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176話 王都ローランド①

「ティア、そろそろ降りてくれ。」


『了解だ。ここなら国境の関所からも我の姿は見えないだろうな。』


俺達は聖教国の聖都からドラゴン形態のティアの背に乗って、シュメリア王国の国境付近へと飛んできた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



聖教国ではナブラチルさんが聖女の奇跡としてエンシェントドラゴンを使役したと宣伝したから、ティアがドラゴン姿になってもそんなにパニックになる事はなかった。

ナブラチルさんの前で巨大なドラゴン姿になったティアが頭を下げ、ナブラチルさんに頭を撫でられている姿は信者にとっては感動の場面だったようだ。

『さすが聖女様』と、信者からのナブラチルさんの信仰度が爆上がりしたけどな。これはラピスのアイデアだったけど上手くいったようだ。

そんな本人はかつてのミドリさんのトラウマが甦ったのか、自分よりも強大なティアの存在に気を失いかけてしまったけど・・・

ドットさんやユウ達のフォローのおかげで、今では彼女はティアの友人の1人として仲良くしている。ティアも友達が増えるのはとても嬉しそうだったな。


そのおかけでティアがドラゴンの姿で飛んでも大騒ぎにならず、それどころかティアがこの聖教国の守護竜とまで思い込み崇める信者が続出した。


「冒険者達には最大の恐怖の対象の我が崇められるとはな・・・、それも存外悪くない気分だ。」


そんな話をティアにすると満更でもなさそうな感じだったよ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いやぁ~、ティアのおかげでここまで移動が楽だなんてな。もう普通に馬車は使えないよ。」


そう言ってティアの背中を撫でた。


『ご主人様、くすぐったいぞ。だが、こうしてご主人様を乗せているのは我もとても幸せな気分だな。』




『・・・』



ティアが急に黙ってしまった。



『だが、やはり解せん・・・』



その言葉に俺は首を動かした。

その視線の先にはテレサが座っているのだが、その隣には意外な人物がいるんだよな。


「あのぉ~~~、エキドナさん、何でここに?」


どうしてなのかティアと同じエンシェントドラゴンであるホワイトドラゴンのエキドナさんが俺にニッコリと微笑んだ。

もちろん、今は人化した状態で座っている。


「レンヤ様、私の事は気にしないで下さい。私は空気です。空気に存在感はありません。」


『そんな訳があるかぁあああああああああああああああ!』


ティアが絶叫する。


いやはや・・・、彼女もドラゴンの山を離れて俺達と一緒にいるんだよな。

いや、テレサと一緒なのかな?


出発日の前日に用があってテレサの私室に行った時、テレサと彼女がテーブルを挟んで2人で仲良くお茶を飲んでいたのには驚いた。

いつの間に仲良くなったのだ?

そもそもどうして知り合ったのだろう?

しかもだ!2人が何故だか『心の友よ!』と叫んでガッチリと握手までしていたんだよ。

ふと気が付いたのだが、彼女がどのようにしてフォーゼリア城の中にいるのだ?

数ヶ月前の魔王襲撃があってからは城内の警備はかなりどころか相当に強化されているのだが?

彼女はそれだけの隠密スキルがある事なのか?


分からないことだらけの謎な状況だった。


まぁ、後日2人から聞いたけど、エキドナさんは俺のストーカーとなって常に俺を見ていた(監視?していた)と・・・

そんな場面を何故か知らんがテレサが目撃してしまい(テレサもいまだに時々ストーカーをしている)、会った瞬間にお互いに電撃が走ったみたいになって、どうやら2人のシンパシーを感じたみたいだ。


(ストーカー同士で通じるモノがあるのか?)


俺にとっては迷惑以外の何物でもないのだが、テレサにとって俺のストーキングがライフワークの1つと言い張られてしまっては、俺はこれ以上は何も言えないよ。

ただ影からこそこそと俺を見ているだけだから、実際の被害というものは無いから気にしなければそれまでなんだけど・・・


(でもな、やっぱり気になるよな。)



しかし・・・

こうしてテレサとエキドナさんが仲良く並んで座っている姿を見ると、本当の姉妹の様に見えるな。

もちろんテレサが姉さんだ。

歳はエキドナさんの方が・・・、ゲフンゲフン!

そんな事を考えずに見ると、2人揃って美人だし、ホント絵になる光景だよ。


『エキドナ!貴様、我の背に乗っているとはいい身分だな。』


「ティアマット様、これは譲れません。こうしてレンヤ様のお側にいられるチャンスはそうないものですから。」


『しかしだな・・・』



チクッ!



