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178話 王都ローランド③

「冷華、雪、あんた達はソフィアの方を頼むわ。」


「分った!」

「了解!」


美冬さんの言葉に2人がサムズアップして応える。


「美冬は?」


雪さんの言葉に美冬さんがニヤリと笑っている。


(うわぁ~~~、すっげぇ悪い笑顔だよ。)


「あの連中をもう少し鍛えるわ。今までちゃんとした師匠がいなかったからか、かなり我流で無駄な動きが多いし、そこだけでも矯正すれば動きはガラッと変わるはずよ。ふふふ・・・、鍛え甲斐があるわ。」


あの3人に向けて心の中で手を合わせた。



(ご愁傷様・・・)



俺達が何故美冬さん達の指導を受けているかというと・・・


もちろん、俺達のレベルアップもあるが、実際のところはちょっと違う。

美冬さんの旦那曰く、どうやらシュメリア王国の王都であるローランドにて魔神との戦いが起きるとの予知を受けているとの事だ。

ただ、彼女達は直接戦いに参加する事は出来ない。

これが神の世界のルールというものだと。制限無く神の力を管理世界に使う事は世界を滅ぼしかねない。そんな事をすれば『墜ちた神』、いわゆる邪神や魔神に認定されてしまうとの事だ。

いくつかは例外はあるが、手助けをする事は可能で、加護や神託等もこれに該当するみたいだ。

また、こうして修行させる事も可能との事だ。いわゆる直接手を下していないとね。


まぁ、ある程度は干渉出来ないと、邪神達によって管理世界が滅ぼされるのを、神々の世界からただ見る事しか出来ないしな。

ごく希だが、『奇跡』として内緒に手助けしてくれる時もあるみたいだ。


俺の転生やソフィアの別次元での修行もそういったものみたいだと言われた。



そして、こうして修行が出来る時間が取れたのはティアのおかげだ。


本来のスケジュールでは美冬さん達に修行してもらえる時間は取れなかった。

そもそも、美冬さんのようなトップレベルの神に、こうして修行させてもらえる事自体が過干渉に近いと言われていたけどな。

下級神ならそこまで五月蠅い事はないのだが・・・

そこはまぁ。フローリア様の強権発動で、『1週間なら見ないふり』をしてくれた。

この1週間というのが、さっきのティアが絡んでいた事に繋がる。


本来の移動なら馬車で国境の関所から王都まで10日は軽くかかってしまう。

だが、今はドラゴン形態のティアの背に乗って移動する事も可能になった。

実際にティアの移動を経験してしまうとねぇ・・・


もう馬車での移動は出来なくなってしまうよ。


それだけ高速で快適な移動が可能になった。


(まぁ、少数精鋭のパーティー限定だけどな。)


そして、俺達には転移の魔法も使える。

一度行った場所なら次は転移で簡単に移動可能だからな。


そんな訳で俺達は歴史上類を見ない方法で高速移動が可能となった。

だからといって良い事ばかりではない。


普通に馬車の移動だと、国境の関所から王都ローランドまでは早くても10日はかかってしまう。普通の冒険者や旅人なら問題無いが、今回は俺を含めシャルも一緒だ。

そういう事は、王族の関係者がこの国に訪れる事になる。

そうなるとだ、いくらあまり国交がない国だといっても、この国が俺達をお持てなしをしない訳にはいかない。国同士の社交辞令といった面倒な事をしなくてはならないのだ。

国境を通過した際に早速、早馬が王都へ向けて出発しているのは確認している。

早馬なら多分だが3、4日で王都に連絡が届くだろう。


だけど、ティアでの移動だとラピスの計算では1日半で王都に到着出来るとの事だ。

流石に早馬よりも俺達が王都に到着する訳にはいかない。

先に内緒で到着し、再び転移で戻ってくる方法も考えたが、万が一街中で見つかってトラブルに発展しても非常に困る。それに観光なんていつでも出来るしな。

そんな訳で普通に10日後に王都ローランドに着く事に決めた。


そこでさっきの1週間の話が出てくる。

王都へは10日後に到着と決め。ティアでの移動は2日間とし、1日は馬車での移動も入れた。

いきなり王都へドラゴン姿のティアを突撃させる訳にいかない。パニックどころか、完全に俺達が悪者になってしまうだろう。

聖教国のようにティアが国民に認知されてしまえば堂々と飛べるのだが、かなり大きいドラゴン姿のティアだ。人目に付かないようにしないといけないから、どうしても王都の近くまでは飛んで行くのは無理だ。かなり離れた場所から馬車で移動する必要があるだろう。余計な騒ぎを起こしたくないからな。


