174話 ドラゴンの山⑥
「ははは・・・」
アンとソフィアから漂ってくる絶望感がハンパない。
「うっ!」
2人が死んだような目で俺を見ているよぉおおおおおおおおおおおお!
(や!止めてくれ;えええええええ!俺をそんな目で見ないでくれぇえええええええええええええ!)
「何でレンヤさんとラピスさんの2人だけで夫婦設定なのよ・・・、私だってヒスイちゃんのママに・・・」
「私の方がラピスよりもママらしくなれるはずなのに・・・」
(うん!重症だ!)
俺には何も出来ん。2人が落ち着くまでそっとしておく方がベストだろうな。
下手に手を出すとどんな飛び火になるか想像するのも怖い。
そんな落ち込んでいる2人のところにヒスイちゃんがトテテテッと可愛く駆け出した。
「えへへ、みんなママだよ!」
そう言ってヒスイちゃんが2人に抱きついた。
「ヒスイちゃぁあああああああああああああああああああああああああん!」
「天は私を見捨てなかったぁああああああああああああああああああああ!」
2人が絶叫しているけど、それをイタイ子を見るようなヒスイちゃんの視線がちょっと面白かった。
(まぁ、2人の機嫌が良くなったからOKだな。)
アンとソフィアに抱かれているヒスイちゃんだけど、クルッと首を俺に向けてウインクをしてきた。
(はい?)
この子・・・
全て分かっていての行動なのか?
「さすがはミドリの子ね。要領の良いところは母親譲りに間違い無いわ。ふふふ・・・、昔のミドリを見ているみたいね。」
俺の後ろで美冬さんがニヤニヤしていた。
「そういう事だから、パパさん、頑張ってね。」
う~ん・・・
フランと戦争になる未来しか見えん。
シャルと要相談だよ。
「神竜様、我は?」
おいおい、ティアさんよ・・・
さり気なく何をアピールしているのだ?
「う~ん、お姉ちゃんかな?それとね、私の事はちゃんとヒスイって読んで欲しいな。」
ヒスイちゃんが可愛く頷くと、ティアがブルブルと震えている。
そして、上気した顔のティアがジッと俺を見つめた。
ゾクッ!
(何だ?背中に悪寒がする。)
ゆらりとした足取りでティアが俺の前に立ち、ギュッと俺の手を握った。
「ご主人様よ・・・」
「ティア、どうした?何か嫌な予感がするんだが・・・」
「ご主人様よ!我も子供が欲しいぃいいいいいいいいいいいい!すぐにぃいいいいいいいいい!だからな、我が孕むまで徹底的な、夜は毎日ずっと・・・」
ゴシャ!
「ぶひゃ!」
ティアの上半身が一瞬の間に地面に埋もれた。
下半身だけが地面から生えたようなオブジェとなってピクピクと震えていた。
その後ろにはアン、ソフィア、ラピスが全身から殺気を漲らせ仁王立ちで立っている。
「急に欲情しちゃって・・・、子供の前で何を言っているのよ・・・」
「本当に抜け目が無い駄竜ね。鉄拳制裁だけじゃ足りないのかな?」
「そうね、しばらくは倫理的教育的指導も行わないとね。ヒスイちゃんの情操教育に悪いわ。」
「あわあわわわ・・・、あのティアマット様が人間に瞬殺されるなんて・・・」
エキドナさんがティアの惨劇を見て真っ青な顔になっていたが、急に真面目な顔になってブツブツ言っているよ。
「あのティアマット様でも太刀打ち出来ない雌があれだけいるとは・・・、今のままであの雄に迫っても返り討ちになるのがオチだな。ここは様子を見てチャンスを作り、不意を突いて既成事実を作るしか・・・」
ゾクッ!
