179話 王都ローランド④
「派手にやったわねぇ・・・」
いつもの少女姿に戻った美冬さんが俺達の方へ顔を向けた。
が!
視線は俺を通り越してずっと後ろへと向いている。
その美冬さんの視線を追いかけると・・・
・・・
(はい?)
美冬さんの正面からアンとソフィアの前までは普通の地面だったが、2人の後ろからは放射線状に地面が抉れてしまっていた。
俺とテレサの足元も2人のシールド魔法のおかげで何も影響はなかったけど、やはり後ろを見ると延々に地面が抉れてしまっている。フォーゼリアの王都で四方から攻めてくる魔物達を撃退した時があったが、その際にソフィアが数多くの魔物を一撃で全滅させた必殺技を思い出した。
(その必殺技が『ファントム・クラッシャー』だ。)
俺とテレサの渾身の一撃を相殺するだけでなく、それ以上の破壊力で俺達の前の地面を抉っていた。
「七神の力・・・、想像以上だったわ。」
テレサががっくりと項垂れてしまった。
その気持ち、俺もよく分かるよ。
「そう悲観しなくても良いわ。あなた達の技も強力だったから、私の威力もほとんど相殺されてしまったしね。いつものこの姿だと本気で打ち込んでも本当にヤバかったわ。」
そう言って美冬さんは俺達へと微笑んでくれた。
「だから自信を持ちなさい。」
その言葉で俺だけでなく、アンもソフィアもテレサも嬉しそうにしていた。
「あっちの方も終わったようね。」
その言葉に俺達の視線が横へと移動した。
俺達の戦いはかなり派手だったので、あちらの方はかなり離れた場所で模擬戦を行っていた。
シャルは・・・
あのシャルが冷華さんの腕を極め背中を取っていた。
痛そうにしている冷華さんが印象的だよ。
ティアは・・・
(う~ん・・・)
黄金の弓を構えた雪さんの前で、全身を光の矢で地面に縫い付けられている姿が印象的だな。
体に刺さっている訳ではなく、服を矢であちこちと縫い付けられ仰向けになっている状態だよ。無理をして動けば服が破れ、あっという間に素っ裸になってしまう。それだけ、雪さんの矢の精度が神がかりなんだろうな。
それにしても、雪さんの持っている黄金の弓はとてつもない存在感を放っている。アーク・ライトやミーティア以上に神聖なオーラを放っている。
まるで、あの時にデウス様が振るった巨大な剣と同じくらいにだ。
「なかなかね・・・」
美雪さんが嬉しそうに見ている。
「冷華が素の体術で負けるなんて珍しい事もあるわね。。まぁ、最近はアレでちょっと楽をしていたから、少しは良い薬になったかもね。雪も雪であそこまで追い込まれてしまうとは、ちょっと驚きよ。まさかアルテミスを持ち出すとは、ちょっと大人げなさそうね。」
しかし、その美冬さんがクスッと笑った。
「私も覚醒の力を使ったから雪の事は言えないわね。ふふふ・・・」
「ちょっと舐め過ぎていたわ・・・」
冷華さんががっくりとした感じで地面に腰を下ろしている。
「まさか、ここまで身体能力が上がるとは思いもしなかったもので・・・」
シャルは自分の事が信じられないのか少しオロオロしているよ。
まぁ、その気持ちは分かる。
シャルは今までの戦闘は女神の鎧を装着して戦っていた。
確かに鎧の加護は素晴らしい。自分の能力を何倍も高めてくれるし、戦いにおいてはとても頼りになる。
だが、この鎧のおかげでシャルの基本能力はあまり上がっていないと、美冬さんから指摘を受けた。
シャルは素の状態でも女神の力を自由に使えるように訓練した。
お陰で、自分の意志で女神化をする事が出来るようになり、空を飛ぶ事も魔法も自由に使えるようになった。
そこで目覚めたのが雷魔法による身体強化だったりする。
普通の身体強化魔法もシャルは使えるが、雷魔法の場合は特にスピード特化の強化になった。
俺も使えない雷魔法だったりする。さすがは『雷帝』の称号持ちだ。
だけど、あまりの速さに体と目が追い付けず、最初の2日間は止まれない、曲がれないと本当にひどい感じだった。
ぶつかっては気絶してソフィアに回復してもらってと、とてもお姫様らしかぬ状態だったが、努力の甲斐あって、身体強化だけで冷華さんを圧倒する程の体術を身に付けたのには驚いた。
シャルはこの1週間とても努力をしていたのは知っている。
そして、その努力が実を結んだのだ。
予想外の結果でオロオロしてるシャルの頭を思わず撫でてしまった。
「レンヤさん、恥ずかしい・・・、でも・・・」
すごく嬉しそうにしているよ。
みんなはシャルが頑張っていたのを知っているから、誰も文句は言ってこなかった。
だけどなぁ・・・
「我も・・・」
とっても羨ましそうな顔でティアが俺を見ているのだが・・・
アンもソフィアもテレサもコクリと頷いた。
「分かったよ。ほら・・・」
今度はティアの頭を撫でてあげた。
「はぅ!幸せじゃぁぁぁ・・・」
そんな光景を雪さんが微笑ましそうに見ていた。
その隣に美冬さんが立った。
「雪、どう?」
「う~ん、もう少しかな?単純な強さだけなら神器を持った私にかなり近づいたわ。アルテミスが無かったらヤバい程にね。あともう一歩だと思うわ。切っ掛けがあればミドリさんのように進化するかも・・・」
「そう・・・、そろそろヒスイの出番も近いのね。ソータの未来視は間違い無いだろうし、まさかヒスイが鍵とはねぇ・・・」
「そう、あとは彼女の気持ち次第ね・・・」
(ん?)
