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17話 世界の真実

アンが驚愕の表情でラピスを見つめていた。


「まさか、フラれた腹いせで世界が滅びかけ、私達魔族が生れたなんて・・・、歴史書や言い伝えではそんな事は書かれていなかったわ。そもそもダリウス神は私達魔族の創造神と伝えられていたし、その後、女神がこの地に降り立ち、人間などを創造したという事。魔族は能力は遙かに人間より高いけど人口が少なく、後から生まれた人間が湧くようにこの世界で人口を増やし、いつの間にか地上の覇者と名乗っていた事。私達魔族はその能力の高さから人間に疎まれ、数に劣る私達は人間に虐げられこの魔族領と呼ばれる地で細々と暮らしていた事。そんな人間の圧政から解放し、私達魔族に自由を与えたのが魔王様だと伝えられていたの。それが嘘で、私達の神様が邪神だったなんて・・・」


「信じられないのも分かるけど、これが本当の話よ。だって、私がフローリア様から直接聞いたからね。」


「えっ!ラピスさん、そんな事って?」


「アンにはちゃんと言ってなかったわね。私は普通のエルフじゃなくてハイエルフで、女神フローリア様の巫女なのよ。フローリア様から直接言葉を受けたり、実際に神の世界に呼ばれて直接お会いしたりするからね。いわゆる、この世界の管理者代行みたいなものね。」


「ハイエルフ・・・、ラピスさんは神々に最も近いと言われている種族なの?」


「そうよ、少しは私の偉大さが分かったかしら。」


う~ん、そんな偉い人が俺にあんな変な行動をする?

かなり残念美人な気がすると思っているのは俺だけ?


「まぁ、歴史ってものは、その時の為政者が都合良く書き換えるなんて当たり前だからな。なんせ、歴史だと俺は死んでいない事になっているからな。魔王を倒した後は、この勇者の力を悪用されないように、ラピスと夫婦になって世界から身を引いて人目から隠れて姿を消したとなっていたよ。まぁ、勇者が相打ちになって死んだというのは人間側からするとマズイからな。俺が姿を消した理由としては妥当だと思う。多分、アレックスが考えたのだろう。」


「・・・」


「ん?ラピス・・・」



「知らなかった・・・」



「ラピス、どうした?」

本当にどうしたのだ?ラピスがうわの空の状態になっているぞ。


「まさか、歴史では私とレンヤが夫婦になっていたなんて・・・、すぐにエルフの里に帰ったから、そんな話になっているって知らなかったわ。アレックス、グッジョブよ。」

ラピスがとろ~んとした目で俺を見ている。


「レンヤァァァ~~~~~、私達って婚約じゃなくて、既に夫婦になっていたのね。」


ゆら~と立ち上がり、舌なめずりをしている。


「さぁ!すぐに寝室に行きましょぉおおおおおおおおおおおお!既成事実を作って歴史通りに身も心も夫婦になるのよおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


ハートの目になったラピスが俺を捕まえようと両手を広げ突進してきた。


パコオォオオオオオオオオオオオオオン!


「はうっ!」


俺のデコピンを受けたラピスが額を押さえて床の上で悶えていた。


「落ち着け、ラピス。」


「あいたたたぁぁぁ・・・、レンヤ、女相手でも容赦しないわね。頭が破裂したかと思ったわよ。」


「すまん・・・、ラピスならこれくらいやらなければ戻らないと思った。大事な話の最中だから、あんまり脱線してもらっても困るからな。お前が冷静にならないと話が進まん。」


「悪かったわ。ちょっと調子に乗り過ぎたみたいね。気を付けるわね。」


ふぅ、冷静になってもらって助かった。

昨日から見ているけど、ラピスが変になる時のスイッチが分かるようになってきたよ。



「それじゃ、魔王というのはその邪神の力を受け継いだ者という事なんだよな?魔王として最初から生まれるものなのか?それとも、今の俺みたいに覚醒して魔王になるのか?」


「父は元々は魔族領の四大侯爵家の1つの家系だったわ。上位魔族の中でもトップにある4つの家柄の1つね。父が魔王となったのはダリウス神の神殿で試練を突破して力を得たと聞いているの。」


