185話 7年ぶりの家族の団欒①
足下が輝いたと思った瞬間に目の前も真っ白になったわ。
あまりの眩しさに目を閉じたけど、目を開けると・・・
「はぁ?」
自分でも思いっ切り変な声を出したと思います。
「ここはどこなの?」
景色が一瞬で変わったかのように、見た事も無い部屋の中にいました。
足元には見た事も無い石のタイルが敷かれていて、そんなに広くはありませんが多分ここは玄関ホールなのでしょう。
私とエレノア、後ろにナルルースさんとミイさんが立っています。
「これが伝説の転移魔法・・・」
一瞬で別の場所に移動出来る魔法だと文献で知っていましたが、こうして私が実際に体験するとは思ってもみませんでした。
体が一瞬フワッとしたかと思うと、もう別の場所に移動しているのですね。
こんな伝説の魔法を使えるこのお方は本当に何者なのです?
大賢者様に対して恭しくしていましたから、彼女の部下なのでしょうか?
同じエルフ族ですし、それなら納得ですね。
「あっ!」
私の左手に温もりを感じます。
ギュッと私と手を繋いでいるエレノア・・・、いえ、今はマーガレットですね、彼女が心配そうに私を見つめていました。
「お母さん、大丈夫?」
いけない、マーガレットに心配をかけさせてしまったわ。
そんな時こそ私がしっかりしないといけないのに。
「大丈夫よ。転移魔法は初めてだったから、ちょっとビックリしただけよ。」
「そうなんだ。実は私も同じだったんだよ。」
マーガレットがニコニコと笑っています。
う~ん!何て尊い笑顔なんでしょう!
この笑顔は絶対に忘れません!
「あのフワッとした感覚はちょっとビックリしたけど、何回かすると気にならなくなるよ。そして、ここはね、レンヤお兄ちゃん達の秘密基地みたいなところなの。」
(秘密基地?)
「元々は女神様が使っていたって、ラピスお姉ちゃんから教えてもらったんだ。」
(ちょっと待って!)
今、とんでもない言葉を聞いた気がする。
「ねぇ、女神様って本当なの?」
「そうだよ。」
あっけらかんとマーガレットが認めてくれたけど、こんな神聖な場所に私が簡単に来ても良いのかしら?
勝手に踏み込んだと言われ神罰を受けるかもしれない・・・
でも、ここは本当に女神様が使っていたの?
それ以前にです!
マーガレットもそうですが、勇者パーティーの方々って女神様の存在はかなり身近に感じていません?
そう言われると・・・
今、私の立っているタイルの場所から家の奥に繋がる部分は、一段高く木の廊下になっています。
その木ですが、見た事もない程にピカピカに磨かれて、天井にある明かりを反射しています。
壁は少しクリーム色の白色ですが、どこにも継ぎ目の無い壁です。漆喰を塗った感じでもなく、肌触りも優しいし、どんな材質の壁なんでしょう?
それ以上に驚いたのが、この家の照明が桁違いに明るい事です。
(まるで昼間のよう・・・)
夜なのにここまで明るい室内は初めて見ました。
しかも!目の前にあるのは単なる通路なのに、ここまで明るいの?こんな無駄な非常識は初めてです。
その通路の先にはガラスがはめ込まれたドアが見えます。
そのガラスの透明度がとても高いのには驚きです。
我がシュメリア王国の王城の内装もかなり豪華でしたが、こんなにシンプルなのにどれも最上級の技術が使われているのに驚きです。
そのドアの向こうにある部屋はこの通路以上に明るいのか、部屋の光がドアのガラスを通して通路を照らしていました。
(信じられない光景です。)
見た事も無い技術の室内ですし、ここは神の遺物と言われても納得です。
「お母さん、それじゃ中に入ろうよ。」
マーガレットがグイッと私の手を引っ張りました。
「そ、そうね・・・」
「あっ!お母さん、ここ土足厳禁だから靴を脱いで上がってね。ここにスリッパがあるからコレに履き替えるのよ。」
「そ、そう?」
ははは・・・、マーガレットの方が私よりもお母さん?
とてもしっかりした子に育っているようで安心ですが、ちょっと恥ずかしい・・・
「ん?」
ヒールを脱ごうとしましたが、タイル部分の隅に見慣れた靴が2足置いてあります。
大きな靴と小さな靴・・・
(この靴って?)
まさか?
そんな訳は無いですよね・・・
ヒールを脱いでスリッパと言うペラペラな布で出来たサンダルのような履き物を履いて木の床の上を歩いていますが、こんなにスベスベな床は初めてです。
(本当に木ですよね?)
家具ならここまで磨き上げられたモノは知っていますが、そんなのは我が王宮でも最高級品の家具になります。たかが普通に歩く床でここまで立派にする必要があるのでしょうか?
しかも、靴を脱いで裸足のような感じで部屋に入るなんて、こんな風習のある文化は初めてです。
勇者パーティー、彼らは本当~~~に!一体何者なのです?
それに全く物怖じもしないマーガレットも、少し『?』ですが・・・
ガチャ
メイドのマイさんが先導しドアを開けてくれ部屋の中に入りました。
「な、何ですか?この部屋は・・・」
シンプルなあまり飾っていない部屋ですが、壁と天井は白を基調として上品にまとめられています。
天井のあちこちに光輝く玉のようなものが埋め込まれ、通路以上に部屋の中が明るいです。
部屋の中にはテーブルにソファー、それもとても柔らかそうなソファーです。私達の部屋にあるソファーよりも更に上品なソファーではないのでしょうか?