『い、痛いぞ!テレサよ!何をするのだ!』


テレサがミーティアを握り、剣先をティアの背にツンツンと軽く突き立てている。

生半可な攻撃では全くダメージを与える事が出来ない程に防御力の高いドラゴン形態のティアの皮膚と鱗だが、聖剣ミーティアとテレサの技量で軽く剣先を突き立てるだけでもティアの皮膚を切り裂くことができそうだ。


(実際にしてもらっても困るだけだが・・・)


「ティア、あんた達みたいな巨大なドラゴンが2体も並んで飛んでいたら、いくら何でも目立ち過ぎるでしょうが・・・、それにエキドナは私の親友なのよ。兄さんに対する熱い情熱、その情熱は彼女も持っていたの。私は彼女の情熱に共感したから兄さんと一緒にいる事を認めたのよ。そんな私の決定に納得がいかないなら・・・」


ギロッとテレサの視線が鋭くなり、ミーティアを握る手に力が入っていくのが分る。

テレサの殺気が溢れている姿、そんな光景をエキドナさんがガタガタと震えて見ていた。


「おいテレサ・・・」


俺は慌ててテレサの肩を掴んだ。

危ない・・・、もう少しで可愛い妹テレサがヤバイ妹テレサに変身するところだった。こうなると本気でティアの背中にミーティアを突き刺すかもしれん。いや!こいつなら確実にってしまうぞ!


「あ!兄さん・・・」


テレサのハイライトが無くなった目が元のキラキラした目に戻った。


「テレサ、お前なぁぁぁ~~~、俺達を墜落死させる気か?」


「は!」


テレサがその事に気付いたのか慌てて土下座をしてきたが・・・


「兄さん!ごめんなさい!」


(しかしなぁ・・・)


グルっと周りを見渡したが・・・


ラピス&アン&ソフィア&ヒスイちゃん、シャル&フラン、テレサ(土下座中)&エキドナさん


(おいおい、全員が空を飛べたよ・・・)


このメンバーじゃ墜落死はあり得んな。


思わず苦笑いしてしまう。


それに・・・


『この中でヒスイとエキドナ以外では我が勝てる相手はいないから、背中で好き勝手されても文句は言えないな。世界最強と言われた我が・・・』


ちょっとティアが落ち込んでしまった。


ヒスイちゃんはティアの妹として彼女から呼び捨てに呼んで欲しいと言われたから、ティアは今ではヒスイちゃんの事は『ヒスイ』と呼び捨てで呼んでいる。

その事が嬉しかったのか、更にティアの事を『お姉ちゃん』と言って一緒にいる事が多くなった。お互いにドラゴン族だし一緒にいるのは落ち着くのだろう。

おかげでティアからは『子供が欲しい!』と執拗に迫られる事が減ったのは良い事だ。


そして、シャルやテレサとも模擬戦を行ったが、ティアは2人にもボロボロに負けてしまったんだよな。フランは子供姿の事もあるので対戦はしていないが、俺の見立てでは大人フランならティアには負けないと思っている。

負けて落ち込んでいたティアを慰めるのも大変だった。

今まで最強だと自信があったのに、アンに負けて以来、ソフィアに負け、ラピスにも負け、そしてシャルとテレサにも負けてしまったからな。

まぁ、シャルもテレサも神の名の付く称号持ちの2人だ、そんな神の称号は今まで存在しなかったしな。それだけ特別で強力な存在なんだろう。

いくらエンシェントドラゴンだろうが、単なる力任せでは勝てないのだろう。


「ティア、そう落ち込むな。俺達が特別なだけだからな。」


いつの間にかヒスイちゃんも俺の隣に座っている。

そして優しくティアの背中を撫でていた。


「お姉ちゃん、もう少し頑張ればパパ達と同じになるからね。私はその為に来たんだよ。だからね・・・」



(ん?)



今、何て言った?


思わずヒスイちゃんを見てしまったが、当の本人はニコニコしているだけで、それ以上は何も言わなかった。

今の言葉はティアにも聞こえていないようだ。


(まさか、ティアもみんなと同じように?)


これ以上は考えても仕方ないな。

ティアにも多分だが、みんなと同じように新しい力に目覚める可能性があるって事だ。

どんな切っ掛けかは分からないが、どんな力を手に入れるのだろう。


(頑張れよ・・・)


ヒスイちゃんと同じように俺もティアの背中を優しく撫でていた。






「よし!無事にシュメリア王国に入れたぞ!」


国境の関所を何事も無く通過する事が出来た。


入国手続きに時間がかかったから、通過するのも少しは手間がかかると思っていたが、ラピスのギルドからの通行許可証明もあり、すんなりと通る事が出来たよ。

さすがはギルドの最高顧問でもあるラピスの存在は絶大だよ。


「レンヤ、貸しだからね。もちろん、お返しは・・・」



グイ!