「試練?俺みたいな事か?」


「いえ、違うわ。ダリウス神の神殿の内部はダンジョンとなっていて、そのダンジョンの最奥にある宝玉に辿り着く事が出来た者だけが魔王の力を得るとの事よ。力の無い者はそもそも内部に入る事さえ出来ないわ。それだけ難易度の高いダンジョンなの。」


「ダンジョン?そんなのは聞いた事がないわ。」

ラピスが不思議そうな表情だ。

「でも、あり得るわ。ダリウスの心臓が封印されている神殿だし、その負の感情のエネルギーが内部に別空間を作った可能性は十分考えられるわ。相手は邪神と言われても神の一員だから、何があってもおかしくないわね。」


「すみません。」

アンが恐る恐る手を上げた。

「私達魔族が人間に対して敵対心を持っているのは、ダリウス神から生れた事からなんですよね。フローリア様の作られたものが気に入らない理由からでしょうね。でも、私や過去にレンヤさんを助けた魔族は別に敵対心も持っていないわ。それどころか、私は過去から続く魔族と人間の争いを嫌っているし、仲良く手を取り合う未来を望んでいる。それはどうして?」


「私も生れる前の事は分からないけど予想は出来るわ。最初の頃の魔族はダリウスの分身みたいなものだから、この世界、特に人間を嫌って戦いをしていたのでしょうね。だけど、魔族は人間と同じ知的生命だから、代を重ねるうちにその様な感情が薄れて生れる魔族も出てきたと思う。理性が薄れた本能を押さえ込んでしまったのでしょうね。だけど、モンスターや魔獣は本能で生きているから、ずっとダリウスの意思が本能となっているのでしょう。だからね、私はアンのような魔族がいると分かってとても嬉しいのよ。そんな魔族が増えてくれば、この世界から醜い争いが無くなると思うわ。」


「はい、私もそんな世界にしたい・・・」



ラピスの表情が険しくなった。

「ここからが本題よ。」

そして、俺をジッと見つめる。

「レンヤ、あなたも聞いたと思うけど、フローリア様の言葉を覚えている?」



「あぁ、確か再び魔王が現われるってな。そして、それ以上の存在の可能性も・・・」



ラピスもアンもゴクリと喉を鳴らした。

「やはり魔王が現われるのね。それ以上の存在となれば・・・」


「「ダリウス」」


「そうなるでしょうね。」

腕を組みながらラピスが深いため息を吐いた。


「フローリア様はそれを予見してレンヤをこの時代に転生させたと思うわ。アンがなぜレンヤと出会ったのかまでは想像がつかないけど、多分、ダリウス絡みだと思うの。そこまではフローリア様も教えてくれなかったし、神々の争いに私達が予見出来る事ってないからね。神自体が世界には不干渉が理だからね。神の力は私達にとっては強大過ぎるからこのような理が出来たのでしょうね。その理を破り堕ちてしまったのが邪神よ。そして、この世界が目を付けられた・・・、ホント、迷惑な話ね。」


そして、収納魔法から地図を広げた。

「レンヤ、これは500年前の地図よ。そして、ここが今、私達がいる魔王城ね。アン、さっきの話に出ていたけど、神殿はどこにあるのかしら?魔王が誕生するには神殿の存在が不可欠だからね。」


アンが地図の1点を指差した。

「ここよ。この森の中に神殿があるわ。」


何だと!この場所は!


ラピスが俺を見てニヤッと笑った。

「レンヤ、どうやら気が付いたみたいね。さすが、このの時代の記憶も持っているだけに、この場所がどこにあるかが・・・」


「あぁ、これはどういう事だ?」


もう1枚の地図を広げ、500年前の地図と並べた。

新たな地図はこの大陸にある国の領土の境界が記載されていた。


「現在の魔族領は、500年前に魔王が敗れ弱体化し分割されてしまい、周辺国にかなり摂取され、これだけの広さになってしまっているわ。この魔王城のある土地はフォーゼリア王国の領土となってしまっている。まぁ、辺境として未開発の場所も多いけど、魔族が現われる事はまず無いと思うわ。」