またもや悪寒が・・・
彼女が何をブツブツ言っているのか聞こえなかったけど、多分、碌な事ではないのは確実だろう。
危険察知のスキルは持っていないはずだが、こんな場合の嫌な予感は確実に当たるんだよな。
俺は気がつかなかったのだが、この瞬間、新たな1人(1匹?)のストーカーが誕生した。
さすがはエンシェントドラゴンと呼ばれるだけある。俺に気付かれないよう常に付きまとわれていたとは・・・、人間よりも遥かに高い能力をフルに使って、ずっと俺をストーキングしていた。
(あれだけの能力ならもっと良い使い道があるのに・・・、勿体ないよ・・・)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後日談になるが・・・
そんな彼女の気持ちを同じストーカー仲間のテレサが理解したのか、ある日、テレサと一緒に楽しそうに部屋でお茶をしているのには驚いた。
テレサもテレサだよ、『彼女の気持ちは良く分かる』って言って2人でタッグを組んで夜這いしてくるし、たまにシャルも一緒の時もあったな、エキドナさんの一番の親友がテレサになってしまうとはな。その次の親友がシャルとフランだったりする。
(世の中、何が起きるか分からん。)
結局は押しに負けて彼女も妻の1人になってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ん?)
また1つダークな気配を感じる。
・・・
(コイツがいたか・・・)
みんなから完全に無視をされボッチで地面に蹲っているリヴァイアサンがいた。
「ここまで私が無視されるとは・・・」
「がはははぁあああああああああああ!そう気にするな!」
いつの間にか復活したバハムートさんが、豪快に笑いながらリヴァイアサンさんの背中をバシバシと叩いている。
「そうだよ、大人は細かい事は気にしないの!」
ヒスイちゃんも一緒になって慰めていたよ。
おかげで、彼も少しは元気が出たみたいで、ぎこちない笑みを浮かべていた。
それにしても・・・
マジマジと彼の顔を見つめていたけど、ティアに負けず劣らずの美女顔だよなぁ~
中性的な顔だけど、ぱっと見は間違い無く女性に思われても当然かもしれない。
(あれなら街中で歩いていると、間違えられてナンパされるだろうな。)
そして、ナンパに成功したと喜んだ男どもは、本当は男と分かって落ち込むのだろう。
何かそんな光景が目に浮かぶよ。
それだけ、彼の美人度?はとても高いと思うな。
俺もジッと見つめていると、マジで女の人かと思い込みそうになるよ。
(俺は正常だ!絶対に正常だ!男相手には欲情はしない!)
だが!
「勇者様、私は男もOKなのです。あなたに抱かれるのも名誉な・・・」
全身にサブイボが出てダッシュでその場から逃げ出してしまった。
ボクッ!
「ぐはっ!」
無言でバハムートさんがリヴァイアサンさん(う~ん、ややこしい呼び方だ)を殴りつけた。
頭を押さえ涙目になっている。
しかしだ!そんな表情も色っぽいし、男には見えないよ!
(勘弁してくれぇえええええええええええええええええええええええええ!男なんだよなぁあああああああああああああああああああああ!)
直後に・・・
「このたわけがぁああああああああああああああああ!」
ドォオオオオオオオオオオオン!
バハムートさんに続きティアの鉄拳制裁が彼に行われた。
さっきのティアのように上半身が地面にめり込んでピクピクと小刻みに震えていた。
これで世の中が少しは平和になったかな?
「ティア、みんな面白い人ばかりだな。」
正直な感想をティアに言ってみると、ティアが苦笑いをしているよ。
「根は悪くないが、如何せん引き籠りの世間知らずばかりだからな。我も含めて世の常識からかなり外れていると実感している。だからだろうな、我はご主人様と一緒にこうして下界で生活するのが楽しくてたまらないのだろう。」
そう言ってティアが俺の腕に抱きついてくる。
「あの屑の竜神王にこの聖地を荒らされてしまったが、こうして主にご主人様と巡り合え、今まで生きている中で一番充実した日々を過ごしているぞ。我らエンシェントドラゴンの止まった時間を進めてくれたのはご主人様達だ。」
バハムートさん達もうんうんと頷いていた。
エンシェントドラゴンはこの世界の生物の頂点であり、俺達人間とは相容れないと思っていた。しかし、こうして一緒に話をしてみるとお互いに意思疎通が出来るし、とても気さくだよ。たぶん、このように話し合えるのは俺達だけかもしれないが、友好な関係は続けていきたいと思う。
(ん?)