2人が何を話していたのかは良く分からなかったけど、とても温かい目でティアを見ていた。
ドン!
突然、辺りにとてつもないプレッシャーが漂った。
「遅かったわね。」
美冬さんがニヤッと笑っている。
その笑顔の先には・・・
(まさか!)
あのゼウス様が立っていた。
そして、その後ろにはラピスとマナさんが立っている。
(そういえば、1週間前に・・・)
美冬さん達との修行を始める時に、ラピスとマナさんがしばらく2人で出かけると言っていたな。
地獄のシゴキでそんな事を忘れていたよ。
その2人とデウス様に何の繋がりが?
そのデウス様が美冬さんにニヤリと笑った。
いやぁ~、この超絶美人さんと超絶美少女がお互いにニヤッと悪い笑みを浮かべるなんて、とっても怖い雰囲気が漂うよ。
不思議とこの2人には似合うんだよな。
「ふふふ・・・、こいつらの発想には驚かされたぞ。おかげで面白い経験が出来た。ラピスよ、礼を言うぞ。」
「い、いえ・・・、そんな・・・、私としては彼女のスキルをどうすれば最高の力を発揮出来るか考えていただけで・・・」
「そんなに畏まるな。まるで私がお前を虐めているように見えるではないか。」
(うん!俺にはそう見える!)
あのラピスがなぁ~~~、ここまで恐縮するなんてねぇ~~~
(見ていて面白いよ。)
ギロッ!
(げっ!)
ラピスに睨まれてしまった!
マズい!確実に俺の心を読まれてしまっている!
咄嗟に視線を逸らしたが、もうお仕置きは確実だろうな・・・
(とほほほ・・・)
「それで、期待出来るモノは出来たの?」
まだ美冬さんが悪い顔でいるよ。
「もちろんだ。冷華達に作ったアレと同等のモノが出来たぞ。いや、それ以上かもしれんな。完成から時間があまり無かったから試運転しかしていないが、出力も安定しているし、マナとやらのシンクロ率も100%を常にキープしている。そなたのスキルとの相性も抜群だし、暴走の心配も無さそうだ。しかもだ!出力は私の専用装備のバハムート並みだし、武装もエリーのファルコンとアヤのホワイト・ミラージュの・・・」
「はいはい」
説明をしているデウス様の言葉を美冬さんがいきなり断ち切った。
「おい、美冬よ。私の話をな・・・」
(いきなり中断させられればこうなるだろな。)
「はいはい、デウス、あんたの話は長過ぎるからダメよ。ホントこのメカオタクは・・・、このままだと明日の朝まで話は続くんじゃないの?」
「う!そ、それははだな・・・」
(おいおい、マジかよ?)
