいの?
それに手軽に?
(信じられません。)
私達の王城にもシャワールームなるものはありますが、あくまでも簡易的なものですし、お湯を用意する者、排水の問題もあります。浴室とは違いかなり使い勝手が悪いのですが・・・
シャワールームに入る前に脱衣室なる前室がありますが、こんなに清潔な部屋があるとは思いもしませんでした。
リビングと言われた部屋と同じような壁に明るい光で照らしてくれる天井。
壁には全身を映す姿見の大きな鏡も壁に取り付けられています。
それに鏡の付いているドレッサーですが、その台には水とお湯が出る蛇口があります。
水は分かりますが、こんな簡単にお湯を出せるなんて信じられません。
テーブルではなく大きなボウルのようなモノが備え付けられていますので、その台で手や顔を洗うものだと。
これは『洗面化粧台』と呼ぶ家具であると、マーガレットが自信満々に説明してくれました。
(これも私の部屋に欲しい!)
服を脱ぎ3人で曇りガラスのドアを開けると・・・
・・・
(いやはや・・・)
白一色のとても清潔な室内ではないですか!
あまりにも綺麗なので声も出ません!
3人だとちょっと狭いですが、それでも十分な広さがあります。
「お母さん、これを回すとお湯が出るんだよ。」
(お湯?)
上を見ましたが、どこかにお湯を溜める桶も無く、真っ白な壁に銀色の不思議なものが取り付けられれています。
何か小さい傘のようなモノで細かい穴が無数に開いています。
キュッ!
そんな音が聞こえた瞬間!
シャー
「え!何?」
無数の穴から大量の水?いえ!お湯が出てきます。
それも勢いよく!
(こんなの信じられません!)
そして、壁に取り付けられている柔らかいボトルをマーガレットが取り、中身を掌に乗せました。
ドロッとした液体みたいですが、とてもいい香りがします。
「これは石鹸だよ。お肌がとてもスベスベになるんだ。こっちは髪を洗う時に使うんだ。」
マーガレットは何度もここでシャワーを使っているのでしょう。
目を丸くして驚いている私とブランシュに説明してくれています。
彼女は勇者パーティーと知り合ってこんな生活を送れるようになったのね。
勇者様達には感謝してもしきれません。
シャワーが終わった後の肌と髪は信じられない程にスベスベのツヤツヤです。
特に髪は香油を付けなくてもとても良い香りがします。
それに、ドライヤーなる魔道具で濡れた髪もあっという間に乾いてしまうなんて、本当に驚きで気絶してもおかしくない程に驚きの連続でした。
さすがにテオ1人で入るのは無理でしたので、私がちゃんと教えてあげましたよ。
ふふふ・・・、マーガレットが自慢げに説明する気持ちもよく分かりますよ。
神の技術・・・
全ては無理だと思いますが、少しでも私達の国に導入出来れば、どれだけ国民の生活水準が上がるのでしょうか?
為政者の1人としてそんな考えも出てしまいます。
そう、私達の国の国民が幸せになる為にはフォーゼリア王国との友好が必須です。
その切っ掛けを作ってくれたのがマーガレットでした。
『双子は忌み子』
マーガレット、いえ!エレノアはそんな子ではありませんでした!
私達にとっては神の子です!
あの子がどのような選択をしようが、私はずっと応援します。