そして、ラピスが先程アンが差した神殿の場所を新しい地図の上に指差した。

「神殿はこの場所ね。ここは今はどうなっているのか・・・」


「あっ!」

アンも気が付いたようだ。


「そう、ここはサーベラス帝国の領土よ。500年前の領土分割で帝国が得た場所ね。ここはもう魔族領じゃないわ。」


「そうなると、この帝国は魔族に襲われ滅ぼされてしまい、そこから新たな魔王が生まれると・・・」

心配そうにアンがラピスを見つめている。


「私の見解は違うわ。今日、出かけた時に色々とこの世界の事を調べていたのよ。500年前も帝国は存在していたけど、当時のフォーゼリア王国が勇者を抱えていた上に、皇太子のアレックスがレンヤと一緒に魔王を討ったのよ。そうなると、当然フォーゼリア王国がこの大陸では1番の発言力を持つ事になったのよ。それに、あのアレックスが王位を継いでからはこの国は劇的に豊かになったのね。そのおかげで今ではこの大陸で1番の国になったわ。だけどね、帝国はその事に対して面白くなかったみたいね。」


「あぁ、それは分かる。帝国は王国よりも歴史が古く、当時は大陸で1番だと自負していたからな。その時の皇帝は本当に傲慢な男だったし、アレックスが止めなければ俺はぶん殴っていたくらいだったよ。」


「レンヤ、その気持ちは分かるわ。あのデブ、私を一目見た途端に『勇者パーティーなんぞ抜けて儂の妾になれ』っていきなり迫ってきたからね。世界が危険な時に何を考えているの?って思ったくらいだったわね。」


「それが魔王の力でボロ負け、挙げ句には王国に泣きついてきたし、手柄を全部取られたと思い込んでいるんじゃないのか?そして、アレックスが頑張って王国を立派にして、完全に帝国が王国よりも下になってしまった。プライドの高い帝国だ、500年もずっと王国をひっくり返す事を考えていても不思議ではないだろう。あの皇帝一族ならやりかねん。この3年間、冒険者をしていたけど、帝国が周辺国に戦争を始めるのではないかとも噂になっていたよ。ここ数年、急に軍備に力を入れている話だ。」


アンが青い顔で俺を見ている。

「まさか・・・、人間がダリウス神の力を求めているの?」


「私はそのまさかと思っているわ。ダリウスは自分の復讐さえ出来ればいいと思っているのだから、この世界を目茶苦茶にするのは魔族でも人間でも構わないでしょうね。自分の使徒にすれば、人間でも魔族の仲間入りになるでしょうし・・・、そして、帝国は再び大陸の覇者を目指すのでは?と私は考えているのよ。魔王となってね・・・」


「人間がそんな事を・・・」


「アン、お前は人間をそんなに知らないから分からないかもな。人間は魔族以上に複雑だよ。魔族はどちらかというと、白黒をはっきりとしたがるけど、人間はそうじゃない。中には魔族以上に残酷で狡賢い奴もいるからな。目的の為なら手段を選ばない連中もいる。そんな奴等が魔王となったら一筋縄ではいかないかもしれないな。」


「でも、レンヤさんはそんな人ではないわ。」

アンがニコッと俺に微笑んでくれる。


「分からないぞ、善人のフリをしているかもな。ふっふっふ・・・」

わざとニヤッと悪い笑みで微笑んでみた。


「悪ぶっても全然怖くないわよ。レンヤさんはそんな人でないと分かっているからね。レンヤさんを好きになって良かった・・・」

そう言って、アンが俺の隣に座り寄り添ってきた。


「はいはい、あんた達はすぐ甘い空気になるんだから。見せつけられている私にとっては堪ったものじゃないわ。」

ラピスが反対側に座った。

「だから、私もちゃんと愛してね。大好きよ、レンヤ・・・」








「ガルシア皇帝陛下!7将軍の方々が戻られました!」


1人の兵が大慌てで玉座に座っている男の前まで走って止まり片膝を着けた。


「そうか、とうとう戻ってきたか。待ち遠しかったぞ。」

皇帝と呼ばれた男がニヤリと笑った。


片膝を着いていた兵が急いで立ち上がり後ろへと下がっていった。


ザッ!