ある事に気付いてしまった。
「なぁ、ティア・・・」
「ご主人様、どうした?」
「今、気付いたけど、ティア以外のエンシェントドラゴンの人達って、みんな人化したらちゃんと服を着ているが、ティアだけ何で服を着ていなかったのだ?あの痴女のような鎧しか身に着けていなかったよな?」
そう!バハムートさん達4人のエンシェントドラゴンは、人化した段階で普通に服を着ていた。
じゃぁ、ティアはどうして?と普通に思うよな。
やっぱりティアは痴女なのか?
「ご、ご主人様・・・、そ、それはな・・・」
何だ?ティアがとても動揺しているが、どうした?
「ティアマット様はね、少しね・・・」
ん?エキドナさんが解説を始めたぞ。
だけどちょっとにやけているが何でだ?
「確かにティアマット様の戦闘センスは私達と比べてずば抜けているわ。そして、私達のこの服はね、竜闘気が変化したものなのよ。でも、ティアマット様は竜闘気を戦闘用にだけしか使えなくて、服みたいな創造系は全くダメなの。どちらかというと、創造系がオーラの使い方の基本なのよね。オーラを身に纏い、それを服としてイメージして変化させるのに、ティアマット様は何度もそれこそ気が遠くなるくらいに時間をかけても出来なかったのね。その代わりに攻撃力だけは天井知らずに上がったものだから、こうして竜王と呼ばれるまでに強さを極めたってのも不思議ね。」
「そうなのか?」
「むぅぅぅ・・・」
ティアが真っ赤になってプルプルしていた。
そんなに恥ずかしい事だったのか?
「竜王たる我が、こんな基本的な事は出来ないと思われるなんて・・・、羞恥で死にそうだ。」
そんなティアの頭をポンポンと軽く叩き撫でると、ティアが上目遣いで俺を見ている。
「ティア、誰でも得手不得手はあるんだから、俺は別に気にしないぞ。それにな、ティアはいつも頑張っている事はみんな知っているんだからな。俺達と一緒になる為に礼儀作法も必死で覚えているし、少しくらい苦手な事があっても誰も笑わないからな。」
「うぅぅぅ~、ご主人様ぁぁぁ~~~」
ティアが抱きつき顔を俺の胸にグリグリと擦りつけてくる。
お~い、鼻水がぁぁぁ・・・
まぁ、こんなティアも珍しいし可愛いから、しばらくは好きにさせるか。
アン達もニマニマとしているだけで何も邪魔をしてこないし、どうやらティアの行動は許されているのだろうな。
そんなティアの頭を再び優しく撫でてあげた。
「あのティアマット様がここまで女になるとは・・・、私も絶対に番になる!」
何かエキドナさんがブツブツと言っていたが、何を言っていたのか聞き取れなかった。
「ラピスよ、これで大丈夫か?」
ティアがラピスに話しかけるとコクリと頷いた。
「ティア、大丈夫よ。この結界の場所はもうインプットしたから、いつでも転移で移動出来るわ。それに、この結界内に咲く花や植物は下界では絶滅した種類がいくつもあるのよ。これで伝説になってしまったエリクサーを始め、希少価値の高いポーションをいくつも作れるわ。これだけで、ここに来た価値があるくらいよ。」
「ふふふ・・・、ラピスにそう言ってもらえると、ここに連れてきた価値があったな。これだけ喜んでくれれば我も鼻が高いぞ。」
ティアも嬉しそうだな。
「それではティアマット様、お幸せに・・・」
ファフニールさんがが深々と頭を下げるとティアも嬉しそうにしていた。
「ファフニールよ、恋は素晴らしいな。お前の気持ちが良く分かったぞ。」
「そうでしょう?今度はお互いにどちらが先に?ですね。ふふふ・・・」
「そうだな、だが、それは負ける気はしないぞ。孕むまではとことんご主人様に迫って・・・」
「「「こら!」」」
ズン!
3人の拳がティアの頭にめり込む。
「くぅううううううううううううううううううううううう!」
頭を押さえティアが蹲った。
またもやアン、ソフィア、ラピスがティアの後ろに立っている。
「「「調子に乗るな!」」」
「ふふふ・・・、ティアマット様、最高の人達ですね。」
ファフニールさんが嬉しそうに笑っていた。
「そうだ、我と対等に付き合える最高の仲間だ!」
ティアも今ままでの中で1番かもしれない程の笑顔で嬉しそうに笑っていた。