「い!痛いぃいいいいいいいいい!」


ラピスの長い耳をソフィアが摘まんで引っ張っている。

ホント、この光景はよく見るようになったよ。


(それだけ仲が良いって事だろうな。)


「ラピス・・・、調子に乗らないの。」


「ふふふ・・・」


そんな光景を見てアンが微笑んでいる。


「私達は魔王と邪神を倒す為の旅に出ているのに、こんなにほのぼのとしているなんてねぇ・・・」


「確かにな、かつての500年前の旅なんて、それはもういつも殺気だっていたな。常に周りに敵がいないか、宿でもゆっくりと休まる事のない1年間だったよ。」


「それはほとんどレンヤのせいでしょうに!」


ソフィアから解放されたラピスが耳を押さえながら俺に近づく。


「え、俺?」


「そうよ、あんたはいつも殺気だっていたからね。そんな人間が傍にいるんだから、どれだけ私達が気を遣ったと思って!ねぇ、ソフィア!」


「え!私に振る?」


いきなりラピスから話を振られたソフィアが慌てている。

さすがにラピスが言ったように俺のせいだとは言えないのだろうな。


「た、た、確かにあの時のレンヤさんってちょっと怖かったけど、それでも戦えない私をいつも必死に守ってくれたわ。自分がどれだけ傷ついても私を守ってくれたの・・・」


ソフィアがうっとりとした表情で自分の胸に手を当てた。


「でもね、あの時のレンヤさんって実はツンデレだったみたいね。本当は優しいんだけど素直になれないみたいなね。今のレンヤさんも素敵だけど、あのツンデレレンヤさんも悪くなかったかもね?」


「そうそう・・・」


ラピスもウンウンと頷いている。


「レンヤって本当に素直じゃなかったのよね。私が会った男の中でもレンヤとアレックスだけが私を普通に見てくれたわ。それどころか会ったばかりのレンヤは私にも興味が無いと思うくらいにぶっきらぼうだったわね。実際に旅の間は必要な連絡以外はほとんど会話も無かったほどだったからね。おかげで私はレンヤをじっくりと観察する事が出来た訳ね。この私が惚れてしまうくらいにレンヤは最高の人間だったわ。」


「でもラピス、レンヤさんを好きだと自覚したのは私が先だからね。」


ジロリとソフィアがラピスを睨む。


「何言っているの?レンヤと一緒に旅をしたのは私が先だからね。それだけ私とレンヤの心は通じ合っているのよ。」


負けじとラピスもソフィアを睨んだ。



(お~い!何でいつの間にか話題が変わっている!)



マズい・・・、この流れだと確実に俺へと話が飛び火してしまう。何とかして話題を変えなくてはならん!



「ふふふ・・・、だけど、『今の時代』のレンヤさんと1番長くお付き合いさせていただいているのは私ですね。やっぱり私が1番に間違いないでしょう。」


今度はアンが俺を見て微笑んだ。



「ちょいと待ったぁあああああ!」



今度はテレサが割り込んでくる。


「今までの理論なら私が1番に相応しいじゃないの!私は生れてからずっと兄さんと一緒にいたのよ!」


「それ!家族の場合はノーカンよ!」

「やっぱり私が1番なのよ!」

「いいえ!私こそが相応しいの!」


おいおい・・・、喧嘩が始まってしまったぞ。

まぁ、いつものキャットファイトだし、喧嘩だからといって心配する事は無いな。



「ふふふ・・・、アンジェリカ姉様の言う通り、戦いの旅と言える雰囲気は全く無いですね。」


シャルが俺の隣に立ち腕を組んでくる。


「これがみなさんの強さなんでしょうね。そんな気がします。」


「そうだな・・・、昔も今もあいつらにいつも助けられていたよ。今はいないアレックスもだが、あいつらのおかげで俺は生きる道を間違える事は無かった。そして、今もあいつらの明るさに救われていると思うよ。最高の仲間であって家族だ。」


「レンヤさん・・・」


シャルが心配そうに俺の顔を見ている。


「心配するな。シャルも俺の大切な家族だよ。ここにいないみんなも含めてな。あの3人のようにみんな仲良くなれるさ。それが俺達の強さなんだろう?」


「はい!そうです!」


嬉しそうにシャルが微笑んでくれた。


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