計算するとそれで残りが7日間となった訳だ。


たった7日間だが、とても強力な助っ人の美冬さん達のおかげで、俺達の実力はみるみる上がった。


(その分、かつてない地獄を見たが・・・)




「この1週間の成果を見させてもらうわ。」


俺とアンとソフィア、そしてテレサが並んで立ち美冬さんと対峙している。


「1分間、私の攻撃を凌ぎ切れればOKよ。4人で一斉にかかってきても良し、個別に連携しても良し、ただひたすら逃げ回っても良し。だけど、逃げるとどうなるか・・・、お仕置きだけは覚悟してよ。」


ニヤリと美冬さんが笑ったが、正直、1分間も耐えられるのか?

それだけ彼女の強さの次元が俺達と違う事を、この1週間で痛感した。

あのソフィアでも全く相手にならなかった状態だった。


「よろしくお願いします!」

「師匠!今度こそは!」

「私も頑張ります!」

「兄さん!私が盾になるから!必ず生き延びて!」


(テレサよ・・・、ちょっと違うと思うが?)


俺の体からは青色のオーラが溢れ出した。あの時以来、自分の意志で自由に使う事が出来なかったが、この1週間で少しは使いこなす事が出来るようになったと思う。

あのヴリトラ戦の時のようにはいかないが、少しずつは俺に馴染んできていると実感している。

アンもソフィアも全身から金色のオーラが溢れ始めた。

今までと比べても密度が濃い。確実に強くなっているだろう。


「それではかかってきなさい。」


いつもの構えの美冬さんだが、突き出した右拳を広げ、俺達に手招きをしている。


「まずは私からよ!」


ダン!


地面に自分の足跡を残しソフィアが飛び出した。

地面に広範囲でクレーターを作ってしまうような威力のあるソフィアの震脚だが、今回はあまり地面への影響が無かった。

だが、その飛び出した勢いは今までで一番速いのでは?


「ふふふ・・・、無駄に力を分散させないようになったわね。」


そのソフィアの突きを軽く左で受け流し、空中に放り投げた。


「だけど、まだ甘いわよ・・・」


「分かっています!これくらいでは通用しないのは!」


空中での不安定な体勢だったが、両手を前に突き出した。


「双掌破!」



ドン!



美冬さんを中心として地面が陥没した。


「やるわね。」



ビタッ!



そう呟いた美冬さんだが、右手を後ろへと回していた。


「くっ!読まれていたなんて・・・」


アンが翼を広げ美冬さんの後ろに回り込み魔剣で切りかかっていたが、その行動は既に読まれていたようで、人差し指と中指で摘まむように剣を受け止められていた。


「嘘!ビクともしない!」



ブワッ!



美冬さんの全身から白いオーラが噴き出した。


「きゃあぁあああああああああああ!」


そのオーラに当てられアンが吹き飛ばされる。

ゴロゴロと地面を転がっていたが、すぐさま受け身を取り立ち上がる。


「まだよ!」


「よく耐えたわね。でも・・・」


美冬さんがダンと右足を踏み込んだ。

意識がアンへと向いた。


このチャンス!今しか無い!

テレサを見ると、同じ事を思ったのか、俺の目を見ると頷いた。


(よし!)


「「今だ(よ)!」」


俺とテレサが同時に飛び出す。


「「無蒼流!秘奥義ぃいいいいいい!」」


俺達の後ろから猛烈な吹雪が発生し、大量の雪が美冬さんへと降り注いだ。


「これは!」


初めて美冬さんの顔に驚きの表情が現れる。


「フフフ…、こればっかりは少し真面目にならないとね・・・」


またもやニヤッと笑っていたが目は笑っていない。


「「ダブル!」」


俺とテレサの剣閃が美冬さんへと降り注いだ。


「「乱れぇええええええ!雪月花ぁああああああああああああ!」」


2人同時の秘奥義が美冬さんへと炸裂する。

単に2倍の威力にはなっていない。

お互いの技の威力が同調し、3倍、いや4倍以上に威力が上がっている。

俺とテレサの兄妹以外ではタイミングを合わせる事が出来ない特別な合体技だ!



カッ!



しかし、剣閃が美冬さんに届くかと思った瞬間!