「えっ!」
信じられない光景が私の目に飛び込んできました。
私の知っている人がソファーに座っています。
「テオにブランシュ・・・、どうしてあなた達が?」
思わずテオドールの事を愛称で呼んでしまいました。こうやって呼ぶのは2人ッきりの時だけ呼ぶ約束なのに、何たる失態を・・・
(どうして2人がここにいるの?あの靴はやっぱり?)
私達が部屋に入って来たのを気付いてか、2人が振り向いて嬉しそうにしています。
彼らの隣にはナルルース様とは別のエルフの女性が立っていました。
「フィー、どうした?ここに私達がいるのが信じられないような顔だな。」
「母上、こんなに驚いた顔を見たのは初めてですよ。ドッキリ大成功ですね。」
2人が嬉しそうにお互いにハイタッチをしています。
(??????????)
全く理解出来ずに少し頭の中が混乱しています。
そんな私の気持ちを察してか、テオが立ち上がり私の前まで歩いてきました。
ブランシェはニコニコしながら私を見ています。
「驚いたようだな。実は私もなんだけどな。」
そしてもう1人のエルフの女性に視線を移しました。
「ここにいらっしゃるララノアさんが私達に事情を説明してくれたのだよ。」
そして、マーガレットの前に立ちギュッと抱きしめました。
テオの目には涙が浮かんでいます。
「今はマーガレットと呼ぶんだな。本当に済まなかった・・・」
「もしかして・・・」
「そうだ・・・」
マーガレットがギュッとテオを抱きしめています。
その目には涙が・・・
「お父さん・・・」
「ダメなお父さんを許しておくれ・・・」
ブランシュも立ち上がりテオの隣に立ちます。
マーガレットがブランシュを見つめていました。
まるで鏡写しのような同じ顔が見つめ合っています。
こうして見ると、この子達は本当に双子なんだと・・・、あの時、ブランシュを初めて見た勇者様達が驚くのも当然です。
そのブランシュがスカートの裾を摘まみ、見事なカーテシーをします。
「初めましてお姉様、ブランシュです。」
その姿を見て、何と!マーガレットもカーテシーを!
「ご挨拶ありがとうございます。私、マーガレットと申しますわ。」
何て完璧な挨拶なんでしょう!
思わず手を握りしめてプルプルと震えてしまいました。
「ふふふ・・・、見事なカーテシーですね。わずか数ヶ月で貴族の基本マナーのほとんどを覚えてしまうなんて、天才どころの才能ではありませんね。ラピス様がとても気に入るだけの事はありますよ。」
隣に控えていたナルルースさんが嬉しそうにマーガレットを見つめていました。
「そんなに優秀な子なんですか?」
「そうですよ。優秀どころではありませんね。私が教える知識もですが、貴族のマナーも含めどんどんと凄い速さで吸収しています。まだ7歳なのに、もう大人顔負けの博識ですよ。将来が末恐ろしいですね。」
「ははは・・・」
我が子ながら素晴らし過ぎます。
あの大賢者様のお気に入りなんて・・・
(い、いけない・・・、興奮し過ぎて鼻血が出そう・・・)
何て私は親バカなんでしょう!
ブランシュの時も、あまりの可愛さで本当に鼻血を出した事もありましたね。
マーガレットも同じでした。
(ははは・・・)
落ち着いてみんなを再び見ると、ブランシュとマーガレットが見つめ合い、その後、テオと一緒に3人で抱き合い泣いています。
あれだけ待ち望んでしたエレノア・・、いえ!マーガレットとの家族全員の再会がこんなにも早くに・・・
(ダメ!私もまた涙が出てきそう・・・)
グスッとすすり泣く声が聞こえたので振り向くと、私の少し後ろに控えていましたマイさんも目が潤んでいます。
「良かった・・・」
そんな呟きが聞こえました。
再びテオ達へ視線を戻すと・・・
(!!!!!!!!!!)
誰ですか?
テオ達の後ろにいる人は?
(誰も存在に気付いていないの?すぐ近くにいるのに?)
3人から少し離れた後ろで立っているのに、私以外に誰も気が付いていない。
ナルルースさんもララノアさんもミイさんも気付いていないの?
(そんなのあり得ません!)
いえ!
そこにいるのは人ではありますが、厳密には人ではありませんでした!
その人は女性ですが、この世に存在するの?と思う程の絶世の美女が微笑んで立っていました。
女の私でも目の前にいる彼女の美貌に心を奪われそうになります。
ため息をする程にサラサラで髪自らが輝いているような眩しい金髪に金色の瞳の女性です。
その視線はマーガレットを見つめています。
とてもとても優しい微笑みです。
ですが!
女性の背中には大きな翼が生えています。
薄く金色に輝く翼が!
この人が・・・
女神フローリア様なの・・・?
なぜか分りませんが、私の心がそう確信しました。
(あっ!)
かつての光景を思い出しました。
司祭様があの子を女神像の前に掲げた時・・・
確かに女神像とあの子が輝いたわ。
まさか・・・
女神様はずっと見守っていてくれていたの?
この子が無事に大きくなるように・・・
そして・・・
離ればなれになった私達家族が再び出会えるように・・・
また涙が溢れてきます。
今日はどれだけ泣いてしまったのかしら?
だけど、悲しみの涙ではありません。
今日の涙は全て嬉しい涙でした。
(女神様・・・、このご恩は一生忘れません。)
私以外には誰も見えていない女神様ですが、そのお方に深々と頭を下げました。