入れ替わりに7人の男女が皇帝の前に立ち、一斉に片膝を着け頭を下げた。

7人の男女は各々鎧やローブを着ている。


「7将軍よ、ご苦労だった。」


1人の男が前に出てきた。

「いえ、我ら7将軍、皇帝陛下には永遠の忠誠を誓っております。皇帝陛下のご命令とあれば、いかような任務でも喜んで赴きましょう。」


「例の報告にあった物は?」


「はっ!ここに!」

男が脇に抱えていた豪華な箱を皇帝に差し出し、蓋を開けた。

中にはどす黒い固まった血のような色の握り拳くらいの大きさの玉が入っている。


「おおぉおおおおおおおおお!これが魔族が崇めている宝玉か!魔王となり世界を滅ぼすとも言われるほどの力を得られると・・・」


「はい、間違いないでしょう。我ら7将軍が例の神殿の迷宮を攻略した際に、最深部に飾られていたものです。」


皇帝が歓喜の表情で宝玉を眺めている。

「これが・・・、我が帝国がフォーゼリアの小国に大陸の盟主の座を奪われてから500年、歴代皇帝はその座を奪い返そうと必死になってきた。魔族の歴史や人間の歴史、それらの情報で魔王の力に辿り着いたが、あの迷宮だけは攻略出来なかった。それをお前達7将軍が見事に成し遂げたのだ!」


「皇帝陛下、我らは最強の7将軍です。あれくらいの迷宮ごときは簡単に攻略出来ました。」


宝玉を握り締め高々と掲げた。

「これさえあれば、我が帝国は、いや俺が・・・」


【力が欲しいか?】


「何だ!この声は!」


全員がキョロキョロと周りを見渡す。


【力が欲しいか?】


「この宝玉が喋っているのか?」

驚きの表情で皇帝が掲げている宝玉を見つめていたが、キッと表情が険しくなった。


「もちろんだ!俺が大陸の覇者なる為の力が欲しい!勇者にも負けない強力な力が!誰も俺に逆らえない力が欲しいぃいいいいいいいいいいいい!」


【この欲、私にはとても心地良いぞ。人間の欲は底なしだな。人間に会って正解だった。よかろう!私の力を授ける。この力で世界をお前の好きにしろ。逆らう者は全て滅ぼせ。】


宝玉から黒いモヤが湧き出し皇帝の全身を包み込んだ。


「な、何が!う、うぎゃぁああああああああああああああああ!」


「「「皇帝陛下!」」」


7将軍が一斉に皇帝の方へ飛び出そうとした。


「待て・・・」

モヤの中から皇帝の声が聞こえた。

真っ黒なモヤが徐々に薄くなり皇帝の姿が露わになる。


「こ、皇帝陛下・・・、そのお姿は・・・」


7将軍全員が震えながら皇帝を見ていた。

皇帝の姿はさっきまでの姿とガラッと変わっていた。肌は薄い紫色に変わり、髪も真っ白になっていた。そして、頭の両側には宝玉と同じ色のどす黒い血の色の角が生えていた。


姿が変貌した皇帝が宝玉を握っていない反対の手を見つめながら開いたり閉じたりしている。

「これが魔王の力・・・」


再び宝玉を高々と掲げた。

「力がぁあああ!力が漲るぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!魔王!そんなのは俺には関係ない!力だ!力が全てだ!この力で俺が大陸の覇者になってやる!俺に逆らう者は全て皆殺しだ!」


7将軍が皇帝の前で整列した。一斉に片膝を床に着け頭を下げる。

「我ら7将軍、皇帝陛下がいかなるお姿になろうが忠誠心は変わりません。我らも覇道のお手伝いをさせていただきます。皇帝陛下に逆らう者には死を!」


「お前達よ!変わらぬ忠誠、見事だ!」


「まずは、あの憎きフォーゼリアを落とす!500年前に我が帝国を蹴落とした卑怯者の国をな!この500年の恨み、今こそ晴らす時が来たぁああああああああああああああああああああ!」



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