美冬さんの全身が金色に輝いた。



ガガガァアアアアアアアアアアアア!



(し、信じられない!)


俺達の無数の斬撃を美冬さんが指1本で次々と受け流している。


しかも!


美冬さんの姿が変化している!


今までの成人前の美少女の姿だったのが、大人フランのように大人の女性の姿になっていた。

真っ白な髪の毛も金色に光を放ち、フローリア様に匹敵する美貌と金色のオーラを放っていた。


(これが美冬さんの本当の姿なのか?)


だがぁああああああああああああああ!


テレサに視線を移すとテレサが頷いた。


「兄さん!分かっているわ!この一撃に全てを賭ける!」


アーク・ライトを正眼に構えると、テレサが俺のすぐ隣で同じ姿勢でミーティアを構えた。

まるで鏡写しのように俺とテレサが寄り添うように並んだ。



ス・・・



(これは・・・)



あのヴリトラ戦の時に現われた金髪の美少女が俺の前に浮かび、俺の手にそっと手を乗せた。


(テレサ、お前もか・・・)


テレサのすぐ隣にも全く同じ顔の少女が浮かんでいる。

その子はミーティアと同じく輝くような銀髪で、ミーティアの宝玉と同じ美しい青色の瞳だった。

その少女はテレサと目を合わせ微笑んでいる。


「この子が兄さんの言っていた聖剣の・・・」


俺とテレサの目が合うと2人の少女の姿が霧のように消えた。


「兄さん、とんでもない力がミーティアから流れてくる。こんなの初めてよ・・・」


しかし、すぐに落ち着きグッと腰を沈めた。


「これなら、あの技もいけるかも・・・」


「テレサ、俺に合わせろ。お前なら出来る、絶対にな。真の神の剣をな・・・」


「うん・・・」


俺が飛び出すと同時にテレサも飛び出した。お互いの刀身から青白いオーラが噴き出す。



「これがぁああああああああああああああ!」

「神殺しの剣!」



「「俺(私)達兄妹の絆の技ぁあああああああああああ!全てを切り裂く!真!神威カムイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」」



青白い十字の斬撃が一直線に美冬さんへと飛んだ。


「あ!これはマズいわね・・・」


美冬さんがボソッと呟いた。


「だけど、師匠としては恥ずかしい姿を見せられないわね。」


グッと左腕を後ろに引き構えた。


「よく見てなさい!これが本家必殺のぉおおおおおおおおお!」


左拳の前に黄金のリングが発生する。


「ファントムゥウウウウウウ!クラッァアアアシャーァアアアアアアアアアアアア!」


俺達の斬撃に左拳を突き出した。



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッン!



巨大な爆発が起き、目の前の視界が真っ白になった。



「くっ!」


かなりの爆発だったが何故か吹き飛ばされていなかった。


(どうして?)


不思議に思ったが、その疑問はすぐに解決した。

アンとソフィアが俺の前に立っていた。


「クリスタルシールド!」

「イージスの盾!」


2人が防御魔法をかけ爆風の盾になってくれていた。


「アン・・・、ソフィア・・・」


2人が振り返るニコッと微笑んでくれた。


「大丈夫よ。心配しないで。」

「言ったでしょう?今度はちゃんと私が守るって。その為に強くなったから・・・」


(はっ!そうだ!)


「テレサ!」


慌てて隣にいるテレサに声を掛けたが、テレサは無事だった。

だが、かなり消耗してしまったのかミーティアを支えにしてやっと立っている状態だ。


「大丈夫か?」


「えぇ・・・、大丈夫よ。姉さん達のおかげで爆風のダメージは無かったけど、技の発動に全体力をもっていかれちゃった・・・」


(無事で良かった・・・)



(美冬さんは?)



俺達の前で左拳を振り抜いた姿のまま立っていた。俺達の姿を確認したからか、構えを解いて立っている。

真剣な表情で俺達を見つめていた。


「やってくれたわね。一瞬でも私の本気を出させるとはね・・・」


しかし、急にニコッと微笑んだ・


「合格よ。まだまだ改善点は山ほどあるけど、今のあなた達なら魔神相手なら何とかなりそうね。頑張ってね。」



「やったぁぁぁ・・・」



戦いの緊張感から解放された安心感からか、ヘナヘナと座り込んでしまう。

周りを見るとみんなも同じ気持ちだったのだろう、全員が座り込んでしまっていた。


(こんなのはもう懲り懲りたよ。)

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