それにしても、この2人はとても仲が良さそうだな。
最強の7神の2人だからかもしれん。
こうして見ると本当に最強の神々とは思えない程に柔らかい雰囲気だ。
真の強者とはそんなものかもしれないな。
本当に必要な時だけ力を発揮し、普段はそんな事を全く感じさせない。
恐怖や力の支配では真に誰もついてこないしな・・・
「さて、話の腰を折られてしまったから、もう興味は失せた。帰るぞ・・・」
スッとデウス様の姿が消えてしまった。
(おいおい、簡単に拗ねないでよぉぉぉ。)
「心配しないで良いわよ。」
美冬さんがニコニコしている。
「本来はこうしてこの世界に来ること自体がマズいしね。しかも、神界の最新技術をこの世界に持ち込んでいるんだからね。さっさといなくならないと、他の査察官をしている神に見つかるとマズいしね。いくらデウスでも何らかしらの罰を受ける羽目になるわ。ホント、へそ曲がりなんだから・・・」
「レンヤ君・・・」
マナさんの声だ。
「ごめんね。ちょっと頑張り過ぎてしまったわ。ずっと連絡をしないでゴメンね。でもね、これでやっとレンヤ君達と一緒に戦える。私が一番いたい場所、それはね、レンヤ君の傍なのよ。戦いになったらずっと一緒にいられなかった。中途半端な戦う力しかなかった私・・・、ソフィアさんが自分の力の無さを後悔していた気持ちは良く分かったの。でもね、もうそんな事はないのよ。もうそんな気持ちは・・・」
ギュッとマナさんに抱き締められてしまった。
「これからは私がレンヤ君を守ってあげる。誰よりもね・・・」
ゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオ!
とんでもない殺気が感じるが気のせいか?
いや・・・
そんな事は無い・・・
「マナ姉様・・・」
「マナ・・・」
「マナさん・・・」
「マナお姉様・・・」
「姉さん・・・」
「マナよ・・・」
全員の殺気が俺達に向けられている。
(数秒後に俺は生きているのか?)
絶望だけが俺の心を塗り潰した。
「良かった・・・、死なずに済んだ・・・」
暴走したみんなから袋叩きにされるかと思ったけど、マナさんがラピスに引きずられ、その後を冷華さんと雪さんが追いかけていった。
「あの子の装備の最終調整に行ったみたいね。」
「 ? 」
話が掴めないので大量に?マークが頭に浮かんでいたが、そんなのをお構いなしに美冬さんが笑っていた。
多分だが、彼女は全ての事情を知っているのだろう。
あまり情報を出さないのは、神の世界の技術が絡んでいるからなのかな?
だけど、着々と俺達の戦力が充実しているのを実感している。
(これでシュメリア王国での戦いも何とかなりそうかもな。)
いくら美冬さん達神の手助けがあっても楽観視は出来ないだろう。
俺達の敵は、もう魔王だけではないからな。
神との戦いだ、どれだけ準備をしても十分過ぎる事はないと思う。
その夜・・・
「お兄ちゃぁあああああああああああああああああああああああああん!」
ズムッ!
「ぐほっ!」
マーガレットの頭突きが俺の鳩尾に炸裂した。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉ・・・」
どんなに防御力が高い体になっても、何故かマーガレットミサイルの頭突き攻撃に対しては必ずクリティカルヒットをされてしまい、大ダメージを受け悶絶してしまう。
(マーガレットって、実は対俺用の最終兵器じゃないだろうな?)
それくらい的確にダメージを与えてくれるよ。
そのマーガレットの後ろにナルルースさんが控えていた。
雰囲気を察知してくれたのか、フランがマーガレットに近づき一緒に別の部屋へ遊びに行く。
「ふふふ・・・、さすがはフラン様ですね。」
ナルルースさんがニコニコしながら2人が部屋を出て行くのを見ている。
フランは見た目がマーガレットよりも年下に見えるから、マーガレットはお姉ちゃん顔でフランの遊び相手をしてくれる。
そのフランも妹として扱ってくれるのがとても嬉しいのか、マーガレットが遊びに来ると一緒に遊ぶようになっていた。
そして、その日の夜は俺とフラン、マーガレットの3人で一緒のベッドで眠るのがお決まりのパターンになっている。
(フランはともかく、マーガレットは俺離れしないとなぁ・・・)
そんな話をナルルースさんにしてもニコニコされてしまうだけだったが・・・
しかし、今はいつものナルルースさんの雰囲気ではない。
2人が部屋を出て行くと、急に真剣な表情で俺を見つめた。
「勇者様、これを・・・」
スッとナルルースさんの手からペンダントがテーブルの上に置かれる。
「これは?」
隣にいたラピスの表情が、ペンダントを見た瞬間に変わった。
「ラピス様はご存じのようですね。」
コクンとラピスが頷いた。
「えぇ、このペンダントに彫られている紋章は知っているわ。なぜ、あなたがこれを持っているの?シュメリア王国の王族だけしか身に付ける事を許されないペンダントよ。」
「それは、彼女・・・、マーガレットさんからお預かりしている物です。」
ガタッ!
ナルルースさんの言葉に思わず立ち上がってしまう。
「マーガレットだと?どうして?」




